国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク8「頂きを目指して」後編

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【個別インタビュー】
スポンサー・カルロス/告白部屋(岩陰)

(金色のスーツが砂埃で汚れている)

カルロス:
「いやあ、山は素晴らしいですね!」

トビー(画面外):
「……そうですか」

カルロス:
「大自然! 澄んだ空気! 最高のロケーションです!」

トビー:
「酸素薄いですけど」

カルロス:
「だからこそエリクシール・アルパインの出番なんですよ!」

トビー:
「……なるほど」

カルロス:
「実はですね、この商品、会長直々のプロジェクトなんです」

トビー:
「……会長が?」

カルロス:
「はい! 会長は山岳地帯の開発に興味をお持ちで」

トビー:
「開発……」

カルロス:
「鉱山とか、いろいろあるみたいですよ。詳しくは知りませんが」

トビー:
「……」

カルロス:
「あ、これオフレコですよ!」

トビー:
「……分かりました」

(カルロスが去った後)

トビー(独り言):
「……山岳地帯の開発。鉱山。」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その5

カルロスの何気ない一言。
「会長は山岳地帯の開発に興味をお持ち」
「鉱山とか、いろいろ」

鉱山。

この山に何があるのか。
『BH_ALTITUDE_TEST_1533.log』と関係があるのか。

分からない。
だが、気になる。

撮影の合間に、周囲を観察した。
岩肌に、古い削り跡がある。
誰かが何かを掘った痕跡。

自然の侵食ではない。
人工的な跡だ。

さらに登った先に、朽ちた小屋があった。
扉には鍵がかかっていた。
鍵穴の横に、見覚えのある紋章。

王国広報局の紋章。
10年以上前のデザイン。

また見つけた。

紋章の下に、小さな文字。
「BH_ALTITUDE_01」

暗黒迷宮の「TEST_SITE_03」。
廃墟の塔の「TEST_SITE_03」。
魔王軍前線基地の「JOINT_SITE_00」。
そしてここは「ALTITUDE_01」。

点が増えていく。
線は見えない。
だが、何かある。

干し芋がないから、判断ができない。
これは本当に深刻な問題だ。

-----

【映像ログ:ON AIR(放送用)】
山岳地帯・山頂(編集後)

ナレーション:
「聳え立つ霊峰。勇者一行は、過酷な試練に挑む」

(雪を被った山頂。壮大なBGM)

レオ:
「この山の頂に……魔王の秘宝が眠っている」

マリア:
「油断するな。空気は薄く、魔物は凶暴だ」

ノア:
「僕も……皆さんの役に立ちたいです」

ナレーション:
「しかし、彼らの前に立ちはだかるは、山の守護者・岩鷲」

(岩鷲が雄々しく飛翔する映像。サイズ2倍に編集)

岩鷲:
「キィィィ!」

レオ:
「来い! 俺が相手だ!」

(レオが剣を構える。風になびく髪。左45度のアングル)

ナレーション:
「そして、聖女の神聖魔法が、闘いに終止符を打つ」

(マリアが杖を掲げる。神々しい光)

マリア:
「聖なる光よ……悪しき者を裁け!」

(光が岩鷲を包む。倒れる岩鷲)

ナレーション:
「苦難を乗り越え、勇者たちは頂を目指す」

(山頂への登攀シーン。互いを助け合う勇者たち)

レオ:
「諦めるな……仲間がいる限り」

マリア:
「ああ……共に行こう」

ノア:
「はい……最後まで!」

ナレーション:
「絆が試される、山岳の試練。果たして、頂に待つものとは」

-----

【トビーの制作日誌】
王暦1547年・夏の月・6日・深夜

山岳地帯のベースキャンプ。
テント内で編集作業中。
Adobe Magi-Cut起動。
エナジーポーション、残り3本。

今日の素材:
・酸素不足でせき込む勇者
・高山病で座り込むスタッフ
・肌荒れを気にするナルシスト
・煙草がつかなくてイライラする聖女
・魔法が暴発しかける魔法使い
・ヘロヘロの岩鷲
・スポンサーの乱入

