国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク12「海賊放送、開始」中編4

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【個別インタビュー】
ADトビー/告白部屋(作戦会議室の隅)

(カメラを自分に向けて)

トビー:
「明日、俺たちは国家に喧嘩を売る」

(トビーが深呼吸する)

トビー:
「勝てる保証はない。信じてもらえる保証もない」

トビー:
「でも、やらなきゃいけない」

トビー:
「俺は記録係だ。真実を記録して、世界に伝える。それが俺の仕事だ」

トビー:
「……」

トビー:
「ゴブリンの寿命は短い。人間の半分くらいだ」

トビー:
「だから、長生きしたいと思ってた。余計なことに首を突っ込まないで、静かに生きていたかった」

トビー:
「でも」

トビー:
「ノアが泣いてるのを見た時、何かが変わった」

トビー:
「黙って見てられなくなった」

トビー:
「……」

トビー:
「明日が終わったら、俺たちはどうなるか分からない」

トビー:
「でも、後悔はしない」

トビー:
「俺は、やれることをやった。仲間と一緒に」

トビー:
「それで十分だ」

-----

【トビーの制作日誌】
王暦1547年・夏の月・25日
王国建国記念式典・当日

干し芋を齧る。
塩気は適正。

判断は適正。
心の準備は……たぶん、できた。

さあ、本番だ。

-----

【映像ログ:ON AIR(王国放送・建国記念式典)】

ナレーション:
「王国建国987周年を祝し、本日は記念式典の模様をお届けします」

(王都中央広場。大勢の国民が集まっている)

ナレーション:
「まもなく、国王陛下のご挨拶が始まります」

(国王が壇上に上がる)

国王:
「国民の皆さん。今日は我が王国の誕生を祝う、素晴らしい日です」

(拍手)

国王:
「この987年間、我が国は数々の試練を乗り越えてきました」

(厳かなBGM)

国王:
「そして今、我々には新たな英雄がいます。勇者レオと聖女マリア」

(観客から歓声が上がる)

ナレーション:
「ここで、勇者の功績を振り返るダイジェスト映像をお届けします」

-----

【映像ログ:ON AIR(勇者ダイジェスト映像)】

(壮大なBGMと共に、レオとマリアの映像が流れる)

ナレーション:
「勇者レオ。聖剣を手に、魔獣と戦う姿」

(レオが剣を振るう映像)

ナレーション:
「聖女マリア。慈愛に満ちた癒しの力」

(マリアが回復魔法を使う映像)

ナレーション:
「そして、彼らを支える仲間たち」

(ノアが魔法を放つ映像)

ナレーション:
「これが、我が国の誇り。勇者パーティーです」

(観客から拍手と歓声)

-----

【映像ログ:未公開(魔王軍基地・通信室・同時刻)】

(魔王軍基地・通信室。全員がスタンバイしている)

ザック:
「ダイジェスト映像、終わるぞ」

トビー:
「準備はいいか」

レオ:
「……おう」

マリア:
「……ああ」

ノア:
「……はい」

カイル:
「いつでも」

ザック:
「10秒前」

(全員が深呼吸する)

ザック:
「5、4、3、2、1……」

-----

【映像ログ:ON AIR(電波ジャック)】

(王国放送の画面がノイズに覆われる)

(そして、新しい映像が流れ始める)

レオ:
「国民の皆さん。俺は勇者レオだ」

(レオの顔がアップで映る)

レオ:
「今から、真実を語る」

(画面が切り替わる)

レオ:
「エリクシール社は、俺たちを騙していた」

レオ:
「人体実験。被験者という名の、人間を素材にした実験だ」

(カルロスの映像に切り替わる)

カルロス(録画):
「007は商品開発の『素材』として再利用されていますよ。エコですよね」

(国民の間にどよめきが広がる)

カルロス(録画):
「被験者は、我が社にとって貴重な実験材料ですから。一人たりとも無駄にはしません」

(画面が再びレオたちに切り替わる)

ノア:
「僕は、被験者012です」

(ノアが首筋を見せる)

ノア:
「この痣が、証拠です。僕は幼い頃から、実験を受けてきました」

カイル:
「俺も同じだ。被験者015」

(カイルも首筋を見せる)

カイル:
「俺たちは、エリクシール社の計画『PROJECT VESSEL』の一部だった」

マリア:
「俺は聖女マリアだ。この二人は、俺の仲間だ」

マリア:
「嘘じゃない。俺がこの目で見た。エリクシール社の回収班が、ノアを連れ去ろうとした」

マリア:
「『暴走抑制サプリ』と称して、無理やり薬を飲ませようとした」

マリア:
「俺たちは、命からがら逃げてきた」

(レオが再び画面に映る)

レオ:
「俺たちは裏切り者じゃない」

レオ:
「真実を知って、戦うことを選んだだけだ」

レオ:
「国民の皆さん、考えてくれ。何が本当で、何が嘘なのか」

レオ:
「俺たちは逃げない。隠れない」

レオ:
「真実と共に、ここにいる」

(画面の下部に連絡先が表示される)

