国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

チャビューヘ

文字の大きさ
26 / 43

テイク11「器の代償」中編1

しおりを挟む
【映像ログ:ON AIR(放送用)】
氷河の試練編(冒頭部分)

ナレーション:
「極寒の大地。永久凍土に眠る、古代の力」

(壮大な氷河の映像。壮厳なBGM)

レオ:
「ここに……伝説の氷竜が眠っているのか」

マリア:
「油断するな。氷の魔獣は、沈黙のうちに獲物を狩る」

ノア:
「僕が、魔法で道を切り開きます」

ナレーション:
「勇者一行は、氷の迷宮へと足を踏み入れる」

(三人が氷の洞窟に入っていく映像)

レオ:
「恐れるな。俺の剣が、お前たちを守る」

マリア:
「……ああ。共に進もう」

ノア:
「はい……最後まで」

-----

【映像ログ:未公開(氷の洞窟内・午前11時)】

(氷の洞窟。青白い光が反射している)

レオ:
「ここ、意外と寒くないな」

マリア:
「外よりはマシだ。風がないからな」

ノア:
「氷の壁が、光を反射してて……綺麗ですね」

レオ:
「お、いい背景じゃん。ここで撮ろうぜ」

マリア:
「お前の自撮りスポットじゃねえんだよ」

レオ:
「いや、でもほら、この角度」

(レオが顎を上げる)

レオ:
「氷の青と俺の瞳の色、補色関係になるんだよ」

マリア:
「……知らねえよ」

監督:
「では、ここで最初のシーンを撮りましょう。魔法使いが氷壁を破るシーンです」

ノア:
「僕が……ですか」

監督:
「はい。炎の魔法で氷を溶かすイメージで」

ノア:
「分かりました」

(ノアが杖を構える)

ノア:
「ファイア……」

(小さな炎が灯る)

(氷壁が少しだけ溶ける)

監督:
「カット! もう少し派手にお願いします」

ノア:
「す、すみません。力加減が……」

レオ:
「大丈夫だって。俺なんかテイク50回とかザラだし」

マリア:
「お前と一緒にすんな」

レオ:
「励ましてんだよ!」

マリア:
「励ましになってねえ」

(洞窟の奥から、足音が響いてくる)

マリア:
「……」

トビー(カメラ越し):
「……来た」

(金色のコートを着た男が現れる)

カルロス:
「やあやあ、皆さん! お久しぶりです!」

レオ:
「あ、金ピカの人」

カルロス:
「カルロスです。名前で呼んでくださいね」

マリア:
「……何の用だ」

カルロス:
「いやあ、今日は素晴らしいお知らせがあるんですよ」

(カルロスが鞄から小瓶を取り出す)

カルロス:
「新商品『暴走抑制サプリ』! 魔法使いの皆さん必携の一品です!」

ノア:
「……」

カルロス:
「魔力の暴走を防ぎ、安定した魔法発動をサポート! 副作用も……」

(カルロスがにっこり笑う)

カルロス:
「たぶん、ありません」

マリア:
「たぶん?」

カルロス:
「まあ、細かいことは気にしないでください」

マリア:
「……」

カルロス:
「で、ですね。本日は特別に、このサプリの効果を実証する撮影を行いたいと思います」

監督:
「え、あの、台本には……」

カルロス:
「台本は変更です。スポンサーの意向ですので」

監督:
「は、はあ……」

カルロス:
「魔法使いのノアさん」

ノア:
「……はい」

カルロス:
「あなたに、このサプリを飲んでいただきます」

-----

【個別インタビュー】
聖女マリア/告白部屋(洞窟の隅)

(薬草巻きに火をつけようとして、やめる)

マリア:
「……嫌な予感がする」

トビー(画面外):
「どういう意味ですか」

マリア:
「あの男の目。前と違う」

トビー:
「……」

マリア:
「前は……軽薄だった。金のことしか考えてない、ただの営業マンの目」

トビー:
「今は」

マリア:
「……冷たい」

トビー:
「……」

マリア:
「笑ってるのに、目が笑ってねえ」

トビー:
「……気づいていましたか」

マリア:
「ああ。あいつ、何かを隠してる」

トビー:
「……」

マリア:
「お前も知ってんだろ」

トビー:
「……」

マリア:
「話せ」

トビー:
「……今は」

マリア:
「今話せ」

トビー:
「……撮影が終わったら」

マリア:
「……」

(マリアがトビーの目を見る)

