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7.言葉の魔術師 サイコパス
⑥
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◆ ◆ ◆
「響くん、お誕生日、おめでとう」
「あ……、忘れてました」
宇佐神さんの部屋に帰って、ちょっと疲れたからソファに座って、少し休んでから着替えようかなと思ったら、ニコニコな宇佐神さんに言われて今日が自分の誕生日だと思い出した。
だって、色々あったから。合同プロジェクトに集中してるってのもあるし、宇佐神さんストーカー事件も気になってたし。でも、宇佐神さんと出会って、もう一ヶ月も経ったんだな。
「これ、お誕生日ケーキ」
いつ買って用意しておいたのか、冷蔵庫から大きなケーキの箱を取り出して、宇佐神さんがローテーブルの上に置く。それから
「と、お誕生日プレゼント」
紺色のラッピングがされた細長い両手サイズの箱をどこからか取り出して、俺の横に座って開け始めた。
――プレゼントって宇佐神さんが開けるんだ?
「ネクタイ……」
普通、貰った本人が開けるものだと思ったけど、中身が出てきて、俺は呟きながら変に納得した。だって、もう宇佐神さん、俺の首から今日着けてたネクタイ解き去ってるもん。
「本当は可愛い首輪にしようと思ったんだけど、それだと会社にしていけないからさ」
まっさらになった俺の首元に新しいネクタイを結びながら宇佐神さんが笑う。
「く、首輪って……」
絶賛、引いてるよ、俺。
他人のためにサンドバッグになったりするけど、やっぱり根本的にはサイコパスなんだよな、この人。
それに濃紺に白の水玉ってシンプルだけど、男には可愛すぎないかな?
そう思った瞬間、結んだばかりのネクタイを掴まれ、くいっと引っ張られた。
「誰かに"そのネクタイいいね"とか、"どうしたの?" とか聞かれたら、ちゃんと宇佐神さんに貰った、って言うんだよ?」
――この人、外堀から埋めようとしてる……!
「ぜ、善処します……」
近付いた笑顔が狂気的過ぎて、俺は絞り出すように小さく言った。誰も俺のネクタイなんて気にしてないと思うんだけどね、って心の中では考えながら、念のために一度、ニコッと笑っておく。
すると、満足したのか、宇佐神さんは丁寧にネクタイを整え直して
「うん、似合ってる」
と頷いた。
それから「はい、これ持って。写真撮るよ」と言って、箱から二人で食べるには多いようなサイズのワンホールケーキを取り出して、俺に持たせた。
ベースは苺と生クリームのケーキで、チョコのプレートには『ハッピーバースデー響くん』と書いてある。色んな意味で重たいんだけど、俺、愛されてるのかな。
複雑な気持ちのまま、控えめな笑みで写真を撮られた。
「うんうん、可愛く撮れた。それじゃあ、ほら、あーん」
「いや、そこまでしてもらわなくて、もっ! ――美味い……」
ご遠慮したはずなのに、少し強引にフォークで大きく削いだケーキの欠片を口に突っ込まれて変な声が出た。でも、味は一流に美味しかった。甘さもなんとなく控えめだ。これなら分けて食べれば二人で完食出来るかもしれない。
「そうでしょう?」
いつも通りな顔してるけど、宇佐神さんのことだから、高いところのケーキを用意してくれたんじゃないだろうか。
「えっと、ありがとうございます。あの、宇佐神さんは誕生日、いつなんですか?」
宇佐神さんほど、高いものは用意出来ないけれど、これは是非お返しをしなければと思った。宇佐神さんだって、サイコパスだけど人間なのだから誕生日はあるはずだ。きっと、俺になにかさせるために敢えて教えてくれるだろう。
そうに違いないはずだったのに
「秘密」
俺の口にケーキの欠片を突っ込みながら、宇佐神さんは自分の口に人差し指を当てた。
この翌日、ストーカーの女性がどうなったかが分かる。彼女は警備室で抵抗したために警察を呼ばれ、持ち物検査をしたところバッグの中から刃物が見つかったことで、不法侵入と銃刀法違反などで連行された、ということだった。
社内のセキュリティも見直されることになり、宇佐神さんの信用も戻った。みんな「やっぱりね」とか言ってたけど、最初から最後まで宇佐神さんのことをちゃんと信じてたのは俺だけだから、と思った。
「響くん、お誕生日、おめでとう」
「あ……、忘れてました」
宇佐神さんの部屋に帰って、ちょっと疲れたからソファに座って、少し休んでから着替えようかなと思ったら、ニコニコな宇佐神さんに言われて今日が自分の誕生日だと思い出した。
だって、色々あったから。合同プロジェクトに集中してるってのもあるし、宇佐神さんストーカー事件も気になってたし。でも、宇佐神さんと出会って、もう一ヶ月も経ったんだな。
「これ、お誕生日ケーキ」
いつ買って用意しておいたのか、冷蔵庫から大きなケーキの箱を取り出して、宇佐神さんがローテーブルの上に置く。それから
「と、お誕生日プレゼント」
紺色のラッピングがされた細長い両手サイズの箱をどこからか取り出して、俺の横に座って開け始めた。
――プレゼントって宇佐神さんが開けるんだ?
