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07 事態急転!?
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部活を終えて帰宅した昇を迎えたのはエリー一人だった。お帰り、という声だけが玄関に飛んでくる。
昇は溜め息で返事しながら、自室へ入った。Tシャツとハーフパンツに着替えてリビングに入ると、テレビに何かの機械を接続していた。
蒼銀のビスチェ風のトップスと、同色のローライズのボトムのみという肌の露出が多い格好で、テレビにつないだ機械から伸びているものをエリーは操作している。
ソファに座ったエリーの手元にあるのは端末のようだった。あぐらをかいたエリーの腿に乗っているそれに触れてゆく度に、テレビの映像が変わってゆく。
最初は遠目に見ていた昇も、画面に表示されるものに興味が湧いた様子でエリーに近付いた。
「エリー?」
「うん、昇、お帰り」
「それは?」
見下ろすと、白い谷間からくびれた腰も、端末の下になっている脚も昇の視界に入る。鼓動を早めながらも昇は意識を画面に向けようと顔をあげた。
「ここ数日、大きな動きが近辺で起こってないからね。
情報収集。やっぱりインターバルって大事だわ」
そこではじめてエリーは昇を見る。
「この間買ったスカートははかないの?」
「そっ……」
「冗談よ。
――見せてあげるわ」
からかうように笑って手招きと共に、エリーは画面を示した。
エリーの端末操作に従って、画面に地球が表示される。
「惑星全図――は解るよね、もちろん」
隣に座った昇が頷く。
「現在のマーキング済みポイントがこれだけ」
エリーが言いながら端末に触れると、その図上に幾つあるのか一見では判らないほどの数の青い光点が現れ、エリーは地球の図を回転させて見せる。
「こんなに……?」
「そして、判明している星脈のポイントがこれだけ」
青い光点に、緑のものが追加されてさらに数は数えられなくなる。
昇は目を見開いて画面に見入っていた。
エリーは昇の様子をちらりと見て、表示を変えた。
画面は日本地図になる。
「昇の獲得ポイントは、ここね」
地図の、都心寄りに黄色の光点が三個あった。
「ねえ、エリー」
「なに?」
「この光の数だけ、エリーたちの言う『協力者』がいて、世界中戦っていかないといけないってこと?」
「うーん、そこまでは今のところ言わないわ。それに、昇は三箇所持ってるじゃない。他にも複数占有している者はいるわ」
しかも、とエリーは続ける。
「昇はつい先日ハイレインを破ったけど、他ももっと、絞られていくわよ。戦いももっと激しくなるでしょうね」
「脅さないでよ……」
「脅しじゃないわよ」
エリーは真面目な視線を昇に向けるが、ふっとそれを和らげた。
「昇は頑張ってるし、魔力素質も思ってたよりありそうだし、きっと何とかなるわよ」
「そうかなあ……自信持てないよ」
「そう思って努力するといい結果が伴うのよ。慢心するよりよっぽど期待できるわ」
それはそうと、とエリーは端末をソファに置いて、昇に迫った。
頬を赤らめた昇がやや上体を退かせるがエリーはさらに昇を追って顔を近づけて、真剣な瞳で言った。
「昇――お腹すいた」
浅賀くるみが部活を終え、校舎を出た時には空はやや橙に染まりかけていた。
普段は大抵、同学年で帰る方向が同じ女子と一緒に帰るのだが、この日は一人だった。
「遅くなっちゃったなぁ……」
そう呟きながら、帰路を急ぐ。
住宅地へ向かう坂を下り、幹線道路を横切る歩道橋の階段をテンポ良く上っていく。
くるみが、階段を上りきったところだった。
「浅賀――くるみさん、ですね」
くるみに声をかける人影があった。
「えっ?」
名指しで呼ばれたことに、くるみは振り返る。
歩道橋の手すりにもたれるようにして立っていたのは、一六〇センチ弱のくるみより頭ひとつ分は背の高い男性だった。
涼やかな声でくるみを呼んだ男性は、足を止めたくるみに一歩近付く。
「あ、あの――どなたですか?」
その男性は、二十代くらいにも、四十代くらいにも見える年齢不詳感が漂っていた。肩まであるまっすぐ長い銀髪と、同様に薄い色の瞳をしている。長袖のカットソーと革のパンツに包まれた体躯は引き締まっていて、すらりとした鼻筋の整った顔立ちも相まってモデル写真のようなどこか非現実感のある雰囲気だった。
「少々、よろしいですか」
片腕を広げて、その男性がもう一歩くるみに近寄る。
どこか、イントネーションが標準語とは異なっていた。
「何、でしょう……」
男を見上げるくるみは警戒心の滲む声で、半歩ほど退く。
「なに、ちょっとご協力をお願いしたいことがありまして」
男の口調はあくまで軽い。
くるみは片手で携帯電話を取り出していた。
それを見て男は苦笑と共に、くるみに近付くのを止める。
「厳しい世の中ですね」
と、男は肩をすくめる。
右手をさっと振って、くるみの目の前に楕円を描いた。
「お願いします、浅賀くるみさん」
「……はい」
くるみがふらりと一歩、男に歩み寄った。
男は小さく笑みを浮かべると、近付いてきたくるみの腕を掴んで引き寄せる。
左腕の中にくるみを招き入れると、右手でもう一度円を作り、それを叩くように振り下ろした。
腕の中のくるみを見下ろして言う。
