魔法少女まじかる★スクミィ

あきらつかさ

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03 競敵登場!?

3-1

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 昇がエリーとの第三種接近遭遇(解釈によっては第四種)を果たした翌日は、一見いつも通りの日常になっていた。
 無機質な目覚まし時計のアラーム音で起き出した昇は欠伸をこぼしながらロフトベッドから降りて洗面所に向かう。
 簡単に洗顔と歯磨きを済ませて自室に戻り、制服に着替える。時計と眼鏡を着けてループタイの具合を確かめながら、リビングを通ってキッチンに入った。
 食パンを二枚出してきて、片方にはちりめんじゃことマヨネーズに明太マヨネーズを少々加えて広げ、もう一枚はマヨネーズとチーズで土手を作った中に卵を割り入れる。
 トースターにその二枚を入れて、熱している間に大きめのグラスに牛乳をなみなみと注ぎ、半分くらい一気に飲んだところで、
「おはよーぉ」
 エリーがキッチンに現れた。
「偉いね、昇。家事もなんでもやっちゃう方?」
 ふわふわと漂って、エリーはカウンターキッチン越しに昇と目線の高さを合わせる。
「一応ね」
 エリーの垂れた耳がやや妙な方向に跳ねているのは寝癖だろうか。
 昇はエリーの存在を確かめて小さな溜息をこぼしていた。
「夢じゃなかったんだよなぁ、やっぱり」
「当ったり前でしょ。昇は昨日から魔法少女になったんだよ」
「だから、少女じゃないって……」
「そう? 家事もこなすなんて、いいお嫁さんになれそうじゃない? それにそんな可愛い髪型で男の子ってのもねぇ~」
 エリーに指摘されて、昇は慌てた様子で振り返る。食器棚のガラスに薄く映る姿を確認して、髪を押さえた。
 男子にしては長めに見える昇のショートボブくらいの髪が、ふわりと広がっていた。
 昇が頬を赤らめながら、濡らした手で髪を撫でつけていると、トースターが明るい音で朝食の完成を告げた。
「……エリーは食事、どうしてるの?」
 昨夜帰宅した昇はそのままベッドに倒れ込んで、目覚めたのは深夜だった。
 風呂をシャワーで済ませ、牛乳を飲んで歯磨きしてからもう一度ベッドに入ったのは、それから三十分ほど後のことだった。
「私は気にしないでいいわよ。この体だとエネルギー補給様式が違うからね」
 エリーはカウンターに腰掛けていた。昇がトースターから出してきたパンと、グラスに残っている牛乳を見ながら言う。
「小魚とか牛乳とか、よく摂取できるわね」
「背が低いの、気にしてるんだよ」
 リビングの、カウンターと密着させられているテーブルにトーストを乗せた皿と牛乳のグラスを運び、椅子に座って小声で「いただきます」と手を合わせてから、昇はじゃこマヨトースト明太プラスをざくっと囓る。
 食べながら、エリーの縫いぐるみのような体をじっと見ていた。
「なに?」
「昨晩のは、何だったの?」
「ん? そんなに気持ちよかった?」
「うん……いや、そうじゃなくって」
 昇はまた頬を染めて慌てたように一枚目のトーストの残り三分の一ほどを口に押し込み、指に残ったマヨネーズを舐め取ってから牛乳を飲む。
 エリーは、小さく肩をすくめた。
「その前に、魔法や魔術については昇は少しは理解してる?」
「理解というか、ファンタジーとかの中のことだよね」
「じゃ、昇がスクミィに変身したのは『科学的に』どう説明するの?」
 昇が返答に窮したように俯いて、余熱で少し固まりかけている目玉焼きの乗った、二枚目のトーストに手を伸ばしたところでエリーが小さく笑った。
「意地の悪い言い方だったね、ごめん。
 ――要約して説明すると、この惑星全体に巡っている『力』があって、それを利用して超常現象を起こすのを『魔法』とか『魔術』とか色々な呼び方をしているの」
「それが昨日のとどんな関係があるんだよ」
 やや憮然とした表情で、昇はマヨチー目玉トーストを食べ始める。
 その視線を受け流してエリーは続ける。
「その力は『レイライン』とか『龍脈』とか地域によって呼び方は違うけど、根底は同じものなの。そのラインが交わるところとか、地表を越えて出てきてるところ、なんてのが各地にあるのよ」
 昇は曖昧な相槌を打ちながら、黄身が流れ落ちるのを阻止することに注力していた。
「――で、その一つがあそこにあったってわけ。わかる?」
「んん?」
 吸い取った卵とパンを頬張った状態で、昇が疑問符を投げる。牛乳の手助けで飲み下してひとつ息をつく昇に、エリーは質問内容を察した様子で片手を向ける。
「昨日やってもらったのは、このポイントへの『マーキング』で、スクミィの標をここに立てたってことなの。
 要は、この惑星を支配するのは、その『力の源』のすべて、力が影響を及ぼす範囲である『エリア』を押さえることで成されるのよ」
「それと魔法に、どんな関係があるの?」
 トーストを食べ終えた昇は牛乳のグラスを空け、皿と重ねて席を立つ。
 流しに皿を入れて軽く流し、ついでに自分の手も洗う。
「この力を使って行うのが手っ取り早く言うと魔法、って言ったでしょ。『力の源』のひとつにスクミィ――昇のマークが入ったから、昇の繋力係数が上がったのよ」
 昇が昨夜のことを思いだしてか、下腹部を見る。
「簡単に言うと、昇の魔力が上がったってこと。
 だからもう昨日みたいな無闇な戦い方しないで、術を使うことを覚えてよね。ある程度はレクチャーしてあげるから」
「術って……魔法? 僕が使えるの?」
 昇が目を丸くする。
「じゃあ、魔法で速く走ったり、テストの答えがわかったり――」
「その杖を起動させれば、できるかもね。杖の起動にはスクミィに変身する必要があるでしょうけど」
「なんでっ?」
「あのね、今まで魔法にも星脈にも触れたことのない人間がいきなり何もなしで術行使できるわけないでしょ。服も杖も、それを補うために与えてるのよ」
 エリーの声には、やや呆れが含まれていた。
「あの変身、恥ずかしいよ……それに、まだ戦うの?」
「昨日始まったばかりじゃない」
 昇は部屋に鞄を取りに戻り、携帯電話と鍵も手にしてリビングから玄関に向かう。
 廊下を、当たり前のようについてくるエリーに振り返って昇は奥を指差した。
「ついてこないでよ。学校行くんだから」
「あ、っそ。
 やめる方法、なくはないんだけど――聞きたくない? もう戦う覚悟充分?」
 スニーカーを履いてから昇が鞄にスペースを作って示したのを見て、エリーはにやりと笑っていた。


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