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12.タイムカプセルとサイコパス
①
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目覚めは最悪だった。昨夜、お酒を飲み過ぎた所為で頭が痛い。三重野と二人切りで緊張して、いつもより早いスピードで飲んでしまった……。
三重野は大丈夫だっただろうか? 昨夜のことを覚えているだろうか。
「おはようございます……」
自室の扉を開け、リビングに出て挨拶をするけれど、そこに宇佐神さんの姿はなかった。どうやら俺の朝食と弁当をテーブルに置いて、すでに出社しているようだ。
俺はいつまで彼に甘え続けるのだろう。合同プロジェクトのイベントが近付いてきて、宇佐神さんも忙しそうなのに。
「うわ、遅刻する……!」
のんびり朝食を食べながら考えていたら、意外と時間が過ぎてしまっていた。
慌てて身なりを整えて、宇佐神さんの部屋を出る。
――しまったな……。
そう思ったのは、キーイベンティアの入っているビルのゲートの前。
どこで落としたのか、ゲートを通るための社員証が鞄の中に見当たらなかった。ダメ元でスーツのポケットも探ったけれど、見当たらない。
『すみません、宇佐神さん、社員証を紛失してしまいまして……、ゲートまで迎えに来ていただけないでしょうか?』
管理部にあとでちゃんと報告はするとして、まずは遅刻を避けるために宇佐神さんにメッセージで助けを求めることにした。
ただ、後ほど紛失届けは出さなければならないし、反省文やら、処罰もあるだろう。自分の会社に報告もされそうだ。
『まったく君は世話が焼ける子だね』
秒で宇佐神さんから返事が来た。最近は俺の言葉の所為で距離を置かれていると思っていたけれど、こういうときは、ちゃんと助けてくれるんだよな。
「あ、すみません……」
宇佐神さんが来てくれるまでゲートを通ることは出来ない。だから、俺は数歩下がって、人が集まったところから抜けた。
「中川!」
ゲートのほうを見ながら待っていると、横の出入り口のほうから声がした。
反射的にそちらを見る。――三重野だった。
どきりとする。
「良かった、間に合った……」
息を切らしながらこちらにやって来た三重野はそう言って、ニコッと笑った。俺はどんな顔をして向き合えば良いのか分からず、チラチラと視線を散らしながら三重野を見た。
「ごめんな、昨日、俺のこと介抱してくれたんだよな?」
両方の手の平をつけて、ごめんのポーズをする三重野。なんか様子が軽いな、と思った。
「あ、う、うん、大丈夫?」
「あんま覚えてないんだけど、大丈夫、ありがとう」
俺が戸惑いながら尋ねると、三重野は変わらない笑顔で答えた。嘘を吐いている様子はない。よかった、三重野、昨夜のホテルでのこと覚えてなかった。ほっとした。
「……あ、そうだ」
そこで思い出したかのように三重野が自分の鞄を探る。
そのとき、微かにゲートの向こうから「響くん」と呼ぶ声が聞こえた気がした。
気の所為じゃない。そちらに視線を向けると、宇佐神さんの姿が視界に入った。ちょうど、こちらに歩いてくるところだった。
「それで、これ、中川の社員証、昨日ホテルの部屋に忘れてたから」
三重野がそう言った瞬間、宇佐神さんの足が止まる。たぶん、社員証とホテルという単語が聞こえたのだろう。微笑みを浮かべたまま、くるりとこちらに背を向けてゲートの中に戻っていく。
「あ、宇佐神さん……」
呼んだはずなのに、実際には声が出ていなかった。
「中川?」
「え、あ、ごめん。拾っておいてくれて、ありがとう」
顔を覗き込まれて、三重野のほうに意識が戻り、俺は彼の手から社員証を受け取った。
そのまま二人でゲートを通過し、エレベーターに乗ってフロアに向かう。でも、俺の心は急いていた。
「じゃ、また」
フロアに入るなり、三重野と別れて、自席に急ぐ。その隣には宇佐神さんが座っていて、すでに作業をはじめていた。
「おはようございます」
「おはよう」
声を掛けるとパソコンから目を離さずに挨拶が返ってくる。
「あの、宇佐神さん、さっきの会話聞こえたんですよね? 三重野が言ってたホテルっていうのは、ビジネスホテルのことで、三重野が酔っ払ってしまったから、介抱しただけで……」
急いた心で早口で告げる。
なんで、俺は焦って宇佐神さんに昨夜のことを説明しているのだろう。
「ん? 社員証、見つかってよかったね」
「あ、はい。わざわざ下に来てもらったのに、すみませんでした……」
画面を見て、キーボードを打ち続ける宇佐神さんに俺は頭を下げた。
仕事を止めてまで下に迎えに来てもらったのに、本当に申し訳ないことをしたと思う。まさか、社員証をホテルの部屋に落としてきているとは思わなかった。
「いいよ。仕事頑張ろうね」
声音はいつもと変わらない。ニコニコ顔も。だけど
