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テイク9「発掘された記憶」中編
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【個別インタビュー】
聖女マリア/告白部屋(遺跡の石室)
(薬草巻きに火をつける)
(深く吸い込む)
マリア:
「……」
トビー(画面外):
「今日の発見について」
マリア:
「何が聞きたい」
トビー:
「石板のことです」
マリア:
「……」
(煙を吐く)
マリア:
「お前、何か知ってんだろ」
トビー:
「……」
マリア:
「さっき、カメラぶれてた。動揺してた」
トビー:
「……」
マリア:
「黙ってんなよ。俺には話せって言っただろ」
トビー:
「……少しだけ」
マリア:
「少しって何だ」
トビー:
「テスト地点のことです」
マリア:
「テスト?」
トビー:
「この番組の撮影で訪れた場所。山岳地帯、廃墟の塔、暗黒迷宮。全て、過去に何かの『テスト』が行われた場所でした」
マリア:
「……」
トビー:
「石板に書かれていた『試練の場所』と一致します」
マリア:
「……つまり、俺たちは誰かの計画通りに動かされてるってことか」
トビー:
「その可能性があります」
マリア:
「……」
(薬草巻きを深く吸う)
マリア:
「ノアは」
トビー:
「分かりません。ただ、被験者は『辺境の村出身者』ばかりだという情報があります」
マリア:
「ノアも辺境出身だ」
トビー:
「はい」
マリア:
「……」
(長い沈黙)
マリア:
「俺もだ」
トビー:
「……え?」
マリア:
「俺も、辺境の村出身だ。王都で聖女に選ばれる前は、名もない村にいた」
トビー:
「……」
マリア:
「偶然か?」
トビー:
「……分かりません」
マリア:
「……」
(薬草巻きを見つめる)
マリア:
「調べろ。俺のことも」
トビー:
「……分かりました」
マリア:
「オフレコな」
トビー:
「心得ています」
-----
【映像ログ:未公開(午後の撮影・テイク23)】
(古代遺跡・奥の間。壁一面に壁画が描かれている)
監督:
「この壁画の前で、勇者一行が秘宝の手がかりを見つけるシーンを撮ります」
レオ:
「壁画? なんか気持ち悪いな」
マリア:
「絵だろ。何がだよ」
レオ:
「いや、目が多くね?」
(壁画を見る全員)
(壁画には、無数の目を持つ存在と、その前にひれ伏す人々が描かれている)
ノア:
「……」
(ノアが壁画に近づく)
ノア:
「これ……」
マリア:
「どうした」
ノア:
「見覚えが……あります」
レオ:
「は? こんな気持ち悪い絵、見たことあんの?」
ノア:
「いえ……でも……」
(ノアが壁画に触れる)
ノア:
「夢で……見たことがある……気がする」
マリア:
「夢?」
ノア:
「はい……。小さい頃から、たまに見る夢があって……」
マリア:
「……」
ノア:
「暗い場所で、誰かが何かを唱えていて……。目が開いて……」
(ノアの声が震える)
ノア:
「そして、僕は……選ばれた」
マリア:
「……」
レオ:
「……なんか怖い話になってきたんだけど」
監督:
「あの……撮影を続けても……」
マリア:
「続けろ。カメラは回しとけ」
トビー:
「……」
(カメラがノアの表情を捉える)
(ノアの目が、一瞬だけ光ったように見える)
-----
【トビーの制作日誌】
補足メモ・その4
ノアの目が光った。
見間違いかもしれない。
だが、俺の目はゴブリンの目だ。
暗所での視力は人間の3倍ある。
光った。
一瞬だけ、金色に。
ノアは気づいていないようだった。
マリアも気づいていない。
俺だけが見た。
「選ばれし器」。
「目覚めの時は近い」。
ノアは何者だ。
-----
【映像ログ:未公開(壁画調査・午後3時)】
(古代遺跡・奥の間。ノアが壁画の前に座り込んでいる)
マリア:
「少し休め」
ノア:
「でも……」
マリア:
「お前、顔色悪いぞ」
ノア:
「……すみません」
(マリアが水筒を差し出す)
マリア:
「飲め」
ノア:
「ありがとうございます……」
(ノアが水を飲む)
レオ:
(少し離れた場所から)
「なあ、あれ何」
マリア:
「何がだ」
レオ:
「壁画の下。文字みたいなの書いてある」
(マリアがレオの指差す方向を見る)
マリア:
「……本当だ」
(壁画の下部に、小さな文字が刻まれている)
マリア:
「ノア、読めるか」
ノア:
「……」
(ノアが近づく)
ノア:
「『被験者番号003、007、012。最終選定:012』……」
マリア:
「……被験者?」
トビー(カメラ越し):
「……」
(トビーの息が止まる)
ノア:
「『012は器として適合。第二フェーズへ移行』……」
マリア:
「待て。被験者って何だ。012って誰だ」
ノア:
「分かりません……でも……」
(ノアが自分の首筋に触れる)
ノア:
「僕……小さい頃から、ここに痣があるんです」
マリア:
「痣?」
(ノアが首筋を見せる)
(小さな、数字のような形をした痣)
マリア:
「……それ」
ノア:
「お母さんは、生まれつきだって言ってました」
マリア:
「……」
ノア:
「でも……形が……数字みたいで……」
レオ:
「……おい、それ」
ノア:
「え」
レオ:
「012って読めなくね?」
ノア:
「……え」
(全員がノアの首筋を見る)
(痣は確かに「012」と読める)
マリア:
「……」
ノア:
「嘘……」
(ノアの手が震え始める)
ノア:
「嘘です……。これは、生まれつきの……」
マリア:
「ノア」
ノア:
「僕は……僕は……」
マリア:
「落ち着け」
ノア:
「僕は、何なんですか……」
(ノアの目から涙がこぼれる)
マリア:
「……」
(マリアがノアを抱きしめる)
マリア:
「分からねえ。でも、お前はお前だ」
ノア:
「マリア……さん……」
マリア:
「誰かに番号つけられたからって、お前の価値が変わるわけじゃねえ」
ノア:
「……」
マリア:
「俺たちは仲間だろ。一緒に調べる。一緒に答えを見つける」
ノア:
「……はい……」
レオ:
「……」
(レオが気まずそうに視線を逸らす)
レオ:
「……俺も、なんかあったら言えよ。さっきも言ったけど」
ノア:
「……ありがとう、ございます……」
-----
【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋(遺跡の石室)
(目が赤い。泣いた跡がある)
ノア:
「僕……何も知らなかったんです」
トビー(画面外):
「……」
ノア:
「辺境の村で生まれて、魔法が使えるようになって、スカウトされて……」
トビー:
「スカウト?」
ノア:
「はい……。ある日、王都から人が来て。『才能がある。王都で学ばないか』って」
トビー:
「……」
ノア:
「嬉しかったんです。村では変わり者扱いされてたから」
トビー:
「……」
ノア:
「でも……もしかしたら、それも……」
(言葉に詰まる)
ノア:
「全部、誰かの計画だったのかもしれない」
トビー:
「……」
ノア:
「僕は……選ばれたんじゃなくて……選ばれるように、作られたのかもしれない」
トビー:
「……」
(長い沈黙)
ノア:
「トビーさん」
トビー:
「はい」
ノア:
「あなたは……僕のこと、どう思いますか」
トビー:
「……」
ノア:
「怖いですか? 気持ち悪いですか?」
トビー:
「いいえ」
ノア:
「……」
トビー:
「あなたは、干し芋を美味しいと言ってくれました」
ノア:
「え……」
トビー:
「それだけで、俺にとっては良いやつです」
ノア:
「……ふふ」
(少し笑う)
ノア:
「トビーさんらしいですね」
トビー:
「ゴブリンですので」
ノア:
「……ありがとうございます」
-----
【映像ログ:未公開(夕方・遺跡外・ザックとの接触)】
(古代遺跡・入口前。日が傾き始めている)
(遠くから人影が近づいてくる)
マリア:
「……誰か来るぞ」
レオ:
「敵?」
マリア:
「分からん。構えろ」
(レオが剣に手をかける)
(人影が近づく)
(魔王軍の制服を着たゴブリン)
ザック:
「よう、トビー」
トビー:
「……来たか」
マリア:
「……知り合いか」
トビー:
「仕事上の連絡を取り合っている相手です」
ザック:
「俺は魔王軍宣伝部のAD。名前はザック」
レオ:
「魔王軍!?」
(レオが剣を抜こうとする)
マリア:
「待て」
レオ:
「なんでだよ。敵だろ」
マリア:
「こいつ、武器持ってねえだろ」
ザック:
「その通り。今日は情報交換に来ただけだ」
レオ:
「情報交換?」
ザック:
「お前らの番組と、俺たちの番組。両方に関わる情報がある」
マリア:
「……」
ザック:
「トビーには伝えてあったはずだ」
トビー:
「はい。彼の情報は信頼できます」
マリア:
「……分かった。話を聞く」
レオ:
「おい、マリア」
マリア:
「黙ってろ。お前は見張りだ」
レオ:
「は? 俺、勇者だぞ」
マリア:
「だからだろ。敵が来た時に戦うのはお前の仕事だ」
レオ:
「……まあ、そうだけど」
マリア:
「見張ってろ」
レオ:
「……わーったよ」
(レオが渋々離れる)
-----
【映像ログ:未公開(ザックとの情報交換)】
(古代遺跡・石柱の影。トビー、マリア、ノア、ザックが話している)
ザック:
「まず、『ALTITUDE_TEST』のファイルについてだ」
トビー:
「内容は解読できたか」
ザック:
「一部だけな。パスワードがかかってて、全部は見れなかった」
マリア:
「で、何が分かった」
ザック:
「高度適応能力の測定記録だ。15年前のものだった」
トビー:
「被験者は」
ザック:
「3名。コードネームで記録されてた。003、007、012」
ノア:
「……」
ザック:
「で、気になることがある。魔王軍側でも、同じテストが行われてた」
マリア:
「魔王軍でも?」
ザック:
「ああ。被験者のリストを見つけた。全員、辺境の村出身者だった」
トビー:
「やはりか」
ザック:
「お前んとこの魔法使い……ノア、だっけ?」
ノア:
「は、はい」
ザック:
「お前、首に痣があるって聞いたんだが」
ノア:
「……どこで」
ザック:
「俺たちの番組の魔法使い。カイルって奴がいる」
ノア:
「カイルくん……」
ザック:
「あいつも首に痣がある。数字みたいな形の」
ノア:
「……え」
ザック:
「あいつの番号は、015だ」
(沈黙)
マリア:
「……つまり、お前らの番組にも『被験者』がいるってことか」
ザック:
「そういうことだ。俺たちの番組は『ダーク・ハート』。お前らの『ブレイブ・ハート』と対になってる」
トビー:
「両方の番組に、辺境出身の魔法使いが配置されている」
ザック:
「ああ。偶然じゃねえだろ」
マリア:
「……」
ザック:
「もう一つ。エリクシール社が両方の番組のスポンサーになってる」
トビー:
「それは知ってる」
ザック:
「だが、資金提供の開始時期を調べたら面白いことが分かった。王国側には1530年から。魔王軍側には1544年から」
マリア:
「時期がずれてる」
ザック:
「ああ。でも、1532年に『被験者リスト』が作られてる。つまり、資金提供より前から計画があったってことだ」
トビー:
「エリクシール社は、最初から両方を支援するつもりだった」
ザック:
「そう考えるのが自然だろ」
マリア:
「……エリクシール社の会長は、何が目的なんだ」
ザック:
「分からねえ。だが、山岳地帯と鉱山に興味があるらしい」
トビー:
「それは聞いた」
ザック:
「あと、この遺跡も調べてた形跡がある」
マリア:
「は?」
ザック:
「遺跡の入口にある金属板。見たか」
トビー:
「見た。王国広報局の紋章だった」
ザック:
「あれ、15年前のものだ。つまり、この遺跡も『テスト地点』だったってことだ」
マリア:
「……」
ノア:
「僕たちは……最初から、ここに導かれていたんですか」
ザック:
「可能性は高いな」
ノア:
「……」
ザック:
「カイルに伝言を預かってきた」
ノア:
「え」
ザック:
「『怖がらなくていい。俺たちは同じだから』ってよ」
ノア:
「……カイルくん」
ザック:
「あいつも自分の正体に気づき始めてる。お前と同じようにな」
ノア:
「……」
ザック:
「あいつの魔獣伝書鳩の宛先だ」
(ザックがメモを渡す)
ザック:
「直接連絡取れ。情報共有した方がいい」
ノア:
「……ありがとうございます」
マリア:
「……お前は信用していいのか」
ザック:
「俺もトビーと同じ立場だ。上に使われてる下っ端。でも、真実は知りたい」
マリア:
「……」
ザック:
「それに、俺の胃薬代を稼いでくれてるのはお前らの番組だからな。視聴率下がると困るんだ」
マリア:
「……ふん」
ザック:
「じゃ、俺は戻る。また連絡する」
トビー:
「ああ。気をつけろ」
ザック:
「お前もな。あと、干し芋の塩気、報告しろよ」
トビー:
「適正だ」
ザック:
「よし。じゃあ、お前の判断は信用できる」
(ザックが去る)
