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【第8章】初めての「勝利」
エピソード.34
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三日目の朝、部隊は目的地に到着した。
切り立った崖の中腹に、黒い洞窟の入り口が口を開けている。
周囲には、濃密な魔力が渦巻いていた。
「これが……未開拓ダンジョンか」
グレイスが呟いた。
拓海はスキルを発動させ、洞窟を観察した。
魔力の流れが異常だ。
乱れ、淀み、暴走している。
「リスクが高いですね」
拓海が報告した。
「魔力が不安定です」
「どういう意味だ?」
「制御されていないということです」
拓海が説明した。
「普通のダンジョンは、ダンジョン主が魔力を管理しています」
「でもここは……誰も管理していない」
「つまり?」
「予測不可能です」
拓海は真剣な顔で続けた。
「罠もモンスターも、規則性がない」
「何が起きるか、分かりません」
グレイスは数秒考えた。
「撤退するか?」
「いえ」
拓海は首を振った。
「調査はできます」
「ただし、深入りは避けるべきです」
「分かった」
グレイスが部下たちに指示を出した。
「入り口付近のみ調査する」
「深くは入らない。何かあれば、即座に撤退だ」
「了解!」
兵士たちが答えた。
-----
洞窟に入ると、空気が一変した。
冷たく、湿っぽく、どこか圧迫感がある。
拓海は松明の明かりを頼りに、周囲を分析していく。
「壁の構造……不規則です」
拓海が呟く。
「人工物ではない。自然に形成されたダンジョン」
「自然に?」
美咲が驚いた。
「ダンジョンって、誰かが作るものじゃないの?」
「通常はそうです」
拓海が答えた。
「でも稀に、魔力が自然発生的に集まってダンジョンになることがある」
「これは、その典型例です」
グレイスが興味深そうに聞いていた。
「自然発生のダンジョンは、どういう特徴がある?」
「予測不可能、というのが最大の特徴です」
拓海が説明を続けた。
「魔力の流れに規則性がない」
「モンスターも、自然発生する」
「管理者がいないから、何が起きるか分からない」
「厄介だな」
グレイスが眉をひそめた。
通路を進むと、広い空間に出た。
天井は高く、壁には水晶のような鉱物が埋め込まれている。
「綺麗……」
美咲が思わず呟いた。
水晶が淡く光り、幻想的な光景を作り出している。
しかし、拓海は警戒していた。
「この水晶……魔力を帯びてます」
彼が一つに近づき、分析する。
「触らない方がいいです」
「不安定な魔力が流れてる」
「了解」
グレイスが部下たちに注意を促した。
「誰も水晶に触るな」
その時、遠くから音が聞こえた。
カチャ、カチャという金属音。
「何だ?」
グレイスが剣を構えた。
音が近づいてくる。
そして、通路の向こうから現れたのは——
骸骨だった。
剣と盾を持った、人型の骸骨。
複数体が、こちらに向かって歩いてくる。
「スケルトンか」
グレイスが呟いた。
「拓海、情報を!」
「はい!」
拓海がスキルを発動する。
-----
スケルトン・ウォリアー
HP:300
攻撃力:70
防御力:40
弱点:打撃、聖属性
特徴:痛覚なし、疲労なし
-----
「弱点は打撃と聖属性です!」
拓海が叫んだ。
「斬撃は効きにくい!」
「了解!」
グレイスが剣を鈍器のように使い、スケルトンの頭部を叩き潰す。
骨が砕け、スケルトンが崩れ落ちた。
「僧侶、聖属性の魔法を!」
部隊の僧侶が詠唱を始める。
光の波動が放たれ、スケルトンたちを包む。
骸骨が悲鳴のような音を立てて崩壊した。
「全滅!」
グレイスが確認した。
しかし、拓海は不安を覚えていた。
「グレイスさん、この場所……」
「どうした?」
「魔力の流れが、さっきより強くなってます」
拓海が周囲を見回した。
「スケルトンが出現したことで、バランスが崩れた」
「まずいのか?」
「分かりません。でも、長居は危険です」
「分かった」
グレイスが決断した。
「ここまでだ。撤退する」
部隊が来た道を引き返し始めた。
しかし、その時だった。
背後から、轟音が響いた。
振り返ると、通路の一部が崩落している。
「まずい!」
グレイスが叫んだ。
「別ルートを探せ!」
拓海は冷静に周囲を分析した。
スキル「傾向分析」を最大限に使い、脱出ルートを探す。
「こっちです!」
拓海が横の通路を指差した。
「この魔力の流れなら、出口に繋がってるはずです!」
