【完結】皇帝との密会映像が、手違いで全世界に流出しました ~「拷問されている」と元婚約者が騒いでいますが、これただの溺愛です~

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新婚旅行と潜入工作は、記録されていた

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【ヴァルトシュタイン帝国 宮廷官報 帝国歴四〇三年 冬 第一の月 14日】

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【公式発表】

皇帝陛下並びに皇后陛下(婚約)、静養のため御不在に

 皇帝ジークハルト陛下と、婚約者ティアラ殿下は、公務の疲れを癒やすため、本日より静養に入られる。

 期間は未定。
 行き先は非公表。

 なお、静養中の政務は、宰相が代行する。

 臣民各位におかれては、両陛下の御休息を心よりお祈り申し上げる。

 (署名:帝国宮廷府)

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ】

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 静養。

 公式発表には、そう記されていた。

 しかし、私は知っている。
 これは「静養」などではない。

 昨夜、ティアラ殿下から呼び出された。

「ハインリヒ様。少しお願いがありますの」

 彼女は微笑みながら言った。
 その笑顔が、背筋を凍らせた。

「ネルヴァス商業連合のラスヴェーダ。ご存じかしら?」
「……はい。商業連合最大の港湾都市にして、大陸随一の歓楽街ですね」
「ええ。カジノ、劇場、高級娼館……何でもある街ですわ」

 彼女は扇子を開いた。

「そして、闇国の資金洗浄拠点でもありますの」
「……」
「私たち、そこへ『視察旅行』に参りますわ。ハインリヒ様には、執事として同行していただきたいの」

 断れるわけがなかった。

 そして今、私は馬車の中にいる。
 「大富豪の若夫婦」に扮した両陛下と共に。

 胃薬は、三日分を用意した。
 足りるだろうか。

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【速報】陛下静養入り 第1板

1:名無しの帝国民
 静養だってさ

2:名無しの帝国民
 求婚から一週間で静養は森生える

3:名無しの帝国民
 >>2
 疲れたんだろ、色々と

4:名無しの帝国民
 いや本当に疲れてるならいいけど

5:名無しの帝国民
 何の疲れかは言及しない

6:名無しの帝国民
 >>5
 賢明

7:名無しの帝国民
 行き先非公表なのが気になる

8:名無しの帝国民
 >>7
 新婚旅行じゃね

9:名無しの帝国民
 まだ婚約だぞ

10:名無しの帝国民
 >>9
 プレ新婚旅行

11:名無しの帝国民
 どこ行くんだろ

12:名無しの帝国民
 >>11
 南の島とか?

13:名無しの帝国民
 陛下、暑いの苦手そう

14:名無しの帝国民
 氷の皇帝だからな

15:名無しの帝国民
 でもティアラ様のためなら灼熱の砂漠でも行きそう

16:名無しの帝国民
 >>15
 分かる

17:名無しの帝国民
 溶けそう

18:名無しの帝国民
 愛の力で耐えるだろ

19:名無しの帝国民
 まあ幸せならいいか

20:名無しの帝国民
 それな

21:名無しの帝国民
 お幸せに!

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【移動中 馬車内 映像ログ006-A】

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 14日 午前10時23分
記録者:帝国記録官ハインリヒ
場所:帝国領内街道、馬車内

 (注:本映像は極秘記録として保管された)

