推しが神様になりまして

チャビューヘ

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温かい気配

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 あれから数日が経った。

 参拝者が、目に見えて増えていた。SNSを見て来たという人が、毎日のように訪れる。

 そして、朔さんの姿が変わり始めていた。

「なあ」

 大銀杏の下で、朔さんが言った。

「俺、前よりはっきりしてるか」

「はい。透け感が減ってます」

 確かに、朔さんの輪郭は以前より鮮明だった。光輪の色も、深みが増している。最初に会ったときは、向こうが透けて見えた。今は、ほとんど見えない。

「力が出てきてる感じはする」

「参拝者が増えたせいですね」

「らしいな」

 朔さんは自分の手を見た。

「あと、変なことがあった」

「変なこと?」

「さっき来た婆さん、本殿に手を合わせながら『温かい』って言ってた」

 胸の奥がざわついた。

「温かい」

「俺のこと見えてないはずなのに。なんで温かいんだよ」

 朔さんの光輪が、複雑な色に揺れた。

「しかも俺、力が出てきてるのに、何もしてねえ。ただ、ここにいるだけだ」

「それでいいんじゃないですか」

「いいのか?」

「朔さんがいるから、温かいんです」

 朔さんは黙った。光輪が、わずかに赤く染まる。

「アイドルん時はさ、見られるのが仕事だった。ステージに立って、ライト浴びて」

「はい」

「でも今は違う。俺は何もしてない。それなのに、感じられてる」

 朔さんは大銀杏を見上げた。

「慣れねえ」

「慣れなくていいと思います」

「なんでだよ」

「朔さんは、いるだけでいいから」

 朔さんの光輪が、静かに白く光った。

 昼過ぎ、ちひろがやってきた。

「ひなたさん、本殿裏って行ったことあります?」

「え、あんまり」

「さっき掃除してたら、なんかすごく落ち着く場所だったんですよ」

 ちひろは不思議そうな顔をしていた。

「温かいっていうか、見守られてるっていうか」

 朔さんの光輪が、揺れた。

「あと、古いベンチがあって。苔むしててエモい感じで」

「ベンチ」

「はい。写真撮っていいですか? 映えそうなんで」

「ちょっと待って。確認してから」

「了解です」

 ちひろが去った後、朔さんが呟いた。

「あいつも感じてるのか」

「みたいですね」

「なんで」

 朔さんは困惑した顔をしていた。

「俺は見守るだけの存在だろ。なのに、感じられてる」

「嫌ですか」

「嫌じゃねえけど」

 朔さんはそっぽを向いた。

「落ち着かねえ」

 光輪が、複雑な色に揺れている。でも、その揺れ方は、前より穏やかだった。

 夕方、一颯さんがポスターを持ってきた。

「できたよ」

 神社の写真と、カフェの情報が並んでいる。

「御朱印持参でドリンク50円引き」の文字。

「いいですね」

「だろ。ちひろちゃんの写真、本当にいいんだよな」

 一颯さんはポスターを眺めながら言った。

「そういえば、この神社、最近評判いいみたいだね」

「SNSで広まったみたいで」

「温かい神社、って言われてるって聞いた」

 一颯さんは窓の外を見た。

「あの常連さんも、そう言ってたな」

「え」

「神社が落ち着くって。何度も言ってた」

 一颯さんは少し笑った。

「見届けたかったのかもな」

「見届ける」

「自分が落ち着ける場所が、みんなに知られていくの。嬉しかったんじゃないかな」

 私は何も言えなかった。

 朔さんは、生前からこの神社を見ていた。そして今、神様になって、この神社を見守っている。

 見届けたかった。

 その言葉が、胸に残った。
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