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03 競敵登場!?
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学校へと向かう道中、エリーは人目に気遣ったのか、昇との会話形態を変えた。
『頭の中に直接って、そんなことできるんならもっと早くにしてよ。それにこれなら付いて来なくても――』
『そんなの、未経験の人間にいきなりするわけないでしょ。あと、距離離れたら会話できないのよ』
万が一のカムフラージュに、と昇はイヤホンを耳につけていた――家に取りに戻ったために時間の余裕はやや厳しくなってきていて、昇は足を速めざるを得なくなっていた。
『それで、やめる方法って?』
朝とはいえ、気温は既に高くなってきていた。
昇の額にうっすらと汗が滲む。
『正確には権利譲渡よ』
学校に向かってはほぼ上り勾配が続く。
『昇が手に入れた魔法少女の力と知識の全てを、別の人に譲ることはできるわ。ただし、昇はこの戦いに関する記憶を失う』
『それくらいなら――』
『移譲するには、起動した杖を譲りたい――あぁ、同意はどっちでもいいから、その相手に渡して承継の言葉を唱えることで成立するわ』
昇が足を止めた。
『まあ、私としては最初の予定通り、浅賀くるみにでも譲ってくれると先々の戦いが楽になる可能性も高いし、いいけどね――って、昇?』
交差点でも何でもない道の途中で、昇は立ち止まっていた。
宅配便のトラックが唸りを上げて通り過ぎる。
『今、何て?』
『だから、浅賀くるみに――』
『そこじゃなくて』
昇の頬がやや引きつっていた。
『起動した杖を、って……つまり』
昇は十数分前の会話を思い出した様子で、唇を歪める。
『アレに変身した状態で、ってこと……?』
歩みを再開させることなく、昇は震えた調子で脳裏に確認の言葉を表す。
エリーは、あっさりと即答した。
『そうね』
「ムリっ!」
昇はつい、力一杯の声を出していた。
周囲の歩行者が何事かと振り返るのと目を合わせないように下を向いて、昇は足早に歩を進めなおした。
『そんなのできるわけないよ! それも浅賀さんに、あんな格好を見せるなんて――っ』
昇の顔が見るからに赤くなっていた。
『できないできないできないっ』
『浅賀くるみじゃなくてもいいよ、譲る相手――まあ、素質の判らない人間に替わられるよりは昇のほうがいいし、それよりやっぱり浅賀くるみの潜在値は捨てがたいんだけどねぇ』
エリーの口調は揶揄を含んでいた。
『あんなの、見せられないよっ』
早足の先に、学校が見えてきていた。
『それじゃ、戦うしかないわね』
『この石、捨ててもダメ?』
『変身できなくなるわよ。他の人が勝手に起動することもできないけど、この地を狙って来る敵はどうするの?』
『そんなの、放っとけばいいよ。昨日のみたいに誰かがその『マーキング』ってのをしたらいいんでしょ? エリーの話の感じ、連盟側じゃない勢力もあるみたいだし、誰かもっと上手くやれる人がいるよ』
エリーが、鞄の中で小さく溜息を吐いていた。
『昇――この地は今、スクミィの標が入ってるわ。マーカー――マーキングした者に勝利しないと、再マークできないの。わかる?』
校門へ渡る横断歩道で信号待ちしている間に、予鈴が鳴った。
校門の傍には生徒会らしい女生徒が立っていて、信号無視を見張っていた。
『スクミィ=昇というのを調べ上げて、昇に対して戦いに来る者が来るかも、ってこと。
戦う力のあるなしに関わらずに来るから、下手したら死ぬわよ、昇』
「ずるいよ!」
また、昇は声に出していた。
集まってきていた生徒たちが昇を見る。
昇は周囲を見回してイヤホンを外し、何事もなかったように歩行者信号が変わるのを待つ風を装うことに専念する。
