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02 接近遭遇!?
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昇の自転車はごく普通のシティサイクルであるため山道を登るには難しく、また昇自身も体力や運動能力が秀でているわけでもないため、展望広場まで途中から結局自転車を押して歩くことになっていた。
前カゴにおさまったエリーが「ほぉら、変身した方が早かったんじゃないのぉ」と小声で文句を言っているのを無視して、昇が夕刻訪れた祠につながっている展望スペースへと到着したのは、マンションを出てから二十分後のことだった。
照明は変わらず灯っているものの、昇たちの他に人の姿はない。
「間に合ったようね。さ、変身して」
自転車のカゴから、エリーが指示する。
「どうしても?」
「杖を起動させる必要があるのよ。ほら、早く」
そこまで促され、昇はそれでも渋々といった様子でポケットから石を取り出す。
「す……スクミィ・マナ・チャーム・アレイング……っ」
おずおずと昇がそう言うと、石が澄んだ水面のような輝きを放ちはじめた。
昇が驚いた様子で石から手を離すが、石はふわりと浮いて更にその蒼光を強くする。
色味を濃くし、紺色に近くなってきたところで光が昇を包んだ。
「う……わあぁっ!?」
昇の服が消えていた。
光の中、裸になった昇にするすると淡い水色の帯が巻き付く。
乗り気ではなかったはずの昇が、この石の力に依るものか穏やかな表情で目を閉じ、光に身を委ねていた。
頭に帽子とゴーグルが現れ、髪が広がる。
伸ばした手脚には白い手袋とニーソックスがぴったりと装き、丸っこい厚底の靴に足が収まる。
起伏のない体に紺色のスクール水着が着せられる。
昇がゆっくりと目を開けて笑顔でウインクをひとつする。
石から杖部分が伸び、水流が環を描く。
その杖を昇が右手で掴み、くるりと回して両手で構えたところで光は消え、周囲は鈍い明かりが照らす展望広場に戻った。
「うっ……わあぁ」
昇は赤面してしゃがみこむ。
「何してるのよ、昇、立って」
「やっぱりこれ、ちょっと……」
そう言いながらも昇は膝を伸ばす。
立ち上がったものの、昇は随分と腰の退けた姿勢でいる。
「ちょっ……なに、やっぱり『ヘンタイ』って呼ばれたいの?」
「違うよぉ」
昇の股間が、やや脹らんでいた。
杖を持った両手で隠しつつ、昇はエリーに尋ねる。
「それで、忘れてたことって何?」
エリーは少しの時間、昇に白い目を送っていたが、「ま、いいわ」と肩をすくめて山道へ向かった。
祠へは、展望広場の奥から細い道を通って行けるようになっていて、照明が遠く暗くなる中をためらいなくエリーは進む。
数秒遅れて昇が追った先に、小振りで簡単なつくりの鳥居があった。
「この先ね」
エリーが先に、鳥居をくぐる。
昇は小声で「失礼します……」と呟きながらエリーに続いた。
鳥居からほんの十数歩ほど歩いたところに、それはあった。
木製の、拵えの丁寧さを伺える祠だった。どこか静謐な雰囲気をまとっているようにも見える。
観音開きになっている正面の扉を、エリーは子細に観察していた。
「この中ね。昇、開けて」
「ダメだよ。ここは触ってはいけないって、小さいときから言われてるんだ」
「なるほどね」
エリーは何か解ったような面持ちで数度頷く。
「開けて」
再度、昇にさっきより強めに言う。
「昇がやらなかったら私が蹴破るよ。罰当たりにはならないから、ほら」
「う、うぅ……」
昇はおずおず、恐る恐る右手を扉に近づける。
取っ手に昇の手が触れる寸前に扉が勢いよく開いた。
「わあぁっ!」
中から奔流のように、夏場だというのにひどく温度の低い空気が溢れ出した。風圧に押されるように昇が一歩下がってのけぞる。
「すごい――予測はしていたけど、それ以上だわ……やった」
エリーが、小さく腕を曲げていた。
「昇。いい? 言うとおりにやってね」
