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8.ゲスだねえ、響くん
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「してるよ? オタクなカメコのコスプレ」
「は?」
さらっと言われて、改めて宇佐神さんの格好を上から下まで見てみる。
いや、ぜんぜん気付かなかった。いつもとちょっと雰囲気違うなと思ったけど、その青いオタクチェックシャツとジーパンのオタクファッション、スタイルと顔が良すぎて、海外のストリートスナップになってるんだって、宇佐神さんの場合。
「おっふ……、可愛いね、僕の響くん、……ハスハスッ……ぐちゃぐちゃにしてしまいたいであります」
一眼レフを構える宇佐神さんに、誰があなたのだ、と言いたくなる。いや、それよりも解像度の高いオタクから滲み出すサイコパス感。イケメンなのに……
「絶妙に気持ち悪い」
思わず、口から言葉がこぼれる。
あと、普通、めちゃくちゃにしてやりたいでしょ、そこは。なんだよ、ぐちゃぐちゃって、スプラッターホラーの音なんですよ、それ。
「褒められても困るよ」
満面の笑みの宇佐神さん。貶されてるのに嬉しそうなのなんなんだよ。
「でも、ほんと中川、2.5次元俳優みたいなクオリティですね、宇佐神さん。すごいです」
「そんなことないよ、衣装を作ったのは名雪くんじゃないか。すごいクオリティだよ」
お互いの技術を褒め合って、二人は和気あいあいとしている。でもさ、俺、聞きたいことがあったんだ。聞いてくれるかな?
「あの、助けてほしいっていうのは?」
そろりと質問を投げかけてみる。
「名雪くんの作った衣装を着てもらいたくて」
なんの悪気もないって顔で宇佐神さんは言った。
「えぇ?」
こっちは、それで呼ばれたの? って感じに声がもれる。
「だって、名雪くん、この日のために頑張って作ってくれたんだよ?」
なんで、そんな酷いこと言うの? みたいな雰囲気で喋られても困るのに、宇佐神さんの言い方はそんな感じだ。俺、別になにも言ってない。
「中川、実は僕、コスプレ衣装を作るのが趣味なんだ。でも、作るのは好きだけど自分では女性キャラをやらないから、中川に頼んでみようって宇佐神さんが。いやぁ、助かるよ」
名雪はとても嬉しそうに笑ってて申し訳なくなるんだけど、言わせてほしい。
「いや、初耳ですけど?」
助けてって言われただけで、猫メイド着せられるとか聞かされてないんでえすけど? 恥ずかしいよ、普通に、この格好。
「まあ、響くん、似合ってるし、可愛いからいいじゃない」
「くそう……、コーヒーさえぶっかけられてなければ、断ってたのに……」
宇佐神さんが笑いながらなだめてくるけど、服が汚れてしまってびちょびちょで着ていられないからしょうがない。でも、俺、帰りもこれで帰るってこと? と思って、自分のいまの格好を再度確認する。いや、無理あるでしょ。
「宇佐神さん、俺の服、トイレで少しでも洗っておけば帰りには着られますよね?」
「分かった、今日は手伝ってもらうからね、あとでなんとかするよ」
「お願いします」
キャリーの中にビニールの袋に包まれて入れられてるから宇佐神さん以外、持ち出し出来ない。ここは信じてお願いするしかない。
「あの、じゃあ、移動していいですか?」
名雪が混む前にブースを巡りたいと言うので、数カ所、俺と宇佐神さんもあとについていくことになった。二人で残されても仕方ない。
名雪が好きで寄ったアニメやゲームは一ミリも分からなかったが、その数カ所目で自分のしているコスプレのキャラが紹介されているブースがあった。
「中川、ここ、ちょうど、背景あるから、ここで宇佐神さんに写真撮ってもらおう?」
テンションが上がった様子で名雪に大きな背景パネルの前から手招きされる。
まあ、このために名雪頑張ったんだもんな、と思って、大人しく俺は名雪の隣に並んだ。
「ポーズとか分かんないんだけど?」
「えっと、顎の下に両手をグーにして当てる感じで。身体は上半身斜めにして」
本当に一ミリも知らなくて、名雪に助言を求めると細かく指示された。正直、男なのに、こんなぶりっ子みたいな格好させられて恥ずかしい。だけど、撮らなきゃ終わらない。
「宇佐神さん、お願いします」
「任せて」
名雪が右手を挙げて、宇佐神さんに合図をすると快い返事が返ってきた。少し距離を取って立った宇佐神さんが一眼レフを構えて、何枚か写真を撮っていく。
――そのカメラ、小道具じゃなかったんだ?