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 馬車の窓から、冬の田園風景が流れていく。

 車内には三人。

 一人目は、眼鏡をかけた銀髪の男。
 長い髪を後ろで一つに束ね、商人風の上質なコートを羽織っている。

 ──ジークハルト。
 変装しているはずだが、隠しきれない威圧感が車内に満ちている。

「陛下、眼鏡が曇っておられます」

「む」

 彼は眼鏡を外し、懐から布を取り出して拭き始めた。

「この眼鏡というものは不便だな。視界が狭い」
「変装ですので、ご辛抱くださいませ」
「ティアラ。余の目は悪くないのだが、なぜ眼鏡をかけねばならん」

 二人目の人物が、くすりと笑った。

「陛下。眼鏡をかけると、少し印象が柔らかくなりますのよ」

 蜂蜜色の髪を緩く編み込み、商家の娘風のドレスを纏った女性。
 左手の薬指には、永久氷晶の指輪が光っている。

 ──ティアラ。

「それに」

 彼女は扇子で口元を隠した。

「眼鏡姿の陛下、とてもお似合いですわ」
「……そうか」

 ジークハルトの耳が、かすかに赤くなった。

「ならば、つけておこう」

 三人目──執事に扮したハインリヒは、静かにため息をついた。

 ……相変わらずだ。

「あの、殿下。確認させていただきたいのですが」
「なんですの、ハインリヒ様」
「今回の『視察旅行』の目的は、本当に通商条約の事前調査なのでしょうか」

 ティアラは微笑んだ。

「ええ、もちろんですわ」
「……」
「ラスヴェーダは商業連合最大の都市。帝国との交易拡大に向けて、現地の実情を把握しておくのは大切なことですもの」

 彼女の言葉は、一分の隙もなかった。
 しかし、その目が笑っていない。

「陛下はどうお考えですか」
「余か?」

 ジークハルトは窓の外を見た。

「ティアラと二人で旅ができる。それだけで十分だ」
「……はあ」
「通商条約だの、交易拡大だの、正直どうでもいい」

 彼は振り返り、ティアラを見つめた。

「お前と一緒にいられれば、それでいい」
「……っ」

 ティアラの頬に、朱が差した。

「か、陛下。朝から直球すぎますわ」
「事実を述べただけだ」
「それが直球だと申し上げているのです」

 馬車の中に、穏やかな空気が流れた。

 ハインリヒは、再びため息をついた。

 ──この二人の会話を聞いていると、本当に「新婚旅行」のようだ。
 しかし、私は知っている。
 ティアラ殿下の本当の目的を。

 彼は、懐に入れた胃薬の瓶を握りしめた。

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【極秘映像 馬車内 午前10時45分】

 (注:この映像は通常のログには記録されていない)

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 ジークハルトが、窓の外を眺めながら眠り始めた。
 規則正しい寝息が、馬車内に響く。

 ティアラは、その横顔を見つめた。
 そして、静かに旅行鞄を開けた。

 中から取り出したのは──

 小さな金属の蝶だった。

 手のひらに乗るほどの大きさ。
 翅には精緻な魔導刻印が刻まれ、かすかに光を放っている。

「……行ってらっしゃいな」

 ティアラは窓を細く開けた。
 金属の蝶は、翅を震わせ、冬の空へと飛び立った。

 ハインリヒは、その光景を見つめていた。

「殿下。それは……」
「偵察型ゴーレム。私が作りましたの」

 ティアラは微笑んだ。

「ラスヴェーダに先行して、情報を集めさせますわ」
「……」
「カジノの裏帳簿、闇国との取引記録、要人の弱み。何でも見つけてくれる、優秀な子ですのよ」

 彼女は窓を閉めた。

「ハインリヒ様」
「はい」
「今のこと、陛下には内緒にしてくださいまし」

 彼女の目が、ハインリヒを捉えた。

 穏やかな翠色。
 しかし、その奥に冷たい光が宿っている。

「……承知いたしました」

 ハインリヒは頷いた。
 それ以外に、何ができるというのか。

 ティアラは再び微笑んだ。

「良い子ですわね、ハインリヒ様」

 その声は、まるで子供を褒めるようだった。

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【ネルヴァス商業連合 ラスヴェーダ 入国審査所 同日 午後3時12分】

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 ラスヴェーダ。

 大陸最大の港湾都市にして、商業連合の経済の心臓。
 そして、「何でも買える街」として知られる歓楽の都。

 入国審査所は、多くの旅行者で賑わっていた。

「次の方、どうぞ」

 審査官が手招きする。
 ジークハルトとティアラが、窓口に進んだ。

「ご身分と渡航目的を」
「商人だ。妻と二人で、休暇を楽しみに来た」

 ジークハルトは、偽造の身分証を差し出した。
 「ジーク・シルバーマン」と記されている。

「奥様のお名前は?」
「ティア・シルバーマン。余の……俺の妻だ」

 ティアラが、彼の腕に手を添えた。

「新婚旅行ですの。よろしくお願いいたしますわ」

 審査官は二人を見つめた。

 銀髪の男は、眼鏡をかけているが、その眼光は鋭い。
 蜂蜜色の髪の女は、左手の指輪を輝かせている。

「……永久氷晶の指輪ですね」
「ええ。夫からの贈り物ですわ」
「大変高価なものです。相当な資産家とお見受けしますが」
「そうだ」

 ジークハルトが頷いた。

「金なら腐るほどある。この街で全て使い切るつもりだ」
「……」

 審査官の目が、一瞬輝いた。

「ようこそ、ラスヴェーダへ。ごゆっくりお楽しみください」

 スタンプが押され、三人は街へと足を踏み入れた。

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【ラスヴェーダ 中央大通り 映像ログ006-B】

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 14日 午後3時45分
記録者:帝国記録官ハインリヒ(執事として同行中)

