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第二十六話 ままならない気持ち
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部屋に戻って、僕は死人みたいにひたすら眠った。相良とのことが気がかりで最近眠れていなかったから、いざ不貞寝すると決めてしまえば、夕方まではあっという間に過ぎていった。
十八時頃目を覚ましたら、相良は既に帰宅していた。窓際のローテーブルのあたりで物をいじる気配があったので、自分の制作をやっていたのかもしれない。覗いたりはしなかったので、本当のところはわからないけれど。
もそもそと布団を抜け出して、一人で食堂へ向かう。文化祭一日目の今日は、一般公開で文化祭を訪れた人も集まっているのか、食堂はいつも以上に賑やかだった。
初めの頃と同じように、僕は一人でカウンター席に座り、騒がしいテーブル席を背に黙って鶏胸肉の照り焼きを食べる。おいしいはずなのに、さっぱり味がしない。
結局、食べ終わるまでにいつもの二倍くらい時間がかかった。返却口に食器を返す途中、奥の方の席に見覚えのある二人組を見つけて、僕は思わず足を止めた。
――新妻と川崎さんだ。
テーブル席で向かい合うようにして、二人は座っている。川崎さんは両手を膝に乗せてうつむいており、新妻はテーブルに肘を突いて、険しい顔でそれを見つめている。
どうして、別れたはずの二人が一緒にいるのだろう。川崎さんと一緒に夕食を食べなくて、相良はそれでよかったのだろうか。
気になりはするが、僕に口を挟む権利はない。重い足を無理やり動かして、僕は今度こそ食器を片づけ、食堂を出る。
「あ……」
めんだこ寮の敷地入口、管理人室の前を通ったところで、道の先に見覚えのある長身を見つけた。
相良だ。一本道では隠れるに隠れられず、あたふたしているうちに、相良も僕に気づいたようだった。
鋭い三白眼が僕を捉える。僕は一瞬、川崎さんと新妻が一緒にいたことを伝えるべきか迷った。しかし僕が決断する前に、相良の方が目を逸らして僕の脇を通り過ぎていった。
ただすれ違っただけなのに、背中にどっと汗がにじんだ。胸を撫で下ろして緊張の名残をなだめつつ、よけいなことを口走らなくてよかったと心の底から安堵した。
僕はもう、相良の友だちでもなんでもないのだ。だから、相良の彼女が元彼と二人で話していたって、気にする必要は一切ない。
そう実感した瞬間、今度はふわんと突然、胸のうちが軽くなった気がした。そうだ、もう僕には、相良のことは一切関係ないんだ。
僕の生活から相良が消えれば、元の穏やかな日々が戻ってくる――そこそこに人付き合いしつつ、推し活に熱中して、学校の成績やアルバイトの大変さにだけ頭を悩ませればいい、慣れ親しんだ毎日。
MEN-DAKOや荒川ナミへの愛は、絶対に常に一方通行だ。返ってくる見込みがないから、相良への思いみたいに、身に迫って心の根っこを揺さぶられることはない。
それがどれだけありがたいことか、今の僕にはよくわかる。
勉強はやればできる。アルバイトだって、荒川ナミのことを思えば頑張れる。
僕はずっと、そうやって生きてきた。相良と出会ってからの半年間がイレギュラーすぎただけで。
秋の夜風に吹かれて、体の芯がどこまでも冷えていく。初めての恋に浮かれていた頭が、ようやく冷静さを取り戻してきたみたいだ。
こういう気持ちのことを、そう、白けたっていうのかな。なんかもう、なにもかもどうでもいいような気がしてきて、すごく虚しくて寂しいけど、それをどうにかしようっていう気力もわかない。
その空っぽの気持ちのまま風呂を済ませて、僕は再び布団に潜り込んだ。日課の動画再生も、最近は全くできていない。
昼間寝過ぎたせいで、全く寝つけなかった――そういえば、前にこうして寝つけなかった時期には、相良が気づいて心配してくれていたんだよな。
