「俺と一緒に海を見ませんか?」

チャビューヘ

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第2話「波打ち際の告白」

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 蓮のアパートは海から車で十五分ほどの場所にあった。古いが清潔な建物で、二階の角部屋。翔太は蓮に続いて狭い階段を上がりながら、自分が何をしているのかよく分からなくなっていた。

 数時間前まで、彼は絶望の淵にいた。会社で犯した裏切り行為。親友を売った自分への嫌悪。もう生きていけないと思っていた。それが今、見知らぬ男性の部屋に向かっている。

「どうぞ」

 蓮がドアを開けた。部屋は想像していたより整理されていて、本棚には古い文庫本が並んでいる。窓からは街の灯りが見えた。

「コーヒーか何か」

「ありがとうございます」

 翔太はソファに腰を下ろした。蓮の背中を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。この人は本当に優しい。さっき海岸で見せてくれた表情も、今の気遣いも、全てが翔太には眩しく映った。

「砂糖は?」

「いりません」

 蓮が持ってきたコーヒーは少し苦かったが、翔太には美味しく感じられた。蓮も向かいの椅子に座り、静かに自分のカップを見つめている。

「あの」

 翔太が口を開いた。

「さっきのこと……」

「後悔していますか」

 蓮の問いに、翔太は首を振った。

「いえ。むしろ」

 翔太は言葉を探した。

「初めて、生きていたいと思えました」

 蓮の目が少し見開かれた。

「今日、俺は死のうと思ってたんです」

 翔太の告白に、蓮の手が僅かに震えた。

「でも蓮さんに出会って……まだ死ぬべきじゃないって」

「何があったんですか」

 蓮の声は低く、優しかった。翔太は深く息を吸った。

「話しても、嫌いになりませんか?」

「なりません」

 即答だった。その確信に、翔太は救われた気持ちになった。

「俺には親友がいたんです。大学時代からの。彼の名前は佐藤っていうんですけど」

 翔太は手の中のカップを見つめた。

「佐藤は俺より優秀でした。成績も人柄も、何もかも。でも俺のことをいつも気にかけてくれて」

 蓮は黙って聞いていた。

「同じ会社に就職して、俺たちは同期で営業部に配属された。佐藤はすぐに成果を上げたけど、俺は全然ダメで」

 翔太の声が小さくなる。

「それで……チャンスがあったんです。佐藤の手柄を横取りできる機会が」

 蓮の表情は変わらなかった。

「俺は……やったんです。佐藤が準備していた企画を、こっそり上司に先回りして提案した」

 翔太の目に涙が浮かんだ。

「佐藤は何も言わなかった。ただ悲しそうな顔をして」

 コーヒーカップを置く音だけが部屋に響いた。

「それで今日、佐藤が会社を辞めることになったんです。俺のせいで」

 翔太は顔を覆った。

「最低ですよね。親友を裏切って、自分だけ出世しようなんて」

 蓮は立ち上がった。翔太の隣に座り、そっと肩に手を置く。

「辛かったですね」

 蓮の言葉に、翔太は顔を上げた。

「え?」

「その選択をするまで、きっと悩んだでしょう」

 翔太は驚いた。責められると思っていたのに。

「でも……俺は親友を」

「人間は弱いものです」

 蓮の手が翔太の背中を撫でる。

「完璧な人間なんていない。誰でも間違いを犯します」

「蓮さん……」

「大切なのは、それを後悔できることです」

 翔太の目から涙がこぼれ落ちた。今度は後悔の涙ではなく、安堵の涙だった。

「ありがとう」

 翔太は蓮の胸に顔を埋めた。蓮の匂いが心地よかった。石鹸の香りに少し汗の匂いが混じって、それが妙に安心感を与えてくれる。

「もう一度、海に行きませんか」

 蓮の提案に、翔太は顔を上げた。

「え?」

「今度は違う場所を見せてあげます」

 二人は再び車に乗った。今度は違うルートを通って、岩場の多い海岸へ向かった。月はさっきより高い位置にあり、海面をより美しく照らしていた。

「きれい……」

 翔太が息を呑む。ここは観光地にもなっている場所で、奇岩が点在している。台風の影響で波は荒いが、それがかえって神秘的だった。

 蓮は翔太の手を引いて、波打ち際まで降りていく。砂に足を取られそうになると、蓮がしっかりと支えてくれた。

「ここなら誰にも見られません」

 蓮の言葉に、翔太は胸が高鳴った。

「蓮さん……」

「さっきの続き、したくありませんか」

 翔太は頷いた。蓮の腕が翔太の腰に回る。今度はもっと深いキスだった。舌が絡み合い、お互いの味を確かめ合う。翔太は蓮のシャツのボタンを外した。月明かりに照らされた蓮の胸板は厚く、男らしかった。