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 中央大通りは、活気に満ちていた。

 色とりどりの看板。
 客引きの声。
 香水と酒と、どこか甘い煙の匂い。

「あなた、あちらに露店がありますわ」
「うむ」

 ティアラが指差した先には、小さな宝飾品の店があった。

 店主が、二人を見て顔を輝かせる。

「いらっしゃいませ! お美しい奥様に、耳飾りなどいかがですか?」
「ほう」

 ジークハルトが、陳列台を見下ろした。

 真珠、紅玉、青玉。
 様々な宝石が並んでいる。

「……全部くれ」
「ジーク様!?」

 ティアラが、慌てて彼の腕を引いた。

「お、お待ちくださいませ。そんなに買ってどうなさるのです」
「お前にやる」
「私一人では着けきれませんわ」
「なら、毎日違うものを着ければいい」

 ジークハルトは真顔だった。

「一年分くらいは買えるだろう」
「そういう問題ではありませんの」

 ティアラは彼の手を握った。

「『お忍び』なのですから、目立つ行動は控えてくださいまし」
「……むう」

 ジークハルトは不満そうだったが、やがて頷いた。

「分かった。では、三つだけにしておこう」
「……まあ、それなら」

 ティアラは諦めたように微笑んだ。

 店主は歓喜の表情で、最高級の耳飾りを三組包んだ。

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 通りを歩く二人の後ろで、影が動いた。

 黒いフードの男が二人、路地から姿を現す。

「あの二人、金持ちだな」
「ああ。永久氷晶の指輪……本物なら、城が三つ買える」
「尾行するか」
「ああ。隙を見て、財布を──」

 その時。

「虫がいるな」

 ジークハルトの声が、静かに響いた。

 彼は振り返らなかった。
 ただ、片手を軽く振った。

 ──バキッ。

 空気が凍りついたような音。

 二人の男は、壁に叩きつけられていた。
 まるで見えない巨人に殴り飛ばされたかのように。

「か……は……」
「な、何が……」

 男たちは呻きながら、這うように逃げていった。

「あなた?」
「なんでもない。虫を払っただけだ」

 ジークハルトは、何事もなかったかのように歩き続けた。

 ティアラは、彼の横顔を見つめた。

「……相変わらず、加減が苦手ですわね」
「加減?」
「殺さなかっただけ、上達しましたわ」
「お前がいるからな」

 彼は、かすかに微笑んだ。

「お前の前で、殺しはしない」
「……」

 ティアラの頬に、また朱が差した。

 後ろを歩くハインリヒは、静かにメモを取った。

 『旦那様、デコピンで成人男性二人を吹き飛ばす。本人は「虫を払った」と主張。お忍びになっていない。なお、一人称「俺」を三回に一回は「余」と言い間違えている。変装になっていない』

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【ラスヴェーダ 城下町 掲示板(ネルヴァス支部)】

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【雑談】最近の観光客 第42板

1:名無しの商人
 今日見た客がすごかった

2:名無しの商人
 >>1
 どんな

3:名無しの商人
 銀髪の男と、蜂蜜色の髪の美女
 新婚旅行だって

4:名無しの商人
 ふーん

5:名無しの商人
 何がすごいの

6:名無しの商人
 >>5
 女の指輪、永久氷晶だった

7:名無しの商人
 は?

8:名無しの商人
 嘘だろ

9:名無しの商人
 城三つ分の価値のやつじゃん

10:名無しの商人
 >>9
 そう、それ

11:名無しの商人
 どこの貴族だ

12:名無しの商人
 名乗ったのは「シルバーマン」って名前
 商人らしい

13:名無しの商人
 聞いたことない

14:名無しの商人
 新興の大富豪か?

15:名無しの商人
 にしても永久氷晶は異常

16:名無しの商人
 そんな富豪いたら噂になるだろ

17:名無しの商人
 そういえば

18:名無しの商人
 >>17
 ん?

