7 / 43
第1章 狼人の国
⑥
しおりを挟む◆ ◆ ◆
高い場所からだと夕陽が沈んで行く様子がよく見える。石で出来た城壁を橙色にして、それが静かに消えて行く。城の上部にある渡り廊下から中庭を見ると、国の王であるラウルが一人で歩いているのが見えた。
「……っ」
視線を感じたのか、ラウルがこちらを見上げて来たため俺は慌てて身を屈めて、あまり高さのない壁に無理矢理隠れた。
危ねぇ、見つかるところだった。
俺が檻から出たことをラウルの野郎が知ったか分からないが、あまり奴には見つかりたくはない。檻から出るまでに一日を要したのだ。
コンラッドが寄越した布袋には小瓶が二つ入っていた。中身は薬だ。一つには赤い粒の薬が三つ、もう一つには食欲を削がれそうな青色の粒の薬が三つ。
『赤い方を飲め、ヒートが抑えられるはずだ』
コンラッドが言った通り、抑えられたが、時間が掛かった。それに凄まじく苦かった。
ヒートが始まったらこれを直ぐに飲めと言うから、三月《みつき》に一回はこの不味い体験をしなきゃならねぇってことだ。考えただけで気が滅入る。オメガってのは相当苦労してたんだな。
『この青いのは何だ?』
『避妊薬だ。飲めば確実に避妊が出来る。だが、次のヒートで反動が来る』
青い薬の入った小瓶を摘み、昨夜の会話を思い出す。
「反動……ね」
生々しい話で溜息しか出ない。望まないならば、ヒート中の……いや、避けろということか。確かに重い罰だよな。自分で死ねない上に、よく知らない嫌な奴と番にされ、いつ解消されるか分からない。
────ラウル、何故、番を解消しない?
狼人の王の暇潰しは、一体、いつまで続くのか。誰か、早く、俺を殺してくれ……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる