【完結】皇帝との密会映像が、手違いで全世界に流出しました ~「拷問されている」と元婚約者が騒いでいますが、これただの溺愛です~

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招待状と返信は、記録されていた

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【帝国宮廷官報 号外 帝国歴四〇三年 冬 第一の月 28日】

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 皇帝陛下・皇后殿下、婚礼式典まで残り10日

 皇帝ジークハルト陛下と皇后ティアラ殿下の婚礼式典は、来月8日に執り行われます。

 本日、以下の招待客が帝都に到着予定です。

 ・ネルヴァス商業連合 代表団(マルスク代表ほか五名)

 なお、フローレンス王国第二王子フェリックス殿下は、来月5日に到着予定です。

 臣民の皆様への式典映像配信については、追って発表いたします。

    帝国宮廷府

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 同日 早朝】

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 結婚式まで、あと10日。

 私と財務大臣の「胃痛同盟」は、毎朝の情報共有から始まる。
 今朝も、執務室で顔を合わせた。

 「状況は」
 「最悪です」

 財務大臣の目の下には、濃い隈があった。

 「招待客リストが確定しました。総勢三百二十七名」
 「永久氷晶は」
 「昨日時点で二百八十個。残り四十七個」
 「間に合いますか」
 「陛下の魔力なら、間に合います」
 「問題は」
 「陛下の体力です」

 彼は、書類を広げた。

 「氷の彫刻八百体の維持。星のドレスの仕上げ。永久氷晶の量産。通常政務。全てを同時進行しています」
 「殿下は」
 「膝枕で何とか休ませていますが、限界があります」

 私は、窓の外を見た。
 庭園の氷の彫刻が、朝日を受けて輝いている。

 「今日の予定は」
 「午前、星のドレス最終調整。午後、商業連合の代表団との会見」
 「商業連合か」
 「ええ。祝辞と称して、何か企んでいるようです」
 「殿下なら、どうにかなるでしょう」
 「それが唯一の救いですな」

 二人で、深い溜息をついた。

 胃薬の在庫は、あと三日分。
 補充を急がねば。

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【映像ログ011-A 帝国宮殿 衣装部屋 同日 午前9:15】

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送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 衣装部屋。

 大きな窓から、朝の陽光が差し込んでいる。
 部屋の中央には、仕立て台に掛けられた純白のドレス。

 いや、純白ではなかった。

 輝いていた。

 ダイヤモンドダストが、ドレス全体に縫い付けられている。
 その一粒一粒が、陽光を受けて煌めいている。

 まるで、星空をそのまま布に閉じ込めたような美しさだった。

 「完成だ」

 ジークハルトの声が、静かに響いた。

 彼は、ドレスの前に立っていた。
 その目には、深い満足感が浮かんでいる。

 「陛下」

 ティアラが、衣装部屋に入ってきた。

 そして、足を止めた。

 「まあ」

 彼女の目が、大きく見開かれた。

 「これは」
 「星のドレスだ。お前のために作った」

 ジークハルトは、彼女の手を取った。

 「試着してみろ」
 「ええ、是非」

 ティアラは、ドレスに近づいた。

 その瞬間。

 陽光が、ドレスに直接当たった。

 「っ」

 ティアラが、目を細めた。

 いや、目を細めたどころではなかった。
 反射的に、顔を背けた。

 「眩しい」
 「何?」
 「眩しいですわ、陛下」

 彼女は、片手で目を覆った。

 「直視できませんの」

 ジークハルトは、ドレスを見た。
 確かに、陽光を受けたダイヤモンドダストが、強烈な光を放っている。

 「問題ないだろう」
 「問題ありますわ」
 「なぜだ」
 「招待客が失明しますわ」

 沈黙が流れた。

 「失明?」
 「ええ。この輝きを三百人が直視したら、全員が目を傷めます」
 「ならば、見なければいい」
 「結婚式で花嫁を見ないのですか」
 「余だけが見ればいい」
 「陛下」