「信じるぞ!」
グレイスが部隊を導いた。
拓海の指示に従い、複雑な通路を進む。
途中、何度も分岐があったが、拓海は迷わず方向を示した。
「右!」
「次は直進!」
「ここで左!」
的確な指示が、部隊を導いていく。
そして——
光が見えた。
出口だ。
「やった!」
美咲が歓声を上げた。
全員が無事に、洞窟を脱出した。
-----
外に出ると、全員が地面に座り込んだ。
緊張から解放され、安堵の息を吐く。
「全員無事か?」
グレイスが確認した。
軽傷者は数名いたが、重傷者はいない。
「拓海」
グレイスが拓海に近づいた。
「お前のおかげで、全員無事に戻れた」
「スキルを使っただけです」
「いや」
グレイスは真剣な顔で言った。
「あの状況で、冷静に判断できる奴は少ない」
「お前は、パニックにならず的確な指示を出した」
彼は拓海の手を握った。
「お前は、立派な指揮官だ」
その言葉に、拓海の目が潤んだ。
認められた。
戦闘能力はゼロ。
でも、別の形で役に立てた。
そして、認められた。
「ありがとうございます」
拓海が頭を下げた。
-----
その夜の野営地で、グレイスが報告書を書いていた。
拓海と美咲の働きぶりを、詳細に記録する。
「拓海の分析能力、情報収集能力は極めて高い」
「美咲の浄化能力は、今回使用機会がなかったが、ダンジョン改善には必須」
「二人とも、魔王軍にとって貴重な人材である」
彼はペンを置き、焚き火を見つめた。
転移者。
当初は、戦う駒としてしか見ていなかった。
しかし、この二人は違った。
戦わない道を選び、別の形で貢献している。
「職業に、優劣はない、か」
グレイスが呟いた。
「使い方次第で、どんな職業も価値がある」
彼は報告書を封筒に入れた。
これを、ゼノスに提出する。
拓海と美咲の価値を、正式に認めてもらうために。
-----
四日後、一行は魔王軍本部に戻った。
ゼノスの執務室で、報告会が開かれた。
「ご苦労だった」
ゼノスが報告書を読んでいる。
「未開拓ダンジョンは、自然発生型だったか」
「はい」
グレイスが答えた。
「非常に不安定で、管理は困難です」
「当面、封鎖が妥当かと」
「そうだな」
ゼノスが頷いた。
そして、拓海と美咲を見た。
「お前たちの働き、グレイスから聞いた」
「素晴らしい成果だ」
「ありがとうございます」
「特に、拓海」
ゼノスが拓海に向き直った。
「お前の判断力と冷静さは、高く評価する」
「崩落という緊急事態で、全員を無事に脱出させた」
「これは、立派な功績だ」
ゼノスは書類を取り出した。
「よって、お前たちの報酬を増額する」
「今後の依頼でも、優先的に声をかける」
「ありがとうございます」
拓海と美咲が頭を下げた。
「それと」
ゼノスが付け加えた。
「グレイスから、推薦があった」
「お前たちを、正式な魔王軍の幹部候補として育成したいと」
「え……?」
拓海が驚いた。
「幹部候補……ですか?」
「ああ」
ゼノスが頷いた。
「お前たちには、まだ若いが才能がある」
「戦闘力はないが、指揮能力と分析能力がある」
「それは、幹部に必要な資質だ」
美咲も驚いている。
「でも……私たち、転移者ですよ?」
「関係ない」
ゼノスが断言した。
「魔王軍は、能力主義だ」
「結果を出せば、誰でも昇進できる」
「それが、我々の方針だ」
拓海は考えた。
幹部候補。
それは、さらなる責任と権限を意味する。
しかし同時に、この世界での地位が確立される。
「……お受けします」
拓海が答えた。
「ありがとうございます」
「よし」
ゼノスが満足そうに笑った。
「では、今後も期待している」
-----
執務室を出た後、二人は廊下を歩いていた。
「すごいことになったね」
美咲が興奮気味に言った。
「幹部候補だって」
「ああ」
拓海も信じられない気持ちだった。
三ヶ月前は、クラスで最も無能だと言われていた。
しかし今は、魔王軍の幹部候補だ。
「私たち……本当に変わったね」
美咲が呟いた。
「ああ」
拓海が頷いた。
「でも、これが俺たちの実力だ」
「職業は関係ない」
「使い方次第で、どんな職業も価値がある」
「うん」
美咲が笑顔で頷いた。
二人は並んで歩いた。
もう、誰も二人を馬鹿にしない。
認められた。
正当に、評価された。
それが、何よりも嬉しかった。
切り立った崖の中腹に、黒い洞窟の入り口が口を開けている。
周囲には、濃密な魔力が渦巻いていた。
「これが……未開拓ダンジョンか」
グレイスが呟いた。
拓海はスキルを発動させ、洞窟を観察した。
