魔法少女まじかる★スクミィ

あきらつかさ

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04 争奪遊戯!?

4-1

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 チアリィ、と名乗った少女はベンチの上に立ったまま、両腕を広げ気味に曲げて構えをとる。
「あなたは? 先に名前、聞いておいてあげるわ」
「す……スクミィ」
 昇は勢いに気圧された風に答える。
「なるほどね、連中のネーミングセンスなんて似たようなものね」
 にこりと笑う、いかにもチアらしい衣装に身を包んだチアリィは、昇より少し年上に見えた。白く健康的な肌の露出度と、成長著しい胸が昇の視線を奪う。
 昇の眼差しに気付いたか、チアリィがやや勝ち誇ったような笑みになる。
「スクミィさんは、まだまだお子様のようね。まあ、その格好には似合ってると思うけど」
 つり目気味の丸い瞳が、昇の胸元を見つめていた。
 昇が赤面しつつ杖を正面に構えたところで、チアリィがベンチを蹴った。
「いい、恨みっこなしよ!」
 抗議の音を無視して、チアリィは瞬く間に昇に接近して両腕を腰だめに引く。
 両手での突きを昇は咄嗟に杖で防いだ。
 十数センチほど押されて下がり、土煙を上げる。
『昇、なにやってんの!』
 エリーの姿が見えなくなっていた。昇が見回すと、少し離れた木々の上に立っている。
「そんなこと言ったって!」
 文句を言おうとした昇になおもチアリィが間を詰める。
「よそ見っ!」
 右のポンポンを辛うじてかわした昇はチアリィから距離を取る。
「どうしてっ?」
「どうして、って……戦ってエリアを勝ち取って、増やしていくのがあたしたちの役割じゃないの。それともスクミィちゃんは戦いたくない派?」
「きっ――聞いてないよそんなの。エリー?」
「言ったわよ。力の源を押さえることで支配が成される、って」
 エリーも声に出して反論する。
「あれってこういう戦いのことだったの……?」
 再度昇に近付いていたチアリィが止まる。
「あー、ちょっと同情するわ……連中の感覚、あたしたちとはやっぱり違うよね」
 チアリィは、少し柔らかくした目つきで昇を見る。
「で、どうする? 話が解ったら続き、する?」
 昇の手が、杖をぎゅっと握っていた。
「チアリィさんは……どっち側、ですか?」
「ん? 何それ」
「えっ、し――知らないんですか?」
 チアリィの瞳にも疑問符が浮かんでいた。
「それってどういう――っ!」
 チアリィが飛び退いた。
 がつり、と何かが地面を抉るのを寸前で避けたチアリィは、昇との間に突如乱入してきたものを見て頬を歪める。
 昇の身長ほどはありそうな巨大はクワガタムシが、二人に割って入っていた。
 黒くぬらりと光る甲虫目の体躯に、棘のついた鎌のような一対の顎を広げては閉じて、昇とチアリィを睥睨する。
「ひっ……ぃぃ」
 チアリィの食いしばった歯から声が漏れる。
「虫は生理的にダメなの……」
 チアリィは涙声になっていた。

 昇に言葉を投げたあとエリーは、木々の間を縫うように飛んでいた。
 広場に沿って、チアリィの背後に回り込むように移動する――が、チアリィの動きを注視している様子はなかった。
 上下左右見回して、小さく「いたっ」と呟く。
 物音を立てないよう注意しつつ位置を変えてゆくエリーの視線の先に、小さな影があった。
 その影にじわじわと近付いてゆき――一気に距離を縮める。
「つかまえたっ!」
 エリーが飛びかかって押さえ込んだ相手は、エリーとよく似た姿格好をしていた。
 エリーより色味が濃く、胴の模様はハートではなく菱形になっている。
「何ッ!? は、放せッ」
 声も低い。しかしエリーは同種らしい者の上に乗ったまま口を開いた。
 きりきり、とでも形容するのが辛うじて妥当なような音声がエリーの口から溢れる。
 エリーの下にいる相手が少し目を大きくしてから、同様の音を口から漏らした。
 エリーが飛びのいて、相手も身を起こす。
「まあ、どこを狙うのも制限はないし、ね」
 と、日本語で言ってから昇たちの様子を窺うように小首を傾げた。
「まったく……いきなり何をするんだ」
 文句を言いながら、その相手も展望広場の状況に意識を向けて――地を蹴った。
「あか――チアリィ!」
「あ、待って!」
 呼びかけながら飛び出すのを、エリーも追った。

 昇とチアリィと巨大クワガタはそれぞれ睨み合った状態になっていて、動けずにいた。
「ミヤマ?」
 ぼそりと、昇がクワガタの種類に言い及んだのはさすがに男子、といったところか。
「そんなのどうだっていいわよ!」
 チアリィの声はまだ震えていた。
「チアリィ!」
 そこに現れた姿に昇は目を丸くする。
「エリー……じゃない。誰?」
 昇のもとにエリーが近付く。「スクミィ、気をつけて――」と言いながら、チアリィと巨虫から目を離さずにいる。
「エリー……まだ騙してたんだ」
「人聞きが悪いわね……言葉足らずだったことは謝るけど」
 エリーは憮然とした調子で言う。
 一方、チアリィ側では戦意の減退を見せていた。
「ひ……ヒュー。あたしやっぱり、虫はダメだわ」
 ヒュー、と呼ばれたエリーに似た縫いぐるみ状の者は眉をひそめ、チアリィの肩に乗る。
「あなたに聞きたいこともあるし、一旦退くわよ」
「仕方ないな」
 きっ、と顔を上げて、チアリィはポンポンを持った右手を昇に向けた。
「スクミィちゃん、勝負は預けておくわ!」
「えっ? えっと――チアリィさん?」
 巨大ミヤマクワガタに注意を払いつつ、昇はチアリィを見る。
「エリー、一つだけ情報共有だ。
 ――ノウェム卿が来ているらしい」
 ヒューの言葉に、昇の肩口で浮いていたエリーが息を呑んだ。
「うそ……こんな所に?」
「確かめたわけではないが、疑う理由の薄い筋からの情報だ」
 その台詞を最後に、チアリィとヒューは展望広場から姿を消した。
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