19:名無しの商人
 帝国の皇帝が婚約したって話、聞いたか

20:名無しの商人
 ああ、全世界配信のやつな

21:名無しの商人
 永久氷晶の指輪で求婚したって

22:名無しの商人
 ……

23:名無しの商人
 ……

24:名無しの商人
 まさか

25:名無しの商人
 いやいや

26:名無しの商人
 帝国の皇帝がうちの街に来るわけないだろ

27:名無しの商人
 だよな

28:名無しの商人
 偶然だ、偶然

29:名無しの商人
 偶然だな

30:名無しの商人
 ……たぶん

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【ラスヴェーダ グランド・カジノ「黄金の羅針盤」 夜】

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 ラスヴェーダ最大のカジノ、「黄金の羅針盤」。

 金と大理石で装飾された内装。
 シャンデリアが無数の光を放ち、夜を昼に変えている。

 タキシードの紳士たち。
 ドレスを纏った貴婦人たち。
 そして、ディーラーたちの手さばき。

 チップが積まれ、歓声と溜息が交錯する。

「……すごいですわね」

 ティアラは、会場を見渡した。
 深紅のドレスに着替えた彼女は、まるで社交界の花のようだった。

「うむ」

 ジークハルトは、黒のタキシードを纏っていた。
 眼鏡はそのまま。
 髪を束ねた姿は、どこか知的な印象を与える。

 ──しかし、その威圧感は隠しようがなかった。

 周囲の客たちが、無意識に道を空ける。
 彼が歩くと、まるで海が割れるように人波が分かれていく。

「あなた。あちらにルーレットがありますわ」
「ルーレット?」
「玉を回して、どこに落ちるか当てる遊戯ですの」
「ほう」

 ジークハルトは、ルーレット台に近づいた。

 ディーラーが、彼を見上げた。
 その目に、一瞬怯えの色が浮かぶ。

「い、いらっしゃいませ。賭けはいかがなさいますか」
「赤か黒か、だな」
「はい。赤か黒か、あるいは数字に賭けることもできます」
「なるほど」

 ジークハルトは、懐から金貨の袋を取り出した。

 ──ずっしりと重い袋。
 どう見ても、普通の商人が持つ額ではない。

「全部、赤に」
「……は?」

 ディーラーの声が裏返った。

「その袋、全てですか?」
「ああ」

 ジークハルトは平然と頷いた。

「足りなければ追加する」
「あ、あの、お客様……」

 周囲の客たちが、どよめいた。

「正気か、あの男」
「一発勝負で全財産?」
「狂ってる」
「いや、見ろ。あの女の指輪」
「永久氷晶……本物だ」
「金持ちの道楽か」

 ディーラーは、震える手でルーレットを回した。

 玉が、回転する台の上を跳ねる。

 カラカラカラ……

 全員の視線が、玉に集中した。

 カラ……カラ……

 玉の動きが、ゆっくりになっていく。

 そして──

「……赤、27」

 ディーラーの声が、震えていた。

「……赤」

 静寂。

 次の瞬間、会場が沸いた。

「勝った!?」
「一発勝負で!?」
「ありえない!」
「いや、確率は半々だろ」
「それにしても度胸がすごい」

 ジークハルトは、淡々とチップを受け取った。

「次も赤だ」
「え?」
「聞こえなかったか。赤に全額だ」
「……」

 ディーラーは、もう何も言わなかった。
 ただ、震える手でルーレットを回した。

 結果。

 赤。

「もう一度」

 赤。

「もう一度」

 赤。

 ──五回連続で、赤が出た。

 会場は、もはや騒然としていた。

「ありえない」
「イカサマだ」
「いや、ディーラーがイカサマしてるわけない」
「じゃあ何だ」
「……運?」
「五回連続で運?」
「女神に愛されてるのか、あの男」

 ジークハルトは、積み上がったチップの山を見下ろした。

「つまらんな」
「……え?」

 隣に立つティアラが、首を傾げた。

「あなた?」
「余が勝つと分かっている勝負など、つまらん」

 彼は、チップの山をそのままにして歩き去った。

「ちょ、お客様! チップは……」
「くれてやる」
「は?」
「俺の物は、全てお前の物だ。好きに使え」

 ティアラは、呆れたように微笑んだ。

「……かしこまりましたわ」

 彼女は、チップの山をハインリヒに託した。

「ハインリヒ様。これで情報を買ってきてくださいまし」
「……承知いたしました」

