国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク9「発掘された記憶」前編

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【トビーの制作日誌】
王暦1547年・夏の月・10日

あれから4日。
俺たちは古代遺跡にいる。

バルドー卿からの指令書には、こう書かれていた。
「神秘的な遺跡探索シーンは視聴者の知的好奇心を刺激する。考古学的ロマンを演出せよ」

考古学的ロマン。

現場に到着して最初に聞こえたのは、レオの悲鳴だった。

「スコップ!? 俺が!? 手荒れするんだけど!?」

ロマンは秒で消し飛んだ。

遺跡の入口には、風化した石柱が並んでいる。
壁面には古代文字と思しき彫刻。
苔むした石畳。
朽ちた祭壇。

絵になる場所だ。

だが、俺の目は別のものに引き寄せられていた。
石柱の根元に、小さな金属板。
見覚えのある紋章。

王国広報局の紋章。

また、見つけた。

-----

【映像ログ:未公開(現場到着・午前8時)】

(古代遺跡・入口前。馬車が3台停まっている)

監督:
「皆さん、本日もよろしくお願いします」

レオ:
(馬車から降りながら)
「なんか……埃っぽくない?」

マリア:
「遺跡だからな」

レオ:
「遺跡だからって埃っぽくていい理由にはならなくない?」

マリア:
「なるだろ」

レオ:
「ならねえよ」

マリア:
「……」

(マリアがレオを無視して歩き出す)

ノア:
(周囲を見回しながら)
「すごい……古い建造物ですね」

監督:
「推定で1000年以上前のものだそうです」

ノア:
「1000年……」

レオ:
「へえ。で、俺たちは何すんの」

監督:
「発掘作業です」

レオ:
「……は?」

監督:
「秘宝を求めて遺跡を探索する勇者一行、という絵が欲しいので」

レオ:
「いや、待って。発掘って、掘るってこと?」

監督:
「はい」

レオ:
「スコップとかで?」

監督:
「はい」

レオ:
「……俺が?」

監督:
「はい」

(3秒の沈黙)

レオ:
「手荒れするんだけど」

マリア:
「知るか」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その1

レオの抵抗は30分続いた。

論点は「手荒れ」だった。

レオ:「俺の手、見てよ。綺麗だろ」
監督:「はい、綺麗ですね」
レオ:「これ、スコップ持ったら終わりだよ」
監督:「手袋をご用意しております」
レオ:「手袋じゃダメなんだよ。摩擦で荒れんの」
監督:「絹の手袋でしたら……」
レオ:「絹でもダメ。俺の肌、敏感だから」
マリア:「うるせえな。諦めろ」
レオ:「お前は肌のこと気にしないの?」
マリア:「気にしねえよ」
レオ:「嘘だろ。聖女が肌荒れしてたらまずいだろ」
マリア:「……」

マリアが黙った。
珍しいことだ。

結局、レオには「軽量ブラシ」が渡された。
砂を払うだけの作業。
手には影響しない。

監督の妥協案だった。

俺は黙ってカメラを構えた。
今日も長い一日になりそうだ。

干し芋が届いた。
発注から3日。
遠方ロケ中の配送料は金貨2枚。
高い。

だが、これがないと塩気の判定ができない。
必要経費だ。

-----

【映像ログ:未公開(発掘作業・テイク1)】

(古代遺跡・中庭。崩れた柱が散乱している)

監督:
「では、発掘シーン、テイク1!」

レオ:
(ブラシを持ちながら)
「ここに……古代の秘宝が眠っているのか」

マリア:
(スコップを構えながら)
「油断するな。罠があるかもしれない」

ノア:
(地面を調べながら)
「この紋様……何かの魔法陣でしょうか」

監督:
「カット! いいですね! 次は実際に掘ってください」

レオ:
「……掘る?」

監督:
「はい。スコップで土を掘り起こす絵が欲しいんです」

レオ:
「俺、ブラシ係だろ」

監督:
「それは準備段階の話で、本番ではスコップを……」

レオ:
「話が違うんだけど」

マリア:
「いいから黙って掘れ」

レオ:
「お前が掘れよ」

マリア:
「俺は聖女だろ。神聖な存在が土いじりすんのか」

レオ:
「じゃあ俺は勇者だぞ。英雄が土いじりすんのか」

マリア:
「……」

レオ:
「……」

ノア:
「あの……僕が掘りましょうか」

レオ・マリア:
「「お前は魔法使え」」

ノア:
「は、はい……」

(ノアがしゅんとする)

