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5.なに? 寂しくなっちゃった?
②
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◆ ◆ ◆
週末、宇佐神さんは毛利とのデートに出掛けた。
ほとんどスーツ姿しか見てこなかったから、今日の私服姿は実に新鮮でスマートで、正直、かっこいい。道を歩けば、老若男女振り向く。
のを俺は実際に見ている。
――あーあ、気になってついて来ちゃってやーんの。
心の中で頭を抱えながら、現実の俺は視線を前に向け、離れたところを歩く二人の姿を捉えていた。
俺は出掛けませんよ? という顔をしながら昼前に宇佐神さんを家で見送り、数分後に自分も出て、ここまで宇佐神さんをつけてきた。
五つ先の駅で毛利と合流し、いまはお昼を食べる店を探しているようだ。
ちなみに毛利は派手な黒地に赤い花のワンピースを着て、ウェーブのかかった赤髪を揺らして歩いている。あきらかに男性の女装だと分かる体格だ。
それでも宇佐神さんは紳士的に毛利をエスコートしているように見える。道では自分が道路側を歩き、いまだって、見つけたレストランの扉を開けてあげていた。
――しまった……。
二人を見ていていままで気付かなかったけれど、街頭インタビューでもやっているんだと思う。テレビクルーが横にいて、俺は身を屈めてその場から少し離れた。あれに運悪く映ってしまったら、サイコパス宇佐神のことだ、俺がついてきていたことに気付くだろう。そうなったら、何を言われるか……。
お昼も一緒の店で食べるわけにいかない。コンビニで買ったあんぱんとお茶で張り込みを続ける。牛乳はぬるくなったら不味い。
それにしてもいいな、美味しそうなランチを食べてるのが見える。まあ、俺も毎日三食、宇佐神さんの美味い手作り料理食べてるけどさ。いまや、一人で立ったままあんぱんですよ?
くうぅっと思ってたら、二人が店から出てきたため、慌てながらもこっそり後を追う。
けれど、見ていても意外と普通だなと思ってしまった。映画行って、王道ラブストーリー観て、近くのモールでショッピングして、ソフトクリーム食べて、口についたやつ宇佐神さんにハンカチで拭いてもらってたけど、ただ紳士的だなって。まあ、毛利は照れたように笑ってた。
ちゃんと宇佐神さんが紳士的に毛利のことを甘やかしているからか、なんだかんだ二人がカップルに見えてきた気がする。
日が暗くなりはじめて、これさっき見てましたよね? って感じでさりげなくプレゼントまで渡して、あらら、マジで紳士的。その大きなショッパーには何が入ってるんだ? 服か?
――あ! 手まで繋いでる! 恋人繋ぎじゃん!
電信柱の後ろに隠れる俺を置いて、キラキラと光るネオンの中を二人が歩いていく。これは駅に向かう道だ。
――ん? 帰るのかな? 実に健全なお付き合い……、いや、待てよ? ここはラブホ街では? い、行くのか? 二人で……! デート1回目で?
どうりでネオンが眩しいと思った。そこはたしかに駅へと向かう道ではあるのだけれど、両側にずらりとラブホテルが並んでいる場所だった。避けたければ別の道もある。それを敢えて、ここを通ってきたってことは……。
――あ……。
一つのラブホの前で先に足を止めたのは毛利だった。
入口で立ち止まって、宇佐神さんと何か話してるけど、遠くて何も聞こえない。当然ながら読唇術も習得してないし。
あれ、でも、いま、一瞬、宇佐神さん笑顔で「僕は別にいいけど」って言わなかった?
あー、なに気にしてんだ、俺。別に宇佐神さんが誰とラブホ行こうと勝手じゃんか。一緒に暮らしてても俺と宇佐神さんは付き合ってるわけじゃないし、俺には三重野がいるんだし、宇佐神さん、俺のタイプじゃないし。
でもさ、宇佐神さん、あの整った顔で俺のこと好きとか可愛いとか言うんだよな。……いやいや、単なる暇潰しで揶揄ってんだって。
「あ……」
毛利と手を繋いだまま、二人がラブホに入っていきそうになって、俺の口から自然と声がもれた。離れてるから、たぶん、向こうには聞こえてないけど。
瞬間、毛利が首を横に振ったのが見えた。
どうやら、やめたみたいだ。進む方向を変えて、駅に向かって歩き出す。
しばらく後をつけて、駅に着くとお別れの前に二人が向き合って、何かを話そうとしていた。
近くのベンチが背の高い木に隠れていて、ちょうどよかったので、俺はそこに座って二人の話を聞くことにする。完全にルール違反だ。気になるんだから、仕方ない。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。楽しかったよ」
ベンチに膝を着くように後ろを向いて、木々の間から二人を覗く。お互いにぺこっと頭を下げたのが見えた。
――なんか良い感じの雰囲気だな。このまま付き合うことになる、とか?
「いえ、宇佐神さんのおかげで本当の自分に気付くことができました」
――ん?