 ハインリヒは、重いため息と共にチップを受け取った。

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ】

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 ルーレットで五連勝。
 全て赤。

 確率を計算してみた。
 二分の一の五乗。
 約3%。

 ……いや、違う。
 あれは確率ではなかった。

 私は見た。
 陛下がルーレットを睨んだ瞬間、玉の動きが変わったのを。

 覇気。
 圧力。
 存在感。

 あの方は、玉を「赤に落ちろ」と命じたのだ。
 そして、玉は従った。

 これを「運」と呼ぶべきか。
 それとも「暴力」と呼ぶべきか。

 いずれにせよ、私の胃には厳しい夜になりそうだ。

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【グランド・カジノ「黄金の羅針盤」 VIPラウンジ】

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 VIPラウンジは、一般フロアとは別世界だった。

 深紅のソファ。
 金糸で縁取られたカーテン。
 静かに流れる弦楽の調べ。

 ジークハルトとティアラは、奥のソファに座っていた。

 給仕が、シャンパンを運んでくる。

「お飲み物でございます」
「うむ」

 ジークハルトは、グラスを受け取った。
 ティアラも、小さく頷いて受け取る。

「……静かですわね」
「ああ。外の騒がしさが嘘のようだ」

 二人は、グラスを軽く合わせた。

 その時──

「あら、素敵な旦那様ですこと」

 女の声が、二人の耳に届いた。

 振り向くと、一人の女がソファの傍に立っていた。

 黒髪を艶やかに結い上げ、背中の大きく開いたドレスを纏っている。
 唇は紅く、目元には影が差している。

 ──どこか蛇を思わせる、妖艶な美女だった。

「失礼ですわ。私はルシアと申します」

 彼女は、ジークハルトに近づいた。

「こんな素敵な殿方が、お一人で退屈されているのかと思いまして」
「一人ではない」

 ジークハルトの声は、冷たかった。

「妻がいる」
「あら、奥様は……」

 ルシアは、ティアラを見た。
 その目に、かすかな侮蔑が浮かぶ。

「……とてもお若い方ですのね。旦那様のご趣味かしら」
「……」

 ティアラは、扇子で口元を隠した。

「ふふ。私、年上の殿方のお世話をするのが得意ですの」

 ルシアは、ジークハルトの隣に座ろうとした。

 その瞬間──

「臭い」

 ジークハルトの一言が、彼女を凍りつかせた。

「……は?」
「香水が臭い。近寄るな」

 彼の目が、ルシアを見据えた。
 氷のように冷たい、切れ長の瞳。

 ルシアは、一歩後退った。
 その背筋に、悪寒が走る。

「あ……あの……」
「余の妻は、花の香りがする」

 ジークハルトは、ティアラの方を向いた。

「お前の香水の方が、百倍いい匂いだ」
「……っ」

 ティアラの頬が、真っ赤になった。

「あ、あなた。こんな所で何をおっしゃるのです」
「事実だ」
「事実でも、時と場所を……!」

 ルシアは、その光景を呆然と見つめていた。

 自分は今、存在を無視されている。
 いや、「臭い」と一蹴された上で、無視されている。

 屈辱で、顔が熱くなった。

「……失礼しましたわ」

 彼女は踵を返した。

 しかし、その腕を誰かが掴んだ。

「あら、もうお帰りですの?」

 ティアラの声だった。

「少しお話ししましょうよ、ルシアさん」

 彼女の笑顔は、穏やかだった。
 しかし、握られた腕には、逃げられないほどの力がこもっている。

「女同士、色々とお話ししたいことがありますもの」
「……」
「ねえ?」

 ティアラの目が、ルシアを見据えた。

 その奥に、冷たい光が宿っている。

 ルシアは、初めて「恐怖」を感じた。

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【グランド・カジノ「黄金の羅針盤」 裏通路 音声ログ006-C】

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 14日 午後11時23分
記録者:不明(盗聴装置による自動記録と推測)
場所:VIPラウンジ裏、従業員通路

 (注:映像なし、音声のみ)

