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テイク11「器の代償」中編1
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【映像ログ:ON AIR(放送用)】
氷河の試練編(冒頭部分)
ナレーション:
「極寒の大地。永久凍土に眠る、古代の力」
(壮大な氷河の映像。壮厳なBGM)
レオ:
「ここに……伝説の氷竜が眠っているのか」
マリア:
「油断するな。氷の魔獣は、沈黙のうちに獲物を狩る」
ノア:
「僕が、魔法で道を切り開きます」
ナレーション:
「勇者一行は、氷の迷宮へと足を踏み入れる」
(三人が氷の洞窟に入っていく映像)
レオ:
「恐れるな。俺の剣が、お前たちを守る」
マリア:
「……ああ。共に進もう」
ノア:
「はい……最後まで」
-----
【映像ログ:未公開(氷の洞窟内・午前11時)】
(氷の洞窟。青白い光が反射している)
レオ:
「ここ、意外と寒くないな」
マリア:
「外よりはマシだ。風がないからな」
ノア:
「氷の壁が、光を反射してて……綺麗ですね」
レオ:
「お、いい背景じゃん。ここで撮ろうぜ」
マリア:
「お前の自撮りスポットじゃねえんだよ」
レオ:
「いや、でもほら、この角度」
(レオが顎を上げる)
レオ:
「氷の青と俺の瞳の色、補色関係になるんだよ」
マリア:
「……知らねえよ」
監督:
「では、ここで最初のシーンを撮りましょう。魔法使いが氷壁を破るシーンです」
ノア:
「僕が……ですか」
監督:
「はい。炎の魔法で氷を溶かすイメージで」
ノア:
「分かりました」
(ノアが杖を構える)
ノア:
「ファイア……」
(小さな炎が灯る)
(氷壁が少しだけ溶ける)
監督:
「カット! もう少し派手にお願いします」
ノア:
「す、すみません。力加減が……」
レオ:
「大丈夫だって。俺なんかテイク50回とかザラだし」
マリア:
「お前と一緒にすんな」
レオ:
「励ましてんだよ!」
マリア:
「励ましになってねえ」
(洞窟の奥から、足音が響いてくる)
マリア:
「……」
トビー(カメラ越し):
「……来た」
(金色のコートを着た男が現れる)
カルロス:
「やあやあ、皆さん! お久しぶりです!」
レオ:
「あ、金ピカの人」
カルロス:
「カルロスです。名前で呼んでくださいね」
マリア:
「……何の用だ」
カルロス:
「いやあ、今日は素晴らしいお知らせがあるんですよ」
(カルロスが鞄から小瓶を取り出す)
カルロス:
「新商品『暴走抑制サプリ』! 魔法使いの皆さん必携の一品です!」
ノア:
「……」
カルロス:
「魔力の暴走を防ぎ、安定した魔法発動をサポート! 副作用も……」
(カルロスがにっこり笑う)
カルロス:
「たぶん、ありません」
マリア:
「たぶん?」
カルロス:
「まあ、細かいことは気にしないでください」
マリア:
「……」
カルロス:
「で、ですね。本日は特別に、このサプリの効果を実証する撮影を行いたいと思います」
監督:
「え、あの、台本には……」
カルロス:
「台本は変更です。スポンサーの意向ですので」
監督:
「は、はあ……」
カルロス:
「魔法使いのノアさん」
ノア:
「……はい」
カルロス:
「あなたに、このサプリを飲んでいただきます」
-----
【個別インタビュー】
聖女マリア/告白部屋(洞窟の隅)
(薬草巻きに火をつけようとして、やめる)
マリア:
「……嫌な予感がする」
トビー(画面外):
「どういう意味ですか」
マリア:
「あの男の目。前と違う」
トビー:
「……」
マリア:
「前は……軽薄だった。金のことしか考えてない、ただの営業マンの目」
トビー:
「今は」
マリア:
「……冷たい」
トビー:
「……」
マリア:
「笑ってるのに、目が笑ってねえ」
トビー:
「……気づいていましたか」
マリア:
「ああ。あいつ、何かを隠してる」
トビー:
「……」
マリア:
「お前も知ってんだろ」
