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第二十話 指切り
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食堂で夕食を食べた後はめんだこ寮に戻り、各々の部屋で過ごした。僕はMEN-DAKOの動画を見た後課題を済ませ、ノルマとして割り振られている分のビーズ制作に手をつけた。
「相良ー、ちょっと教えてほしいんだけど」
家でやってわからないことがあっても、先生が隣にいるからすぐに聞くことができる。「どこ?」と首を傾げつつすぐにパーテーションから顔を覗かせた相良を見て、僕の口元は自然とにやけてしまう。
「なに?」
「んー、べつに?」
嬉しさとちょっとの優越感に、胸のあたりがそわりとくすぐったくなる。「なんだよ、機嫌いいな」と笑いながら、相良が隣にしゃがみ込んでくる。
「どこ?」
「ここ。上手く形にならない」
そのままぐいと首を伸ばして、相良が僕の手元を覗き込んでくる。体温の近さに、自動的に心臓がドキドキと騒ぎ出した。「ここはさ」と耳元で話されて、僕はうん、うんとうなずきながらも、なんとなくぎこちない感じになってしまう。
「なんかさあ……。最近変じゃね? お前」
「へ?」
突然問われて、ぎくりとした。
「なっ、なにが? 僕、なんか変なこと言った?」
「言ったってわけじゃねえけどさあ」
黒い瞳の三白眼が至近距離から見つめてくる。ぐいっと近づかれて思わず身を引くと、相良が不満そうな顔で「ほら」とつぶやいた。
「俺が近づくと、急にキョドるし。なんか言いかけてやめたり、あと時々、俺のこと睨んでね?」
やばい、気づかれてたんだ……。
ぱーっと顔が熱くなって、僕は思わずうつむいた。
上手い言い訳が思いつかず、ただただ口をもごもご動かすことしかできない。
「……俺の方こそ、なんか変なことした?」
相良に尋ねられ、僕は下を向いたまま、首を左右に振って否定の意を示した。
「俺のこと怖い?」
「っ、なわけ」
「そ? ならまあ、よかったけど」
少し安心した顔になって、相良はようやく身を離す。そのまま「そういえばさあ」と何気ない感じで切り出し、後頭部を右手でかきながら、ちらりと上目遣いで僕の顔を見る。
「文化祭の花火、ここの屋上からも観れるらしい」
えっと驚いて、僕は相良の顔を見返した。相良はうなずいて、「上に兄貴がいるやつから聞いたんだけどさ」と説明を加える。
「ちょっと遠いけど、高いところから静かに観たいなら穴場らしい。めんだこ寮生はいいなって羨ましがられた」
「でも屋上って、立ち入り禁止だろ」
「表向きはそうだけど、ボロ過ぎて簡単に鍵開けられるっぽい」
免田高校の文化祭では、二日目の最後に、毎年OBの提供で豪華な花火が上がる。普通だったら校庭から見上げることになるが、確かにこのプレハブ校舎の屋上から見ることができたら、視界を遮るものがなくてよりいっそう綺麗だろう。
「一緒に観ねえ?」
思いの外真剣な顔で、相良が口を開く。長い指がするっと左手に触れてきて、僕は小さく息をのんだ。せっかく一度落ち着いた鼓動が、再び速いリズムを刻み出す。
「べつに、他に一緒に観る相手がいるなら、全然断ってもらっていいんだけどさ。でも俺はお前と、二人で、ここの屋上から観れたら、すげえいいなっていうか」
相良の指先が、確かめるように僕の手のひらをなぞる。
ハンドメイドイベントの時と同じくらい、その肌は熱い。
「い、いよ」
「……マジで?」
「うん。僕、彼女とかいるわけでもないし。相良の他に、友だちもいないし」
はは、と小さく声を出しながら、相良は笑った。触れている方の小指が僕の小指へと伸びてきて、緩い指切りの形を作る。
「じゃあ約束な」
歌は歌わず、代わりに三回ほど指先を上下に振って、相良は僕の手を離した。そのまま立ち上がり、「風呂入ってくる」と宣言して、パーテーションの隙間から自室へと戻っていく。