 ティアラは、溜息をついた。

 「素敵なお言葉ですけれど、現実的ではありませんわ」

 その時、扉が開いた。

 職人の親方が、顔を出した。

 「陛下、ドレスの最終確認を」

 そして、彼は固まった。

 「目がっ」
 「大丈夫ですか」
 「眩しっ、直視できませんっ」

 親方は、両手で目を覆いながら後ずさった。

 「何ですかあのドレスは! 兵器ですか!?」
 「余の愛だ」
 「愛が眩しすぎます!」

 ティアラは、もう一度溜息をついた。

 「陛下。光量を調整していただけますか」
 「調整?」
 「ええ。今の十分の一くらいに」
 「十分の一?」

 ジークハルトの眉が、わずかに寄った。

 「それでは、お前の美しさが十分に引き立たない」
 「引き立ちすぎて誰も見られないよりはましですわ」
 「しかし」
 「陛下」

 ティアラは、彼の手を握った。

 「私を見るのは、陛下だけで十分ですわ。他の方々には、『美しいドレス』として認識していただければ結構。本当の輝きは、陛下だけが知っていてくださればいいのです」
 「お前だけが」
 「ええ。陛下だけが」

 ジークハルトの耳が、かすかに赤くなった。

 「わかった」

 彼は、ドレスに手をかざした。
 魔力が流れ、ダイヤモンドダストの輝きが抑えられていく。

 十分の一。
 いや、五分の一程度で止まった。

 「これが限界だ」
 「十分の一とお願いしましたわ」
 「五分の一が限界だ。これ以上抑えると、余の愛が伝わらん」
 「愛は輝度ではありませんわ」
 「輝度だ」
 「違いますわ」

 二人は、見つめ合った。

 結局、「四分の一」で妥協することになった。

    (画面隅に小窓が現れる:職人たちが「四分の一でもまだ眩しい」「遮光眼鏡を配布しよう」と囁いている)

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 続き】

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 「星のドレス」が完成した。

 しかし、問題があった。

 眩しすぎるのだ。

 ダイヤモンドダストの量が多すぎて、直視すると目を傷める。
 職人の親方が「兵器ですか」と叫んだのは、誇張ではなかった。

 陛下は「余の愛だ」と胸を張っていたが、愛が攻撃力を持ってはいけない。

 結局、魔力で光量を四分の一に抑えることで決着した。
 それでもまだ眩しいが、失明するほどではない。

 念のため、招待客全員に「魔力遮光眼鏡」を配布することになった。
 追加予算が発生したが、財務大臣は「失明者を出すよりまし」と諦めていた。

 午後からは、商業連合の代表団との会見だ。

 彼らの目的は明白だった。
 「永久氷晶の技術」を狙っている。

 祝辞に名を借りた、技術泥棒だ。

 しかし、殿下がいる。
 彼女なら、どうにかしてくれるだろう。

 私は、そう信じることにした。
 信じる以外に、できることがないからだ。

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【映像ログ011-B 帝国宮殿 謁見の間 同日 午後2:00】

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送信元:帝国記録局 第三班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 謁見の間。