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 コツ、コツ、コツ。
 ヒールの音が、通路に響く。

「さあ、着きましたわ」

 女の声。
 穏やかで、どこか冷たい。

「ここなら、誰にも邪魔されませんわね」

 扉が閉まる音。

「……あなた、何者なの」

 別の女の声。
 震えている。

「あら、名乗りませんでしたかしら。失礼いたしましたわ」

 衣擦れの音。
 扇子を開く音。

「ティア・シルバーマン。……ふふ、今はそう名乗っておりますの」

「……偽名ね」

「ご明察ですわ。さすが、闇国のスパイは優秀ですこと」

 息を呑む音。

「な……何のことかしら」

「ルシアさん。いえ、本名は別にあるのでしょうけれど。……あなた、この街で何をしていらして?」

 沈黙。

「答えたくないなら、構いませんわ」

 何かが軽く叩かれる音。
 壁か、あるいは人か。

「私、すでに知っていますもの」

「……」

「カジノの裏帳簿の管理。闇国への送金の仲介。そして、富豪を誘惑して情報を抜き取る『ハニートラップ』担当」

 息を荒げる音。

「ど、どうしてそれを……」

「私の可愛いお友達が、教えてくれましたの」

 微かな羽音。
 金属が軋むような、小さな共鳴音。

「これ……何……」

「偵察型ゴーレム。私が作りましたの。可愛いでしょう?」

 蝶の羽ばたくような音。

「この子が、あなたの上司の部屋に忍び込んで、色々と記録してくれましたわ」

「……」

「昨夜の会話、聞かせてあげましょうか?」

 水晶の共鳴音。

 別の男の声が、再生される。

『──闇国からの指示だ。帝国の動きを探れ。皇帝が動くなら、情報を最優先で送れ』
『分かりました。ですが、報酬は──』
『金なら心配するな。マリア様が持ってきた資金がある。存分に使え』

 再生が止まる。

 沈黙。

「マリア様、ですって」

 ティアラの声が、低くなった。

「あの聖女……やはり闇国に逃げていたのね」

「わ、私は何も知らない……」

「嘘はお上手でないですわね」

 壁に何かが叩きつけられる音。
 女の悲鳴。

「マリアはどこ?」

 ティアラの声は、もはや穏やかではなかった。
 氷のように、冷たい。

「北の塔……闇国の……北の、塔に……!」

 息が荒くなる。

「あら、素直でいらっしゃること」

 足音。
 ティアラが離れる気配。

「お、終わり……? 私を……殺さないの……?」

「殺しませんわ」

 ティアラの声が、再び穏やかになった。

「あなたには、もう少し働いていただきますもの」

「……え?」

「明日から、あなたは私の『お友達』。……分かりますわね?」

 沈黙。

「分かりますわね?」

 声が、低くなる。

「は……はい……」

「よろしい」

 扉が開く音。

「夫がお待ちですから、失礼いたしますわ。……ああ、それから」

 足が止まる。

「上司の方には、何も言わないでくださいましね。もし言ったら……」

 間。

「あなたの故郷のご家族、元気にしていらっしゃるかしら?」

 息を呑む音。

「……い、言いません……絶対に……」

「良い子ですわ」

 足音が遠ざかる。

 残されたのは、震える呼吸だけだった。

    (音声ログ終了)

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【グランド・カジノ「黄金の羅針盤」 VIPラウンジ 映像ログ006-D】

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 14日 午後11時47分

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 ティアラは、涼しい顔でVIPラウンジに戻ってきた。

「お待たせいたしましたわ」
「うむ」

 ジークハルトは、グラスを傾けていた。

「女同士の話は済んだか」
「ええ。とても有意義でしたわ」

 ティアラは、彼の隣に座った。

「素敵なお友達ができましたの」
「そうか。よかったな」

 ジークハルトは、穏やかに頷いた。

 彼女が「何をしてきたか」など、聞く気はないようだった。

「ねえ」
「なんだ」
「明日は、もう少しゆっくり過ごしましょうか」
「……ああ」

 彼は、グラスを置いた。

「お前と一緒なら、何でもいい」
「……」

 ティアラの頬に、かすかな朱が差した。

「……相変わらず、直球ですわね」
「事実だ」
「はいはい。事実ですわね」

 彼女は、彼の肩に頭を預けた。

「……少し、疲れましたわ」
「そうか」

 ジークハルトは、彼女の髪をそっと撫でた。

「今日は早く休もう」
「ええ」

 二人は、静かにソファに寄り添っていた。

 その姿は、どこから見ても──幸せな新婚夫婦だった。

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【ラスヴェーダ 城下町 掲示板(ネルヴァス支部)】

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【目撃情報】例の夫婦、カジノで大暴れ 第1板

1:名無しの商人
 見た

2:名無しの商人
 >>1
 何を

3:名無しの商人
 銀髪の男がルーレットで五連勝

4:名無しの商人
 五連勝?

5:名無しの商人
 全部赤、全額賭け

6:名無しの商人
 は?