毛利の言葉の意味が分からず、続きを待って耳を傾ける。
週末、宇佐神さんは毛利とのデートに出掛けた。
ほとんどスーツ姿しか見てこなかったから、今日の私服姿は実に新鮮でスマートで、正直、かっこいい。道を歩けば、老若男女振り向く。
のを俺は実際に見ている。
――あーあ、気になってついて来ちゃってやーんの。
心の中で頭を抱えながら、現実の俺は視線を前に向け、離れたところを歩く二人の姿を捉えていた。
俺は出掛けませんよ? という顔をしながら昼前に宇佐神さんを家で見送り、数分後に自分も出て、ここまで宇佐神さんをつけてきた。
五つ先の駅で毛利と合流し、いまはお昼を食べる店を探しているようだ。
ちなみに毛利は派手な黒地に赤い花のワンピースを着て、ウェーブのかかった赤髪を揺らして歩いている。あきらかに男性の女装だと分かる体格だ。
それでも宇佐神さんは紳士的に毛利をエスコートしているように見える。道では自分が道路側を歩き、いまだって、見つけたレストランの扉を開けてあげていた。
――しまった……。
二人を見ていていままで気付かなかったけれど、街頭インタビューでもやっているんだと思う。テレビクルーが横にいて、俺は身を屈めてその場から少し離れた。あれに運悪く映ってしまったら、サイコパス宇佐神のことだ、俺がついてきていたことに気付くだろう。そうなったら、何を言われるか……。
お昼も一緒の店で食べるわけにいかない。コンビニで買ったあんぱんとお茶で張り込みを続ける。牛乳はぬるくなったら不味い。
それにしてもいいな、美味しそうなランチを食べてるのが見える。まあ、俺も毎日三食、宇佐神さんの美味い手作り料理食べてるけどさ。いまや、一人で立ったままあんぱんですよ?
くうぅっと思ってたら、二人が店から出てきたため、慌てながらもこっそり後を追う。
けれど、見ていても意外と普通だなと思ってしまった。映画行って、王道ラブストーリー観て、近くのモールでショッピングして、ソフトクリーム食べて、口についたやつ宇佐神さんにハンカチで拭いてもらってたけど、ただ紳士的だなって。まあ、毛利は照れたように笑ってた。
ちゃんと宇佐神さんが紳士的に毛利のことを甘やかしているからか、なんだかんだ二人がカップルに見えてきた気がする。
日が暗くなりはじめて、これさっき見てましたよね? って感じでさりげなくプレゼントまで渡して、あらら、マジで紳士的。その大きなショッパーには何が入ってるんだ? 服か?
――あ! 手まで繋いでる! 恋人繋ぎじゃん!
電信柱の後ろに隠れる俺を置いて、キラキラと光るネオンの中を二人が歩いていく。これは駅に向かう道だ。
――ん? 帰るのかな? 実に健全なお付き合い……、いや、待てよ? ここはラブホ街では? い、行くのか? 二人で……! デート1回目で?
どうりでネオンが眩しいと思った。そこはたしかに駅へと向かう道ではあるのだけれど、両側にずらりとラブホテルが並んでいる場所だった。避けたければ別の道もある。それを敢えて、ここを通ってきたってことは……。
――あ……。
一つのラブホの前で先に足を止めたのは毛利だった。
入口で立ち止まって、宇佐神さんと何か話してるけど、遠くて何も聞こえない。当然ながら読唇術も習得してないし。
あれ、でも、いま、一瞬、宇佐神さん笑顔で「僕は別にいいけど」って言わなかった?
あー、なに気にしてんだ、俺。別に宇佐神さんが誰とラブホ行こうと勝手じゃんか。一緒に暮らしてても俺と宇佐神さんは付き合ってるわけじゃないし、俺には三重野がいるんだし、宇佐神さん、俺のタイプじゃないし。
でもさ、宇佐神さん、あの整った顔で俺のこと好きとか可愛いとか言うんだよな。……いやいや、単なる暇潰しで揶揄ってんだって。
「あ……」
毛利と手を繋いだまま、二人がラブホに入っていきそうになって、俺の口から自然と声がもれた。離れてるから、たぶん、向こうには聞こえてないけど。
瞬間、毛利が首を横に振ったのが見えた。
どうやら、やめたみたいだ。進む方向を変えて、駅に向かって歩き出す。
しばらく後をつけて、駅に着くとお別れの前に二人が向き合って、何かを話そうとしていた。
近くのベンチが背の高い木に隠れていて、ちょうどよかったので、俺はそこに座って二人の話を聞くことにする。完全にルール違反だ。気になるんだから、仕方ない。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。楽しかったよ」
ベンチに膝を着くように後ろを向いて、木々の間から二人を覗く。お互いにぺこっと頭を下げたのが見えた。
――なんか良い感じの雰囲気だな。このまま付き合うことになる、とか?
「いえ、宇佐神さんのおかげで本当の自分に気付くことができました」
――ん?
毛利の言葉の意味が分からず、続きを待って耳を傾ける。
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