BL 短編集 

三森まり

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□2度目の恋 (波多野編)

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蒼い夜の帳に浮かぶ、レモン色の真ん丸なお月様
ゆらゆらと揺れる光提灯の光が薄明るい闇に瞬いてる。
叢雲町の初夏におこなわれる、浴衣祭り、毎年この時期になるとオレは自分の初恋を思い出す。



小学校に上がるちょっと前、祭りの喧騒の中でレモン色の花柄の着物に金魚が描かれた赤い兵児帯をした女の子が途方にくれたように泣いていたのを見つけた事がある。
どうしたのかと声をかけたら、涙に潤んだ闇色の瞳でオレの顔をじっと見返した後、

「お家に帰れなくなってしまって…」

と 悲しげに女の子は答えたのだった。

少し遠いけど、歩いて帰れる距離に家はあるのだけれど、すれ違う人に突き飛ばされ落とした拍子にメガネを無くしあちあち探しているうちに迷子になったとつっかえながらしゃべる女の子のその大きな瞳から再び涙が零れだしたのに慌ててポケットからハンカチを取り出し涙を拭いてやりながら

「大丈夫だよ」

と 子供会の役員をしている人の所にオレは連れていったのだった。
覚束ない視力のまま歩くのが怖かったのだろう、しっかりオレの手を握る女の子は細くて、小さくて、とても良い匂いがした。
彼女を見知らぬ役員さんに預けたすぐ後、家に帰らなくてはならない時間になったのでその後の事は詳しくは知らないのだけれど、母さんに

「あの子は大丈夫だったのかな?」

と聞いたら

「小さな子をそのままにしておくなんて事はないですよ」

とかえされ、もっともなことばに安心はしたのだが、そのすぐ後…名前くらい聞いておけば良かったと自分の迂闊さに長く長くオレは後悔する事となった…


もう1度逢いたくて…逢いたくて


探したかったのに何の手がかりも無いのでどうする事も出来なかった幼かった自分…。

その感情に付けることばをその当時には知らなかったけれど、オレはその女の子に一目惚れなんて生意気な感情を抱いてしまっていたらしい…と気付いたのは小学校に上がって「恋」の意味を知ってからだった。

夏祭りが始まると、探したレモン色の浴衣、もう1度会いたいと願うソレはかなう事なく、迎えた14才の夏

今年の夏は2度目の恋にその子を探す事は無くなったけれど…

細くて小さくて暖かい手とか、綺麗な闇色の大きな瞳とか、高い位置で2つに結んだ柔らかそうな赤茶色髪とかその髪をかざるレモン色のリボンとか、全部を含めて、『可愛いね』と言ったオレにリボンを褒められたのだと思ったのだろう彼女がお礼にとくれたリボンは色褪せてしまったけれど今でも大切にとってあるし、時の流れにかなり曖昧になりつつはあるけれど今でもその『初恋の記憶』はオレの中で淡い光を放ち胸の奥を温めてくれている。






「千輝を始めて入学式で見かけた時、彼女を見つけたって思ったんだよ~でも、男の直感とかあてにならない感じ?」

今年もやって来た初夏の祭りに、サッカー部で仲良くなった千輝と出かける道すがら思い出を語るオレはいきなり人並みに逆らい歩調を止めた彼に驚いて自分も慌てて足を止めた。
振り向くと、頬を染めてオレを見つめる千輝と目があう…
何故彼が、赤くなってるのか不思議に思うオレは、千輝の唇から思いもかけない告白を受けた。

「あれ…波多野くんだったんですか…」

「へ?」

思わず間抜けた声を上げるオレに、千輝がことばを続ける。

「その…迷子の子は多分俺です…」

「はぁ??」

言いざま、オレは思わず、千輝には失礼だと思われるのだが彼のつま先から頭のてっぺんまで舐めるように視線這わせて確かめてしまった。
千輝は線は細いし、女の子に間違われても不思議ではないほど可愛いかったけれど、女の子じゃないのは同じクラブで着替えとかしてるので知っているし、記憶の彼女と確かに重なりはするけれど…今着てるのも普通のTシャツに綿パンという格好で
何故あの時、あんな格好をして歩いていたのかが府に落ちない…