 広大な空間に、冬の陽光が差し込んでいる。
 玉座には、ジークハルトとティアラが並んで座っていた。

 正面には、六人の男たちが並んでいる。

 商業連合の代表団だ。

 先頭に立つのは、恰幅のいい中年の男。
 金の鎖を首に下げ、指には宝石の指輪が光っている。

 マルクス。
 商業連合随一の大商人にして、今回の代表団の長だった。

 「このたびは、ご婚礼の祝辞を申し上げに参りました」

 マルクスは、深々と頭を下げた。

 「帝国と商業連合の友好関係が、これからも末永く続きますよう、心よりお祈り申し上げます」
 「うむ。遠路ご苦労であった」

 ジークハルトの声は、平坦だった。

 「して、祝辞だけではあるまい」
 「はい?」

 マルクスの目が、一瞬だけ泳いだ。

 「何か用があって来たのだろう。言ってみろ」
 「いえ、その、まずは祝辞を」
 「祝辞は聞いた。本題を言え」

 沈黙が流れた。

 マルクスは、ゆっくりと顔を上げた。

 「さすがは氷の皇帝陛下。お見通しでございますな」
 「くだらん駆け引きは嫌いだ」
 「では、率直に申し上げます」

 彼は、一歩前に出た。

 「永久氷晶の技術について、商業連合と共同開発のご提案をさせていただきたく」
 「共同開発?」
 「はい。帝国の魔導技術と、連合の流通網を組み合わせれば、大陸全土に永久氷晶を普及させることができます。その利益を、両者で分かち合う。素晴らしい提案だと思いませんか」

 マルクスの目が、ぎらりと光った。

 「永久氷晶は、結婚式の引き出物として世界中に知れ渡ります。その後の需要は、計り知れません。今こそ、手を組むべき時なのです」

 ジークハルトは、無言だった。

 その隣で、ティアラが口を開いた。

 「マルクス殿」
 「はい、皇后殿下」
 「素晴らしいご提案ですわね」

 彼女は、にっこりと微笑んだ。

 「では、具体的な条件をお聞かせくださいませ」
 「はい。まず、技術供与の形で」
 「技術供与?」
 「ええ。帝国が持つ永久氷晶の製造技術を、連合に開示していただき」
 「なるほど」

 ティアラは、頷いた。

 「つまり、技術を差し上げる、ということですわね」
 「差し上げるというか、共有というか」
 「共有の対価は?」
 「連合の流通網を使った販売利益の、三割を帝国に」

 ティアラの目が、かすかに細くなった。

 「三割」
 「はい。破格の条件だと自負しております」
 「そうですわね。破格ですわ」

 彼女は、立ち上がった。

 「では、私からも提案させていただきますわ」

 マルクスの表情が、かすかに緊張した。

 「技術使用料として、連合の年間国庫収入の五十年分をいただきますわ」
 「は?」

 マルクスの顔が、固まった。

 「五十年分、ですか」
 「ええ。永久氷晶は、陛下の魔力でしか作れませんの。つまり、世界で唯一の技術ですわ。その価値を考えれば、五十年分でも安いくらいですわね」
 「しかし、それでは」
 「お支払いいただけないのでしたら、お引き取りくださいませ」

 ティアラは、穏やかに笑った。

 「帝国は、別に困りませんの。永久氷晶は陛下の愛の証。商売のために作っているわけではありませんわ」
 「いや、しかし」
 「それとも」

 彼女の声が、かすかに低くなった。

 「『祝辞』に見せかけて技術泥棒をしに来た、とお認めになりますか?」

 マルクスの顔が、青くなった。

 「そ、そのようなことは」
 「そうですわよね。商業連合ともあろう方々が、そのような下品なことをなさるはずがありませんわ」

 彼女は、玉座に戻った。

 「では、改めて。純粋な祝辞として、何かお持ちになりましたか?」

 マルクスは、汗を拭いながら頷いた。

 「は、はい。こちらに、連合からの祝いの品を」

 彼は、部下に目配せした。
 大きな木箱が運ばれてくる。

 「連合最高級の葡萄酒と、南方の香辛料でございます」
 「まあ、素敵ですわ」

 ティアラは、ほほえみを浮かべた。

 「陛下、いただきましょう」
 「うむ」

 ジークハルトは、短く頷いた。

 「祝辞、確かに受け取った。帰っていいぞ」
 「は、はい。ありがとうございます」

 マルクスは、深々と頭を下げた。
 その額には、冷や汗が光っていた。

    (画面隅に小窓が現れる:外務大臣が「さすが殿下」と呟いている)

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【悲報】皇后様のドレス、直視不可【兵器】

1:名無しの帝国民
 完成したらしい
 星のドレス

2:名無しの帝国民
 見た?

3:名無しの帝国民
 >>2
 見れない
 眩しすぎて

4:名無しの帝国民
 眩しすぎて?

5:名無しの帝国民
 ダイヤモンドダストの量が多すぎて直視すると目を傷めるらしい

6:名無しの帝国民
 兵器かな?