「はい……」
視線がずっとこちらを向かなくて、俺は不安になりながら返事をした。
完全に宇佐神さんに嫌われたと思った。
三重野は大丈夫だっただろうか? 昨夜のことを覚えているだろうか。
「おはようございます……」
自室の扉を開け、リビングに出て挨拶をするけれど、そこに宇佐神さんの姿はなかった。どうやら俺の朝食と弁当をテーブルに置いて、すでに出社しているようだ。
俺はいつまで彼に甘え続けるのだろう。合同プロジェクトのイベントが近付いてきて、宇佐神さんも忙しそうなのに。
「うわ、遅刻する……!」
のんびり朝食を食べながら考えていたら、意外と時間が過ぎてしまっていた。
慌てて身なりを整えて、宇佐神さんの部屋を出る。
――しまったな……。
そう思ったのは、キーイベンティアの入っているビルのゲートの前。
どこで落としたのか、ゲートを通るための社員証が鞄の中に見当たらなかった。ダメ元でスーツのポケットも探ったけれど、見当たらない。
『すみません、宇佐神さん、社員証を紛失してしまいまして……、ゲートまで迎えに来ていただけないでしょうか?』
管理部にあとでちゃんと報告はするとして、まずは遅刻を避けるために宇佐神さんにメッセージで助けを求めることにした。
ただ、後ほど紛失届けは出さなければならないし、反省文やら、処罰もあるだろう。自分の会社に報告もされそうだ。
『まったく君は世話が焼ける子だね』
秒で宇佐神さんから返事が来た。最近は俺の言葉の所為で距離を置かれていると思っていたけれど、こういうときは、ちゃんと助けてくれるんだよな。
「あ、すみません……」
宇佐神さんが来てくれるまでゲートを通ることは出来ない。だから、俺は数歩下がって、人が集まったところから抜けた。
「中川!」
ゲートのほうを見ながら待っていると、横の出入り口のほうから声がした。
反射的にそちらを見る。――三重野だった。
どきりとする。
「良かった、間に合った……」
息を切らしながらこちらにやって来た三重野はそう言って、ニコッと笑った。俺はどんな顔をして向き合えば良いのか分からず、チラチラと視線を散らしながら三重野を見た。
「ごめんな、昨日、俺のこと介抱してくれたんだよな?」
両方の手の平をつけて、ごめんのポーズをする三重野。なんか様子が軽いな、と思った。
「あ、う、うん、大丈夫?」
「あんま覚えてないんだけど、大丈夫、ありがとう」
俺が戸惑いながら尋ねると、三重野は変わらない笑顔で答えた。嘘を吐いている様子はない。よかった、三重野、昨夜のホテルでのこと覚えてなかった。ほっとした。
「……あ、そうだ」
そこで思い出したかのように三重野が自分の鞄を探る。
そのとき、微かにゲートの向こうから「響くん」と呼ぶ声が聞こえた気がした。
気の所為じゃない。そちらに視線を向けると、宇佐神さんの姿が視界に入った。ちょうど、こちらに歩いてくるところだった。
「それで、これ、中川の社員証、昨日ホテルの部屋に忘れてたから」
三重野がそう言った瞬間、宇佐神さんの足が止まる。たぶん、社員証とホテルという単語が聞こえたのだろう。微笑みを浮かべたまま、くるりとこちらに背を向けてゲートの中に戻っていく。
「あ、宇佐神さん……」
呼んだはずなのに、実際には声が出ていなかった。
「中川?」
「え、あ、ごめん。拾っておいてくれて、ありがとう」
顔を覗き込まれて、三重野のほうに意識が戻り、俺は彼の手から社員証を受け取った。
そのまま二人でゲートを通過し、エレベーターに乗ってフロアに向かう。でも、俺の心は急いていた。
「じゃ、また」
フロアに入るなり、三重野と別れて、自席に急ぐ。その隣には宇佐神さんが座っていて、すでに作業をはじめていた。
「おはようございます」
「おはよう」
声を掛けるとパソコンから目を離さずに挨拶が返ってくる。
「あの、宇佐神さん、さっきの会話聞こえたんですよね? 三重野が言ってたホテルっていうのは、ビジネスホテルのことで、三重野が酔っ払ってしまったから、介抱しただけで……」
急いた心で早口で告げる。
なんで、俺は焦って宇佐神さんに昨夜のことを説明しているのだろう。
「ん? 社員証、見つかってよかったね」
「あ、はい。わざわざ下に来てもらったのに、すみませんでした……」
画面を見て、キーボードを打ち続ける宇佐神さんに俺は頭を下げた。
仕事を止めてまで下に迎えに来てもらったのに、本当に申し訳ないことをしたと思う。まさか、社員証をホテルの部屋に落としてきているとは思わなかった。
「いいよ。仕事頑張ろうね」
声音はいつもと変わらない。ニコニコ顔も。だけど
「はい……」
視線がずっとこちらを向かなくて、俺は不安になりながら返事をした。
完全に宇佐神さんに嫌われたと思った。
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