魔力の流れが異常だ。
乱れ、淀み、暴走している。
「リスクが高いですね」
拓海が報告した。
「魔力が不安定です」
「どういう意味だ?」
「制御されていないということです」
拓海が説明した。
「普通のダンジョンは、ダンジョン主が魔力を管理しています」
「でもここは……誰も管理していない」
「つまり?」
「予測不可能です」
拓海は真剣な顔で続けた。
「罠もモンスターも、規則性がない」
「何が起きるか、分かりません」
グレイスは数秒考えた。
「撤退するか?」
「いえ」
拓海は首を振った。
「調査はできます」
「ただし、深入りは避けるべきです」
「分かった」
グレイスが部下たちに指示を出した。
「入り口付近のみ調査する」
「深くは入らない。何かあれば、即座に撤退だ」
「了解!」
兵士たちが答えた。
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洞窟に入ると、空気が一変した。
冷たく、湿っぽく、どこか圧迫感がある。
拓海は松明の明かりを頼りに、周囲を分析していく。
「壁の構造……不規則です」
拓海が呟く。
「人工物ではない。自然に形成されたダンジョン」
「自然に?」
美咲が驚いた。
「ダンジョンって、誰かが作るものじゃないの?」
「通常はそうです」
拓海が答えた。
「でも稀に、魔力が自然発生的に集まってダンジョンになることがある」
「これは、その典型例です」
グレイスが興味深そうに聞いていた。
「自然発生のダンジョンは、どういう特徴がある?」
「予測不可能、というのが最大の特徴です」
拓海が説明を続けた。
「魔力の流れに規則性がない」
「モンスターも、自然発生する」
「管理者がいないから、何が起きるか分からない」
「厄介だな」
グレイスが眉をひそめた。
通路を進むと、広い空間に出た。
天井は高く、壁には水晶のような鉱物が埋め込まれている。
「綺麗……」
美咲が思わず呟いた。
水晶が淡く光り、幻想的な光景を作り出している。
しかし、拓海は警戒していた。
「この水晶……魔力を帯びてます」
彼が一つに近づき、分析する。
「触らない方がいいです」
「不安定な魔力が流れてる」
「了解」
グレイスが部下たちに注意を促した。
「誰も水晶に触るな」
その時、遠くから音が聞こえた。
カチャ、カチャという金属音。
「何だ?」
グレイスが剣を構えた。
音が近づいてくる。
そして、通路の向こうから現れたのは——
骸骨だった。
剣と盾を持った、人型の骸骨。
複数体が、こちらに向かって歩いてくる。
「スケルトンか」
グレイスが呟いた。
「拓海、情報を!」
「はい!」
拓海がスキルを発動する。
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スケルトン・ウォリアー
HP:300
攻撃力:70
防御力:40
弱点:打撃、聖属性
特徴:痛覚なし、疲労なし
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「弱点は打撃と聖属性です!」
拓海が叫んだ。
「斬撃は効きにくい!」
「了解!」
グレイスが剣を鈍器のように使い、スケルトンの頭部を叩き潰す。
骨が砕け、スケルトンが崩れ落ちた。
「僧侶、聖属性の魔法を!」
部隊の僧侶が詠唱を始める。
光の波動が放たれ、スケルトンたちを包む。
骸骨が悲鳴のような音を立てて崩壊した。
「全滅!」
グレイスが確認した。
しかし、拓海は不安を覚えていた。
「グレイスさん、この場所……」
「どうした?」
「魔力の流れが、さっきより強くなってます」
拓海が周囲を見回した。
「スケルトンが出現したことで、バランスが崩れた」
「まずいのか?」
「分かりません。でも、長居は危険です」
「分かった」
グレイスが決断した。
「ここまでだ。撤退する」
部隊が来た道を引き返し始めた。
しかし、その時だった。
背後から、轟音が響いた。
振り返ると、通路の一部が崩落している。
「まずい!」
グレイスが叫んだ。
「別ルートを探せ!」
拓海は冷静に周囲を分析した。
スキル「傾向分析」を最大限に使い、脱出ルートを探す。
「こっちです!」
拓海が横の通路を指差した。
「この魔力の流れなら、出口に繋がってるはずです!」
「信じるぞ!」
グレイスが部隊を導いた。
拓海の指示に従い、複雑な通路を進む。
途中、何度も分岐があったが、拓海は迷わず方向を示した。
「右!」
「次は直進!」
「ここで左!」