「ネクタイ……」
普通、貰った本人が開けるものだと思ったけど、中身が出てきて、俺は呟きながら変に納得した。だって、もう宇佐神さん、俺の首から今日着けてたネクタイ解き去ってるもん。
「本当は可愛い首輪にしようと思ったんだけど、それだと会社にしていけないからさ」
まっさらになった俺の首元に新しいネクタイを結びながら宇佐神さんが笑う。
「く、首輪って……」
絶賛、引いてるよ、俺。
他人のためにサンドバッグになったりするけど、やっぱり根本的にはサイコパスなんだよな、この人。
それに濃紺に白の水玉ってシンプルだけど、男には可愛すぎないかな?
そう思った瞬間、結んだばかりのネクタイを掴まれ、くいっと引っ張られた。
「誰かに"そのネクタイいいね"とか、"どうしたの?" とか聞かれたら、ちゃんと宇佐神さんに貰った、って言うんだよ?」
――この人、外堀から埋めようとしてる……!
「ぜ、善処します……」
近付いた笑顔が狂気的過ぎて、俺は絞り出すように小さく言った。誰も俺のネクタイなんて気にしてないと思うんだけどね、って心の中では考えながら、念のために一度、ニコッと笑っておく。
すると、満足したのか、宇佐神さんは丁寧にネクタイを整え直して
「うん、似合ってる」
と頷いた。
それから「はい、これ持って。写真撮るよ」と言って、箱から二人で食べるには多いようなサイズのワンホールケーキを取り出して、俺に持たせた。
ベースは苺と生クリームのケーキで、チョコのプレートには『ハッピーバースデー響くん』と書いてある。色んな意味で重たいんだけど、俺、愛されてるのかな。
複雑な気持ちのまま、控えめな笑みで写真を撮られた。
「うんうん、可愛く撮れた。それじゃあ、ほら、あーん」
「いや、そこまでしてもらわなくて、もっ! ――美味い……」
ご遠慮したはずなのに、少し強引にフォークで大きく削いだケーキの欠片を口に突っ込まれて変な声が出た。でも、味は一流に美味しかった。甘さもなんとなく控えめだ。これなら分けて食べれば二人で完食出来るかもしれない。
「そうでしょう?」
いつも通りな顔してるけど、宇佐神さんのことだから、高いところのケーキを用意してくれたんじゃないだろうか。
「えっと、ありがとうございます。あの、宇佐神さんは誕生日、いつなんですか?」
宇佐神さんほど、高いものは用意出来ないけれど、これは是非お返しをしなければと思った。宇佐神さんだって、サイコパスだけど人間なのだから誕生日はあるはずだ。きっと、俺になにかさせるために敢えて教えてくれるだろう。
そうに違いないはずだったのに
「秘密」
俺の口にケーキの欠片を突っ込みながら、宇佐神さんは自分の口に人差し指を当てた。
この翌日、ストーカーの女性がどうなったかが分かる。彼女は警備室で抵抗したために警察を呼ばれ、持ち物検査をしたところバッグの中から刃物が見つかったことで、不法侵入と銃刀法違反などで連行された、ということだった。
社内のセキュリティも見直されることになり、宇佐神さんの信用も戻った。みんな「やっぱりね」とか言ってたけど、最初から最後まで宇佐神さんのことをちゃんと信じてたのは俺だけだから、と思った。
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