タイムカプセルを開けた日からサイコパスに愛されています。【社会人BL】

純鈍

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5.なに? 寂しくなっちゃった?

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「アタシ……いえ、俺はいまモデルの仕事してるんですけど、他のモデルほど人気出なくて、どんどん自分に自信なくしちゃって、自分の姿を見るのが嫌になったんです。落ち込んで、興味本位で二丁目に行って、そこで生き生きとしてるオネエさんたちを見たら俺も同じ格好したら自信が出るかもって、憧れて……それがきっかけで……。でも、やっぱり俺は違いました」

 息を深く吐くように毛利は宇佐神さんに告げた。

「そんな気がしてたよ」

 ニコニコといつもと変わらない宇佐神さんの横顔が見える。

「宇佐神さんは、どうして分かったんですか?」

「僕には知り合いがたくさんいるから、オネエさんたちともよく仲良くさせてもらってるんだよね。でも、君は彼女たちとはなんだか違う気がしたから」

 毛利の問い掛けに、宇佐神さんはあっさりと答えた。宇佐神さんは最初から分かっていたんだ。「なるほど」と毛利も頷いていた。

「それ、着替えが入ってるから、そこで着替えてくるといいよ」

 宇佐神さんが指差したのは、さっき自分が渡した大きなショッパーだった。全部予想してるのが、なんか、ちょっと怖い。

 でも、毛利は「ありがとうございます」と言って、駅前の公衆トイレに入っていった。ちょうど男子トイレから出てきて、すれ違ったおじさんが一瞬ギョッとしたような顔をしていたけど、まあ、いいだろう。

 そして、最後まで宇佐神さんは紳士的だった。

 毛利が着替えて出てくるまで、ちゃんと待って、彼の本当の姿を見て「素敵だね」と微笑んだ。少しだけいつもと違う、本物の笑みを見た気がした。

 それにしても毛利、本当にモデルやってるんだな。すごくスタイルがいい。それに負けない宇佐神さんもなんだよ、って感じだけど、なんだかほっとした。

 いや、なんでほっとしてんだよ。

「まあ、なんだ、そういうことだったのか……」

 二人が解散するっぽいから、俺はベンチにちゃんと座り直して、小さく呟いた。

 てっきり、宇佐神さんは本当に毛利に惚れたのかと思った。

「あ、すみません……」

 考えながらぼーっとしてたら急に隣に人が座ってきて、俺が真ん中に座ってしまったから座りづらかっただろうな、と思って、謝りながら少し横にずれると

「今夜は月が綺麗ですね」

 その人は、そんなことを言った。

 たしかに今夜は月が綺麗だ。というか、俺に話し掛けているのだろうか……って、宇佐神さん……!

「き、奇遇ですね? デートでしたっけ?」

 横を向くと視線がばっちり合って、俺は笑顔を顔面に貼り付けた。下手くそか、自分。

「可愛いなあ、僕の最愛の人」
「ちょ、なんなんすか」

 ニコニコと笑った宇佐神さんに頬を撫でられて、俺は視線を逸らした。でも、ちょっと冷たいその手を振り払うことは出来なかった。

「毛利くんに僕が取られてしまうと思った?」
「違いますよ」

 こんなもん即答即答。ちょっと気になっただけです、あなたがどんな恋愛をするのか。まあ、実際は毛利の悩みを解決しただけみたいですけど。

「俺には三重野がいるので」
「あー、そうだったね」

 何を言っても変わらない口調。きっと、俺の視線の外にある表情もいつもと変わらないのだろう。

 俺がそう思った瞬間だった。

「宇佐神さん、これ」

 突然、正面から見知らぬ男の人が宇佐神さんに何か小さなものを差し出した。

 ――え? 誰?

「あ、これはこれは、ありがとうございます。どうでした?」
「いや、実によかったですよ」

 ――は?

 宇佐神さんが普通に受け取って、楽しそうに会話をし始めるから俺の視線が釘付けになる。普通にそこらへんに居そうな、ラフな格好した男の人だけど。

 指で摘むくらいの小ささって、なんだ、それ? なんすか? なに受け取ったんですか、それ。

「うん、帰ってからチェックさせてもらおう。――さ、響くん、二人の愛の巣に帰ろう?」
「なに貰ったんですか? というか、なんか言い方が嫌なんすけど」

 男の人と会話を終えて、宇佐神さんは何食わぬ顔で俺と腕を組んだ。でも、俺はなにも認めてない。別に宇佐神さんに愛情は向けてないし、同棲じゃなくて同居させてもらってるだけだから。

 なのに宇佐神さんは

「いいから、いいから」
「いや、ぜんぜんよくな……ちょ、力強い」

 半ば強引に俺を家まで連れ帰った。
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