程なく青信号になって、昇は周りから少し遅れて車道を渡った。
「急いでくださーい」
と生徒会の女生徒が声を張るのに会釈して、昇は急ぎ足で校舎に入った。
『ずるいじゃないかそんなの。いきなり戦わせて、事情も知らない内に命の危険だとか簡単に辞められないようにして――』
『辞退する手段はある、って今説明したじゃない』
「できる方法じゃないよ!」
昇の突然の声に、下足ホールでも数人が昇の方を向いた。
小声でごにょごにょと謝りつつ、昇は靴を履き替えるのももどかしい勢いでホールから離れた。
『それに――あんな戦いを浅賀さんにさせるなんてできない』
『あら、格好いいこと言うね』
昇のいる、二年A組の教室が近付いてきていた。ちらりと昇が腕時計を見ると本鈴まで残り一分を切っていた。
教室の前には担任の尾上弥生が扉を開けるタイミングを計っている。
「お、おはようございますっ」
昇は先に声をかけてから、廊下の残りの距離を詰める。
本鈴が鳴った。
「おはよう、比嘉くん」
薄い出席簿と授業用具一式を持っていた弥生は、息を切らせ気味で汗を浮かべた昇に返事しながら教室のドアを開ける。
「ぎりぎりセーフでいいわよ、席につきなさい」
今年度このクラスの担任となった尾上弥生は自称『妙齢』の、すらりとした肢体をスーツかスーツに近い服装に包んでいることが多い。この日もアイボリーのジャケットに同じ色のスカートという格好だった。
担当は数学。本人が言うには『美しい数式に無限の魅力を感じ』ているらしい。
ぴしっと切りそろえたストレートヘアといい、一重で切れ長の瞳といい、一見硬そうな印象をしているが、生徒に厳格なことを強いる言動はその実少ない。
今も昇を先に教室に入れ、弥生は少し間を置いてから入る。
教卓に荷物を置いて、ざわつきのおさまらない生徒たちを見回した。
昇は廊下に近い列の中程にある自分の席につく。
「はい、ホームルーム始めるよ」
弥生の合図に、クラス委員であるくるみが先に立って「起立」と号令した。
『頭の中に直接って、そんなことできるんならもっと早くにしてよ。それにこれなら付いて来なくても――』
『そんなの、未経験の人間にいきなりするわけないでしょ。あと、距離離れたら会話できないのよ』
万が一のカムフラージュに、と昇はイヤホンを耳につけていた――家に取りに戻ったために時間の余裕はやや厳しくなってきていて、昇は足を速めざるを得なくなっていた。
『それで、やめる方法って?』
朝とはいえ、気温は既に高くなってきていた。
昇の額にうっすらと汗が滲む。
『正確には権利譲渡よ』
学校に向かってはほぼ上り勾配が続く。
『昇が手に入れた魔法少女の力と知識の全てを、別の人に譲ることはできるわ。ただし、昇はこの戦いに関する記憶を失う』
『それくらいなら――』
『移譲するには、起動した杖を譲りたい――あぁ、同意はどっちでもいいから、その相手に渡して承継の言葉を唱えることで成立するわ』
昇が足を止めた。
『まあ、私としては最初の予定通り、浅賀くるみにでも譲ってくれると先々の戦いが楽になる可能性も高いし、いいけどね――って、昇?』
交差点でも何でもない道の途中で、昇は立ち止まっていた。
宅配便のトラックが唸りを上げて通り過ぎる。
『今、何て?』
『だから、浅賀くるみに――』
『そこじゃなくて』
昇の頬がやや引きつっていた。
『起動した杖を、って……つまり』
昇は十数分前の会話を思い出した様子で、唇を歪める。
『アレに変身した状態で、ってこと……?』
歩みを再開させることなく、昇は震えた調子で脳裏に確認の言葉を表す。
エリーは、あっさりと即答した。
『そうね』
「ムリっ!」
昇はつい、力一杯の声を出していた。