7:名無しの帝国民
 愛の兵器

8:名無しの帝国民
 職人が「兵器ですか」って叫んだって

9:名無しの帝国民
 陛下「余の愛だ」

10:名無しの帝国民
 愛が眩しすぎる

11:名無しの帝国民
 物理的に

12:名無しの帝国民
 結局どうなったの

13:名無しの帝国民
 >>12
 光量を四分の一に抑えた

14:名無しの帝国民
 それでもまだ眩しいだろ

15:名無しの帝国民
 黒眼鏡配布されるらしい

16:名無しの帝国民
 黒眼鏡必須の結婚式www

17:名無しの帝国民
 前代未聞

18:名無しの帝国民
 陛下の愛は前代未聞

19:名無しの帝国民
 それな

20:名無しの帝国民
 商業連合が来たんだろ

21:名無しの帝国民
 >>20
 永久氷晶の技術狙いで来たらしい

22:名無しの帝国民
 技術泥棒か

23:名無しの帝国民
 で、どうなった

24:名無しの帝国民
 >>23
 皇后様に撃退された

25:名無しの帝国民
 さすが

26:名無しの帝国民
 「技術使用料として国庫収入五十年分」って言ったらしい

27:名無しの帝国民
 五十年www

28:名無しの帝国民
 吹っかけすぎ

29:名無しの帝国民
 でもそれくらいの価値あるだろ永久氷晶

30:名無しの帝国民
 >>29
 確かに

31:名無しの帝国民
 結局葡萄酒と香辛料だけ置いて帰ったらしい

32:名無しの帝国民
 カモられに来たのか

33:名無しの帝国民
 祝辞(笑)

34:名無しの帝国民
 皇后様怖い

35:名無しの帝国民
 怖いけど頼もしい

36:名無しの帝国民
 最強夫婦

37:名無しの帝国民
 陛下が武力で皇后様が知力

38:名無しの帝国民
 >>37
 バランス良すぎ

39:名無しの帝国民
 フローレンスの第二王子はいつ来るの

40:名無しの帝国民
 >>39
 来月5日らしい

41:名無しの帝国民
 結婚式三日前か

42:名無しの帝国民
 ギリギリだな

43:名無しの帝国民
 何か企んでそう

44:名無しの帝国民
 >>43
 絶対企んでる

45:名無しの帝国民
 でも皇后様がいるから大丈夫だろ

46:名無しの帝国民
 それな

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 続き】

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 商業連合は、撃退された。

 殿下の「五十年分」発言を聞いた時、私は思わず笑いそうになった。
 あまりにも法外な吹っかけだ。

 しかし、それが狙いだった。

 「払えない金額を提示することで、相手に『諦める』選択肢を与える」

 殿下は、後でそう説明した。

 「無理だと思わせれば、彼らは『仕方ない』と引き下がれる。面子を潰さずに追い返す方法ですわ」

 恐ろしい女性だ。

 しかし、それだけではなかった。

 「でも、彼らが持ってきた葡萄酒と香辛料は本物ですわ」

 殿下は、木箱を開けながら微笑んだ。

 「商業連合との関係は悪くしたくありませんの。祝いの品を受け取ることで、友好関係は維持できますわ」

 アメとムチ。
 いや、ムチとアメか。

 まず吹っかけて追い詰め、最後に逃げ道を与える。
 相手は「助かった」と思い、感謝すらするだろう。

 外交術の教科書に載せたいくらいだった。

 しかし、問題は他にもあった。

 招待状の返信が、続々と届いている。
 その中に、奇妙なものがあった。

 闇国からの「贈り物」だ。

 招待状は送っていない。
 しかし、大量の品物が届いた。

 「お祝いの品」と称して。

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【映像ログ011-C 帝国宮殿 謁見の間(小会議室) 同日 午後4:30】

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送信元:帝国記録局 第三班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 小会議室。

