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極光の夜に

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 あんなに昼間は雪が降っていたのに今は止んでいて、雲の消えた空には大きな緑色の光のベールのようなものが揺らめいていた。

「極光、オーロラだ」

「これがオーロラ?そっちに行っても良いですか?」

「良いが、気を付けろよ?」

「はい」

 縄梯子なんて初めて登る。足を掛けると縄は:撓(たわ)んで酷く揺れた。それでも僕は意地でも登ってやろうと思った。初めてのオーロラをもっと近くで見たかったから。

「よく登って来れたな」

 安定しない足場に苦労しながら、僕はやっとのことでアキークの居る見張り台に辿り着いた。

「寒いから、ここに入れ」

 アキークが被っていた毛布を開く。彼の首元で白かった魔石が不思議な色をして発光しているのが見えた。淡い水色と透明感のある灰色を混ぜたような、とても綺麗な色だった。

「そっちじゃない、こっち向け」

 後ろ向きで毛布の中に収まろうとしたら正面を向けと言われた。僕が言う通りにすると毛布の隙間を閉じるために伸ばされたアキークの両腕が僕の背に回った。

「こんなに明るいのが出るのは珍しい。お前は運が良いな」

 アキークが言う通り、月明かりも相まってか辺りは本が読めそうなほど明るかった。

「手が届きそう……」

 僕が小さく呟きながら、そろそろと空に手を伸ばした時だった。

「え、ちょっ!」

 突然、身体を抱えて垂直に持ち上げられた。

「これで、もっと近くなっただろう?」

 そう言われて僕はアキークの意図を理解した。アキークの目線より、もっと上、見上げるとオーロラがまた僕に近付いていた。満月に大きな星の川、揺れる緑色のベール、空がこんなに神秘的に見えたのは初めてだ。

「本当だ……、アキーク、ありがとうございます!とても綺麗で……」

 あまりに嬉しくて興奮したように僕はアキークに視線を向けた。でも、言葉の途中で何も言えなくなってしまった。

 そこに空より綺麗な瞳があったから……。

 まさか月明かりで見えるとは思わなかったけれど、僕は彼の本当の瞳の色を知った。発光した魔石と同じ、淡い水色と透明感のある灰色を混ぜたような色だ。

「何、ジッと見てんだ?そうやって見られると不安になるんだが」

 ふわふわの耳が両方、あちこちに動いている。その動きは戸惑う人の瞳の動きに似ていた。どうやら不安の表れらしい。

 種族間で不安にさせる行動が違うと聞いたことがある。そういえば、猫科の場合はジッと目を見つめることだった。今まで人の目を見つめることなんて無かったから忘れていた。

「綺麗な瞳の色だな、と思って。あなたの魔石の色みたい……」

 美しい虹彩に吸い込まれてしまいそうだと思った。不安にさせてごめんなさい、と僕は伸ばした両手で彼の両耳を優しく撫でた。

「ナキ……」

 アキークが僕の名前を呼んだ。

「……っ」

 瞬間、突然頭痛に襲われ僕は痛む頭を両手で抱えた。脳裏に映像が流れ出す。鉄製の小さな船、それが大きな氷の塊にぶつかって沈没していく。船には何人か乗っていたみたいだったけれど、避難用のボートに乗り込めたのは一人だけ。空にオーロラが出ているということは……
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