魔法少女まじかる★スクミィ

あきらつかさ

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07 事態急転!?

7-1

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 一学期の終業式まで、いよいよ日が少なくなっていた。
 昇がくるみに宛てた手紙はなおも変わらず、鞄の中で数値にはならない重みを昇に与えている。
 この日は担任の弥生が終わりのホームルームで答案を返却するという突発イベントがあり、教室内は軽い阿鼻叫喚に見舞われていた。
 昇が、学業については自慢できるほどではないが親を心配させない程度には安定していて、今回も平均点よりやや上をキープしていたことに安堵の息をこぼしながら荷物の片付けを始めたところに、教室に入ってきた二人の男子生徒が近付いてきた。
「昇、部活行こうぜー」
 片方、細身で背の高い方が手を上げて言う。もう一人は机の上に残っていた昇の解答用紙を取って、点数だけをちらりと見る。
「勝った! 昇、ジュースおごりな」
 やや肉付きのいいその少年はにやりと笑って、自分の鞄から出した紙を広げて見せた。
「二点違うだけじゃないか。昨日の社会は僕の勝ちだったからこれでイーブンだろ」
「そこはそれ。おごりはするが、おごってももらう」
「わかったよ」
 昇は笑って、適当に詰め込んだ鞄を手に、席を立った。
 ちなみにエリーは、あの縫いぐるみ風の体を失ったあとは昇の家で留守番をしていて、鞄の中には『魔力石』のみが入っている。
 昇は、椅子を戻してから眼鏡を直しつつ、教室を見回した。
 数人の女子で固まっていた中、まだ解答用紙を手に渋い表情を浮かべていたくるみと目が合う。昇を見たくるみは視線をやや和らげたものの、それでも試験結果が芳しくなかったことを困り顔と指で作るバツ印で表した。昇のすぐ近くにいた他のクラスの二人を見て部活と察したのだろう、くるみは昇に微妙な笑顔で手を振って見せる。
 昇も手を振り返し、廊下に向かった二人を追った。
「浅賀さんだっけ、可愛いよなぁ」
 部室のある視聴覚棟へと向かいながら、長身の少年――中村尚人が言う。「去年同じクラスだったけどさ、更に可愛さアップしてないか?」
 昇は嬉しそうにうんうんと頷く。
「そういえばさ」
 と、肉付きのいい方――服部弘章が鞄を探った。
「この間の日曜、昆虫大発生事件の時にさ――」
 そう言いながら、小さなアルバムを取り出す。
「コスプレ? みたいな女の子を見たんだ、ほら」
 アルバムには、日曜に撮影してすぐプリントアウトしたのであろう写真が収められていた。アルバムとともに取り出して首から提げた、中学生の持ち物にしては立派な一眼レフからも、弘章の写真趣味が容易にうかがえる。
 弘章が広げてページを繰ってゆく。写真は町の色々なところで撮ったらしい昆虫の写真が続いていたが、ひとつのページで弘章の手が止まる。
 弘章が示した写真には、人物が写っていた。躍動感のある青い髪で、白いニーソックスと白手袋、手には長い杖を持っている。起伏の少ないその身にまとっているのは女子用のスクール水着のようだった。
 スクミィ――昇だった。
「こ、こっ……これ」
 昇は弘章の手からアルバムを奪うように取って、まじまじと凝視し、ページを進める。
 スクミィを捉えた写真は、そこから数枚並んでいた。屋根伝いに跳んでいるものと、杖を構えて虫の群れと対峙しているもの、後ろに従えるように浮いている縫いぐるみ状のもの――エリーも写っている写真もあった。
 昇にとって幸いというか何というか、どれも遠めだったのか、顔がはっきりとしているものはなかった。
「昇ってそういうのが好みだったのか?」
 ゆるゆると返されたアルバムを受け取りながら、弘章が言う。
「そういうわけじゃないけど――どうしたの、これ? それに勝手に撮ったりして怒られない?」
「虫撮ってたら、たまたま見つけたんだよ。気付かれてないよこんなの。ていうか俺の記憶にはないけどこんなアニメあったっけ?
 コスプレしててテンション上がって、虫退治に乗り出した、とかなんだと思うけど、ちょっと驚いた」
 弘章の憶測を昇は流す。
「そっ、それにしてもこれは……」
「可愛いんじゃないか? 俺けっこうイケるかも」
 アルバムを受け取って写真を見た尚人が言い、昇は動揺を隠せない素振りで手を振る。
「こここっ、こんな子が尚人はい、いいの?」
「小柄な子がいいんだよ」
 尚人はなおも写真を見続け、弘章に聞いた。
「弘章、一枚もらっていい?」
 頷く弘章に礼を言って、尚人は吟味した一枚の写真を抜き取ってからアルバムを弘章に返した。
「もうちょっとはっきり写ってたら嬉しいけど、これが一番可愛く写ってるな。
 この町の子なのかな。会ってみたいよなぁ」
「そっ、そんなに?」
「可愛い女の子となら、やっぱり友達になりたいじゃないか」
 昇は赤面しかかっていたのを隠すように下を向く。尚人はそれには気付かなかった様子で弘章の肩を抱く。
「グッジョブだわ、弘章。この子の情報とか写真とか増えたらまたよろしくな。報酬はジュースで」
「ラジャ」
 弘章は尚人を見上げて親指を立てていた。
 昇は話題を変えるように、前方を指して早口気味に言った。
「ほっ、ほら、部室もうすぐだよ。そういや部長が夏休みの観望会合宿しようかとか言ってたよね、それに文化祭のことと――」
 三人は、まだ渡り廊下にさしかかったところだった。

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