 テーブルの上には、山のような品物が積まれていた。

 宝石、絹織物、香木、珍しい鉱石。
 どれも高価なものばかりだった。

 「これが全部、闇国から?」

 ジークハルトが、眉を寄せた。

 「はい、陛下」

 外務大臣が、頷いた。

 「ヴェルナー伯爵からの手紙が添えられていました」
 「読め」
 「はい」

 外務大臣は、手紙を広げた。

 「『氷の皇帝陛下ならびに皇后殿下の御婚礼を、心よりお祝い申し上げます。闇国は、帝国との友好関係を何より大切に思っております。つきましては、僭越ながら御祝いの品をお送りいたします。また、もし可能であれば、式典への参列をお許しいただければ、これに勝る喜びはございません。闇国貴族 ヴェルナー』」

 沈黙が流れた。

 「招待していないのに、参列を願い出てきたか」

 ジークハルトの声は、冷たかった。

 「図々しいな」
 「いかがいたしましょうか」

 外務大臣が、恐る恐る尋ねた。

 その時、ティアラが口を開いた。

 「お断りしましょう」
 「皇后殿下」
 「闇国は、マリアに偽装映像の技術を提供しました。その罪は、贈り物では消えませんわ」

 彼女は、テーブルの上の品物を見た。

 「これらは受け取ります。しかし、参列はお断り。それが、今の帝国の立場ですわ」
 「しかし、関係が悪化するのでは」
 「悪化しませんわ」

 ティアラは、微笑んだ。

 「贈り物を受け取ったのですから。『感謝はしている、しかし許してはいない』。それが伝わればよいのです」
 「なるほど」

 外務大臣は、頷いた。

 「返書はいかがいたしましょうか」
 「私が書きますわ」

 ティアラは、羽ペンを手に取った。

 「『御祝いの品、確かに受け取りました。帝国と闇国の友好関係を願うお気持ち、深く感謝いたします。しかしながら、今回の式典は規模の都合上、招待客を限定させていただいております。何卒ご理解くださいませ。皇后ティアラ』」

 外務大臣の目が、丸くなった。

 「これは」
 「丁寧にお断りしているだけですわ」

 ティアラは、静かに微笑んだ。

 「規模の都合。嘘ではありませんわね。三百二十七名は、確かに大規模ですもの」
 「いや、しかし」
 「ヴェルナー伯爵は理解しますわ。『今は許されていない』ということを」

 彼女は、手紙に署名した。

 「でも、扉は閉ざしていませんの。いつか、本当の友好関係が築ける日が来るかもしれない。その可能性は残しておきましょう」

 ジークハルトが、彼女の手を取った。

 「お前に任せる」
 「ありがとうございます、陛下」

 二人は、静かに見つめ合った。

    (画面隅に小窓が現れる:外務大臣が「外交の教科書を書き直すべきだ」と呟いている)

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【フローレンス王国外務記録 極秘文書 同日】

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発信元:フローレンス王国 王宮
宛先:国境警備隊 第七哨戒所
分類:最高機密

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 第二王子フェリックス殿下の馬車が、本日午後、王都を出発した。

 帝国への到着予定は、来月5日。
 婚礼式典への参列が目的である。

 なお、アルベルト元王太子の処遇については、以下の通り決定した。

 「狩猟中の事故により死亡」

 葬儀は行わない。
 墓は設けない。
 公式発表は、フェリックス殿下の帰国後に行う。

 以上、厳に秘匿されたし。

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【音声ログ011-D フローレンス王国 馬車内 同日 午後】

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送信元:不明
音声品質:やや不鮮明
配信範囲:不明

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    (音声開始)