「触って」

 翔太が囁くと、蓮の手が翔太の服を脱がせ始めた。スーツのジャケット、シャツ、下着。全てが砂の上に脱ぎ捨てられていく。

 裸になった翔太は、少し恥ずかしそうに腕で体を隠した。

「恥ずかしい……」

「美しいですよ」

 蓮も服を脱いだ。がっしりとした体型で、胸には薄く毛が生えている。翔太はその男らしさに見とれた。

 蓮は翔太を砂の上に寝かせると、その上に覆いかぶさった。

「冷たくないですか」

「大丈夫です」

 翔太の声は掠れていた。蓮の唇が翔太の首筋に触れる。甘い痛みに、翔太は小さく声を上げた。

「あ……」

 蓮の舌が翔太の体を這い回る。鎖骨のくぼみ、胸板の中央、そして乳首。ピンク色に尖った突起に舌先が触れると、翔太の体がびくりと震えた。

「んっ……」

 蓮は片方の乳首を唇で挟み、軽く吸った。翔太の背中が砂から浮き上がる。

「だめ……そんなところ……」

 しかし翔太の声には拒絶はなかった。むしろ蓮にもっと続けてほしいと訴えているようだった。

 蓮はもう片方の乳首にも同じことをした。舌で舐め、歯で軽く噛み、唇で吸う。翔太の乳首はだんだん硬くなり、敏感になっていく。

「蓮さん……気持ちいい……」

 翔太の下半身が反応していた。勃起したペニスが腹部に張り付き、先端からは透明な液体が滲み出ている。

 蓮の手が翔太の太腿を撫でる。内側の柔らかい部分を指先でなぞると、翔太の腰がくねった。

「あそこ、触って……」

 翔太の懇願に、蓮の手が翔太の勃起に触れた。熱く、硬く、脈打っている。蓮の手のひらで包み込むと、翔太は甘い声を上げた。

「ああ……」

 蓮の手が上下に動き始める。翔太の先走り液が潤滑剤の役割を果たし、なめらかな動きを作り出す。翔太の腰が小刻みに動き、蓮の手の動きに合わせていた。

「翔太……」

 蓮の声に誘われるように、翔太も蓮の勃起に手を伸ばした。蓮のものは翔太より大きく、血管が浮き出ている。握ってみると、その硬さと熱さに翔太は少し興奮した。

「蓮さんのも……大きい……」

 翔太の手が蓮を刺激し始める。二人は再び相互に愛撫し合いながら、荒い息を交わした。

 波の音が二人の吐息と混じり合う。潮風が汗ばんだ肌を冷やし、それがかえって快感を高めていく。

「もう……だめ……」

 翔太が限界を訴える。蓮も同じ状態だった。しかし今度は違った。

「翔太、先に……」

 蓮の手の動きが速くなる。翔太の体が弓のように反った。

「蓮さん……イク……」

 翔太が絶頂に達した。精液が勢いよく噴き出し、自分の胸や腹部を汚していく。蓮はその様子をじっと見つめていた。

 翔太の射精が終わると、蓮の手はまだ動いていた。

「蓮さんも……」

 翔太は震える手で蓮を刺激した。蓮の表情が歪み、低い呻き声を上げる。

「翔太……」

 蓮も絶頂に達した。しかし翔太より少し遅れて。精液が砂の上に飛び散った。

 二人はしばらく抱き合ったまま、星空を見上げていた。

「きれいですね」

 翔太が呟く。

「星も、月も」

「君も美しい」

 蓮の言葉に、翔太は恥ずかしそうに笑った。

「もう、そんなこと言わないでください」

「本当のことです」

 蓮は翔太の髪を撫でた。潮風で少し乱れた茶色の髪が、月光に輝いている。

「蓮さん」

「はい」

「俺、どうしたらいいでしょう」

 翔太の問いに、蓮は少し考えた。

「まず、佐藤さんに謝ることです」

「でも……」

「それからです。本当に大切なのは」

 蓮は翔太の顔を覗き込んだ。

「許してもらうことじゃない。自分を許せるようになることです」

 翔太の目に、また涙が浮かんだ。しかし今度は微笑んでいた。涙の中の笑み。それは海岸で初めて見せた表情と同じだった。

「ありがとう、蓮さん」

「どういたしまして」

 二人は服を着て、車に戻った。帰り道、翔太は窓から海を見つめていた。

「また来ましょうね」

「ええ」

 蓮の返事は短かったが、その声には確かな約束が込められていた。

 翔太はまだ知らなかった。蓮にもまた、語られていない過去があることを。そしてその過去が、翔太の告白した「裏切り」と深い関係があることを。

 車は夜明け前の街を静かに走っていた。東の空が少しずつ白み始めている。新しい一日の始まりだった。
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