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童貞卒業おめでとう①
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◆ ◆ ◆
爆発みたいな音楽と判断を鈍らせるような強い光が、広い空間を占拠している。
等間隔に設置された丸い台の上では下着姿の女たちが誘うように妖艶な動きをしていた。
男も女も酒や薬をキメて、激しい音楽に身体を揺らしている。
隣を歩くラファエルはなにも言いやがらねぇし、一体、ここはなんなんだ?
「ハァイ」
爆音で声なんか聞こえるわけがねぇのに、近くを通った栗色の髪の女が俺に向かって言ったのが分かった。逆から指折り数えるみてぇに女から手招きされて、ラファエルが俺の背中を強く押した。
躓きそうな勢いで女の前に出ると、俺を招いた細い指先が俺の胸元をツツっとなぞった。
「それじゃあ、楽しんで!」
後ろからラファエルの声が聞こえて、振り返ってみると、奴はすでに何歩も俺から遠ざかっていた。
「は? ちょっと待てラファエル! 俺を置いていくのか!?」
大声で尋ねるが
「大丈夫、見えるとこには――」
奴の返答の最後のほうは何て言ってやがんのか、まったく分からなかった。
慣れた動きで人混みに消えちまったからだ。
女はいつの間にか俺の腕を掴んで離さねぇし、なんなら、もう一人ブロンドの女が増えてるし、これからどうすればいい?
「ねぇ、なにか飲む?」
栗色の髪の女が俺のことをグッと引っ張り、耳に吹き込んでくる。
「いや、俺は……」
爆音の中でかろうじて聞こえた声にそう答えながら、ラファエルが去った方向を見つめていると「なぁに? さっきの恋人?」とブロンドの女が逆の方向からまた引っ張って俺に尋ねてきた。
「違う」
そこははっきり答えたんだが、そう答えたことを少し後悔した。
「じゃあ、いいじゃない、アタシたちと遊びましょ?」
両腕を掴まれ、あれよあれよと連行される。
怪しげな黒いカーテンの裏側にはピンク色に光るこれまた怪しげな部屋があった。
ライトの所為で元の色が分かりにくいが、多分白いソファと白いベッドがある。
「これあげる」
ソファに座らされて、両隣を女たちに占拠され、オレンジ色のカクテルを勧められた。
さっきからベタベタと身体に触れられて、心臓が俺の意思とは別に暴れている。
「大丈夫、ただのカクテルだから」
この部屋に入ってから、女たちの声が聞き取りやすくなった。カーテンで音楽が少しだけ遮られているのだろう。
「大丈夫」
再度ブロンドの女に言われて、グラスを持ち、カクテルの匂いを嗅いでみる。
たしかに薬物のような匂いはしない。
両隣から期待の視線を感じた。これは飲むしかない。
「……っ」
ここで飲まなかったら男が廃る、と思って俺は一気にそのカクテルを飲み干した。
「美味しいでしょう?」
栗色の髪の女にそう尋ねられるが、正直、緊張でなんの味も感じられなかった。うんともすんとも答えられない。
「こういう場所、慣れてないのね」
「初心っていうのも可愛くていい」
こっちに来て、と俺から離れてベッドの上から手招く二人。
グラスを置き、自分の中でどうするかと葛藤して、ベッドに向かって三歩進んだときだった。
「やはりダメだ。君は私だけを見ていればいい、純粋ちゃん」
急に視界を大きな手で覆われ、後ろから優しく囁かれた。
「ラファエル?」
見えないままで尋ねるが、奴からの答えはない。
つーか、純粋ちゃんって呼ぶなよ、くそ。
「ごめんね、この子は私のものだから」
目を覆われたままグッと後ろに引き寄せられ、トンッと俺の背中がラファエルの身体に当たったのが分かる。
――もの、って……!
なにか言ってやりたかったが、女たちに「えー、横取りなんて最低」とか「やっぱり恋人だったのね、このクズ」とか、好き勝手拗ねたような文句を言われながら、ラファエルは俺の手を引いて部屋から出た。
「どういうことだよ? あんたが連れてきたんだろ?」
店から出て尋ねるが、ラファエルは「すまない」としか言わなかった。そのあとは、ただ黙々と俺の手を掴んだままアパートに帰り、「おやすみ」と俺が自分の部屋に入るのを見送った。
俺は自分のセーフティーゾーンに入ったわけだが、なんだか悶々としやがる。
自分の好物であるブロンドの女が俺に寄ってきたのが気に食わなかったのか?
「あー゛、くそ!」
悶々とする心で俺は一度閉めた扉を再度開けて、ラファエルの部屋のブザーを押した。
「ジョン……」
すぐそこに居たのか、扉はすぐに開かれ、少し驚いたような瞳が顔を出す。
「おい、説明しろ」
ガッと無理矢理扉を大きく開いて、俺は勝手に部屋に押し入った。まあ、一歩だけだが。
「なんで君は来てしまったんだろう」
ぼそりと、それでいて早口でラファエルが言ったのが聞こえた。
爆発みたいな音楽と判断を鈍らせるような強い光が、広い空間を占拠している。
等間隔に設置された丸い台の上では下着姿の女たちが誘うように妖艶な動きをしていた。
男も女も酒や薬をキメて、激しい音楽に身体を揺らしている。
隣を歩くラファエルはなにも言いやがらねぇし、一体、ここはなんなんだ?