ナレーション(トビーの声):
「被験者の情報、または関連情報をお持ちの方は、こちらまでご連絡ください」

-----

【映像ログ:未公開(王都中央広場・同時刻)】

(王都中央広場。巨大スクリーンに海賊放送が流れている)

国民A:
「なんだ、これ……」

国民B:
「勇者レオ? 魔王軍に寝返ったんじゃ……」

国民C:
「でも、あの映像……本物か?」

国民D:
「エリクシール社が……人体実験?」

国民E:
「嘘だろ……」

(ざわめきが広がる)

王国兵A:
「放送を止めろ! 今すぐだ!」

王国兵B:
「電波が乗っ取られてます! 遮断できません!」

王国兵A:
「くそっ……!」

-----

【映像ログ:ON AIR(海賊放送・終了直前)】

レオ:
「最後に、一つだけ」

(レオがカメラを真っ直ぐ見る)

レオ:
「俺の顔をよく見ろ」

マリア:
「おい、台本にないぞ」

レオ:
「いいから」

(レオが少し微笑む)

レオ:
「この顔が、嘘をついてると思うか?」

(3秒の沈黙)

レオ:
「俺は勇者だ。仲間を守る勇者だ」

レオ:
「それだけは、嘘じゃない」

(画面がノイズに覆われる)

(そして、王国放送に戻る)

-----

【映像ログ:未公開(魔王軍基地・通信室・放送終了直後)】

(通信室。全員が息を切らしている)

ザック:
「……終わった」

トビー:
「……3分15秒。ギリギリだった」

レオ:
「やった……やったぞ……」

マリア:
「……ああ」

ノア:
「……」

(ノアの目から涙がこぼれる)

カイル:
「ノア……」

ノア:
「ごめん……嬉しくて……」

カイル:
「泣くなって」

ノア:
「うん……でも……」

(ノアが笑いながら泣いている)

ノア:
「言えた……ちゃんと、言えた……」

マリア:
「……」

(マリアがノアの頭をぽんぽんと叩く)

マリア:
「よくやった」

ノア:
「マリアさん……」

レオ:
「俺は? 俺もよくやったろ?」

マリア:
「お前は……まあ、悪くなかった」

レオ:
「悪くなかったって、最高だっただろ!」

マリア:
「最高とは言ってねえ」

レオ:
「言えよ!」

-----

【個別インタビュー】
ADザック/告白部屋(通信室の隅)

(汗を拭きながら)

ザック:
「成功した……マジで成功した」

トビー(画面外):
「技術的には完璧でした」

ザック:
「お前の編集も良かったぞ」

トビー:
「ありがとうございます」

ザック:
「……これで、王国の連中も気づくはずだ」

トビー:
「……」

ザック:
「エリクシール社がやってることを。被験者が受けてきた仕打ちを」

トビー:
「……信じてもらえると思いますか」

ザック:
「全員は無理だろうな。でも、一部は」

トビー:
「一部でも」

ザック:
「ああ。一部でも信じてくれれば、次に繋がる」

トビー:
「……」

ザック:
「俺たちは種を蒔いた。あとは、芽が出るのを待つだけだ」

トビー:
「……詩的ですね」

ザック:
「うるせえ。ゴブリンだって詩くらい言うわ」

-----

【映像ログ:未公開(魔王軍基地・食堂・夕方)】

(食堂。全員が食事をしている)

レオ:
「いやあ、俺の最後のアドリブ、最高だったよな」

マリア:
「台本になかっただろ」

レオ:
「だから良かったんだろ。俺のアドリブ力が光った」

マリア:
「お前のアドリブは危険なんだよ」

レオ:
「危険? 完璧だっただろ」

マリア:
「『この顔が嘘をついてると思うか』って何だよ」

レオ:
「事実だろ! 俺の顔は嘘つけねえから!」

マリア:
「意味分かんねえよ」

トビー:
「でも、効果的でした」

レオ:
「だろ?」

トビー:
「視聴者の心に残る締めでした。計算してやったなら、大したものです」

レオ:
「もちろん計算だ」

マリア:
「嘘つけ」

レオ:
「嘘じゃねえよ!」

ノア:
「……ふふ」

(ノアが笑っている)

カイル:
「どうした、ノア」

ノア:
「なんか……楽しいなって」

カイル:
「楽しい?」

ノア:
「うん。こうやって、みんなでご飯食べて、話して」

ノア:
「番組の撮影中は、こんな風に笑えなかったから」

マリア:
「……」

ノア:
「今は……仲間と一緒にいるって、感じがする」

カイル:
「……」

(カイルがノアの頭を撫でる)

カイル:
「俺たちは仲間だ。ずっと」

ノア:
「……うん」

レオ:
「俺も仲間だろ?」

カイル:
「……まあ、一応」

レオ:
「一応ってなんだよ!」

マリア:
「顔だけ参加だ」

レオ:
「ひどくね!?」
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