 馬車の揺れる音。
 蹄の音が、規則的に響いている。

「殿下」

 男の声。
 側近のものらしい。

「何だ」

 若い男の声。
 穏やかだが、どこか冷たい響きがある。

「アルベルト様の件、処理が完了したとの報告が」

 間。

「そうか」

 若い男の声に、感情はなかった。

「墓は」
「ご指示通り、設けておりません」
「よい。無駄だからな」

 衣擦れの音。
 窓を開ける気配。

「殿下、お体に障ります」
「構わない。少し、風に当たりたいだけだ」

 風の音が入り込む。

「それにしても」

 若い男が、くすりと笑った。

「帝国の『悪女』か」
「皇后ティアラ殿下のことでしょうか」
「ああ。兄を破滅させ、聖女を社会的に抹殺した女だ」

 また、笑い声。

「面白いな。どんな顔をしているのだろう」
「殿下」
「いや、顔は知っている。映像で見た。美しい女だ」

 間。

「僕が知りたいのは、その目だ」

 若い男の声が、かすかに熱を帯びた。

「あの女の目は、何を見ている? 何を考えている? どこまで計算している?」
「殿下」
「楽しみだな」

 窓を閉める音。

「帝国に着いたら、まず彼女に会おう。『悪女』対『悪女を作った国の王子』。どちらが上か、試してみたい」
「殿下、それは」
「冗談だよ」

 若い男は、軽く笑った。

「僕は、友好的に振る舞うさ。兄の不始末を詫び、両国の新たな関係を築く。それが、僕の役目だ」

 間。

「でも」

 声が、かすかに低くなった。

「あの女が、何か仕掛けてきたら」

 また、笑い声。
 今度は、どこか楽しげだった。

「その時は、相応の『お返し』をしよう」

 間。

「……ああ、でも」

 若い男の声が、ふと穏やかになった。

「できれば、あの女とは仲良くしたいな。敵に回すには、惜しい」

 馬車の揺れる音だけが、続いた。

    (音声終了)

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【速報】闇国からの贈り物、参列はお断り【外交】

1:名無しの帝国民
 闇国が招待してくれって言ってきたらしい

2:名無しの帝国民
 招待状送ってないのに?

3:名無しの帝国民
 >>2
 図々しすぎ

4:名無しの帝国民
 で、どうなったの

5:名無しの帝国民
 >>4
 お断りされた

6:名無しの帝国民
 当然

7:名無しの帝国民
 マリアに技術提供した国だからな

8:名無しの帝国民
 でも贈り物は受け取ったらしい

9:名無しの帝国民
 >>8
 賢い

10:名無しの帝国民
 品物はもらう、参列は断る

11:名無しの帝国民
 「感謝はしてる、許してはいない」ってことか

12:名無しの帝国民
 皇后様の外交術すごい

13:名無しの帝国民
 敵を作らず、でも許さない

14:名無しの帝国民
 バランス感覚が天才

15:名無しの帝国民
 フローレンスの第二王子はどうなの

16:名無しの帝国民
 >>15
 来月5日に到着予定

17:名無しの帝国民
 あと一週間か

18:名無しの帝国民
 何企んでるんだろうな

19:名無しの帝国民
 >>18
 絶対何かある

20:名無しの帝国民
 アルベルトの弟だぞ

21:名無しの帝国民
 弟っていうか、兄を売った奴

22:名無しの帝国民
 >>21
 それな

23:名無しの帝国民
 ゴミ出し担当

24:名無しの帝国民
 冷酷そう

25:名無しの帝国民
 でも皇后様の方が上だろ

26:名無しの帝国民
 >>25
 わからん

27:名無しの帝国民
 バカな兄より賢い弟

28:名無しの帝国民
 皇后様 vs 第二王子

29:名無しの帝国民
 見ものだな

30:名無しの帝国民
 俺らは見てるだけでいい

31:名無しの帝国民
 ハインリヒさんの胃が心配

32:名無しの帝国民
 >>31
 毎回言われてて本当

33:名無しの帝国民
 胃薬株買っとけ

34:名無しの帝国民
 結婚式楽しみだな

35:名無しの帝国民
 >>34
 楽しみすぎる

36:名無しの帝国民
 黒眼鏡して待機する

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【映像ログ011-E 帝国宮殿 皇帝私室 同日 夜】

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送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:暗い
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 皇帝私室。