聖女マリア/告白部屋(遺跡の石室)
(薬草巻きに火をつける)
(深く吸い込む)
マリア:
「……」
トビー(画面外):
「今日の発見について」
マリア:
「何が聞きたい」
トビー:
「石板のことです」
マリア:
「……」
(煙を吐く)
マリア:
「お前、何か知ってんだろ」
トビー:
「……」
マリア:
「さっき、カメラぶれてた。動揺してた」
トビー:
「……」
マリア:
「黙ってんなよ。俺には話せって言っただろ」
トビー:
「……少しだけ」
マリア:
「少しって何だ」
トビー:
「テスト地点のことです」
マリア:
「テスト?」
トビー:
「この番組の撮影で訪れた場所。山岳地帯、廃墟の塔、暗黒迷宮。全て、過去に何かの『テスト』が行われた場所でした」
マリア:
「……」
トビー:
「石板に書かれていた『試練の場所』と一致します」
マリア:
「……つまり、俺たちは誰かの計画通りに動かされてるってことか」
トビー:
「その可能性があります」
マリア:
「……」
(薬草巻きを深く吸う)
マリア:
「ノアは」
トビー:
「分かりません。ただ、被験者は『辺境の村出身者』ばかりだという情報があります」
マリア:
「ノアも辺境出身だ」
トビー:
「はい」
マリア:
「……」
(長い沈黙)
マリア:
「俺もだ」
トビー:
「……え?」
マリア:
「俺も、辺境の村出身だ。王都で聖女に選ばれる前は、名もない村にいた」
トビー:
「……」
マリア:
「偶然か?」
トビー:
「……分かりません」
マリア:
「……」
(薬草巻きを見つめる)
マリア:
「調べろ。俺のことも」
トビー:
「……分かりました」
マリア:
「オフレコな」
トビー:
「心得ています」
-----
【映像ログ:未公開(午後の撮影・テイク23)】
(古代遺跡・奥の間。壁一面に壁画が描かれている)
監督:
「この壁画の前で、勇者一行が秘宝の手がかりを見つけるシーンを撮ります」
レオ:
「壁画? なんか気持ち悪いな」
マリア:
「絵だろ。何がだよ」
レオ:
「いや、目が多くね?」
(壁画を見る全員)
(壁画には、無数の目を持つ存在と、その前にひれ伏す人々が描かれている)
ノア:
「……」
(ノアが壁画に近づく)
ノア:
「これ……」
マリア:
「どうした」
ノア:
「見覚えが……あります」
レオ:
「は? こんな気持ち悪い絵、見たことあんの?」
ノア:
「いえ……でも……」
(ノアが壁画に触れる)
ノア:
「夢で……見たことがある……気がする」
マリア:
「夢?」
ノア:
「はい……。小さい頃から、たまに見る夢があって……」
マリア:
「……」
ノア:
「暗い場所で、誰かが何かを唱えていて……。目が開いて……」
(ノアの声が震える)
ノア:
「そして、僕は……選ばれた」
マリア:
「……」
レオ:
「……なんか怖い話になってきたんだけど」
監督:
「あの……撮影を続けても……」
マリア:
「続けろ。カメラは回しとけ」
トビー:
「……」
(カメラがノアの表情を捉える)
(ノアの目が、一瞬だけ光ったように見える)
-----
【トビーの制作日誌】
補足メモ・その4
ノアの目が光った。
見間違いかもしれない。
だが、俺の目はゴブリンの目だ。
暗所での視力は人間の3倍ある。
光った。
一瞬だけ、金色に。
ノアは気づいていないようだった。
マリアも気づいていない。
俺だけが見た。
「選ばれし器」。
「目覚めの時は近い」。
ノアは何者だ。
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【映像ログ:未公開(壁画調査・午後3時)】
(古代遺跡・奥の間。ノアが壁画の前に座り込んでいる)
マリア:
「少し休め」
ノア:
「でも……」
マリア:
「お前、顔色悪いぞ」
ノア:
「……すみません」
(マリアが水筒を差し出す)
マリア:
「飲め」
ノア:
「ありがとうございます……」
(ノアが水を飲む)
レオ:
(少し離れた場所から)
「なあ、あれ何」
マリア:
「何がだ」
レオ:
「壁画の下。文字みたいなの書いてある」
(マリアがレオの指差す方向を見る)
マリア:
「……本当だ」
(壁画の下部に、小さな文字が刻まれている)
マリア:
「ノア、読めるか」
ノア:
「……」
(ノアが近づく)
ノア:
「『被験者番号003、007、012。最終選定:012』……」
