国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

チャビューヘ

文字の大きさ
23 / 43

テイク10「迷いの森、覚醒の時」中編

しおりを挟む
【トビーの制作日誌】
補足メモ・その2

ノアの目が光った。
今度は、俺だけじゃなく全員が見た。

祭壇は何らかの装置だった。
「器」の記憶を呼び覚ます装置。

ノアは自分の過去を見た。
消されていた記憶を。

撮影は一時中断。
監督は完全に混乱していた。
「これは……台本にないんですが……」

台本にないのは当然だ。
これは「演出」ではない。
「実験」だ。

誰かが、この展開を仕組んでいる。

俺たちは、まだ何も分かっていない。

-----

【映像ログ:未公開(祭壇調査・午前11時30分)】

(古代の祭壇・周辺。全員が座り込んでいる)

マリア:
「ノア、大丈夫か」

ノア:
「はい……少し、頭が重いですけど」

(マリアが水筒を差し出す)

ノア:
「ありがとうございます」

レオ:
「なあ、さっきの……マジでやばくなかった?」

マリア:
「……ああ」

レオ:
「俺、正直ビビった」

マリア:
「珍しく正直だな」

レオ:
「いや、だって……ノアの目、光ってたぞ。金色に」

マリア:
「……見てたか」

レオ:
「見てたよ。あれ、普通じゃねえだろ」

マリア:
「……」

レオ:
「なあ、マリア」

マリア:
「何だ」

レオ:
「お前ら、何か隠してんだろ」

マリア:
「……」

レオ:
「俺、バカだけど、それくらいは分かる」

マリア:
「……」

(10秒の沈黙)

マリア:
「……分かった。話す」

レオ:
「え?」

マリア:
「ノアは……『被験者』だ」

レオ:
「ひ、けんしゃ?」

マリア:
「15年前から、何かの実験の対象にされてた。首に012って痣があるだろ」

レオ:
「……あったな。生まれつきって言ってた」

マリア:
「違う。番号だ。実験の」

レオ:
「……」

マリア:
「この番組の撮影地は、全部『テスト地点』だった。俺たちは、誰かの計画通りに動かされてる」

レオ:
「……」

マリア:
「信じなくてもいい。でも、これが真実だ」

レオ:
「……」

(レオが立ち上がる)

マリア:
「どこ行くんだ」

レオ:
「ノアんとこ」

マリア:
「……何する気だ」

レオ:
「分かんねえよ。でも、ほっとけねえだろ」

マリア:
「……」

(レオがノアの隣に座る)

レオ:
「よう」

ノア:
「レオさん……」

レオ:
「聞いたぞ。お前、実験されてたんだってな」

ノア:
「……はい」

レオ:
「大変だったな」

ノア:
「え……」

レオ:
「俺、難しいことは分かんねえ。でも、お前が辛い思いしてきたのは分かる」

ノア:
「……」

レオ:
「俺にできることあったら言えよ。剣振るうくらいしか能がねえけど、それでよければ」

ノア:
「……レオさん」

レオ:
「あ、でも顔はNGな。事務所的に」

ノア:
「……ふふ」

(ノアが少し笑う)

レオ:
「お、笑った」

ノア:
「すみません……なんか、レオさんらしくて」

レオ:
「俺らしいって何だよ」

ノア:
「真剣な話の後に、すぐ顔の心配するところです」

レオ:
「……だって、大事だろ。顔」

ノア:
「……はい。大事ですね」

マリア:
(遠くから見ながら)
「……」

トビー(画面外):
「意外と、いいコンビですね」

マリア:
「……うるせえ」

-----

【映像ログ:未公開(カイルとの遭遇・正午)】

(古代の祭壇・裏手。木々の間から人影が現れる)

マリア:
「……誰か来る」

レオ:
(剣に手をかけながら)
「敵か?」

マリア:
「待て。見覚えがある」

(人影が近づく)

(魔王軍の制服を着た青年)

カイル:
「……ノア?」

ノア:
「カイル……くん」

(二人が向かい合う)

(第7話の戦場以来、初めて二人きりで対面する)

カイル:
「ちゃんと話すのは……初めてだな」

ノア:
「うん……。手紙、もらったから」

カイル:
「……」

ノア:
「会いたかった」

カイル:
「……俺も」

(沈黙)