 暖炉の火が、部屋を温かく照らしている。
 窓の外には、冬の星空が広がっていた。

 ソファに、二人の姿があった。

 ティアラが座り、その膝の上にジークハルトの頭が載っている。
 彼女は、彼の髪をゆっくりと撫でていた。

 「今日は、お疲れ様でした」
 「うむ」

 ジークハルトの声は、少し眠そうだった。

 「商業連合も、闇国も、お前が全て片付けた」
 「陛下のおかげですわ。陛下がいらっしゃるから、私は強気に出られますの」
 「余は何もしていない」
 「いらっしゃるだけで十分ですわ」

 ティアラは、微笑んだ。

 「陛下が後ろにいる。それだけで、誰も私に手を出せませんもの」
 「当然だ。お前に手を出す者は、余が凍らせる」
 「ふふ。頼もしいですわ」

 彼女は、彼の額に手を当てた。

 「少し、熱がありますわね」
 「気のせいだ」
 「無理をなさっていませんか」
 「していない」
 「陛下」

 ティアラの声が、少し厳しくなった。

 「ドレスの仕上げ、永久氷晶の量産、氷の彫刻の維持。全てを同時に行っていますわね」
 「大したことではない」
 「大したことですわ」

 彼女は、彼の頬をそっと撫でた。

 「陛下。私は、世界で一番美しいドレスが欲しいわけではありませんの」
 「何?」
 「私が欲しいのは、陛下ですわ」

 ジークハルトの目が、少し大きくなった。

 「結婚式の日に、陛下が元気でいてくださること。それが、何より大切ですの」
 「ティアラ」
 「ドレスが少し地味でも、引き出物が少なくても、構いませんわ。でも、陛下が倒れたら、私は」

 彼女の声が、かすかに震えた。

 「私は、悲しいですわ」

 沈黙が流れた。

 ジークハルトは、ゆっくりと起き上がった。
 そして、彼女の顔を見つめた。

 「すまなかった」
 「陛下?」
 「余は、お前を喜ばせたかった。世界で一番美しい花嫁にしたかった」
 「陛下」
 「しかし、お前を悲しませては本末転倒だ」

 彼は、彼女の手を取った。

 「明日から、少しペースを落とす」
 「本当ですか」
 「ああ。永久氷晶は、三百個でなくてもいい。二百個でも、百個でもいい」
 「陛下」
 「お前が笑っていてくれるなら、それでいい」

 ティアラの目が、潤んだ。

 「ありがとうございます」
 「礼を言うのは余の方だ」

 ジークハルトは、彼女を抱きしめた。

 「お前がいるから、余は生きていける」
 「陛下」
 「愛している、ティアラ」
 「私も、愛していますわ」

 二人の影が、暖炉の火に照らされていた。

    (映像終了)

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【極秘ログ──送信者不明】

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記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第一の月 28日 深夜11:59
ファイル名:[解析不能]
送信元:[解析不能]
送信先:[解析不能]

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    (音声のみ)