7:名無しの商人
 頭おかしい

8:名無しの商人
 しかも当然のように勝った

9:名無しの商人
 イカサマだろ

10:名無しの商人
 >>9
 ディーラーはカジノ側だぞ
 イカサマする理由がない

11:名無しの商人
 じゃあ何だよ

12:名無しの商人
 ……運?

13:名無しの商人
 五回連続で運とか言うな

14:名無しの商人
 でも他に説明がつかない

15:名無しの商人
 あの男、何者なんだ

16:名無しの商人
 あ、それよりもう一つ

17:名無しの商人
 >>16
 ん?

18:名無しの商人
 VIPラウンジで、闇のルシアがその男に言い寄ってた

19:名無しの商人
 マジ?

20:名無しの商人
 あの「誘惑の蛇」が?

21:名無しの商人
 >>20
 そう

22:名無しの商人
 それで?

23:名無しの商人
 「臭い」って一蹴された

24:名無しの商人
 は?

25:名無しの商人
 「香水が臭い、近寄るな」だって

26:名無しの商人
 ……

27:名無しの商人
 ルシア、あれでプライド高いからな

28:名無しの商人
 完全に砕けただろ

29:名無しの商人
 いい気味だ

30:名無しの商人
 >>29
 なんか恨みでもあるのか

31:名無しの商人
 昔、友人がハニトラに引っかかった

32:名無しの商人
 あー……

33:名無しの商人
 それは呪いたくもなるな

34:名無しの商人
 にしても、あの男すごいな

35:名無しの商人
 ルシア相手に「妻の方がいい匂い」って言い切るとか

36:名無しの商人
 惚気かよ

37:名無しの商人
 うらやましい

38:名無しの商人
 爆発……いや、呪われろ

39:名無しの商人
 >>38
 言葉選び悩んでて面白い

40:名無しの商人
 まあ、お幸せに

-----

【ラスヴェーダ 高級宿「月影の館」 屋上テラス 深夜】

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 屋上テラスからは、ラスヴェーダの夜景が一望できた。

 港には無数の船の灯り。
 街には色とりどりの魔導灯。
 遠くには、海に浮かぶ月。

「……綺麗ですわね」

 ティアラは、手すりに寄りかかっていた。
 夜風が、蜂蜜色の髪を揺らす。

「ああ」

 ジークハルトが、彼女の隣に立った。

「だが、お前の方が綺麗だ」
「……また直球ですの」
「事実だ」
「はいはい」

 ティアラは、小さく笑った。

 二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。

「陛下」
「なんだ」
「……楽しかったですか? 今日」

 ジークハルトは、彼女を見た。

「ああ。楽しかった」
「本当ですか?」
「本当だ」

 彼は、彼女の手を取った。

「お前と一緒にいられた。それだけで、十分だ」
「……」

 ティアラの目に、かすかに涙が滲んだ。

「……陛下」
「なんだ」
「私、あなたのために……色々なことをしていますわ」

 彼女の声が、かすかに震えた。

「あなたの知らないところで、あなたの敵を……」
「知っている」

 ジークハルトの声は、穏やかだった。

「え……」
「お前が、余のために何かをしていること。知っている」
「……」
「細かいことは分からん。だが、分かっている」

 彼は、彼女の頬に手を添えた。

「お前が何をしても、余はお前を愛している。それは変わらない」
「……っ」

 ティアラの目から、涙がこぼれた。

「陛下……」
「泣くな」

 ジークハルトは、親指で彼女の涙を拭った。

「お前が泣くと、余も辛い」
「……ごめんなさい」
「謝るな」

 彼は、彼女を引き寄せた。

「余は、お前の全てを受け入れる。光も、闇も」
「……」
「だから、泣くな。笑え」

 ティアラは、彼の胸に顔を埋めた。

 そして──

 顔を上げた。

 涙で濡れた頬。
 しかし、その唇には微笑みが浮かんでいた。

「……ありがとうございます、陛下」
「うむ」

 ジークハルトは、彼女の顎に手を添えた。

 二人の顔が、近づいていく。

 月明かりの中。
 港の灯りに照らされて。

 二つのシルエットが、一つになった。

    (画面下部に魔導文字:【注】本映像はプライバシー保護のため、ここで記録を終了します)

