星降る極貧寮、ルームメイトはハンドメイドヤンキー

瀬名那奈世

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第三十話 残り火の前で

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 なにを、どこで、どう勘違いしてしまったのか。
 そんなのは聞いてみないとわからない。ただ一つ確信できるのは、相良はきっとめんだこ寮の屋上にいるってことだけだ。
 相良はあそこで、一人僕を待っている。だって約束したから。一緒に花火を観ようって。
 ――嘘じゃなかった。勘違いじゃなかった。重なったと思った気持ちは、気のせいなんかじゃ全然なかった!
 最推しに背を向けて、僕は走る。さっき通ったばかりの道を正反対に、君の待つ方へ。
 背後では既に、花火の準備が始まっている。『それじゃー、十秒から数えるよーっ』と明るいアナウンスに、オーディエンスから「いえーい」と歓声が上がる。
 十、九、八、七……。
 ――ヤバい。ヤバいって! 間に合わない……!
 豪華とはいえ、文化祭の花火だ。数字がゼロになって上がり始めたら、あとはもう一瞬で終わってしまう。「一緒に観よう」って約束したんだから、間に合わなきゃ意味がない。
 ようやく裏門を出て、もどかしさをこらえながら左右を確認し、道を渡る。飛び込むようにめんだこ寮の敷地に入り、顔を上げて、驚きに目を見開く。
 なんかめちゃくちゃ人がいるんだけど?!
 大学生らしき年代を中心に、若い男ばかりが管理人室前に集まっている。「えっ、ええ?」とあたりを見回したら、人混みに埋もれるようにして、管理人さんが一人ひとりになにかを配っていた。
「……なっ、なにかあったんですか?」
「あらあ、畠山くん。あのね、うふふ、そうなのよお。実はねえ、困ったことにねえ」
 彼女特有のもってまわった口調に焦りが募り、早々に後悔の念が押し寄せてきた。下手に話しかけてしまった手前、答えを待たないわけにもいかず、僕はその場で小刻みに足踏みをする。
 早く教えて――ああ、始まっちゃった!
 ゼロ! とひときわ大きい掛け声の後、ひゅるるるるという独特な音に続いて、大きな振動が腹の底を震わせる。
 花火が上がり始めてしまったのだ。
 どおんどおん。どんどん、ぱらぱらぱら……畳み掛けてくる音から察するに、ずいぶん景気よくド派手に打ち上げられている。やめてくれ。もっとゆっくりしっとりやってくれ。
「あら、始まったわねえ。今年も賑やかねえ。そういえば畠山くんは、学校で観なくて大丈夫なの? お友だちが探してるんじゃないかしら」
「とっ、友だちはいないのでお気遣いなく! それよりほんと、どうしたんですか?」
「どうしたって、ねえ。本当に困っちゃうんだけどね」
 僕の内心などお構いなしに、管理人さんは相変わらずのんびりと喋る。「あのねえ、あっちを見てちょうだい」と居住棟や生活棟がある方を指差して、わかるかしら? と首を傾げる。
「真っ暗でしょう?」
 人混みの間から建物の様子を覗き見た僕は、そう言われてようやく気づく。
 雨もりがあった居住棟は、長らく工事中だ。それはいつも通りとして、問題はその奥。今普通に利用されているはずの生活棟にもプレハブ校舎にも、灯りが一つもついていない。
「急につかなくなっちゃったのよ。もう色々、寿命なのかしらねえ」
 つまりは停電ということらしい。よくよく見れば、管理人さんが配っているのは、小型の懐中電灯だった。
「わっ、かりました……! ありがとうございます一つもらいますっ」
「ああ、ちょっと畠山くん。順番に……」
 ごめんなさいっ! と叫んで、僕は掴み取った懐中電灯のスイッチを入れながら再び駆け出す。「綺麗だなあ」「相変わらず金あるなあ」と口々に言い合い、呆けた顔で空を見上げる入居者たちの人混みを、必死になって掻き分ける。
 プレハブ校舎の中は本当に真っ暗だった。屋上には行ったことがないけれど、とりあえず目指すべきは上だ。
 二段飛ばしで階段を上った。三階まで上り切った時、足がもつれて前のめりに手を突き、その拍子に懐中電灯を取り落としてしまう。しかしスマートフォンのライトを起動する手間すらもどかしくて、真っ暗闇の中、僕は屋上への道を探す。
 廊下を奥まで行ったところで、もう一階分上へと上る階段を見つけた。ここだ! と直感して、走り過ぎてじんじんするふくらはぎに再び力を入れた。
 どおんどおんと響く花火の音は、既にだいぶ間隔が近い。フィナーレなのだと気づいてよけいに息が上がり、喉の奥が焼けるように痛くなる。
 ひときわ大きく火球が弾けた音と、僕が屋上の扉を開けた音は、同時だった。
 開けた視界と一瞬の静寂に、ひんやりと鋭い横顔が飛び込んでくる。
「おー、やっと来たな」
 はらはらと散る残り火の前で、影が楽しげにこちらを向く。
 僕は最後の力を振り絞って床を蹴り、その長身に思い切り抱きついた。
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