星降る極貧寮、ルームメイトはハンドメイドヤンキー

瀬名那奈世

文字の大きさ
29 / 34

第二十八話 いつか慣れるよ

しおりを挟む
 その後は床に散らばったビーズをせっせと片づけて、僕たちは一般公開の準備を急いだ。机や椅子の配置は変えずに、キーホルダーの販売用ブースだった部分には、制作で余っていたビーズを色ごとに分けて綺麗に並べる。
 僕は相良に頼んで、自分の制作で使っているテグスやビーズを追加で持ってきてもらった。キーホルダーのストラップ部分やマルカンは壊されてしまった作品のものを再利用して、こちらもビーズの隣に並べておく。
 こうして僕たちのクラスのビーズ喫茶は、「ビーズ作品の販売をする喫茶店」から「ビーズ作品の制作体験ができる喫茶店」に早変わりした――相良の他に、特に熱心にビーズ制作をしていたクラスメイト何名かが講師役で終日シフトに入り、なんとか無事一般公開終了の十七時を迎えることができた。
「ありがとうございましたー!」
 最後の客を送り出すと、教室は一気に安堵のため息に包まれた。誰かがぱちぱちと控えめに拍手を始めると、それに続くように、その場にいた全員がまばらに手のひらを打つ。
「それじゃ、今いるメンバーで先に、片づけ始めてようか」
 文化祭実行委員の声がけで、僕たちは片づけに移った。
 ビーズなどの材料や制作時に使った道具、小物類を机上から避け、椅子や机から片づけていく。暗幕などの大物に取りかかる頃には当番以外のクラスメイトも戻ってきて、教室はあっという間に元の姿に戻っていく。
 片づけが終わった後は、閉会式を挟んで後夜祭となる。免田高校の後夜祭は、かなり華やかなことで有名だ。キャンプファイヤーと特設ステージ、最後に花火という構成になっていて、特設ステージには毎年、サプライズでそれなりに有名なゲストが来るらしい。
「誰が来るかなー?」
「知ってる人だといいよね」
「でも確か、有名すぎると来ないんだよね」
 口々に噂するクラスメイトの脇を抜けて、僕は床に積んである暗幕に手を伸ばした。隣の校舎まで返しにいこうと持ち上げるが、絶妙に重くて不安になる。
 半分ずつにしてもいいが、無理すれば持てそうな量ではある。できれば一回で持っていきたいと思って持ち方を試行錯誤していると、横からにゅっと細長い腕が伸びてきて、暗幕の重さが三分の一くらいになった。
「一緒に行く」
 顔を上げれば、相良だった。すん、とした真顔で当たり前みたいに言われてしまえば断ることもできず、僕たちは二人並んで、階段の方へと歩き出す。
「……あ、相良。僕もう少し持てるよ」
「いいよ。ふらついて転ばれても嫌だし」
 相良はそれだけ答えて黙ってしまった。夕日が差し込む廊下に、二人分の足音がそろって響く。
 こっそりと上目遣いになって、僕は隣の相良を盗み見た。久しぶりの距離感に、久しぶりの横顔。
 もちろん緊張もしてるけど――でもやっぱり、すごくしっくりくる。もっとこうしていたいと願ってしまう。
「今朝、サンキュ」
 窓から吹き込む風に目を細めながら、相良が言った。
「俺、ここに通えなくなるところだったわ。うちもそんな、普通に私立の授業料払えるほど裕福な家じゃねーし」
「……新妻もクソだけど、まさか相良が殴りかかるとは思わなかった」
「他のことはどうでもいいんだよ。でもビーズだけはな、馬鹿にされると流せねえ」
 はは、と笑って階段を下る。思ったよりも普通に話せて、こっそり安心した。
 相良はもう怒っていないだろうか。僕と、仲直りしてくれるだろうか。
 このままこうやって、戻れるだろうか。仲のいいルームメイトに――一緒に学食でご飯を食べる友だち同士に。
 相良を拒絶し続けるのは、やっぱり辛い。ただの友人に戻ったらそれはそれで辛い気もするけれど、わざと酷いことを言って悲しませたり、顔を合わせないように振る舞ってぎこちなくなったりするよりはずっといい。
 友だちとしてそばに居続けたら、いつか忘れられるのかな。あんなに好きだと思った気持ちも、今こんなに、胸を締めつけてくる切なさも。
「あー、でも俺、もう一個あるかも」
 階段を降り切って渡り廊下に出て、暗幕倉庫のある校舎の入口にさしかかったあたりで、相良がおもむろに口を開いた。「なにが?」と尋ねると、「ビーズ以外の、どうでもよくないこと」と答えが返ってくる。
「お前のことは、全然どうでもよくないわ。倒れたり怪我しそうになったりされるとマジで焦る」