トビー:
「……」
マリア:
「話せ」
トビー:
「……今は」
マリア:
「今話せ」
トビー:
「……撮影が終わったら」
マリア:
「……」
(マリアがトビーの目を見る)
マリア:
「……分かった。でも、絶対に話せよ」
トビー:
「はい」
マリア:
「逃げたら殺す」
トビー:
「ゴブリンですので、足は遅いです」
マリア:
「……」
-----
【映像ログ:未公開(撮影中断・午前11時30分)】
(氷の洞窟・広間。全員が集まっている)
カルロス:
「さあ、ノアさん。このサプリを飲んでください」
ノア:
「あの……飲まなきゃ、いけないんですか」
カルロス:
「もちろんです。撮影ですから」
ノア:
「でも、僕、体調は……」
カルロス:
「大丈夫ですよ。このサプリは、魔力の安定化に最適なんです」
マリア:
「待て」
カルロス:
「はい?」
マリア:
「成分表を見せろ」
カルロス:
「企業秘密です」
マリア:
「なら、飲ませられねえ」
カルロス:
「困りましたねえ」
(カルロスが指を鳴らす)
(洞窟の入口から、黒い服を着た集団が入ってくる)
レオ:
「……え」
マリア:
「……」
(武装した男たちが、一行を取り囲む)
カルロス:
「ご紹介しましょう。エリクシール社の『回収班』です」
トビー(カメラ越し):
「……回収班」
カルロス:
「彼らは、我が社の『商品』を回収する専門チームなんですよ」
マリア:
「商品だと」
カルロス:
「ええ。被験者012……いえ、ノアさんは、我が社の大切な『商品』ですから」
ノア:
「……」
レオ:
「おい、何言ってんだこの人」
カルロス:
「あなたには関係ない話ですよ、勇者さん」
レオ:
「関係ないって……ノアは仲間だぞ」
カルロス:
「仲間? ああ、そういう設定でしたね。番組上は」
レオ:
「設定じゃねえよ!」
カルロス:
「……」
(カルロスの目が、一瞬冷たくなる)
カルロス:
「まあ、いいでしょう。とにかく、ノアさんにはこのサプリを飲んでいただきます」
マリア:
「断る」
カルロス:
「選択肢はありませんよ」
(回収班が武器を構える)
マリア:
「……っ」
監督:
「あ、あの、これは撮影なんですか……?」
カルロス:
「ええ、撮影ですよ。最高の映像が撮れるはずです」
監督:
「は、はあ……」
カルロス:
「さあ、ノアさん。抵抗しても無駄です。大人しくサプリを」
ノア:
「嫌です」
カルロス:
「……」
ノア:
「僕は……飲みません」
カルロス:
「……そうですか」
(カルロスが手を上げる)
カルロス:
「では、強制的に飲ませてください」
(回収班がノアに近づく)
マリア:
「させるかよ!」
(マリアが杖を構える)
(回収班の一人がマリアの腕を掴む)
マリア:
「くっ……!」
レオ:
「おい、離せ!」
(レオが剣を抜こうとするが、回収班に押さえつけられる)
レオ:
「俺の顔に傷つけたら国際問題だぞ!」
回収班A:
「……」
レオ:
「聞いてんのか! 俺の事務所が黙ってねえからな!」
回収班B:
「……事務所の連絡先は」
レオ:
「教えない!」
マリア:
「このタイミングでそれかよ!」
-----
【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3
カメラを回していた。
ずっと、回していた。
俺は記録係だ。
傍観者だ。
だが。
ノアが泣いていた。
小さな声で「助けて」と言っていた。
マリアが押さえつけられていた。
レオが叫んでいた。
俺は何をしている。
カメラを構えて。
何を撮っている。
これは番組じゃない。
現実だ。
ノアが、殺されようとしている。
-----
【映像ログ:未公開(転換点・午前11時45分)】
(氷の洞窟・広間。ノアが回収班に囲まれている)
カルロス:
「さあ、口を開けてください」
ノア:
「……嫌だ」
カルロス:
「困りましたね。では、強制的に」
(回収班がノアの顎を掴む)
ノア:
「やめて……!」
マリア:
「ノア!」
レオ:
「離せっつってんだろ!」
