国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク11「器の代償」中編2

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【映像ログ:未公開(乱戦・午前11時50分)】

(氷の洞窟・広間。乱戦状態)

(カメラは床に転がっているが、まだ録画されている)

マリア(声):
「くそっ……! 多すぎる……!」

レオ(声):
「俺の顔に……当てんなよ……!」

回収班(声):
「抵抗するな!」

ノア(声):
「……」

(ノアの足が映る)

(ノアが倒れる)

カルロス(声):
「さあ、飲みなさい」

ノア(声):
「嫌……だ……」

カルロス(声):
「抵抗しても無駄ですよ。口を開けなさい」

ノア(声):
「……」

(カメラの角度が変わる)

(誰かがカメラを拾い上げる)

トビー:
「……」

(トビーの顔が映る)

(額から血が流れている)

トビー:
「……まだだ」

(トビーがカメラを構え直す)

トビー:
「俺は……記録係だ」

(トビーがカルロスに向かって走る)

トビー:
「この瞬間を、記録する!」

(トビーがカメラをカルロスの顔面に叩きつける)

カルロス:
「ぐっ……!」

(カルロスが後退する)

(ノアの口元から、小瓶が落ちる)

トビー:
「ノア! 逃げろ!」

ノア:
「トビーさん……!」

(マリアが回収班を振り払う)

マリア:
「ノア! こっちだ!」

(レオが剣を振り回す)

レオ:
「道を開けろ!」

回収班C:
「くっ……!」

(一行が洞窟の奥へ逃げる)

カルロス:
「……」

(カルロスが顔を押さえている)

カルロス:
「追え。逃がすな」

回収班D:
「了解」

カルロス:
「特に……あのゴブリンを」

回収班D:
「……」

カルロス:
「殺しても構いません」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その4

逃げた。
四人で、氷の洞窟の奥へ。

回収班が追ってくる。
だが、洞窟の構造が複雑で、一時的に撒いた。

今、小さな空洞に隠れている。

マリアが俺の額の傷を治療してくれた。
「ヒール」と言いながら、普通に包帯を巻いただけだったが。

レオが見張りをしている。
「俺の顔に傷がなくてよかった」と言っていた。
相変わらずだ。

ノアは震えていた。
でも、泣き止んでいた。

俺は、四人に全てを話した。

PROJECT VESSEL。
被験者リスト。
エリクシール社の陰謀。
俺の胃薬が毒にすり替えられていたこと。
ザックからの警告。

全てを。

-----

【映像ログ:未公開(告白・正午)】

(氷の洞窟・隠れ場所。小さな空洞)

マリア:
「……全部、知ってたのか」

トビー:
「第4話あたりから、少しずつ」

マリア:
「なんで黙ってた」

トビー:
「……長生きしたかったからです」

マリア:
「……」

トビー:
「ゴブリンが陰謀に首を突っ込んで、いいことなんかない。そう思っていました」

マリア:
「……」

トビー:
「でも」

マリア:
「……」

トビー:
「ノアが泣いているのを見て。助けを求めているのを見て」

マリア:
「……」

トビー:
「黙っていられなくなりました」

レオ:
「……」

ノア:
「トビーさん……」

トビー:
「すみません。もっと早く話すべきでした」

マリア:
「……」

(5秒の沈黙)

マリア:
「……謝んな」

トビー:
「……」

マリア:
「お前は、戦った。俺たちのために」

トビー:
「……」

マリア:
「それで十分だ」

トビー:
「……」

レオ:
「俺も同意見」

トビー:
「……」

レオ:
「つーか、お前すげえな。カメラであの金ピカ殴ったの、マジでかっこよかった」

トビー:
「……壊れましたけど」

レオ:
「え」

トビー:
「カメラ。壊れました」

レオ:
「……マジ?」

トビー:
「はい。顔面に叩きつけたので」

レオ:
「……」

マリア:
「……ぷっ」

レオ:
「え、笑うとこ?」

マリア:
「いや……なんか、お前らしいなって」

トビー:
「……ゴブリンですので」

マリア:
「それ、意味分かんねえって言ってるだろ」

-----

【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋(空洞の隅)

(まだ少し震えている)

ノア:
「怖かった……です」

トビー(画面外):
「……」

ノア:
「でも……トビーさんが助けてくれた」

トビー:
「俺だけじゃありません。マリアさんも、レオさんも」

ノア:
「……はい」

トビー:
「……」

ノア:
「トビーさん」

トビー:
「はい」

ノア:
「僕……被験者なんですよね」

トビー:
「……はい」

ノア:
「実験の……素材」

トビー:
「……」

ノア:
「007は……もう」

トビー:
「……」

ノア:
「僕も、同じになるところだった」

トビー:
「……」

ノア:
「怖い」

トビー:
「……」

ノア:
「でも」

(ノアが顔を上げる)

ノア:
「逃げたくない」

トビー:
「……」

ノア:
「僕は……僕のことを知りたい。何者なのか。何のために作られたのか」

トビー:
「……」

ノア:
「そして……同じように苦しんでいる人を、助けたい」

トビー:
「……」

ノア:
「カイルくんも。もしかしたら、まだ捕まっていない被験者も」

トビー:
「……」

ノア:
「僕に……できることがあるなら」

トビー:
「……」

ノア:
「戦いたい」

-----

【映像ログ:未公開(レオの告白・午後0時30分)】

(氷の洞窟・隠れ場所。レオが壁にもたれている)