マリア:
「……被験者?」
トビー(カメラ越し):
「……」
(トビーの息が止まる)
ノア:
「『012は器として適合。第二フェーズへ移行』……」
マリア:
「待て。被験者って何だ。012って誰だ」
ノア:
「分かりません……でも……」
(ノアが自分の首筋に触れる)
ノア:
「僕……小さい頃から、ここに痣があるんです」
マリア:
「痣?」
(ノアが首筋を見せる)
(小さな、数字のような形をした痣)
マリア:
「……それ」
ノア:
「お母さんは、生まれつきだって言ってました」
マリア:
「……」
ノア:
「でも……形が……数字みたいで……」
レオ:
「……おい、それ」
ノア:
「え」
レオ:
「012って読めなくね?」
ノア:
「……え」
(全員がノアの首筋を見る)
(痣は確かに「012」と読める)
マリア:
「……」
ノア:
「嘘……」
(ノアの手が震え始める)
ノア:
「嘘です……。これは、生まれつきの……」
マリア:
「ノア」
ノア:
「僕は……僕は……」
マリア:
「落ち着け」
ノア:
「僕は、何なんですか……」
(ノアの目から涙がこぼれる)
マリア:
「……」
(マリアがノアを抱きしめる)
マリア:
「分からねえ。でも、お前はお前だ」
ノア:
「マリア……さん……」
マリア:
「誰かに番号つけられたからって、お前の価値が変わるわけじゃねえ」
ノア:
「……」
マリア:
「俺たちは仲間だろ。一緒に調べる。一緒に答えを見つける」
ノア:
「……はい……」
レオ:
「……」
(レオが気まずそうに視線を逸らす)
レオ:
「……俺も、なんかあったら言えよ。さっきも言ったけど」
ノア:
「……ありがとう、ございます……」
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【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋(遺跡の石室)
(目が赤い。泣いた跡がある)
ノア:
「僕……何も知らなかったんです」
トビー(画面外):
「……」
ノア:
「辺境の村で生まれて、魔法が使えるようになって、スカウトされて……」
トビー:
「スカウト?」
ノア:
「はい……。ある日、王都から人が来て。『才能がある。王都で学ばないか』って」
トビー:
「……」
ノア:
「嬉しかったんです。村では変わり者扱いされてたから」
トビー:
「……」
ノア:
「でも……もしかしたら、それも……」
(言葉に詰まる)
ノア:
「全部、誰かの計画だったのかもしれない」
トビー:
「……」
ノア:
「僕は……選ばれたんじゃなくて……選ばれるように、作られたのかもしれない」
トビー:
「……」
(長い沈黙)
ノア:
「トビーさん」
トビー:
「はい」
ノア:
「あなたは……僕のこと、どう思いますか」
トビー:
「……」
ノア:
「怖いですか? 気持ち悪いですか?」
トビー:
「いいえ」
ノア:
「……」
トビー:
「あなたは、干し芋を美味しいと言ってくれました」
ノア:
「え……」
トビー:
「それだけで、俺にとっては良いやつです」
ノア:
「……ふふ」
(少し笑う)
ノア:
「トビーさんらしいですね」
トビー:
「ゴブリンですので」
ノア:
「……ありがとうございます」
-----
【映像ログ:未公開(夕方・遺跡外・ザックとの接触)】
(古代遺跡・入口前。日が傾き始めている)
(遠くから人影が近づいてくる)
マリア:
「……誰か来るぞ」
レオ:
「敵?」
マリア:
「分からん。構えろ」
(レオが剣に手をかける)
(人影が近づく)
(魔王軍の制服を着たゴブリン)
ザック:
「よう、トビー」
トビー:
「……来たか」
マリア:
「……知り合いか」
トビー:
「仕事上の連絡を取り合っている相手です」
ザック:
「俺は魔王軍宣伝部のAD。名前はザック」
レオ:
「魔王軍!?」
(レオが剣を抜こうとする)
マリア:
「待て」
レオ:
「なんでだよ。敵だろ」
マリア:
「こいつ、武器持ってねえだろ」
ザック:
「その通り。今日は情報交換に来ただけだ」
レオ:
「情報交換?」
ザック:
「お前らの番組と、俺たちの番組。両方に関わる情報がある」
マリア:
「……」
ザック:
「トビーには伝えてあったはずだ」
トビー:
「はい。彼の情報は信頼できます」