カルロス:
「ああ、そうそう。007のことはご存知ですか?」
マリア:
「……」
カルロス:
「逃亡していた被験者007。先日、無事に回収しました」
ノア:
「……!」
カルロス:
「今は、商品開発の『素材』として再利用されていますよ。エコですよね」
ノア:
「……素材」
カルロス:
「ええ。被験者は、我が社にとって貴重な実験材料ですから。一人たりとも無駄にはしません」
マリア:
「……てめえ」
カルロス:
「さあ、ノアさん。あなたも大人しくしていれば、007のようにはなりませんよ」
カルロス:
「たぶん」
ノア:
「……」
(ノアの目から涙がこぼれる)
ノア:
「トビーさん……」
トビー:
「……」
ノア:
「助けて……」
トビー:
「……」
(トビーの手が震える)
(カメラが揺れる)
トビー(独白):
「俺は、ゴブリンだ」
トビー(独白):
「人間たちにこき使われて生きてきた」
トビー(独白):
「長生きするために、余計なことに首を突っ込まないようにしてきた」
トビー(独白):
「だが」
(トビーがカメラを下ろす)
トビー:
「……もう、限界だ」
カルロス:
「ん? 何か言いましたか、カメラマンさん」
トビー:
「俺は」
(トビーがカメラを持ち直す)
トビー:
「このカメラで、全てを記録してきた」
カルロス:
「……」
トビー:
「あんたたちの陰謀も。被験者リストも。PROJECT VESSELも」
カルロス:
「……なるほど。知っていましたか」
トビー:
「ああ」
カルロス:
「だから、胃薬を入れ替えたんですよ。飲んでくれませんでしたか?」
トビー:
「ゴブリンの嗅覚を舐めるな」
カルロス:
「……ふむ」
トビー:
「俺は、このカメラの映像を、王国中に配信できる」
カルロス:
「……」
トビー:
「エリクシール社の人体実験。被験者への非道な扱い。全てを、生中継で」
カルロス:
「……ほう」
(トビーが緊急配信ボタンに指をかける)
トビー:
「今すぐノアを離せ。さもないと、このボタンを押す」
(トビーがカメラの緊急配信ボタンに指をかける)
カルロス:
「……」
(5秒の沈黙)
カルロス:
「……面白い」
トビー:
「……」
カルロス:
「ゴブリンの分際で、私に交渉を持ちかけるとは」
トビー:
「種族は関係ない」
カルロス:
「いいえ、関係ありますよ。ゴブリンの証言など、誰が信じると思いますか?」
トビー:
「……」
カルロス:
「映像があっても、『捏造だ』と言えばいい。ゴブリンが作った偽物だと」
トビー:
「……」
カルロス:
「あなたには、何の力もない」
トビー:
「……」
マリア:
「……おい」
カルロス:
「ん?」
マリア:
「俺がいる」
カルロス:
「……」
マリア:
「俺は聖女だ。王国が認めた、正式な聖女」
カルロス:
「……」
マリア:
「俺の証言なら、信じるだろ」
カルロス:
「……」
レオ:
「俺もいるぞ」
カルロス:
「……」
レオ:
「俺は勇者だ。顔面偏差値最高の、正義の勇者」
マリア:
「顔面偏差値は関係ねえよ」
レオ:
「うるせえ。とにかく、俺も証言する」
カルロス:
「……」
ノア:
「……僕も」
カルロス:
「……」
ノア:
「僕は、被験者012です。証拠は、この身体に刻まれています」
カルロス:
「……」
トビー:
「どうだ。まだ『捏造』だと言えるか」
カルロス:
「……」
(カルロスが笑い出す)
カルロス:
「はっはっは! 素晴らしい!」
トビー:
「……」
カルロス:
「チームワークですか。いいですねえ、感動しました」
トビー:
「……」
カルロス:
「でもね」
(カルロスの目が、完全に冷え切る)
カルロス:
「全員、口を封じればいいだけの話です」
(カルロスが指を鳴らす)
カルロス:
「回収班。全員、確保してください」
(回収班が一斉に動き出す)
トビー:
「……!」
(トビーが緊急配信ボタンを押す)
カルロス:
「遅い」
(回収班の一人がトビーのカメラを叩き落とす)
トビー:
「くっ……!」