これを「感動の山岳冒険譚」に編集する。

作業内容:
・せき込みシーン:勇ましい深呼吸に変換
・座り込みシーン:祈りを捧げる姿に編集
・肌荒れ言及:完全カット
・煙草シーン:全削除
・魔法暴発未遂:魔力を温存する演出に変更
・ヘロヘロ岩鷲:サイズ2倍、威圧感を増強
・カルロスの登場:商品アピールのみ残し、たぶん発言は削除

完成映像を確認。
仲間の絆で困難を乗り越える冒険活劇が完成していた。

-----

【映像ログ:未公開(山頂到達)】

(山岳地帯・山頂。全員が息を切らしている)

監督:
「やりました……山頂です……」

レオ:
(倒れ込みながら)
「もう……無理……」

マリア:
(座り込みながら)
「……疲れた」

ノア:
(寝転がりながら)
「あの……空が……綺麗ですね……」

カルロス:
(元気に立ちながら)
「皆さん、お疲れ様です! 記念撮影しましょう!」

マリア:
「……勘弁してくれ」

カルロス:
「エリクシール・アルパインを持って、はい、チーズ!」

レオ:
「……俺の顔、むくんでない?」

カルロス:
「大丈夫ですよ!」

レオ:
「本当に?」

カルロス:
「たぶん!」

レオ:
「だからたぶんって何なんだよ」

(トビーがカメラを向ける)

(全員がポーションを持って並ぶ)

(疲れ切った表情の集合写真)

トビー:
「……撮れました」

カルロス:
「ありがとうございます! これ、パンフレットに使いますね!」

マリア:
「……許可した覚えねえぞ」

カルロス:
「契約書にサインいただいてますので!」

マリア:
「いつサインした」

カルロス:
「出発前に!」

マリア:
「……覚えてねえ」

監督:
「あの……私がサインしました……」

マリア:
「……」

(マリアが監督を睨む)

監督:
「す、すみません……」

-----

【映像ログ:未公開(下山開始前)】

(山頂。日が傾き始めている)

監督:
「では、下山を……」

トビー:
「あの、少しだけ時間をいただけますか」

監督:
「え?」

トビー:
「周囲の風景を撮影したいので」

監督:
「……5分だけですよ」

トビー:
「ありがとうございます」

(トビーがカメラを持って歩き出す)

(朽ちた小屋に近づく)

(鍵のかかった扉)

(紋章を撮影)

(「BH_ALTITUDE_01」の文字を撮影)

(小屋の周囲を確認)

(裏側に、もう一つの扉)

(こちらは鍵が壊れている)

トビー:
「……」

(扉を開ける)

(中は埃だらけ)

(古い機材が置かれている)

(カメラ。KHK-07型。15年前に廃番になったモデル)

(机の上に、古い書類)

(書類を撮影)

書類の内容:
「第1次高度適応テスト報告書」
「被験者:3名」
「結果:2名脱落、1名適応」
「適応者コード:012」

トビー:
「……」

(012)

(第6話で見つけた被験者メモと同じコード)

(書類の下に、もう一枚)

「第2次テスト実施予定地:廃墟の塔」
「第3次テスト実施予定地:暗黒迷宮」
「最終適応確認:王暦1547年」

(王暦1547年)

(今年)

トビー:
「……」

(外から声)

監督:
「トビーくん! 時間ですよ!」

トビー:
「……今行きます」

(書類をポケットにしまう)

(小屋を出る)