「その、せつは有難うございました」

ペコリと頭を下げた千輝に、どういたしてまして~と、頭を下げ返すオレの頭の中は混乱したままだ。




蜜を自分で選びかけほうだいなのが名物のかき氷屋を選び買い込み、先輩に教えてもらった花火を見るのには絶好のスポットだけれど、墓地を通り抜けなくていけないので人気のない崖下の小さな広場で、ブルーハワイの青をシャクシャクとかき混ぜながらオレは千輝に問いかけた。

「あの時着ていた浴衣は女の子用にしか見えなかったんですけど、何かの罰ゲームだったんでしょうか?」

まるで千輝を真似たような口調で問いただしてしまったオレに、くすくすと笑い返しながら千輝が丁重に答えを返してくれた。

「俺ね、7才まで女の子として育てられたんですよ~ 
大昔にはですね、男児のみに病を得さす荒神がいるのだと考えられていたため、その神から守るために女児の姿で数え七つまで育てるという風習があったんです
昔は今のように医学が発達してなかったから、耐久力の無い子供の病死が多かったんですね
特に男の子は女の子より弱いから、その名残なんですけど
俺の家は代々本当に男の子が育たない家だったので、そんな迷信めいた事を強行しちゃったんですよね」

ちょっと豪快に食べすぎてキンキンするこめかみを指で抑えるオレの横で、溶けて水になっちゃうんじゃないかと心配になるほどゆるゆるとした調子でレモン色のかき氷を口にする千輝の、少々少女めいた仕草はその7年間のな残りなのだと、オレは納得した。
千輝は見た目も可愛いのだけれど、それ以上にいちいち仕草が愛らしくて不覚にも胸の奥がジリっと焼かれるような気分に苛まれるのを何度か経験した事があって、その度に男相手にときめく自分に困惑していたのだけれど、理由はそこにあったのかと理解する。
もっとも理解した所で、この胸のモヤモヤが無くなるわけでも無いのだが…

他人からは神経質で悲観的 不安そうな表情がデフォだと思われてるらしいけれど、千輝はオレの前では本当に良く笑う、そこん所とかも又オレは可愛くてしかたない。
彼女の姿を探すのを止めたオレの2度目の恋のお相手は、この可愛くて少し毒舌でネガティブだけども努力する事も忘れない「千輝」なわけで…



 2度目どころか…初恋の相手…まで「千輝」だったんだオレ… これはもう「運命」でしょう とか、その瞬間思ってしまったわけなのだ。



常識とか世間の目とか結構そういう事に煩い千輝がオレの気持ちを受け入れてくれるかどうだかさっぱりわからなけれど、この勢いを借りて 玉砕覚悟で告白を決意する。

「あの時はさ、まだ小さくて一緒に居られなかったけど、これからずっとさ…オレ…千輝と一緒に居たいよ
オレ…その友人って意味だけじゃなくて 千輝が好きなんだ…」

しどろもどろの、あまりカッコ良くないありきたりなことばの羅列、糞うるさい心臓の音、どんな大きな試合だって上がる事のない毛の生えた心臓をバク付かせながらした~オレの気が遠くなるような時も含めての告白は…

「俺も…波多野くんとずっと一緒にいたいです…
波多野くんに始めて会ったあの時から、大好きでしたよ」

火照る頬を隠すように掌で抑える千輝のことばに成就する。

「おっオレも!大好き!!」

それに答えたオレの大きな声は爆音と共に上がる花火の音に掻き消され気味だったけれど『大好き』の気持ちは重ねた唇からしっかりと千輝には届いたようで、絡めた指に答えるように千輝の指にも力がこもる。
微かに聞こえる祭囃子の喧騒を他所に2度3度と啄むようにキスを繰り返し、弾む息を感じて名残惜しく離した顔を覗き込むオレの瞳にうつる頬を染めた千輝はめちゃめちゃ可愛かった。

初恋は実らないっていうけれど これ は 2度目の恋も含まれてるから大丈夫…

そう心の中でつぶやくオレの初恋の完結と2度めの恋の始まりは綺麗な円で繋がって今日のお月さま顔負けな綺麗な光を放ちながら、蕩けるように甘く香るレモンの味と共に深く深く記憶に刻まれたのだった。


波多野編 完
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