冷風はなぜか吹き抜けたのち解散することなく、周囲に漂っていた。
エリーの真剣な声に、昇も頷いて姿勢を整える。
股間のふくらみも、おさまっていた。
「杖の先を、その中に」
エリーが言い、昇はもう一度「失礼します」と言ってから杖の先端――水環を祠の中に差し入れる。
水環を結んでいる石がほのかに光りはじめた。
「続けて。
――『エクシキューター・スクミィ、オクパーティオ・ヒーク・コーラー、エッセ』
エリーの言葉に合わせて昇が唱えると、石からの光はさらに強さを増した。見る見る内に祠内部全体を青白く染め、溢れ漏れんばかりになった瞬間、しゅんっ、と消えた。
杖が小刻みに震え、その振動が昇に伝わる。
「っ……わわっ」
昇は杖をぎゅっと握りしめる。
振動はすぐに収まった。
エリーが、祠の様子をしばらく観察してから昇に振り返った。
「もう抜いてもいいわよ」
昇は安堵の息をこぼし、杖を、祠にぶつけないようにそろりと抜き出して丁寧に扉を閉めた。
抜ききったところで石が再び、ぬるりとした光を発しはじめる。
「ん? あ……ふわぁあ、っ!?」
昇が声を上げてやや仰け反る。
「どうしたの、昇?」
「なんだか体に熱いのが……ああぁっ」
光が石から杖を伝って、昇の手に絡みかかっていた。杖を持っていた左腕を駆け上り、鎖骨を通って水着状の衣装の胸元から下腹部に向かって、昇の身体を這ってゆく。
「んあ……っふ、ぁぁあ」
昇が股間の奥を押さえ、地面に膝をついた。
「何か、入って……んんんっ」
「ははぁ、なるほどね」
エリーは微笑んでいた。
「昇、拒まないで受け入れて」
と、身を屈めようとしている昇の腰を軽く叩く。
「んはぁ……っ!」
昇がびくん、と跳ねるように背筋を伸ばした。やや焦点の定まっていない瞳に半開きの口から悩ましげな吐息が漏れる。
糸が切れたように、昇はうつ伏せになって倒れた。
「あらあら、初めてで刺激がきつかったかしら?」
口に片手を当てた、ほくそ笑むポーズでエリーが言う。
しばらくしてから、昇が上体を少しだけ起こして正面にいたエリーを見上げた。
「な、何だったの今の……」
「そうねぇ。まあ、今夜のところはお疲れさま。変身解いて帰りましょう」
エリーは昇の質問には答えず、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
前カゴにおさまったエリーが「ほぉら、変身した方が早かったんじゃないのぉ」と小声で文句を言っているのを無視して、昇が夕刻訪れた祠につながっている展望スペースへと到着したのは、マンションを出てから二十分後のことだった。
照明は変わらず灯っているものの、昇たちの他に人の姿はない。
「間に合ったようね。さ、変身して」
自転車のカゴから、エリーが指示する。
「どうしても?」
「杖を起動させる必要があるのよ。ほら、早く」
そこまで促され、昇はそれでも渋々といった様子でポケットから石を取り出す。
「す……スクミィ・マナ・チャーム・アレイング……っ」
おずおずと昇がそう言うと、石が澄んだ水面のような輝きを放ちはじめた。
昇が驚いた様子で石から手を離すが、石はふわりと浮いて更にその蒼光を強くする。
色味を濃くし、紺色に近くなってきたところで光が昇を包んだ。
「う……わあぁっ!?」
昇の服が消えていた。
光の中、裸になった昇にするすると淡い水色の帯が巻き付く。
乗り気ではなかったはずの昇が、この石の力に依るものか穏やかな表情で目を閉じ、光に身を委ねていた。
頭に帽子とゴーグルが現れ、髪が広がる。
伸ばした手脚には白い手袋とニーソックスがぴったりと装き、丸っこい厚底の靴に足が収まる。
起伏のない体に紺色のスクール水着が着せられる。
昇がゆっくりと目を開けて笑顔でウインクをひとつする。
石から杖部分が伸び、水流が環を描く。
その杖を昇が右手で掴み、くるりと回して両手で構えたところで光は消え、周囲は鈍い明かりが照らす展望広場に戻った。
「うっ……わあぁ」
昇は赤面してしゃがみこむ。
「何してるのよ、昇、立って」