-----

【個別インタビュー】
勇者レオ/告白部屋(遺跡の石室)

(手にクリームを塗りながら)

レオ:
「発掘? 勇者の仕事じゃねえだろ」

トビー(画面外):
「脚本にはそう書いてありますが」

レオ:
「脚本がおかしいんだよ。勇者ってのは剣で戦うもんだろ」

トビー:
「今回は探索回です」

レオ:
「探索でも掘らなくていいじゃん。こう、かっこよく遺跡を歩いて、秘宝見つけて、持って帰る。それでいいだろ」

トビー:
「過程が必要です」

レオ:
「過程いらねえよ。結果だけ見せろ」

トビー:
「……」

レオ:
「あと、この遺跡、埃がすごいんだけど。俺の肺に悪影響あるだろ」

トビー:
「マスクをお渡ししましたが」

レオ:
「マスクしたら俺の顔が見えないじゃん」

トビー:
「……」

レオ:
「俺の顔が見えない映像に価値あると思う?」

トビー:
「主観ですね」

レオ:
「客観だって」

(5秒の沈黙)

レオ:
「……でも、この遺跡、ちょっとかっこいいよな」

(石室の装飾を見る)

レオ:
「俺とこの背景、絵になるだろ」

トビー:
「……そうですか」

レオ:
「そうだよ。撮っとけ」

-----

【映像ログ:未公開(発掘作業・テイク8)】

(古代遺跡・中庭。レオがしぶしぶスコップを持っている)

監督:
「テイク8! お願いします!」

レオ:
(スコップを地面に突き立てながら)
「ここを……掘れば……」

(レオがスコップを踏む)

(何かに当たる)

レオ:
「お」

マリア:
「何か出たか」

レオ:
「なんかある」

(レオが掘り続ける)

(土の中から箱が現れる)

監督:
「おお! 素晴らしい! 続けてください!」

レオ:
「見ろよ。俺が見つけた」

マリア:
「偶然だろ」

レオ:
「偶然じゃねえ。俺の勘だ」

マリア:
「勘とかねえよ」

ノア:
「あの……箱、開けてみませんか」

レオ:
「おう」

(レオが箱を開ける)

(中には古い布に包まれた何か)

レオ:
「なんだこれ」

(布を解く)

(中身は古い石板)

レオ:
「……石?」

マリア:
「石板だな」

レオ:
「なんだよ。宝石とか金貨かと思ったのに」

マリア:
「遺跡で金貨が出るわけねえだろ」

レオ:
「出るかもしれないじゃん」

マリア:
「出ねえよ」

監督:
「あの……その石板、何か書いてありますか」

ノア:
「あ……見せてください」

(ノアが石板を受け取る)

(石板を見つめるノア)

(ノアの表情が変わる)

ノア:
「……え」

マリア:
「どうした」

ノア:
「この……文字……」

(ノアが固まる)

マリア:
「おい、ノア」

ノア:
「……読める」

レオ:
「は?」

ノア:
「僕……この文字、読めます……」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その2

ノアが古代文字を読めた。

これは予想外だった。
脚本にはない展開。

監督は困惑していた。
「えーと……これは……どうしましょう」

マリアが言った。
「続けろ。面白いじゃねえか」

俺も同意だった。
何かが起きている。

ノアは石板を見つめたまま、ぼんやりと呟いた。

「『選ばれし器よ、目覚めの時は近い』……」

意味は分からない。
だが、ノアの顔は蒼白だった。

撮影を続行した。
カメラは全てを記録している。

-----

【映像ログ:未公開(石板発見直後)】

(古代遺跡・中庭。ノアが石板を持っている)

マリア:
「お前、その文字どこで覚えた」

ノア:
「わ、分かりません……」

マリア:
「分からない?」

ノア:
「本当に……分からないんです。でも……見た瞬間、読めた」

レオ:
「なんだよそれ。チートか?」

マリア:
「黙ってろ」

レオ:
「俺、黙れって言われすぎじゃね?」

マリア:
「黙ってろって言ってんだろ」

(マリアがノアに近づく)