宇佐神さんのことだから、写真も上手く撮っていることだろう。
「良い感じに撮れたよ?」
「ありがとうございます。次、一人ずつで」
離れた距離で会話して、二人は分かり合っているようだ。そして、これは最初に名雪にお手本を見せてもらおう、と思って、俺はそこから離れて宇佐神さんの後ろに立った。
「名雪じゃないみたいだ……」
写真を撮られている名雪に目が釘付けになる。視線を集中して、気付けば、そんなことを呟いていた。
名雪が頑張って作ったクオリティの高い衣装と宇佐神さんのメイク技術、それと名雪自身のキャラになりきろうという気持ちが、あの格好良さを出しているのだろうか。
「響くんの番だよ?」
一歩下がった宇佐神さんに声を掛けられる。いつの間に、名雪の撮影が終わったのか。
「中川、ここ立って、左足折って上げて、胸の前で手でハートつくって」
名雪が真剣に撮ってた姿を思い出して、俺も真剣に名雪の指示に従った。適当にやったり恥ずかしがったりしたほうがかっこ悪いってことが分かったからだ。
「いいね」
「中川、さっきのポーズもやって」
宇佐神さんと名雪に盛り上げられて、ポーズを変える。そこで気付いたことがあった。
「は?」
さらっと言われて、改めて宇佐神さんの格好を上から下まで見てみる。
いや、ぜんぜん気付かなかった。いつもとちょっと雰囲気違うなと思ったけど、その青いオタクチェックシャツとジーパンのオタクファッション、スタイルと顔が良すぎて、海外のストリートスナップになってるんだって、宇佐神さんの場合。
「おっふ……、可愛いね、僕の響くん、……ハスハスッ……ぐちゃぐちゃにしてしまいたいであります」
一眼レフを構える宇佐神さんに、誰があなたのだ、と言いたくなる。いや、それよりも解像度の高いオタクから滲み出すサイコパス感。イケメンなのに……
「絶妙に気持ち悪い」
思わず、口から言葉がこぼれる。
あと、普通、めちゃくちゃにしてやりたいでしょ、そこは。なんだよ、ぐちゃぐちゃって、スプラッターホラーの音なんですよ、それ。
「褒められても困るよ」
満面の笑みの宇佐神さん。貶されてるのに嬉しそうなのなんなんだよ。
「でも、ほんと中川、2.5次元俳優みたいなクオリティですね、宇佐神さん。すごいです」
「そんなことないよ、衣装を作ったのは名雪くんじゃないか。すごいクオリティだよ」
お互いの技術を褒め合って、二人は和気あいあいとしている。でもさ、俺、聞きたいことがあったんだ。聞いてくれるかな?