「やっぱりこれ、ちょっと……」
そう言いながらも昇は膝を伸ばす。
立ち上がったものの、昇は随分と腰の退けた姿勢でいる。
「ちょっ……なに、やっぱり『ヘンタイ』って呼ばれたいの?」
「違うよぉ」
昇の股間が、やや脹らんでいた。
杖を持った両手で隠しつつ、昇はエリーに尋ねる。
「それで、忘れてたことって何?」
エリーは少しの時間、昇に白い目を送っていたが、「ま、いいわ」と肩をすくめて山道へ向かった。
祠へは、展望広場の奥から細い道を通って行けるようになっていて、照明が遠く暗くなる中をためらいなくエリーは進む。
数秒遅れて昇が追った先に、小振りで簡単なつくりの鳥居があった。
「この先ね」
エリーが先に、鳥居をくぐる。
昇は小声で「失礼します……」と呟きながらエリーに続いた。
鳥居からほんの十数歩ほど歩いたところに、それはあった。
木製の、拵えの丁寧さを伺える祠だった。どこか静謐な雰囲気をまとっているようにも見える。
観音開きになっている正面の扉を、エリーは子細に観察していた。
「この中ね。昇、開けて」
「ダメだよ。ここは触ってはいけないって、小さいときから言われてるんだ」
「なるほどね」
エリーは何か解ったような面持ちで数度頷く。
「開けて」
再度、昇にさっきより強めに言う。
「昇がやらなかったら私が蹴破るよ。罰当たりにはならないから、ほら」
「う、うぅ……」
昇はおずおず、恐る恐る右手を扉に近づける。
取っ手に昇の手が触れる寸前に扉が勢いよく開いた。
「わあぁっ!」
中から奔流のように、夏場だというのにひどく温度の低い空気が溢れ出した。風圧に押されるように昇が一歩下がってのけぞる。
「すごい――予測はしていたけど、それ以上だわ……やった」
エリーが、小さく腕を曲げていた。
「昇。いい? 言うとおりにやってね」
冷風はなぜか吹き抜けたのち解散することなく、周囲に漂っていた。
エリーの真剣な声に、昇も頷いて姿勢を整える。
股間のふくらみも、おさまっていた。
「杖の先を、その中に」
エリーが言い、昇はもう一度「失礼します」と言ってから杖の先端――水環を祠の中に差し入れる。
水環を結んでいる石がほのかに光りはじめた。
「続けて。
――『エクシキューター・スクミィ、オクパーティオ・ヒーク・コーラー、エッセ』
エリーの言葉に合わせて昇が唱えると、石からの光はさらに強さを増した。見る見る内に祠内部全体を青白く染め、溢れ漏れんばかりになった瞬間、しゅんっ、と消えた。
杖が小刻みに震え、その振動が昇に伝わる。
「っ……わわっ」
昇は杖をぎゅっと握りしめる。
振動はすぐに収まった。
エリーが、祠の様子をしばらく観察してから昇に振り返った。
「もう抜いてもいいわよ」
昇は安堵の息をこぼし、杖を、祠にぶつけないようにそろりと抜き出して丁寧に扉を閉めた。
抜ききったところで石が再び、ぬるりとした光を発しはじめる。
「ん? あ……ふわぁあ、っ!?」
昇が声を上げてやや仰け反る。
「どうしたの、昇?」
「なんだか体に熱いのが……ああぁっ」
光が石から杖を伝って、昇の手に絡みかかっていた。杖を持っていた左腕を駆け上り、鎖骨を通って水着状の衣装の胸元から下腹部に向かって、昇の身体を這ってゆく。
「んあ……っふ、ぁぁあ」
昇が股間の奥を押さえ、地面に膝をついた。
「何か、入って……んんんっ」
「ははぁ、なるほどね」
エリーは微笑んでいた。
「昇、拒まないで受け入れて」
と、身を屈めようとしている昇の腰を軽く叩く。
「んはぁ……っ!」
昇がびくん、と跳ねるように背筋を伸ばした。やや焦点の定まっていない瞳に半開きの口から悩ましげな吐息が漏れる。
糸が切れたように、昇はうつ伏せになって倒れた。
「あらあら、初めてで刺激がきつかったかしら?」
口に片手を当てた、ほくそ笑むポーズでエリーが言う。
しばらくしてから、昇が上体を少しだけ起こして正面にいたエリーを見上げた。
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