(カメラが氷の床に落ちる)
(画面が乱れる)
(緊急配信は、間に合わなかった)
氷河の試練編(冒頭部分)
ナレーション:
「極寒の大地。永久凍土に眠る、古代の力」
(壮大な氷河の映像。壮厳なBGM)
レオ:
「ここに……伝説の氷竜が眠っているのか」
マリア:
「油断するな。氷の魔獣は、沈黙のうちに獲物を狩る」
ノア:
「僕が、魔法で道を切り開きます」
ナレーション:
「勇者一行は、氷の迷宮へと足を踏み入れる」
(三人が氷の洞窟に入っていく映像)
レオ:
「恐れるな。俺の剣が、お前たちを守る」
マリア:
「……ああ。共に進もう」
ノア:
「はい……最後まで」
-----
【映像ログ:未公開(氷の洞窟内・午前11時)】
(氷の洞窟。青白い光が反射している)
レオ:
「ここ、意外と寒くないな」
マリア:
「外よりはマシだ。風がないからな」
ノア:
「氷の壁が、光を反射してて……綺麗ですね」
レオ:
「お、いい背景じゃん。ここで撮ろうぜ」
マリア:
「お前の自撮りスポットじゃねえんだよ」
レオ:
「いや、でもほら、この角度」
(レオが顎を上げる)
レオ:
「氷の青と俺の瞳の色、補色関係になるんだよ」
マリア:
「……知らねえよ」
監督:
「では、ここで最初のシーンを撮りましょう。魔法使いが氷壁を破るシーンです」
ノア:
「僕が……ですか」
監督:
「はい。炎の魔法で氷を溶かすイメージで」
ノア:
「分かりました」
(ノアが杖を構える)
ノア:
「ファイア……」
(小さな炎が灯る)
(氷壁が少しだけ溶ける)
監督:
「カット! もう少し派手にお願いします」
ノア:
「す、すみません。力加減が……」
レオ:
「大丈夫だって。俺なんかテイク50回とかザラだし」
マリア:
「お前と一緒にすんな」
レオ:
「励ましてんだよ!」
マリア:
「励ましになってねえ」
(洞窟の奥から、足音が響いてくる)
マリア:
「……」
トビー(カメラ越し):
「……来た」
(金色のコートを着た男が現れる)
カルロス:
「やあやあ、皆さん! お久しぶりです!」
レオ:
「あ、金ピカの人」
カルロス:
「カルロスです。名前で呼んでくださいね」
マリア:
「……何の用だ」
カルロス:
「いやあ、今日は素晴らしいお知らせがあるんですよ」
(カルロスが鞄から小瓶を取り出す)
カルロス:
「新商品『暴走抑制サプリ』! 魔法使いの皆さん必携の一品です!」
ノア:
「……」
カルロス:
「魔力の暴走を防ぎ、安定した魔法発動をサポート! 副作用も……」
(カルロスがにっこり笑う)
カルロス:
「たぶん、ありません」
マリア:
「たぶん?」
カルロス:
「まあ、細かいことは気にしないでください」
マリア:
「……」
カルロス:
「で、ですね。本日は特別に、このサプリの効果を実証する撮影を行いたいと思います」
監督:
「え、あの、台本には……」
カルロス:
「台本は変更です。スポンサーの意向ですので」
監督:
「は、はあ……」
カルロス:
「魔法使いのノアさん」
ノア:
「……はい」
カルロス:
「あなたに、このサプリを飲んでいただきます」
-----
【個別インタビュー】
聖女マリア/告白部屋(洞窟の隅)
(薬草巻きに火をつけようとして、やめる)
マリア:
「……嫌な予感がする」
トビー(画面外):
「どういう意味ですか」
マリア:
「あの男の目。前と違う」
トビー:
「……」
マリア:
「前は……軽薄だった。金のことしか考えてない、ただの営業マンの目」
トビー:
「今は」
マリア:
「……冷たい」
トビー:
「……」
マリア:
「笑ってるのに、目が笑ってねえ」
トビー:
「……気づいていましたか」
マリア:
「ああ。あいつ、何かを隠してる」
トビー:
「……」
マリア:
「お前も知ってんだろ」
トビー:
「……」
マリア:
「話せ」
トビー:
「……今は」
マリア:
「今話せ」
トビー:
「……撮影が終わったら」
マリア:
「……」
(マリアがトビーの目を見る)
マリア:
「……分かった。でも、絶対に話せよ」
トビー:
「はい」
マリア:
「逃げたら殺す」
トビー:
「ゴブリンですので、足は遅いです」
マリア:
「……」
-----
【映像ログ:未公開(撮影中断・午前11時30分)】
(氷の洞窟・広間。全員が集まっている)
カルロス:
「さあ、ノアさん。このサプリを飲んでください」
ノア:
「あの……飲まなきゃ、いけないんですか」
カルロス:
「もちろんです。撮影ですから」
ノア:
「でも、僕、体調は……」
カルロス:
「大丈夫ですよ。このサプリは、魔力の安定化に最適なんです」
マリア:
「待て」
カルロス:
「はい?」
マリア:
「成分表を見せろ」
カルロス:
「企業秘密です」
マリア:
「なら、飲ませられねえ」
カルロス:
「困りましたねえ」
(カルロスが指を鳴らす)
(洞窟の入口から、黒い服を着た集団が入ってくる)
レオ:
「……え」
マリア:
「……」
(武装した男たちが、一行を取り囲む)
カルロス:
「ご紹介しましょう。エリクシール社の『回収班』です」
トビー(カメラ越し):
「……回収班」
カルロス:
「彼らは、我が社の『商品』を回収する専門チームなんですよ」
マリア:
「商品だと」
カルロス:
「ええ。被験者012……いえ、ノアさんは、我が社の大切な『商品』ですから」
ノア:
「……」
レオ:
「おい、何言ってんだこの人」
カルロス:
「あなたには関係ない話ですよ、勇者さん」
レオ:
「関係ないって……ノアは仲間だぞ」
カルロス:
「仲間? ああ、そういう設定でしたね。番組上は」
レオ:
「設定じゃねえよ!」
カルロス:
「……」
(カルロスの目が、一瞬冷たくなる)
カルロス:
「まあ、いいでしょう。とにかく、ノアさんにはこのサプリを飲んでいただきます」
マリア:
「断る」
カルロス:
「選択肢はありませんよ」
(回収班が武器を構える)
マリア:
「……っ」
監督:
「あ、あの、これは撮影なんですか……?」
カルロス:
「ええ、撮影ですよ。最高の映像が撮れるはずです」
監督:
「は、はあ……」
カルロス:
「さあ、ノアさん。抵抗しても無駄です。大人しくサプリを」
ノア:
「嫌です」
カルロス:
「……」
ノア:
「僕は……飲みません」
カルロス:
「……そうですか」
(カルロスが手を上げる)
カルロス:
「では、強制的に飲ませてください」
(回収班がノアに近づく)
マリア:
「させるかよ!」
(マリアが杖を構える)
(回収班の一人がマリアの腕を掴む)
マリア:
「くっ……!」
レオ:
「おい、離せ!」
(レオが剣を抜こうとするが、回収班に押さえつけられる)
レオ:
「俺の顔に傷つけたら国際問題だぞ!」
回収班A:
「……」
レオ:
「聞いてんのか! 俺の事務所が黙ってねえからな!」
回収班B:
「……事務所の連絡先は」
レオ:
「教えない!」
マリア:
「このタイミングでそれかよ!」
-----
【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3
カメラを回していた。
ずっと、回していた。
俺は記録係だ。
傍観者だ。
だが。
ノアが泣いていた。
小さな声で「助けて」と言っていた。
マリアが押さえつけられていた。
レオが叫んでいた。
俺は何をしている。
カメラを構えて。
何を撮っている。
これは番組じゃない。
現実だ。
ノアが、殺されようとしている。
-----
【映像ログ:未公開(転換点・午前11時45分)】
(氷の洞窟・広間。ノアが回収班に囲まれている)
カルロス:
「さあ、口を開けてください」
ノア:
「……嫌だ」
カルロス:
「困りましたね。では、強制的に」
(回収班がノアの顎を掴む)
ノア:
「やめて……!」
マリア:
「ノア!」
レオ:
「離せっつってんだろ!」
カルロス:
「ああ、そうそう。007のことはご存知ですか?」
マリア:
「……」
カルロス:
「逃亡していた被験者007。先日、無事に回収しました」
ノア:
「……!」
カルロス:
「今は、商品開発の『素材』として再利用されていますよ。エコですよね」
ノア:
「……素材」
カルロス:
「ええ。被験者は、我が社にとって貴重な実験材料ですから。一人たりとも無駄にはしません」
マリア:
「……てめえ」
カルロス:
「さあ、ノアさん。あなたも大人しくしていれば、007のようにはなりませんよ」
カルロス:
「たぶん」
ノア:
「……」
(ノアの目から涙がこぼれる)
ノア:
「トビーさん……」
トビー:
「……」
ノア:
「助けて……」
トビー:
「……」
(トビーの手が震える)
(カメラが揺れる)
トビー(独白):
「俺は、ゴブリンだ」
トビー(独白):
「人間たちにこき使われて生きてきた」
トビー(独白):
「長生きするために、余計なことに首を突っ込まないようにしてきた」
トビー(独白):
「だが」
(トビーがカメラを下ろす)
トビー:
「……もう、限界だ」
カルロス:
「ん? 何か言いましたか、カメラマンさん」
トビー:
「俺は」
(トビーがカメラを持ち直す)
トビー:
「このカメラで、全てを記録してきた」
カルロス:
「……」
トビー:
「あんたたちの陰謀も。被験者リストも。PROJECT VESSELも」
カルロス:
「……なるほど。知っていましたか」
トビー:
「ああ」
カルロス:
「だから、胃薬を入れ替えたんですよ。飲んでくれませんでしたか?」
トビー:
「ゴブリンの嗅覚を舐めるな」
カルロス:
「……ふむ」
トビー:
「俺は、このカメラの映像を、王国中に配信できる」
カルロス:
「……」
トビー:
「エリクシール社の人体実験。被験者への非道な扱い。全てを、生中継で」
カルロス:
「……ほう」
(トビーが緊急配信ボタンに指をかける)
トビー:
「今すぐノアを離せ。さもないと、このボタンを押す」
(トビーがカメラの緊急配信ボタンに指をかける)
カルロス:
「……」
(5秒の沈黙)
カルロス:
「……面白い」
トビー:
「……」
カルロス:
「ゴブリンの分際で、私に交渉を持ちかけるとは」
トビー:
「種族は関係ない」
カルロス:
「いいえ、関係ありますよ。ゴブリンの証言など、誰が信じると思いますか?」
トビー:
「……」
カルロス:
「映像があっても、『捏造だ』と言えばいい。ゴブリンが作った偽物だと」
トビー:
「……」
カルロス:
「あなたには、何の力もない」
トビー:
「……」
マリア:
「……おい」
カルロス:
「ん?」
マリア:
「俺がいる」
カルロス:
「……」
マリア:
「俺は聖女だ。王国が認めた、正式な聖女」
カルロス:
「……」
マリア:
「俺の証言なら、信じるだろ」
カルロス:
「……」
レオ:
「俺もいるぞ」
カルロス:
「……」
レオ:
「俺は勇者だ。顔面偏差値最高の、正義の勇者」
マリア:
「顔面偏差値は関係ねえよ」
レオ:
「うるせえ。とにかく、俺も証言する」
カルロス:
「……」
ノア:
「……僕も」
カルロス:
「……」
ノア:
「僕は、被験者012です。証拠は、この身体に刻まれています」
カルロス:
「……」
トビー:
「どうだ。まだ『捏造』だと言えるか」
カルロス:
「……」
(カルロスが笑い出す)
カルロス:
「はっはっは! 素晴らしい!」
トビー:
「……」
カルロス:
「チームワークですか。いいですねえ、感動しました」
トビー:
「……」
カルロス:
「でもね」
(カルロスの目が、完全に冷え切る)
カルロス:
「全員、口を封じればいいだけの話です」
(カルロスが指を鳴らす)
カルロス:
「回収班。全員、確保してください」
(回収班が一斉に動き出す)
トビー:
「……!」
(トビーが緊急配信ボタンを押す)
カルロス:
「遅い」
(回収班の一人がトビーのカメラを叩き落とす)
トビー:
「くっ……!」
(カメラが氷の床に落ちる)
(画面が乱れる)
(緊急配信は、間に合わなかった)
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