「あの、助けてほしいっていうのは?」
そろりと質問を投げかけてみる。
「名雪くんの作った衣装を着てもらいたくて」
なんの悪気もないって顔で宇佐神さんは言った。
「えぇ?」
こっちは、それで呼ばれたの? って感じに声がもれる。
「だって、名雪くん、この日のために頑張って作ってくれたんだよ?」
なんで、そんな酷いこと言うの? みたいな雰囲気で喋られても困るのに、宇佐神さんの言い方はそんな感じだ。俺、別になにも言ってない。
「中川、実は僕、コスプレ衣装を作るのが趣味なんだ。でも、作るのは好きだけど自分では女性キャラをやらないから、中川に頼んでみようって宇佐神さんが。いやぁ、助かるよ」
名雪はとても嬉しそうに笑ってて申し訳なくなるんだけど、言わせてほしい。
「いや、初耳ですけど?」
助けてって言われただけで、猫メイド着せられるとか聞かされてないんでえすけど? 恥ずかしいよ、普通に、この格好。
「まあ、響くん、似合ってるし、可愛いからいいじゃない」
「くそう……、コーヒーさえぶっかけられてなければ、断ってたのに……」
宇佐神さんが笑いながらなだめてくるけど、服が汚れてしまってびちょびちょで着ていられないからしょうがない。でも、俺、帰りもこれで帰るってこと? と思って、自分のいまの格好を再度確認する。いや、無理あるでしょ。
「宇佐神さん、俺の服、トイレで少しでも洗っておけば帰りには着られますよね?」
「分かった、今日は手伝ってもらうからね、あとでなんとかするよ」
「お願いします」
キャリーの中にビニールの袋に包まれて入れられてるから宇佐神さん以外、持ち出し出来ない。ここは信じてお願いするしかない。
「あの、じゃあ、移動していいですか?」
名雪が混む前にブースを巡りたいと言うので、数カ所、俺と宇佐神さんもあとについていくことになった。二人で残されても仕方ない。
名雪が好きで寄ったアニメやゲームは一ミリも分からなかったが、その数カ所目で自分のしているコスプレのキャラが紹介されているブースがあった。
「中川、ここ、ちょうど、背景あるから、ここで宇佐神さんに写真撮ってもらおう?」
テンションが上がった様子で名雪に大きな背景パネルの前から手招きされる。
まあ、このために名雪頑張ったんだもんな、と思って、大人しく俺は名雪の隣に並んだ。
「ポーズとか分かんないんだけど?」
「えっと、顎の下に両手をグーにして当てる感じで。身体は上半身斜めにして」
本当に一ミリも知らなくて、名雪に助言を求めると細かく指示された。正直、男なのに、こんなぶりっ子みたいな格好させられて恥ずかしい。だけど、撮らなきゃ終わらない。
「宇佐神さん、お願いします」
「任せて」
名雪が右手を挙げて、宇佐神さんに合図をすると快い返事が返ってきた。少し距離を取って立った宇佐神さんが一眼レフを構えて、何枚か写真を撮っていく。
――そのカメラ、小道具じゃなかったんだ?
宇佐神さんのことだから、写真も上手く撮っていることだろう。
「良い感じに撮れたよ?」
「ありがとうございます。次、一人ずつで」
離れた距離で会話して、二人は分かり合っているようだ。そして、これは最初に名雪にお手本を見せてもらおう、と思って、俺はそこから離れて宇佐神さんの後ろに立った。
「名雪じゃないみたいだ……」
写真を撮られている名雪に目が釘付けになる。視線を集中して、気付けば、そんなことを呟いていた。
名雪が頑張って作ったクオリティの高い衣装と宇佐神さんのメイク技術、それと名雪自身のキャラになりきろうという気持ちが、あの格好良さを出しているのだろうか。
「響くんの番だよ?」
一歩下がった宇佐神さんに声を掛けられる。いつの間に、名雪の撮影が終わったのか。
「中川、ここ立って、左足折って上げて、胸の前で手でハートつくって」
名雪が真剣に撮ってた姿を思い出して、俺も真剣に名雪の指示に従った。適当にやったり恥ずかしがったりしたほうがかっこ悪いってことが分かったからだ。
「いいね」
「中川、さっきのポーズもやって」
宇佐神さんと名雪に盛り上げられて、ポーズを変える。そこで気付いたことがあった。
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