マリア:
「……分かった。でも、絶対に話せよ」

トビー:
「はい」

マリア:
「逃げたら殺す」

トビー:
「ゴブリンですので、足は遅いです」

マリア:
「……」

-----

【映像ログ:未公開(撮影中断・午前11時30分)】

(氷の洞窟・広間。全員が集まっている)

カルロス:
「さあ、ノアさん。このサプリを飲んでください」

ノア:
「あの……飲まなきゃ、いけないんですか」

カルロス:
「もちろんです。撮影ですから」

ノア:
「でも、僕、体調は……」

カルロス:
「大丈夫ですよ。このサプリは、魔力の安定化に最適なんです」

マリア:
「待て」

カルロス:
「はい?」

マリア:
「成分表を見せろ」

カルロス:
「企業秘密です」

マリア:
「なら、飲ませられねえ」

カルロス:
「困りましたねえ」

(カルロスが指を鳴らす)

(洞窟の入口から、黒い服を着た集団が入ってくる)

レオ:
「……え」

マリア:
「……」

(武装した男たちが、一行を取り囲む)

カルロス:
「ご紹介しましょう。エリクシール社の『回収班』です」

トビー(カメラ越し):
「……回収班」

カルロス:
「彼らは、我が社の『商品』を回収する専門チームなんですよ」

マリア:
「商品だと」

カルロス:
「ええ。被験者012……いえ、ノアさんは、我が社の大切な『商品』ですから」

ノア:
「……」

レオ:
「おい、何言ってんだこの人」

カルロス:
「あなたには関係ない話ですよ、勇者さん」

レオ:
「関係ないって……ノアは仲間だぞ」

カルロス:
「仲間? ああ、そういう設定でしたね。番組上は」

レオ:
「設定じゃねえよ!」

カルロス:
「……」

(カルロスの目が、一瞬冷たくなる)

カルロス:
「まあ、いいでしょう。とにかく、ノアさんにはこのサプリを飲んでいただきます」

マリア:
「断る」

カルロス:
「選択肢はありませんよ」

(回収班が武器を構える)

マリア:
「……っ」

監督:
「あ、あの、これは撮影なんですか……?」

カルロス:
「ええ、撮影ですよ。最高の映像が撮れるはずです」

監督:
「は、はあ……」

カルロス:
「さあ、ノアさん。抵抗しても無駄です。大人しくサプリを」

ノア:
「嫌です」

カルロス:
「……」

ノア:
「僕は……飲みません」

カルロス:
「……そうですか」

(カルロスが手を上げる)

カルロス:
「では、強制的に飲ませてください」

(回収班がノアに近づく)

マリア:
「させるかよ!」

(マリアが杖を構える)

(回収班の一人がマリアの腕を掴む)

マリア:
「くっ……!」

レオ:
「おい、離せ!」

(レオが剣を抜こうとするが、回収班に押さえつけられる)

レオ:
「俺の顔に傷つけたら国際問題だぞ!」

回収班A:
「……」

レオ:
「聞いてんのか! 俺の事務所が黙ってねえからな!」

回収班B:
「……事務所の連絡先は」

レオ:
「教えない!」

マリア:
「このタイミングでそれかよ!」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3

カメラを回していた。
ずっと、回していた。

俺は記録係だ。
傍観者だ。

だが。

ノアが泣いていた。
小さな声で「助けて」と言っていた。
マリアが押さえつけられていた。
レオが叫んでいた。

俺は何をしている。

カメラを構えて。
何を撮っている。

これは番組じゃない。
現実だ。

ノアが、殺されようとしている。

-----

【映像ログ:未公開(転換点・午前11時45分)】

(氷の洞窟・広間。ノアが回収班に囲まれている)

カルロス:
「さあ、口を開けてください」

ノア:
「……嫌だ」

カルロス:
「困りましたね。では、強制的に」

(回収班がノアの顎を掴む)