 だから、あんまり新妻みたいなやつに突っかかってくのやめてくんね?
 少し照れくさそうな表情で言われて、頭を抱えたくなった。僕これ、大丈夫なのかな。相良の友だちとして、ちゃんとやっていけるかな。
「……なっ、に面白いこと言ってんだよ!」
 ――だけど多分、もう無理矢理にでも、やっていくしかないんだよな。
 色々なことを吹っ切りたくて、僕は相良に向かって満面の笑顔で答えた。
 へらへらと笑いながら、心の中では、相良が勘違いさせるようなことを言ってきたらできるだけ茶化して、取り合わないようにしようと決める。そうやって誤魔化して、本当の気持ちは絶対に、悟られないように。
「前から思ってたけど、相良ってほんと、顔に似合わず優しいよな。そういうの誰にでも言うから、勘違いされて告られまくって、面倒なことに巻き込まれるんだぞ」
「は? 俺、誰にでも言ってるわけじゃ……」
「またまた。ほんとマジで、彼女だけにしとけって」
「彼女?」
「とぼけるなよ。川崎さんと付き合ってるんだろ」
 僕の言葉を聞いた相良は、きょとんと目を見開いて立ち止まった。黒い瞳をまん丸にして、「本当に意味わかりません」みたいな顔だ。
 そんな演技までして、川崎さんと付き合っていることを僕に内緒にしたいのだろうか。それはそれで地味に傷つくんだが?
「今晩の花火もさ、絶対川崎さんと観た方がいいって。校庭から観たっていいだろうし、今日くらいめんだこ寮の屋上に連れ込んでもバレないんじゃない? 僕のことは気にしないで、ゆっくり楽しんできなよ」
 ぽかんと口を開けたまま相良が動かないので、「トイレ行きたくなってきた」と断りを入れて、ひと足先に暗幕倉庫へ向かう。途中でくるりと振り返り、「また後でな」と精一杯笑いかける。
 相良は相変わらず呆然とした顔でその場に立ち尽くしていた。なにをそんなに驚いているのだろうか。校内でキスするなら、「見られてるかも」って少しくらい考えなきゃ駄目だろうに。
 そうだ、キス、と思って、心の端がちりっと焦げる。
 それには気づかないふりをしながら、僕は早歩きで暗幕倉庫を目指す。
 キスくらいでしょげてちゃ駄目だ。相良はこれから川崎さんと、キスも、もしかしたらそれ以上も、二人で経験していくのだろうから。
 そこにいるのは本当は、僕自身がよかった――でも無理なものは仕方がない。だったら僕は、相良と川崎さんを一番に応援できる友だちでありたい。
 新しい願いは、ちょっと痛くて苦いけど。
 いつか慣れるよと、僕は何度も自分に言い聞かせる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜

立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時 いつの間にかクラスメイトたちの 配信する動画に映りこんでいて 「誰このエンジェル?」と周りで 話題になっていた。 そして優心は 一方的に嫌っている 永瀬翔(ながせかける)を 含むグループとなぜか一緒に 動画配信をすることに。 ✩.*˚ 「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」 「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」  そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。 見た目エンジェル 強気受け 羽月優心(はづきゆうしん) 高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。 × イケメンスパダリ地方アイドル 溺愛攻め 永瀬翔(ながせかける) 優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。 恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸 *** お読みくださりありがとうございます 可愛い両片思いのお話です✨ 表紙イラストは ミカスケさまのフリーイラストを お借りいたしました ✨更新追ってくださりありがとうございました クリスマス完結間に合いました🎅🎄

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

処理中です...