職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

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【第19章】帰還後の波紋

エピソード.89

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 翌朝。

 転移者居住区の食堂に、警報が鳴り響いた。

 まだ眠っていた転移者たちが、次々と起き出してくる。

 拓海も飛び起きた。

 廊下に出ると、魔王軍の兵士たちが走り回っている。

「何事だ!」

 拓海が兵士に尋ねる。

「転移者が逃亡しました!」

 拓海の顔色が変わる。

「誰が?」

「橋本を含む四名です!」

 拓海の胸が締め付けられた。

 橋本……

-----

 一時間後。

 拓海はゼノスの執務室に呼び出された。

 扉を開けると、ゼノスが立っていた。

 彼の表情は、怒りに満ちている。

「蒼井拓海」

 その声が、低く響く。

「転移者が逃亡しただと」

 拓海が敬礼する。

「はい……聞きました」

「お前、何か知っているか?」

 ゼノスの目が、鋭く拓海を見つめる。

 拓海が首を振った。

「いいえ……何も」

 嘘だった。

 いや、知っていたわけではない。

 でも、予想はしていた。

 橋本たちが、いつか逃げ出すことを。

 ゼノスが机を叩いた。

「お前は幹部だ!転移者の管理も、お前の仕事だ!」

「申し訳ありません」

 拓海が頭を下げる。

 ゼノスが拓海に近づく。

「もし今後、逃亡者が出たら……」

 彼が拓海の肩を掴む。

「お前の責任だ。わかっているな?」

 拓海が頷く。

「はい……」

「追跡部隊は既に出発した」

 ゼノスが手を離す。

「逃亡者は捕らえる。そして……」

 言葉を切る。

 その先は、言わなくてもわかる。

 拓海の拳が震えた。

「下がれ」

 ゼノスが背を向ける。

 拓海が部屋を出た。

-----

 廊下で、美咲とリリアが待っていた。

「拓海くん!」

 美咲が駆け寄る。

「橋本さんたち……」

「ああ……」

 拓海が頷く。

「逃げた」

 リリアが静かに言った。

「追跡部隊が出たのね」

「ああ」

 拓海が壁に手をつく。

「橋本たち……無事でいてくれ……」

 美咲が拓海の腕を掴んだ。

「拓海くん、他の転移者たちを集めて」

「え?」

「今すぐ」

 美咲の目が真剣だ。

「みんなに、説明しないと」

 拓海が頷いた。

「わかった」

-----

 一時間後。

 食堂に、残った転移者たちが集まった。

 田中、中村、そして協力派の数名。

 合計十名ほど。

 拓海が前に立つ。

「みんな……」

 彼の声が震える。

「橋本たちが、逃げた」

 静寂。

 田中が呟く。

「そうか……」

 中村が拳を握る。

「人間側に?」

「おそらく」

 拓海が答える。

「魔王軍の追跡部隊が、既に出発してる」

 一人が立ち上がった。

「じゃあ……橋本たちは……」

 拓海は答えられない。

 捕まったら、どうなるか。

 みんな、わかっている。

 田中が声を出した。

「拓海……俺たちは、どうする?」

 全員の視線が、拓海に集まる。

 拓海が深呼吸した。

「俺は……ここに残る」

 ざわめきが起きる。

「でも、故郷とは戦わない道を探す」

 中村が尋ねる。

「どうやって?」

「わからない」

 拓海が正直に答える。

「でも、諦めない。必ず、道を見つける」

 一人が立ち上がる。

「俺は……お前を信じられない」

 その言葉が、拓海の胸に刺さる。

「前線基地で、俺たちは戦った。お前が言ってた『故郷とは戦わない』は、嘘だった」

 拓海が俯く。

「すまない……」

「謝るな」

 その転移者が続ける。

「俺は、もう誰も信じない。自分で生き延びる」

 そう言って、食堂を出ていく。

 もう一人も立ち上がった。

「俺も……考えさせてくれ」

 彼も去っていく。

 残ったのは、七名。

 田中、中村、そして協力派の五名。

 田中が立ち上がった。

「俺は」

 彼が拓海を見る。

「お前を信じる」

 拓海が顔を上げる。

「田中……」

「お前は、嘘をついたわけじゃない」

 田中が続ける。

「追い詰められて、選択肢がなかっただけだ」

 中村も立ち上がる。

「俺も、拓海についていく」

 彼が拓海に歩み寄る。

「お前なら、道を見つけられる」

 協力派の一人も頷いた。

「俺たちも、残る」

 もう一人が続ける。

「故郷を攻めたくない。でも、魔王軍を裏切ることもできない」

「だから」

 別の一人が言う。

「お前が見つける道を、信じる」

 拓海の目に、涙が滲んだ。

「みんな……」

 田中が手を差し出す。

「一緒に、探そう」

 拓海がその手を握る。

 中村が二人の手に、自分の手を重ねる。

 他のメンバーも、次々と手を重ねていく。

 七人の手が、重なった。

 田中が言う。

「俺たちは、仲間だ」

 全員が頷く。

「何があっても、一緒だ」

 拓海が涙を拭った。

「ありがとう……必ず、道を見つける」

 美咲とリリアも、輪に加わる。

 九人の手が重なる。

 それは、新たな誓いだった。

 故郷とは戦わない。

 でも、生き延びる。

 必ず、道を見つける。

-----

 会議が終わり、転移者たちが食堂を出ていく。

 拓海は窓の外を見た。

 遠くに、森が見える。

 あそこを、橋本たちが逃げている。

 無事でいてくれ……

 田中が拓海の隣に立った。

「心配か?」

「ああ……」

 拓海が頷く。

「橋本たちのことも、残ったみんなのことも」

「大丈夫だ」

 田中が拓海の肩を叩く。

「俺たちは、お前を信じてる」

 中村も近づいてくる。

「そうだ。一緒に、乗り越えよう」

 拓海が二人を見た。

「ありがとう」

 三人は窓の外を見つめた。

 空が、曇り始めている。

 雨が降りそうだ。

 拓海の心にも、暗雲が広がっていた。

 橋本たち。

 無事に、逃げ切れるだろうか。

 それとも……

 嫌な予感が、胸をよぎる。

 でも、今は祈ることしかできない。

 ただ、祈ることしか。
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