マリア:
「……分かった。話を聞く」
レオ:
「おい、マリア」
マリア:
「黙ってろ。お前は見張りだ」
レオ:
「は? 俺、勇者だぞ」
マリア:
「だからだろ。敵が来た時に戦うのはお前の仕事だ」
レオ:
「……まあ、そうだけど」
マリア:
「見張ってろ」
レオ:
「……わーったよ」
(レオが渋々離れる)
-----
【映像ログ:未公開(ザックとの情報交換)】
(古代遺跡・石柱の影。トビー、マリア、ノア、ザックが話している)
ザック:
「まず、『ALTITUDE_TEST』のファイルについてだ」
トビー:
「内容は解読できたか」
ザック:
「一部だけな。パスワードがかかってて、全部は見れなかった」
マリア:
「で、何が分かった」
ザック:
「高度適応能力の測定記録だ。15年前のものだった」
トビー:
「被験者は」
ザック:
「3名。コードネームで記録されてた。003、007、012」
ノア:
「……」
ザック:
「で、気になることがある。魔王軍側でも、同じテストが行われてた」
マリア:
「魔王軍でも?」
ザック:
「ああ。被験者のリストを見つけた。全員、辺境の村出身者だった」
トビー:
「やはりか」
ザック:
「お前んとこの魔法使い……ノア、だっけ?」
ノア:
「は、はい」
ザック:
「お前、首に痣があるって聞いたんだが」
ノア:
「……どこで」
ザック:
「俺たちの番組の魔法使い。カイルって奴がいる」
ノア:
「カイルくん……」
ザック:
「あいつも首に痣がある。数字みたいな形の」
ノア:
「……え」
ザック:
「あいつの番号は、015だ」
(沈黙)
マリア:
「……つまり、お前らの番組にも『被験者』がいるってことか」
ザック:
「そういうことだ。俺たちの番組は『ダーク・ハート』。お前らの『ブレイブ・ハート』と対になってる」
トビー:
「両方の番組に、辺境出身の魔法使いが配置されている」
ザック:
「ああ。偶然じゃねえだろ」
マリア:
「……」
ザック:
「もう一つ。エリクシール社が両方の番組のスポンサーになってる」
トビー:
「それは知ってる」
ザック:
「だが、資金提供の開始時期を調べたら面白いことが分かった。王国側には1530年から。魔王軍側には1544年から」
マリア:
「時期がずれてる」
ザック:
「ああ。でも、1532年に『被験者リスト』が作られてる。つまり、資金提供より前から計画があったってことだ」
トビー:
「エリクシール社は、最初から両方を支援するつもりだった」
ザック:
「そう考えるのが自然だろ」
マリア:
「……エリクシール社の会長は、何が目的なんだ」
ザック:
「分からねえ。だが、山岳地帯と鉱山に興味があるらしい」
トビー:
「それは聞いた」
ザック:
「あと、この遺跡も調べてた形跡がある」
マリア:
「は?」
ザック:
「遺跡の入口にある金属板。見たか」
トビー:
「見た。王国広報局の紋章だった」
ザック:
「あれ、15年前のものだ。つまり、この遺跡も『テスト地点』だったってことだ」
マリア:
「……」
ノア:
「僕たちは……最初から、ここに導かれていたんですか」
ザック:
「可能性は高いな」
ノア:
「……」
ザック:
「カイルに伝言を預かってきた」
ノア:
「え」
ザック:
「『怖がらなくていい。俺たちは同じだから』ってよ」
ノア:
「……カイルくん」
ザック:
「あいつも自分の正体に気づき始めてる。お前と同じようにな」
ノア:
「……」
ザック:
「あいつの魔獣伝書鳩の宛先だ」
(ザックがメモを渡す)
ザック:
「直接連絡取れ。情報共有した方がいい」
ノア:
「……ありがとうございます」
マリア:
「……お前は信用していいのか」
ザック:
「俺もトビーと同じ立場だ。上に使われてる下っ端。でも、真実は知りたい」
マリア:
「……」
ザック:
「それに、俺の胃薬代を稼いでくれてるのはお前らの番組だからな。視聴率下がると困るんだ」
マリア:
「……ふん」
ザック:
「じゃ、俺は戻る。また連絡する」
トビー:
「ああ。気をつけろ」
ザック:
「お前もな。あと、干し芋の塩気、報告しろよ」
トビー:
「適正だ」
ザック:
「よし。じゃあ、お前の判断は信用できる」
(ザックが去る)
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