的確な指示が、部隊を導いていく。
そして——
光が見えた。
出口だ。
「やった!」
美咲が歓声を上げた。
全員が無事に、洞窟を脱出した。
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外に出ると、全員が地面に座り込んだ。
緊張から解放され、安堵の息を吐く。
「全員無事か?」
グレイスが確認した。
軽傷者は数名いたが、重傷者はいない。
「拓海」
グレイスが拓海に近づいた。
「お前のおかげで、全員無事に戻れた」
「スキルを使っただけです」
「いや」
グレイスは真剣な顔で言った。
「あの状況で、冷静に判断できる奴は少ない」
「お前は、パニックにならず的確な指示を出した」
彼は拓海の手を握った。
「お前は、立派な指揮官だ」
その言葉に、拓海の目が潤んだ。
認められた。
戦闘能力はゼロ。
でも、別の形で役に立てた。
そして、認められた。
「ありがとうございます」
拓海が頭を下げた。
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その夜の野営地で、グレイスが報告書を書いていた。
拓海と美咲の働きぶりを、詳細に記録する。
「拓海の分析能力、情報収集能力は極めて高い」
「美咲の浄化能力は、今回使用機会がなかったが、ダンジョン改善には必須」
「二人とも、魔王軍にとって貴重な人材である」
彼はペンを置き、焚き火を見つめた。
転移者。
当初は、戦う駒としてしか見ていなかった。
しかし、この二人は違った。
戦わない道を選び、別の形で貢献している。
「職業に、優劣はない、か」
グレイスが呟いた。
「使い方次第で、どんな職業も価値がある」
彼は報告書を封筒に入れた。
これを、ゼノスに提出する。
拓海と美咲の価値を、正式に認めてもらうために。
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四日後、一行は魔王軍本部に戻った。
ゼノスの執務室で、報告会が開かれた。
「ご苦労だった」
ゼノスが報告書を読んでいる。
「未開拓ダンジョンは、自然発生型だったか」
「はい」
グレイスが答えた。
「非常に不安定で、管理は困難です」
「当面、封鎖が妥当かと」
「そうだな」
ゼノスが頷いた。
そして、拓海と美咲を見た。
「お前たちの働き、グレイスから聞いた」
「素晴らしい成果だ」
「ありがとうございます」
「特に、拓海」
ゼノスが拓海に向き直った。
「お前の判断力と冷静さは、高く評価する」
「崩落という緊急事態で、全員を無事に脱出させた」
「これは、立派な功績だ」
ゼノスは書類を取り出した。
「よって、お前たちの報酬を増額する」
「今後の依頼でも、優先的に声をかける」
「ありがとうございます」
拓海と美咲が頭を下げた。
「それと」
ゼノスが付け加えた。
「グレイスから、推薦があった」
「お前たちを、正式な魔王軍の幹部候補として育成したいと」
「え……?」
拓海が驚いた。
「幹部候補……ですか?」
「ああ」
ゼノスが頷いた。
「お前たちには、まだ若いが才能がある」
「戦闘力はないが、指揮能力と分析能力がある」
「それは、幹部に必要な資質だ」
美咲も驚いている。
「でも……私たち、転移者ですよ?」
「関係ない」
ゼノスが断言した。
「魔王軍は、能力主義だ」
「結果を出せば、誰でも昇進できる」
「それが、我々の方針だ」
拓海は考えた。
幹部候補。
それは、さらなる責任と権限を意味する。
しかし同時に、この世界での地位が確立される。
「……お受けします」
拓海が答えた。
「ありがとうございます」
「よし」
ゼノスが満足そうに笑った。
「では、今後も期待している」
-----
執務室を出た後、二人は廊下を歩いていた。
「すごいことになったね」
美咲が興奮気味に言った。
「幹部候補だって」
「ああ」
拓海も信じられない気持ちだった。
三ヶ月前は、クラスで最も無能だと言われていた。
しかし今は、魔王軍の幹部候補だ。
「私たち……本当に変わったね」
美咲が呟いた。
「ああ」
拓海が頷いた。
「でも、これが俺たちの実力だ」
「職業は関係ない」
「使い方次第で、どんな職業も価値がある」
「うん」
美咲が笑顔で頷いた。
二人は並んで歩いた。
もう、誰も二人を馬鹿にしない。
認められた。
正当に、評価された。
それが、何よりも嬉しかった。
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