俺のダンジョン配信がバズった理由は、ダンジョンそのものが俺に恋してるからだった

チャビューヘ

文字の大きさ
6 / 25
1章 巡り合い編

第6話「仮面、ひび割れる」

しおりを挟む
 コラボ配信は、順調だった。

 御影翔と並んでダンジョンの中層を歩く。二人の映像がそれぞれのチャンネルで同時配信されている。想のカメラは自分のARゴーグル、御影のカメラは肩に固定した小型デバイス。

 同時接続数が画面の隅で点滅していた。想のチャンネルだけで6,000人。御影と合わせれば2万人を超えている。今までの配信とは桁が違う。

 ───────────────────
 草:コラボきたああ
 †漆黒の剣†:御影翔とソウの並び新鮮すぎ
 DJケンタ_B級:A級とE級のコラボって
        前代未聞だろ
 しろくま_22:御影くんイケメンすぎん?
 推しが重い:ソウくんもいい顔してる
 N_o_a:…………。
 ───────────────────

「いやー、ソウくんのダンジョン面白いっすね。モンスターが道譲るの初めて見た」

 御影が笑いながらカメラに向かって手を振る。画面映りを計算した角度だ。照明も表情も完璧に管理されている。3年のキャリアが動作の隅々に染み込んでいた。

「俺もなんで譲られてるのかわかんねえんだけどな」

「そこがいいんですって。ミステリーがあるから視聴者が離れない」

 御影が想の肩を軽く叩いた。自然な動作。二人の距離感が画面越しに伝わるように計算されている。

 想はそこまで考えていなかった。ただ歩いて、話して、魔石を拾う。御影と一緒だと、配信のテンポが全然違う。3年の差が、間の取り方ひとつに染みている。

 中層のボスエリアに差しかかった。大型のオーク・ジェネラルが通路の奥に座り込んでいる。体高3メートル。手には鉄の棍棒。C級パーティーでも苦戦する相手だ。

 オーク・ジェネラルが想を見た。赤い目が細くなる。

 立ち上がり、壁際に移動した。鉄の棍棒を床に置いて、道を空ける。

 コメント欄が沸騰した。御影が「すっご」と声を上げ、視聴者に向かって大げさにリアクションしている。

 それを横目に、想は妙な疲れを感じていた。御影といると、自分の「見せ方」が雑に感じる。比較されている気がして、配信中なのに言葉が減る。

 ボスエリアを抜けた先の通路で、御影が立ち止まった。

「ちょっと休憩しません? 水飲みたい」

「ああ、いいよ」

 二人は通路の壁に背を預けた。御影がリュックから水筒を取り出し、一口飲む。

 この通路は狭い。壁面に中継器のランプが見えない。つまりManaLinkの電波が弱いエリアだ。カメラは回っているが、配信の画質が落ちているはず。音声も途切れがちになる。