-----

【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ】

-----

 翌朝。

 私は、衝撃的な報告を受けた。

 昨夜、ティアラ殿下が「お話」した女──ルシアという名のスパイが、発見されたという。

 彼女は生きていた。
 しかし、その目は虚ろで、まるで魂が抜けたかのようだったらしい。

 何をされたのか。
 私には、想像したくもない。

 カジノの従業員たちの間では、こう囁かれているらしい。

 『あの女、何を見たんだ……?』

 答えを知っている私は、何も言えなかった。

 ティアラ殿下は、今朝も涼しい顔で朝食を召し上がっていた。
 陛下の隣で、幸せそうに微笑みながら。

 昨夜、人を「壊した」女と同一人物とは、とても思えなかった。

 ……いや、違う。

 彼女は「壊した」のではない。
 「従わせた」のだ。

 殺さず、生かさず。
 恐怖で縛り、情報源として利用する。

 それが、ティアラ殿下のやり方なのだろう。

 私は、改めて思い知った。

 この女性は、陛下を心から愛している。
 それは間違いない。

 しかし、その愛ゆえに──

 彼女は、どこまでも恐ろしい。

 私は、胃薬を飲んだ。
 三日分を用意したはずが、もう半分以上なくなっていた。

-----

【極秘ログ──送信者不明】

-----

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 15日 深夜11時59分
ファイル名:[解析不能]
送信元:[解析不能]
送信先:[解析不能]

-----

    (音声のみ)

 カチャ、カチャ。
 チップを弄ぶ音。

「……情報は揃いましたわ」

 女の声。
 穏やかで、どこか冷たい。

「カジノの裏帳簿。闇国への送金ルート。そして……」

 紙を広げる音。

「マリアの居場所」

 チップが止まる。

「北の塔。闇国の首都、ノクターナの最奥」

 椅子を引く音。

「資金源は断ちました。次は、本丸ですわね」

 窓を開ける音。
 夜風が吹き込む。

「陛下には……そうですわね。『観光の続き』とでも申し上げましょうか」

 小さな笑い声。

「ノクターナは『影の都』と呼ばれる美しい街ですもの。観光名所もたくさんありますわ」

 羽音。
 金属の蝶が、窓から飛び立つ音。

「行ってらっしゃいな、私の可愛い子」

 蝶の羽ばたきが、遠ざかっていく。

「先に下見をしておいて」

 窓を閉める音。

 足音。
 寝室に向かう気配。

「さて。明日は陛下と、もう少しこの街を楽しみましょうか」

 扉を開ける音。

「……その後は」

 声が、低くなる。

「地獄の底へ、参りましょう」

 間。

 そして──

 ふっと、声の調子が変わる。

「……でも、その前に」

 穏やかな声。
 先ほどまでとは、まるで別人。

「陛下のお隣で、眠らせていただきますわ」

 衣擦れの音。
 寝台に入る気配。

「……おやすみなさいませ、私の陛下」

 穏やかな声だった。
 しかし、その直前まで「地獄の底」への侵攻を計画していた女と、同一人物とは思えない。

    (ログ終了)
    (このファイルは自動消去されました)

-----

【次回予告】

ラスヴェーダでの「情報収集」を終えた二人は、いよいよ闇国──ノクターナへと向かう。
「影の都」と呼ばれる美しい街。
しかしその奥には、聖女マリアが潜んでいた。

ティアラは「観光」を装いながら、着々と包囲網を狭めていく。
ジークハルトは、妻との旅行を満喫しながら……時折、妙な胸騒ぎを感じていた。

「なあ、ティアラ。この街、やけに静かじゃないか?」
「あら、陛下。観光地は静かな方がよろしいですわ」
「……そうか?」

そして、ハインリヒは決断を迫られる。
全てを知りながら、沈黙を守るか。それとも──

第7話「影の都と追跡劇は、記録されていた」

-----

【おまけ:ラスヴェーダ 某酒場 深夜】

-----

「聞いたか?」
「ん? 何を」
「グランド・カジノで、ルーレット五連勝した男の話」
「ああ、聞いた聞いた。全額賭けで五連勝だろ?」
「そうそう」
「ありえねえよな」
「でも目撃者多数なんだろ?」
「ああ。しかも『当然のように勝った』って」
「……何者なんだ、その男」
「さあな。名前はシルバーマンとかいう商人らしいけど」
「聞いたことねえな」
「俺もだ」
「でもよ、永久氷晶の指輪持ってるんだろ?」
「ああ。奥さんにプレゼントしたらしい」
「……」
「……」
「俺たちが一生働いても買えないやつじゃん」
「言うな。泣きたくなる」
「……」
「まあ、幸せそうでいいんじゃねえか」
「……だな」
「呪われろ、金持ち」
「呪われろ」
「乾杯」
「乾杯」
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