「ハァイ」
爆音で声なんか聞こえるわけがねぇのに、近くを通った栗色の髪の女が俺に向かって言ったのが分かった。逆から指折り数えるみてぇに女から手招きされて、ラファエルが俺の背中を強く押した。
躓きそうな勢いで女の前に出ると、俺を招いた細い指先が俺の胸元をツツっとなぞった。
「それじゃあ、楽しんで!」
後ろからラファエルの声が聞こえて、振り返ってみると、奴はすでに何歩も俺から遠ざかっていた。
「は? ちょっと待てラファエル! 俺を置いていくのか!?」
大声で尋ねるが
「大丈夫、見えるとこには――」
奴の返答の最後のほうは何て言ってやがんのか、まったく分からなかった。
慣れた動きで人混みに消えちまったからだ。
女はいつの間にか俺の腕を掴んで離さねぇし、なんなら、もう一人ブロンドの女が増えてるし、これからどうすればいい?
「ねぇ、なにか飲む?」
栗色の髪の女が俺のことをグッと引っ張り、耳に吹き込んでくる。
「いや、俺は……」
爆音の中でかろうじて聞こえた声にそう答えながら、ラファエルが去った方向を見つめていると「なぁに? さっきの恋人?」とブロンドの女が逆の方向からまた引っ張って俺に尋ねてきた。
「違う」
そこははっきり答えたんだが、そう答えたことを少し後悔した。
「じゃあ、いいじゃない、アタシたちと遊びましょ?」
両腕を掴まれ、あれよあれよと連行される。
怪しげな黒いカーテンの裏側にはピンク色に光るこれまた怪しげな部屋があった。
ライトの所為で元の色が分かりにくいが、多分白いソファと白いベッドがある。
「これあげる」
ソファに座らされて、両隣を女たちに占拠され、オレンジ色のカクテルを勧められた。
さっきからベタベタと身体に触れられて、心臓が俺の意思とは別に暴れている。
「大丈夫、ただのカクテルだから」
この部屋に入ってから、女たちの声が聞き取りやすくなった。カーテンで音楽が少しだけ遮られているのだろう。
「大丈夫」
再度ブロンドの女に言われて、グラスを持ち、カクテルの匂いを嗅いでみる。
たしかに薬物のような匂いはしない。
両隣から期待の視線を感じた。これは飲むしかない。
「……っ」
ここで飲まなかったら男が廃る、と思って俺は一気にそのカクテルを飲み干した。
「美味しいでしょう?」
栗色の髪の女にそう尋ねられるが、正直、緊張でなんの味も感じられなかった。うんともすんとも答えられない。
「こういう場所、慣れてないのね」
「初心っていうのも可愛くていい」
こっちに来て、と俺から離れてベッドの上から手招く二人。
グラスを置き、自分の中でどうするかと葛藤して、ベッドに向かって三歩進んだときだった。
「やはりダメだ。君は私だけを見ていればいい、純粋ちゃん」
急に視界を大きな手で覆われ、後ろから優しく囁かれた。
「ラファエル?」
見えないままで尋ねるが、奴からの答えはない。
つーか、純粋ちゃんって呼ぶなよ、くそ。
「ごめんね、この子は私のものだから」
目を覆われたままグッと後ろに引き寄せられ、トンッと俺の背中がラファエルの身体に当たったのが分かる。
――もの、って……!
なにか言ってやりたかったが、女たちに「えー、横取りなんて最低」とか「やっぱり恋人だったのね、このクズ」とか、好き勝手拗ねたような文句を言われながら、ラファエルは俺の手を引いて部屋から出た。
「どういうことだよ? あんたが連れてきたんだろ?」
店から出て尋ねるが、ラファエルは「すまない」としか言わなかった。そのあとは、ただ黙々と俺の手を掴んだままアパートに帰り、「おやすみ」と俺が自分の部屋に入るのを見送った。
俺は自分のセーフティーゾーンに入ったわけだが、なんだか悶々としやがる。
自分の好物であるブロンドの女が俺に寄ってきたのが気に食わなかったのか?
「あー゛、くそ!」
悶々とする心で俺は一度閉めた扉を再度開けて、ラファエルの部屋のブザーを押した。
「ジョン……」
すぐそこに居たのか、扉はすぐに開かれ、少し驚いたような瞳が顔を出す。
「おい、説明しろ」
ガッと無理矢理扉を大きく開いて、俺は勝手に部屋に押し入った。まあ、一歩だけだが。
「なんで君は来てしまったんだろう」
ぼそりと、それでいて早口でラファエルが言ったのが聞こえた。
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