ノア:
「やめて……!」

マリア:
「ノア!」

レオ:
「離せっつってんだろ!」

カルロス:
「ああ、そうそう。007のことはご存知ですか?」

マリア:
「……」

カルロス:
「逃亡していた被験者007。先日、無事に回収しました」

ノア:
「……!」

カルロス:
「今は、商品開発の『素材』として再利用されていますよ。エコですよね」

ノア:
「……素材」

カルロス:
「ええ。被験者は、我が社にとって貴重な実験材料ですから。一人たりとも無駄にはしません」

マリア:
「……てめえ」

カルロス:
「さあ、ノアさん。あなたも大人しくしていれば、007のようにはなりませんよ」

カルロス:
「たぶん」

ノア:
「……」

(ノアの目から涙がこぼれる)

ノア:
「トビーさん……」

トビー:
「……」

ノア:
「助けて……」

トビー:
「……」

(トビーの手が震える)

(カメラが揺れる)

トビー(独白):
「俺は、ゴブリンだ」

トビー(独白):
「人間たちにこき使われて生きてきた」

トビー(独白):
「長生きするために、余計なことに首を突っ込まないようにしてきた」

トビー(独白):
「だが」

(トビーがカメラを下ろす)

トビー:
「……もう、限界だ」

カルロス:
「ん? 何か言いましたか、カメラマンさん」

トビー:
「俺は」

(トビーがカメラを持ち直す)

トビー:
「このカメラで、全てを記録してきた」

カルロス:
「……」

トビー:
「あんたたちの陰謀も。被験者リストも。PROJECT VESSELも」

カルロス:
「……なるほど。知っていましたか」

トビー:
「ああ」

カルロス:
「だから、胃薬を入れ替えたんですよ。飲んでくれませんでしたか?」

トビー:
「ゴブリンの嗅覚を舐めるな」

カルロス:
「……ふむ」

トビー:
「俺は、このカメラの映像を、王国中に配信できる」

カルロス:
「……」

トビー:
「エリクシール社の人体実験。被験者への非道な扱い。全てを、生中継で」

カルロス:
「……ほう」

(トビーが緊急配信ボタンに指をかける)

トビー:
「今すぐノアを離せ。さもないと、このボタンを押す」

(トビーがカメラの緊急配信ボタンに指をかける)

カルロス:
「……」

(5秒の沈黙)

カルロス:
「……面白い」

トビー:
「……」

カルロス:
「ゴブリンの分際で、私に交渉を持ちかけるとは」

トビー:
「種族は関係ない」

カルロス:
「いいえ、関係ありますよ。ゴブリンの証言など、誰が信じると思いますか?」

トビー:
「……」

カルロス:
「映像があっても、『捏造だ』と言えばいい。ゴブリンが作った偽物だと」

トビー:
「……」

カルロス:
「あなたには、何の力もない」

トビー:
「……」

マリア:
「……おい」

カルロス:
「ん?」

マリア:
「俺がいる」

カルロス:
「……」

マリア:
「俺は聖女だ。王国が認めた、正式な聖女」

カルロス:
「……」

マリア:
「俺の証言なら、信じるだろ」

カルロス:
「……」

レオ:
「俺もいるぞ」

カルロス:
「……」

レオ:
「俺は勇者だ。顔面偏差値最高の、正義の勇者」

マリア:
「顔面偏差値は関係ねえよ」

レオ:
「うるせえ。とにかく、俺も証言する」

カルロス:
「……」

ノア:
「……僕も」

カルロス:
「……」

ノア:
「僕は、被験者012です。証拠は、この身体に刻まれています」

カルロス:
「……」

トビー:
「どうだ。まだ『捏造』だと言えるか」

カルロス:
「……」

(カルロスが笑い出す)

カルロス:
「はっはっは! 素晴らしい!」

トビー:
「……」

カルロス:
「チームワークですか。いいですねえ、感動しました」

トビー:
「……」

カルロス:
「でもね」

(カルロスの目が、完全に冷え切る)

カルロス:
「全員、口を封じればいいだけの話です」

(カルロスが指を鳴らす)

カルロス:
「回収班。全員、確保してください」

(回収班が一斉に動き出す)

トビー:
「……!」

(トビーが緊急配信ボタンを押す)

カルロス:
「遅い」

(回収班の一人がトビーのカメラを叩き落とす)

トビー:
「くっ……!」

(カメラが氷の床に落ちる)

(画面が乱れる)

(緊急配信は、間に合わなかった)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

処理中です...