「さて、浅賀くるみ――我が名に於いて、あなたの『協力』を求めます」
男を見上げるくるみの瞳は、じょじょに虚ろになりつつあった。
昇は溜め息で返事しながら、自室へ入った。Tシャツとハーフパンツに着替えてリビングに入ると、テレビに何かの機械を接続していた。
蒼銀のビスチェ風のトップスと、同色のローライズのボトムのみという肌の露出が多い格好で、テレビにつないだ機械から伸びているものをエリーは操作している。
ソファに座ったエリーの手元にあるのは端末のようだった。あぐらをかいたエリーの腿に乗っているそれに触れてゆく度に、テレビの映像が変わってゆく。
最初は遠目に見ていた昇も、画面に表示されるものに興味が湧いた様子でエリーに近付いた。
「エリー?」
「うん、昇、お帰り」
「それは?」
見下ろすと、白い谷間からくびれた腰も、端末の下になっている脚も昇の視界に入る。鼓動を早めながらも昇は意識を画面に向けようと顔をあげた。
「ここ数日、大きな動きが近辺で起こってないからね。
情報収集。やっぱりインターバルって大事だわ」
そこではじめてエリーは昇を見る。
「この間買ったスカートははかないの?」
「そっ……」
「冗談よ。
――見せてあげるわ」
からかうように笑って手招きと共に、エリーは画面を示した。
エリーの端末操作に従って、画面に地球が表示される。
「惑星全図――は解るよね、もちろん」
隣に座った昇が頷く。
「現在のマーキング済みポイントがこれだけ」
エリーが言いながら端末に触れると、その図上に幾つあるのか一見では判らないほどの数の青い光点が現れ、エリーは地球の図を回転させて見せる。
「こんなに……?」
「そして、判明している星脈のポイントがこれだけ」
青い光点に、緑のものが追加されてさらに数は数えられなくなる。
昇は目を見開いて画面に見入っていた。
エリーは昇の様子をちらりと見て、表示を変えた。
画面は日本地図になる。
「昇の獲得ポイントは、ここね」
地図の、都心寄りに黄色の光点が三個あった。
「ねえ、エリー」
「なに?」
「この光の数だけ、エリーたちの言う『協力者』がいて、世界中戦っていかないといけないってこと?」
「うーん、そこまでは今のところ言わないわ。それに、昇は三箇所持ってるじゃない。他にも複数占有している者はいるわ」
しかも、とエリーは続ける。
「昇はつい先日ハイレインを破ったけど、他ももっと、絞られていくわよ。戦いももっと激しくなるでしょうね」
「脅さないでよ……」
「脅しじゃないわよ」
エリーは真面目な視線を昇に向けるが、ふっとそれを和らげた。
「昇は頑張ってるし、魔力素質も思ってたよりありそうだし、きっと何とかなるわよ」
「そうかなあ……自信持てないよ」
「そう思って努力するといい結果が伴うのよ。慢心するよりよっぽど期待できるわ」
それはそうと、とエリーは端末をソファに置いて、昇に迫った。
頬を赤らめた昇がやや上体を退かせるがエリーはさらに昇を追って顔を近づけて、真剣な瞳で言った。
「昇――お腹すいた」
浅賀くるみが部活を終え、校舎を出た時には空はやや橙に染まりかけていた。
普段は大抵、同学年で帰る方向が同じ女子と一緒に帰るのだが、この日は一人だった。
「遅くなっちゃったなぁ……」
そう呟きながら、帰路を急ぐ。
住宅地へ向かう坂を下り、幹線道路を横切る歩道橋の階段をテンポ良く上っていく。
くるみが、階段を上りきったところだった。
「浅賀――くるみさん、ですね」
くるみに声をかける人影があった。
「えっ?」
名指しで呼ばれたことに、くるみは振り返る。
歩道橋の手すりにもたれるようにして立っていたのは、一六〇センチ弱のくるみより頭ひとつ分は背の高い男性だった。
涼やかな声でくるみを呼んだ男性は、足を止めたくるみに一歩近付く。
「あ、あの――どなたですか?」
その男性は、二十代くらいにも、四十代くらいにも見える年齢不詳感が漂っていた。肩まであるまっすぐ長い銀髪と、同様に薄い色の瞳をしている。長袖のカットソーと革のパンツに包まれた体躯は引き締まっていて、すらりとした鼻筋の整った顔立ちも相まってモデル写真のようなどこか非現実感のある雰囲気だった。
「少々、よろしいですか」
片腕を広げて、その男性がもう一歩くるみに近寄る。
どこか、イントネーションが標準語とは異なっていた。
「何、でしょう……」
男を見上げるくるみは警戒心の滲む声で、半歩ほど退く。
「なに、ちょっとご協力をお願いしたいことがありまして」
男の口調はあくまで軽い。
くるみは片手で携帯電話を取り出していた。
それを見て男は苦笑と共に、くるみに近付くのを止める。
「厳しい世の中ですね」
と、男は肩をすくめる。
右手をさっと振って、くるみの目の前に楕円を描いた。
「お願いします、浅賀くるみさん」
「……はい」
くるみがふらりと一歩、男に歩み寄った。
男は小さく笑みを浮かべると、近付いてきたくるみの腕を掴んで引き寄せる。
左腕の中にくるみを招き入れると、右手でもう一度円を作り、それを叩くように振り下ろした。
腕の中のくるみを見下ろして言う。
「さて、浅賀くるみ――我が名に於いて、あなたの『協力』を求めます」
男を見上げるくるみの瞳は、じょじょに虚ろになりつつあった。
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