ガサゴソと荷物を準備する物音の後、相良が完全に部屋を出ていってから、僕ははーっと思い切り息を吐いた。
そうでもしないと、自分の心臓の音が体中に響き続けて、すぐにでも壊れてしまいそうだった。
「相良ー、ちょっと教えてほしいんだけど」
家でやってわからないことがあっても、先生が隣にいるからすぐに聞くことができる。「どこ?」と首を傾げつつすぐにパーテーションから顔を覗かせた相良を見て、僕の口元は自然とにやけてしまう。
「なに?」
「んー、べつに?」
嬉しさとちょっとの優越感に、胸のあたりがそわりとくすぐったくなる。「なんだよ、機嫌いいな」と笑いながら、相良が隣にしゃがみ込んでくる。
「どこ?」
「ここ。上手く形にならない」
そのままぐいと首を伸ばして、相良が僕の手元を覗き込んでくる。体温の近さに、自動的に心臓がドキドキと騒ぎ出した。「ここはさ」と耳元で話されて、僕はうん、うんとうなずきながらも、なんとなくぎこちない感じになってしまう。
「なんかさあ……。最近変じゃね? お前」
「へ?」
突然問われて、ぎくりとした。
「なっ、なにが? 僕、なんか変なこと言った?」
「言ったってわけじゃねえけどさあ」
黒い瞳の三白眼が至近距離から見つめてくる。ぐいっと近づかれて思わず身を引くと、相良が不満そうな顔で「ほら」とつぶやいた。
「俺が近づくと、急にキョドるし。なんか言いかけてやめたり、あと時々、俺のこと睨んでね?」
やばい、気づかれてたんだ……。
ぱーっと顔が熱くなって、僕は思わずうつむいた。
上手い言い訳が思いつかず、ただただ口をもごもご動かすことしかできない。
「……俺の方こそ、なんか変なことした?」
相良に尋ねられ、僕は下を向いたまま、首を左右に振って否定の意を示した。
「俺のこと怖い?」
「っ、なわけ」
「そ? ならまあ、よかったけど」
少し安心した顔になって、相良はようやく身を離す。そのまま「そういえばさあ」と何気ない感じで切り出し、後頭部を右手でかきながら、ちらりと上目遣いで僕の顔を見る。
「文化祭の花火、ここの屋上からも観れるらしい」
えっと驚いて、僕は相良の顔を見返した。相良はうなずいて、「上に兄貴がいるやつから聞いたんだけどさ」と説明を加える。
「ちょっと遠いけど、高いところから静かに観たいなら穴場らしい。めんだこ寮生はいいなって羨ましがられた」
「でも屋上って、立ち入り禁止だろ」
「表向きはそうだけど、ボロ過ぎて簡単に鍵開けられるっぽい」
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「一緒に観ねえ?」
思いの外真剣な顔で、相良が口を開く。長い指がするっと左手に触れてきて、僕は小さく息をのんだ。せっかく一度落ち着いた鼓動が、再び速いリズムを刻み出す。
「べつに、他に一緒に観る相手がいるなら、全然断ってもらっていいんだけどさ。でも俺はお前と、二人で、ここの屋上から観れたら、すげえいいなっていうか」
相良の指先が、確かめるように僕の手のひらをなぞる。
ハンドメイドイベントの時と同じくらい、その肌は熱い。
「い、いよ」
「……マジで?」
「うん。僕、彼女とかいるわけでもないし。相良の他に、友だちもいないし」
はは、と小さく声を出しながら、相良は笑った。触れている方の小指が僕の小指へと伸びてきて、緩い指切りの形を作る。
「じゃあ約束な」
歌は歌わず、代わりに三回ほど指先を上下に振って、相良は僕の手を離した。そのまま立ち上がり、「風呂入ってくる」と宣言して、パーテーションの隙間から自室へと戻っていく。
ガサゴソと荷物を準備する物音の後、相良が完全に部屋を出ていってから、僕ははーっと思い切り息を吐いた。
そうでもしないと、自分の心臓の音が体中に響き続けて、すぐにでも壊れてしまいそうだった。
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