そんなことを考えたら、反射的に涙がこぼれた。
性懲りもなく、ままならない気持ちに翻弄される自分が、ただただ情けなかった。
十八時頃目を覚ましたら、相良は既に帰宅していた。窓際のローテーブルのあたりで物をいじる気配があったので、自分の制作をやっていたのかもしれない。覗いたりはしなかったので、本当のところはわからないけれど。
もそもそと布団を抜け出して、一人で食堂へ向かう。文化祭一日目の今日は、一般公開で文化祭を訪れた人も集まっているのか、食堂はいつも以上に賑やかだった。
初めの頃と同じように、僕は一人でカウンター席に座り、騒がしいテーブル席を背に黙って鶏胸肉の照り焼きを食べる。おいしいはずなのに、さっぱり味がしない。
結局、食べ終わるまでにいつもの二倍くらい時間がかかった。返却口に食器を返す途中、奥の方の席に見覚えのある二人組を見つけて、僕は思わず足を止めた。
――新妻と川崎さんだ。
テーブル席で向かい合うようにして、二人は座っている。川崎さんは両手を膝に乗せてうつむいており、新妻はテーブルに肘を突いて、険しい顔でそれを見つめている。
どうして、別れたはずの二人が一緒にいるのだろう。川崎さんと一緒に夕食を食べなくて、相良はそれでよかったのだろうか。
気になりはするが、僕に口を挟む権利はない。重い足を無理やり動かして、僕は今度こそ食器を片づけ、食堂を出る。
「あ……」
めんだこ寮の敷地入口、管理人室の前を通ったところで、道の先に見覚えのある長身を見つけた。
相良だ。一本道では隠れるに隠れられず、あたふたしているうちに、相良も僕に気づいたようだった。
鋭い三白眼が僕を捉える。僕は一瞬、川崎さんと新妻が一緒にいたことを伝えるべきか迷った。しかし僕が決断する前に、相良の方が目を逸らして僕の脇を通り過ぎていった。
ただすれ違っただけなのに、背中にどっと汗がにじんだ。胸を撫で下ろして緊張の名残をなだめつつ、よけいなことを口走らなくてよかったと心の底から安堵した。
僕はもう、相良の友だちでもなんでもないのだ。だから、相良の彼女が元彼と二人で話していたって、気にする必要は一切ない。
そう実感した瞬間、今度はふわんと突然、胸のうちが軽くなった気がした。そうだ、もう僕には、相良のことは一切関係ないんだ。
僕の生活から相良が消えれば、元の穏やかな日々が戻ってくる――そこそこに人付き合いしつつ、推し活に熱中して、学校の成績やアルバイトの大変さにだけ頭を悩ませればいい、慣れ親しんだ毎日。
MEN-DAKOや荒川ナミへの愛は、絶対に常に一方通行だ。返ってくる見込みがないから、相良への思いみたいに、身に迫って心の根っこを揺さぶられることはない。
それがどれだけありがたいことか、今の僕にはよくわかる。
勉強はやればできる。アルバイトだって、荒川ナミのことを思えば頑張れる。
僕はずっと、そうやって生きてきた。相良と出会ってからの半年間がイレギュラーすぎただけで。
秋の夜風に吹かれて、体の芯がどこまでも冷えていく。初めての恋に浮かれていた頭が、ようやく冷静さを取り戻してきたみたいだ。
こういう気持ちのことを、そう、白けたっていうのかな。なんかもう、なにもかもどうでもいいような気がしてきて、すごく虚しくて寂しいけど、それをどうにかしようっていう気力もわかない。
その空っぽの気持ちのまま風呂を済ませて、僕は再び布団に潜り込んだ。日課の動画再生も、最近は全くできていない。
昼間寝過ぎたせいで、全く寝つけなかった――そういえば、前にこうして寝つけなかった時期には、相良が気づいて心配してくれていたんだよな。
そんなことを考えたら、反射的に涙がこぼれた。
性懲りもなく、ままならない気持ちに翻弄される自分が、ただただ情けなかった。
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