 不思議だった。ノアはいつも想の通信を安定させてくれている。この程度の中継器の隙間など、意味がないはずだ。

 御影がそれを知っていたのかどうか、想にはわからない。だがノアが、この瞬間だけ手を引いた理由も。

 御影が水筒のキャップを閉め、想に体を寄せた。

「なあ、ソウくん」

 声のトーンが変わった。配信用の明るさが消えて、低く、近い声。

「そのダンジョンの女、俺にも紹介してくれない?」

 想は御影の顔を見た。

 笑っている。だが目が笑っていない。カフェで見た爽やかな光が瞳から消えていて、代わりに据わった目がこちらを見ている。

「ダンジョンの女って」

「ノアだっけ? コメント欄でよく見るやつ。あれ、ダンジョンのシステムか何かなんだろ? 自分も興味あってさ」

 御影の唇が薄く弧を描いた。

「あの力、すごいじゃん。モンスターが道を空ける、魔石が足元に湧く。あれを自分の配信でも使えたら、最強だと思わない?」

 想の中で何かが引っかかった。小さな棘のような違和感。

 御影の言葉は「興味がある」だった。だが目が語っているのは「欲しい」だ。ノアを人として見ていない。機能として見ている。

「ノアは紹介とかそういうんじゃねえよ。人っていうか」

「わかるわかる。大事な存在なんだよね」

 御影がすぐに笑顔に戻った。配信用の、完璧な笑顔に。

「冗談冗談。気にしないで。さ、続き行こう」

 御影が先に歩き出した。想は数秒遅れて足を動かした。

 胸の奥に沈んだ棘が、抜けない。

 配信を再開した。電波状況が戻り、画質がクリアになる。通路を抜けた壁面で、光苔がかすかに灯った。一瞬だけ。まるで仕事を終えたかのように。コメント欄が再び流れ始める。御影はいつもの笑顔で視聴者に手を振っていた。何事もなかったかのように。

 深層への階段を降りた時だった。

 想のARゴーグルに、ノイズが走った。

 一瞬、音声が途切れる。直後に別の音が混ざった。配信の音声に、本来あるべきでない音が紛れ込んでいる。

 通話記録だった。

 御影の声だ。古い音質。録音特有の平坦な響き。

『いや、佐伯は使えなくなったから切った。コラボして数字だけ吸って、あとは勝手に沈んでくれりゃいい』

 ノイズ混じりで、5秒ほどで途切れた。配信の音声がもとに戻る。

 想は足を止めた。

 御影の声だった。間違いない。だが配信中の声じゃない。電話か、通話アプリの録音だ。「佐伯」という名前。「数字だけ吸って」。「勝手に沈んでくれりゃいい」。

 コメント欄を確認する。視聴者の反応は「音声途切れた?」「電波悪い」程度だ。ノイズの中に混ざった声の内容まで聞き取れた人間は、いないように見える。

 だが想には聞こえた。

 佐伯。聞き覚えのない名前だ。だが「コラボして数字だけ吸って、あとは勝手に沈んでくれりゃいい」という言い方は、冗談には聞こえなかった。

 あれは、本音の声だ。

 御影が振り返った。笑顔だ。

「ソウくん、どうした? 電波悪かった?」

「ああ、うん。ちょっとノイズ入った」

「深層あるあるだよね。気にしない気にしない」

 御影が軽く手を振って、また前を向いた。

 想は御影の背中を見つめた。

 さっきの通話音声。ノアが流したとしか考えられない。ダンジョンの通信インフラに介入できるのは、ノアだけだ。御影のスマホに残っていた通話記録を抜き取り、配信の音声に紛れ込ませた。

 ノアは言った。あの人の文章には嘘の匂いがすると。

 想はそれを「お前は俺以外全員嫌いだろ」と笑った。

 だが今、想の耳には御影自身の声が残っている。「数字だけ吸って、あとは勝手に沈んでくれりゃいい」。

 コラボ配信は夕方まで続いた。御影は最後までにこやかで、視聴者への対応も完璧だった。深層で拾ったB級魔石を「ソウくんの方がこういうの必要でしょ」と譲る場面もあった。

 配信終了後、ダンジョンの入口で「楽しかった、またやろう」と握手して別れた。

 御影の手は温かかった。力の入れ方も丁寧だった。何も変わっていない。

 変わったのは、想の方だ。

 ダンジョンを出た後、想は入口の前に立ったまま動かなかった。

 冬の風が頬を叩く。吐く息が白い。ARゴーグルを外すと、目の前に暗い洞窟の入口がある。

 スマホを取り出した。DunCastのDMを開く。御影からのメッセージ履歴。笑顔の絵文字。「応援してるよ」「何か手伝えることあったら」。

 全部、本物に見えた。今でも見える。

 だが想の耳の奥には、ノイズ混じりの声がこびりついて離れなかった。

 ノアの嫉妬なのか。あの声は本物なのか。御影は本当にいい人なのか。

 わからない。わからないことが、一番きつかった。

 ───────────────────
 N_o_a:想さん。お疲れさまでした。
 N_o_a:わたしの話、少しは聞いてくれますか。
 ───────────────────
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~

依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」 森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。 だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が―― 「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」 それは、偶然の出会い、のはずだった。 だけど、結ばれていた"運命"。 精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。 他の投稿サイト様でも公開しています。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...