 椅子が軋む音。
 窓を開ける気配。

「フェリックス王子」

 女の声。
 低く、静かな呟き。

「兄を『処理』した男。冷酷で、計算高い」

 窓を閉める音。
 足音が、部屋を横切る。

「アルベルト様は、愚かでした。だから、扱いやすかった」

 くすくすと笑う声。

「でも、この方は違いますわ。話が通じる。だからこそ、厄介」

 紙をめくる音。

「手紙の文面は完璧でした。感情が見えない。隙がない」

 間。

「でも」

 女の声が、かすかに冷たくなった。

「隙がないということは、『隙を作らないようにしている』ということ」

 羽ペンを取る音。

「何かを隠している。何かを企んでいる。それは確実ですわ」

 ペンが紙を走る音。

「来月5日。この方が帝都に来る」

 間。

「その時、この目で確かめますわ」

 ペンを置く音。

「何を考えているのか。何を狙っているのか。全て」

 椅子から立ち上がる音。

「そして、もし敵意があるなら」

 足音が、扉に向かう。

「相応の『おもてなし』を」

 扉を開ける音。

 別の部屋に入る気配。

「陛下」

 女の声が、柔らかくなった。

「まだ起きていらしたのですか」

「起きた」

 低い男の声。
 眠そうだが、どこか満足げな響き。

「お前の足音で目が覚めた」

「申し訳ありませんわ」

「謝るな。お前の気配で目が覚めるのは、悪い気分ではない」

 衣擦れの音。
 布団に潜り込む気配。

「陛下」

「何だ」

「結婚式まで、あと10日ですわね」

「うむ」

「楽しみですわ」

「余もだ」

 間。

「お前と、正式に夫婦になれる」

「ええ」

「世界中に、お前が余の妻だと示せる」

「ふふ。陛下ったら」

 笑い声。
 幸せそうな、穏やかな声。

「おやすみなさいませ、私の陛下」

「ああ。おやすみ、余の妻」

    (ログ終了)
    (このファイルは自動消去されました)

-----

【次回予告】

結婚式まで、あと3日。
フローレンス第二王子フェリックスが、帝都に到着する。

「初めまして、皇后殿下。お噂はかねがね」
「まあ、光栄ですわ。どのような噂かしら」
「『悪女』だと」
「あら。それは、褒め言葉として受け取っておきますわね」

そして、最終確認が始まる。
会場、警備、招待客、全てが整う中──
一つだけ、不穏な報告が。

「殿下、フローレンスから密使が」
「何だ」
「アルベルト元王太子の死亡が、漏れました」

フェリックス「困ったな。予定より早い」

ティアラ「この方、何かを隠していますわね」
ジークハルト「お前が見抜く。余が守る。それでいい」
ティアラ「ええ。いつも通りに」

第12話「対面と疑惑は、記録されていた」

-----

【おまけ:帝国宮殿 衣装部屋 翌朝】

-----

 朝日が、衣装部屋を照らしていた。

 仕立て台に掛けられた「星のドレス」が、柔らかく輝いている。
 光量を四分の一に抑えたとはいえ、それでも美しかった。

 「壮観ですな」

 職人の親方が、感嘆の声を漏らした。

 「しかし、本当に四分の一で大丈夫でしょうか」
 「大丈夫だ」

 ジークハルトの声がした。

 彼は、窓際に立っていた。
 その手には、小さな眼鏡のようなものがある。

 「陛下、それは」
 「魔力遮光眼鏡だ。招待客全員に配る」
 「ああ、遮光眼鏡ですか」
 「遮光眼鏡とは言うな。余が作った『愛の防御具』だ」
 「愛の防御具」

 親方の口が、引きつった。

 「陛下。その、ネーミングは」
 「何か問題があるか」
 「いえ、何も」

 その時、ティアラが部屋に入ってきた。

 「陛下、何をなさっていますの」
 「愛の防御具を作っている」
 「愛の防御具?」

 彼女は、眼鏡を見た。

 「これは」
 「お前のドレスが眩しすぎるから、招待客に配る」
 「まあ」

 ティアラは、眼鏡を手に取った。
 かけてみる。

 「見えますわね」
 「当然だ。余が作った」
 「デザインは、もう少し改良の余地がありますわね」
 「何?」
 「フレームが太すぎますわ。女性には似合いませんの」

 ジークハルトの眉が、わずかに寄った。

 「では、三百二十七個、全て作り直す」
 「いえ、そこまでは」
 「作り直す」
 「陛下」

 ティアラは、溜息をついた。

 「無理をなさらないでくださいと、昨夜お約束しましたわよね」
 「これは無理ではない。愛だ」
 「愛でも無理は無理ですわ」

 二人は、見つめ合った。

 「では、フレームは職人に任せる」
 「それがよろしいですわ」
 「しかし、レンズは余が作る」
 「陛下」
 「譲れん」

 ティアラは、もう一度溜息をついた。

 「分かりましたわ。レンズだけ」
 「うむ」

 ジークハルトは、満足げに頷いた。

    (親方の心の声:「愛の防御具」は帝国の公式記録に残るのだろうか)
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