-----

【トビーの制作日誌】
追記・極秘メモ

山頂で見つけた書類。
「高度適応テスト報告書」。

被験者3名。
2名脱落、1名適応。
適応者コード:012。

第6話の被験者メモと繋がった。
「被験者012」は、高度適応テストの合格者。

そして、テストは複数回行われていた。
第1次:山岳地帯(ここ)
第2次:廃墟の塔
第3次:暗黒迷宮

俺たちが撮影で訪れた場所。
全てが「テスト地点」だった。

最終適応確認:王暦1547年。
今年。
『ブレイブ・ハート』が始まった年。

偶然ではない。
この番組自体が、何かの「テスト」の一部なのか。

被験者012は誰だ。
レオか。マリアか。ノアか。
それとも、まだ登場していない誰かか。

ザックに連絡する。
魔王軍側でも同じようなテストが行われていたのか。
「ALTITUDE_TEST」のファイルの中身。
何か分かるかもしれない。

胃薬を飲む。
干し芋がないから、考えすぎかどうか判断できない。
だが、たぶん考えすぎではない。

俺は明日も、カメラを回す。
そして、調べ続ける。

-----

【映像ログ:未公開(下山・日暮れ)】

(山岳地帯・下山中。夕日が山々を照らしている)

レオ:
「……なあ」

マリア:
「なんだ」

レオ:
「今日、結構キツかったよな」

マリア:
「……まあな」

レオ:
「マリアが頑張ってくれて助かったわ」

マリア:
「……」

レオ:
「あと、ノアも無理させなかったし」

マリア:
「当たり前だろ」

レオ:
「俺、そういうとこ見てるから」

マリア:
「……気持ち悪いこと言うな」

レオ:
「褒めてんだけど」

マリア:
「だから気持ち悪いっつってんだよ」

(沈黙)

マリア:
「……お前も、避けてただろ。岩鷲」

レオ:
「まあね」

マリア:
「運動神経は悪くねえんだな」

レオ:
「悪いわけねえだろ。俺だぞ」

マリア:
「……」

レオ:
「なんだよ」

マリア:
「いや……お前、たまにまともなこと言うよな」

レオ:
「たまにってなんだよ。いつもまともだろ」

マリア:
「……それは違うな」

ノア:
(後ろから)
「あの……仲良いですね」

レオ・マリア:
「「仲良くねえ」」

ノア:
「……そうですか」

(夕日に照らされる三人の背中)

(カメラがゆっくりと引いていく)

-----

【トビーの制作日誌】
王暦1547年・夏の月・6日・深夜(続き)

放送後視聴率:28.1%
前回より微減。だが高水準。

街の声:
「山岳シーンの迫力がすごかった」
「マリア様の魔法、カッコいい」
「レオ様の髪がなびくシーン、最高」
「ノアくん、もっと活躍してほしい」

ノアの活躍が少なかったという声が多い。
次回は挽回させたい。

バルドー卿からのメモ:
「視聴率安定。引き続き努力せよ」
「次回は『古代遺跡での発掘シーン』を予定」
「スポンサーの新商品PRを忘れずに」

古代遺跡。
また「テスト地点」だろうか。

ザックからの返信が来た。
「『ALTITUDE_TEST』のファイル、一部解読できた」
「内容は『高度適応能力の測定』」
「魔王軍側でも同じテストが行われていた」
「被験者は『辺境の村出身者』ばかり」
「詳細は次回のロケで直接会って話す」

辺境の村出身者。
ノアも辺境の村出身だ。
カイルも、たぶんそうだ。

何かが見えてきた。
だが、まだ全体像は分からない。

胃薬、残り半箱。
干し芋、発注完了。
椅子も睡眠も諦めた。

好奇心は毒だ。
だが、もう引き返せない。

-----

【次回予告】

ナレーション:
「古代遺跡に眠る秘宝! しかし、発掘作業は難航する」

レオ(NG映像):
「スコップ持つの? 俺が? 手荒れするんだけど」

マリア(NG映像):
「遺跡の中、埃っぽい……くしゅん!」

ノア(NG映像):
「あの……この壁画、何か見覚えが……」

ナレーション:
「そして、明かされる謎の一端! 次回『発掘された記憶(テイク91)』」

トビー(日誌):
「ノアが壁画を見て固まった。何かを思い出したらしい。」
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