レオ:
「なあ、トビー」

トビー:
「はい」

レオ:
「俺、ちょっと聞きたいことがあんだけど」

トビー:
「何ですか」

レオ:
「……被験者って、どうやって選ばれたんだ?」

トビー:
「書類によると、辺境の村出身で、魔力感受性が高い幼児が対象だったようです」

レオ:
「……そうか」

トビー:
「……」

レオ:
「俺さ」

トビー:
「はい」

レオ:
「王都の名門出身なんだよ」

トビー:
「……知っています」

レオ:
「親は貴族で、俺は生まれた時からイケメンで」

トビー:
「……」

レオ:
「でもさ」

トビー:
「……」

レオ:
「俺の顔、整いすぎだと思わない?」

トビー:
「……」

レオ:
「傷一つ残らない。ニキビもできない。肌荒れすら、数時間で治る」

トビー:
「……」

レオ:
「作り物みたいだよな」

トビー:
「……」

レオ:
「俺……もしかして」

トビー:
「……」

レオ:
「俺も、誰かに作られたんじゃねえかって」

トビー:
「……」

(10秒の沈黙)

トビー:
「……可能性はあります」

レオ:
「……だよな」

トビー:
「被験者リストには、あなたの名前はありませんでした。でも、別のプロジェクトがあったかもしれない」

レオ:
「……」

トビー:
「調べますか?」

レオ:
「……」

(レオが首を横に振る)

レオ:
「今は、いい」

トビー:
「……」

レオ:
「俺は自分の顔が好きだ。誰かに作られた顔だとしても」

トビー:
「……」

レオ:
「だから、傷つけさせるわけにはいかねえ」

トビー:
「……」

レオ:
「俺の顔のためにも、ノアのためにも、マリアのためにも」

トビー:
「……」

レオ:
「俺は戦う」

トビー:
「……」

レオ:
「……つーか、今カメラ回ってる?」

トビー:
「壊れてますが、音声だけ録音されてます」

レオ:
「マジかよ」

トビー:
「はい」

レオ:
「今の、かっこよく編集しといてくれ」

トビー:
「……」

レオ:
「頼むわ」

トビー:
「……努力します」

-----

【トビーの制作日誌】
補足メモ・その5

レオの言葉が、頭から離れない。

「俺の顔、整いすぎだと思わない?」

確かに、あの男の顔は異常だ。
傷が残らない。
肌荒れもしない。

普通じゃない。

被験者リストにレオの名前はなかった。
でも、PROJECT VESSELとは別の計画があったのかもしれない。

「成功例」の勇者を作る計画。

考えすぎか。
干し芋を齧る。
塩気は……適正だ。

判断は正しいはずだ。

俺は、もう傍観者じゃない。
当事者だ。

後戻りはできない。

-----

【映像ログ:未公開(脱出計画・午後1時)】

(氷の洞窟・隠れ場所。四人が集まっている)

マリア:
「さて、どうする」

レオ:
「どうするって……逃げるしかねえだろ」

マリア:
「監督は」

トビー:
「回収班に拘束されました。俺たちだけで動くしかありません」

マリア:
「……そうか」

レオ:
「あの人、大丈夫かな」

トビー:
「分かりません。でも、監督は『知りすぎたスタッフ』ではない。たぶん、解放されるはずです」

マリア:
「たぶん、か」

トビー:
「……カルロスの口癖が移りました」

マリア:
「縁起でもねえ」

マリア:
「逃げてどうする。王都に戻っても、奴らの手が回ってる」

トビー:
「俺の部屋は既に監視されていました」

マリア:
「だろうな」

ノア:
「じゃあ……どこに」

マリア:
「……」

トビー:
「一つ、心当たりがあります」

マリア:
「何だ」

トビー:
「魔王軍側に、ザックという仲間がいます」

レオ:
「魔王軍? 敵じゃん」

トビー:
「番組上は。でも、彼は俺と同じゴブリンで、同じくらいこき使われています」

マリア:
「……」

トビー:
「エリクシール社は、王国と魔王軍の両方に関わっています。つまり、敵の敵は味方かもしれない」

マリア:
「……魔王軍に逃げ込むってことか」

トビー:
「一時的に、です」

レオ:
「おい、それマジで言ってんの?」

トビー:
「他に案がありますか」

レオ:
「……」

マリア:
「……いいだろう。それで行こう」

レオ:
「マリア!?」

マリア:
「他に選択肢がねえんだよ。王都に戻れば捕まる。このまま洞窟にいても、いずれ見つかる」

レオ:
「でも……」

マリア:
「ノア」

ノア:
「はい」

マリア:
「カイルに連絡できるか」

ノア:
「……魔獣伝書鳩があれば」

マリア:
「トビー」

トビー:
「ここに」

(トビーが懐から小さな鳩を取り出す)

マリア:
「……用意がいいな」

トビー:
「ゴブリンですので」

マリア:
「だから意味分かんねえって」
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