レオ:
「あの……お前、魔王軍の奴だよな?」

カイル:
「ああ。『ダーク・ハート』の魔法使い、カイルだ」

レオ:
「敵じゃん」

カイル:
「番組上はな」

レオ:
「……?」

マリア:
「レオ、黙ってろ」

レオ:
「いや、でも……」

マリア:
「今は敵とか味方とか関係ねえんだよ」

レオ:
「……」

カイル:
(ノアに向き直って)
「首、見せてくれ」

ノア:
「……うん」

(ノアが首筋を見せる)

(「012」の痣)

カイル:
「……やっぱりだ」

(カイルも首筋を見せる)

(「015」の痣)

ノア:
「……本当に、同じだ」

カイル:
「ああ。俺たちは、同じものだ」

ノア:
「……」

カイル:
「さっき、祭壇が光ったの、見えた」

ノア:
「え?」

カイル:
「森の外からでも分かった。お前の魔力が……すごい勢いで膨れ上がってた」

ノア:
「……」

カイル:
「何か、見たか」

ノア:
「……子供たちの映像を。僕も、その中にいた」

カイル:
「……俺も、似たような夢を見る。白い服の大人たち。儀式みたいな何か」

ノア:
「……」

カイル:
「俺たちは……何なんだろうな」

ノア:
「……分からない。でも、一緒に調べよう」

カイル:
「……ああ」

(二人が手を握る)

トビー(カメラ越し):
「……」

マリア:
「……おい、カメラマン」

トビー:
「はい」

マリア:
「これ、放送しねえよな」

トビー:
「……しません。オフレコです」

マリア:
「よし」

-----

【個別インタビュー】
勇者レオ/告白部屋(森の木陰)

(腕を組んで座っている)

レオ:
「なんか……今日、すげえ日だな」

トビー(画面外):
「どういう意味ですか」

レオ:
「ノアが光ったり、敵の魔法使いが来たり、実験がどうとか……」

トビー:
「混乱していますか」

レオ:
「……まあ、な」

トビー:
「……」

レオ:
「でもさ」

トビー:
「はい」

レオ:
「俺、思ったんだよ」

トビー:
「何をですか」

レオ:
「俺、顔しか取り柄ねえって思ってた」

トビー:
「……」

レオ:
「でも、仲間が困ってる時に、そばにいることくらいはできるじゃん」

トビー:
「……」

レオ:
「それって……取り柄って言っていいのかな」

トビー:
「……」

(5秒の沈黙)

トビー:
「主観ですね」

レオ:
「おい」

トビー:
「……いえ。客観的に見ても、それは立派な取り柄だと思います」

レオ:
「……マジで?」

トビー:
「はい」

レオ:
「……」

(少し照れた顔)

レオ:
「……サンキュ」

トビー:
「ゴブリンですので、お世辞は言いません」

レオ:
「なんだよそれ」

トビー:
「事実です」

レオ:
「……」

(レオが笑う)

レオ:
「お前、たまにいいこと言うな」

トビー:
「たまにですか」

レオ:
「たまにだよ」

-----

【映像ログ:未公開(午後の撮影・テイク78)】

(古代の祭壇・前。撮影再開)

監督:
「では、試練のシーン、テイク78! お願いします!」

レオ:
「この祭壇に……古代の力が眠っているのか」

マリア:
「油断するな。何が起きるか分からない」

ノア:
「僕が……調べてみます」

(ノアが祭壇に手を伸ばす)

(何も起きない)

監督:
「カット! すみません、もう少し神秘的な感じで……」

レオ:
「神秘的ってどうすんだよ」

監督:
「えっと……目を閉じて、瞑想するような……」

レオ:
「瞑想? 俺、したことねえけど」

マリア:
「お前は黙って立ってろ。ノアがやる」

レオ:
「俺の見せ場は?」

マリア:
「ねえよ」

レオ:
「ひでえ」

監督:
「では、テイク79!」

(ノアが目を閉じる)

(祭壇に手を触れる)

(何も起きない)

監督:
「カット! うーん……」

レオ:
「なんか、効果ないと地味だな」

マリア:
「さっきは本当に光ったんだけどな」

ノア:
「すみません……コントロールできなくて……」

監督:
「いえ、大丈夫です。後で魔法エフェクトを追加しますので」

トビー(カメラ越し):
「Adobe Magi-Cutの出番ですね」

監督:
「はい……また、残業をお願いすることになりそうです」

トビー:
「……了解しました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

処理中です...