マリア:
「他に何か書いてある」

ノア:
「えっと……『器は土より生まれ、試練を経て完成す』……」

マリア:
「……」

ノア:
「『第一の試練は高き峰、第二の試練は深き淵、第三の試練は闘の刃』……」

マリア:
「待て。高き峰って、山岳地帯のことか」

ノア:
「分かりません……でも……」

(ノアが石板を見つめる)

ノア:
「ここに、地図みたいなものがあります」

マリア:
「地図?」

ノア:
「はい……山と、塔と、迷宮の絵が……」

トビー(カメラ越し):
「……」

(トビーの手が震える)

(カメラがぶれる)

マリア:
「おい、カメラマン。どうした」

トビー:
「……いえ、何も」

マリア:
「……」

(マリアがトビーを見る)

(何かを察した目)

マリア:
「……あとで話せ」

トビー:
「……」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3

山と、塔と、迷宮。

俺が見つけた「テスト地点」と一致する。

BH_ALTITUDE_01:山岳地帯
TEST_SITE_03:廃墟の塔
暗黒迷宮:第4話で紋章を発見

偶然ではない。

この石板は、テストの内容を記したものだ。
「選ばれし器」とは何だ。
「試練」とは何だ。

ノアはなぜ、この文字を読めるのか。

被験者012。
辺境の村出身者。
ノアも辺境出身。

点が線になり始めている。

干し芋を齧る。
塩気は適正。
つまり、考えすぎではない。

-----

【映像ログ:未公開(昼休憩・遺跡内部)】

(古代遺跡・回廊。全員が座り込んでいる)

レオ:
(サンドイッチを食べながら)
「なんか変な空気になってんだけど」

マリア:
「……」

ノア:
(石板を見つめている)
「……」

レオ:
「ねえ、聞いてる?」

マリア:
「うるせえ。食え」

レオ:
「食ってるし」

(沈黙)

レオ:
「あのさ、俺だけ置いてけぼりなんだけど」

マリア:
「……」

レオ:
「ノアが文字読めたのすごいし、石板に何か書いてあったのは分かったけど、それが何なのか分かんねえんだよ」

マリア:
「……」

レオ:
「説明しろよ」

マリア:
「……お前には関係ねえ」

レオ:
「は? 俺、勇者だろ。関係あるだろ」

マリア:
「……」

レオ:
「なんで黙んだよ」

マリア:
「……面倒くせえから」

レオ:
「面倒って何だよ」

(マリアが立ち上がる)

マリア:
「煙草吸ってくる」

(マリアが去る)

レオ:
「……なんなんだよ」

ノア:
「……」

レオ:
「ノアは分かってんの?」

ノア:
「……僕も、分かりません」

レオ:
「分かんねえのに読めたの?」

ノア:
「はい……」

レオ:
「意味分かんねえ」

ノア:
「僕も……意味が分からないんです」

(ノアの手が震えている)

レオ:
「……おい」

ノア:
「え」

レオ:
「お前、手震えてんぞ」

ノア:
「あ……」

(ノアが自分の手を見る)

ノア:
「本当だ……」

レオ:
「大丈夫か?」

ノア:
「は、はい……たぶん」

レオ:
「……」

(レオがサンドイッチの残りをノアに差し出す)

レオ:
「食えよ。腹減ってんだろ」

ノア:
「え……でも、これレオさんの……」

レオ:
「いいから」

ノア:
「……ありがとうございます」

(ノアがサンドイッチを受け取る)

レオ:
「……俺さ」

ノア:
「はい」

レオ:
「難しいことは分かんねえけど」

ノア:
「……」

レオ:
「お前が困ってんのは分かる」

ノア:
「……」

レオ:
「だから、なんかあったら言えよ。俺、一応勇者だし」

ノア:
「……はい」

(ノアが少し微笑む)

レオ:
「……ま、俺に解決できるかは分かんねえけど」

ノア:
「それでも……嬉しいです」

レオ:
「……あー、なんか照れくせえな。忘れろ」

ノア:
「ふふ……分かりました」
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