周囲の歩行者が何事かと振り返るのと目を合わせないように下を向いて、昇は足早に歩を進めなおした。
『そんなのできるわけないよ! それも浅賀さんに、あんな格好を見せるなんて――っ』
昇の顔が見るからに赤くなっていた。
『できないできないできないっ』
『浅賀くるみじゃなくてもいいよ、譲る相手――まあ、素質の判らない人間に替わられるよりは昇のほうがいいし、それよりやっぱり浅賀くるみの潜在値は捨てがたいんだけどねぇ』
エリーの口調は揶揄を含んでいた。
『あんなの、見せられないよっ』
早足の先に、学校が見えてきていた。
『それじゃ、戦うしかないわね』
『この石、捨ててもダメ?』
『変身できなくなるわよ。他の人が勝手に起動することもできないけど、この地を狙って来る敵はどうするの?』
『そんなの、放っとけばいいよ。昨日のみたいに誰かがその『マーキング』ってのをしたらいいんでしょ? エリーの話の感じ、連盟側じゃない勢力もあるみたいだし、誰かもっと上手くやれる人がいるよ』
エリーが、鞄の中で小さく溜息を吐いていた。
『昇――この地は今、スクミィの標が入ってるわ。マーカー――マーキングした者に勝利しないと、再マークできないの。わかる?』
校門へ渡る横断歩道で信号待ちしている間に、予鈴が鳴った。
校門の傍には生徒会らしい女生徒が立っていて、信号無視を見張っていた。
『スクミィ=昇というのを調べ上げて、昇に対して戦いに来る者が来るかも、ってこと。
戦う力のあるなしに関わらずに来るから、下手したら死ぬわよ、昇』
「ずるいよ!」
また、昇は声に出していた。
集まってきていた生徒たちが昇を見る。
昇は周囲を見回してイヤホンを外し、何事もなかったように歩行者信号が変わるのを待つ風を装うことに専念する。
程なく青信号になって、昇は周りから少し遅れて車道を渡った。
「急いでくださーい」
と生徒会の女生徒が声を張るのに会釈して、昇は急ぎ足で校舎に入った。
『ずるいじゃないかそんなの。いきなり戦わせて、事情も知らない内に命の危険だとか簡単に辞められないようにして――』
『辞退する手段はある、って今説明したじゃない』
「できる方法じゃないよ!」
昇の突然の声に、下足ホールでも数人が昇の方を向いた。
小声でごにょごにょと謝りつつ、昇は靴を履き替えるのももどかしい勢いでホールから離れた。
『それに――あんな戦いを浅賀さんにさせるなんてできない』
『あら、格好いいこと言うね』
昇のいる、二年A組の教室が近付いてきていた。ちらりと昇が腕時計を見ると本鈴まで残り一分を切っていた。
教室の前には担任の尾上弥生が扉を開けるタイミングを計っている。
「お、おはようございますっ」
昇は先に声をかけてから、廊下の残りの距離を詰める。
本鈴が鳴った。
「おはよう、比嘉くん」
薄い出席簿と授業用具一式を持っていた弥生は、息を切らせ気味で汗を浮かべた昇に返事しながら教室のドアを開ける。
「ぎりぎりセーフでいいわよ、席につきなさい」
今年度このクラスの担任となった尾上弥生は自称『妙齢』の、すらりとした肢体をスーツかスーツに近い服装に包んでいることが多い。この日もアイボリーのジャケットに同じ色のスカートという格好だった。
担当は数学。本人が言うには『美しい数式に無限の魅力を感じ』ているらしい。
ぴしっと切りそろえたストレートヘアといい、一重で切れ長の瞳といい、一見硬そうな印象をしているが、生徒に厳格なことを強いる言動はその実少ない。
今も昇を先に教室に入れ、弥生は少し間を置いてから入る。
教卓に荷物を置いて、ざわつきのおさまらない生徒たちを見回した。
昇は廊下に近い列の中程にある自分の席につく。
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