転生したら美少女なのに中身はRPGチュートリアルおじさんで、しかも政略結婚の花嫁だった

チャビューヘ

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第2章

第2章 第38話「仮面祝祭の夜」

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 王都に年に一度の仮面祝祭がやってきた。

 身分を問わず、皆が仮面をつけて楽しむ夜。貴族も平民も、この夜だけは対等になる。

「姫様、どの仮面になさいますか?」

 マルタが色とりどりの仮面を並べた。蝶、猫、鳥、花——どれも美しい。

「これは?」

 手に取ったのは、星をモチーフにした銀色の仮面。上半分だけを覆うタイプで、口元は見える。

「お似合いです」

 コーデリアが深い青のドレスを持ってきた。夜空のような色合いに、銀の刺繍が星のように散りばめられている。

「今夜は、護衛も最小限にします」

 ベアトリスが説明した。

「仮面祝祭では、過度な警護は野暮とされますから」

 でも、侍女たちも仮面をつけて、さりげなく周囲を警戒するという。

 日が暮れて、祭りが始まった。

 王都の大広場は、松明と提灯で昼のように明るい。音楽が響き、人々が踊っている。

 屋台が並び、焼き菓子や葡萄酒の香りが漂う。子供たちが仮面をつけて走り回り、大人たちは笑い声を上げている。

「素敵」

 思わず呟いた。

 前世の日本の祭りを思い出す。でも、これはもっと幻想的だ。

「姫——いや、今夜は名前がないんだったね」

 振り返ると、黒い仮面をつけた男性が立っていた。狼をモチーフにした仮面で、顔の上半分が隠れている。

 でも、声で分かった。

「アウレリウス?」

「しっ」

 彼が唇に指を当てた。

「今夜は、身分を明かさない約束だろう?」

 そうだった。仮面祝祭の掟。名前も身分も、明かしてはいけない。

「じゃあ、今夜は?」

「ただの、君に恋する男」

 頬が熱くなった。仮面のおかげで、赤面は隠せるけれど。

「踊ろう」

 手を差し出されて、取った。

 広場の中央では、大勢の人が輪になって踊っている。貴族も商人も農民も、区別なく手を繋いで。

 音楽は軽快で、ステップも簡単。くるくると回り、時々パートナーを変える。

 でも、アウレリウスは私の手を離さなかった。

「ルール違反では?」

「今夜は無礼講だ」

 彼が悪戯っぽく笑った。仮面の下でも、表情が分かる。

 一曲終わって、屋台を見て回った。

 飴細工屋で、星の形の飴を買ってくれた。

「君の仮面に合わせて」

 甘い飴を舐めながら、幸せを感じた。

 こんな普通のデート、前世でもしたことがなかった。

「あ、輪投げ!」

 懐かしさから、思わず駆け寄った。

「やりたい?」

「はい」

 でも、なかなか入らない。投げ方が下手なのか、5回連続で失敗。

「こうやって」

 アウレリウスが後ろから手を取って、投げ方を教えてくれた。

 近い。耳元で囁く声に、どきどきする。

「力を抜いて、手首のスナップを使って」

 言われた通りにすると、見事に入った。

「やった!」

 子供みたいにはしゃいでしまった。

 景品は、小さな鈴のついた腕輪。また腕輪だ。

「君は本当に、鈴に縁があるね」

 アウレリウスが笑いながら、私の腕につけてくれた。

 四つ目の鈴。音が重なって、不思議な音楽を奏でる。

 噴水の近くのベンチで、一休みした。

 周りでは、仮面をつけた人々が、思い思いに祭りを楽しんでいる。

「こんな時間が、ずっと続けばいいのに」

 つい本音が漏れた。

「続くよ」

 アウレリウスが言った。

「結婚したら、毎日がこんな風に」

「毎日は無理でしょう」

「じゃあ、週に一度」

「それも難しい」

「月に一度?」

「それなら」

 二人で笑い合った。

 その時、花火が上がった。

 夜空に、色とりどりの花が咲く。赤、青、緑、金——

「きれい」

「君の方が」

 ありきたりな台詞なのに、心に響いた。

 広場に戻ると、祭りは最高潮に達していた。

 最後の踊りが始まる。ゆったりとした、ロマンチックな曲。

 アウレリウスと向き合って、手を取り合った。

 ステップを踏みながら、目を見つめ合う。仮面越しでも、想いは伝わる。

「好き」

 音楽に紛れて、呟いた。

「もう一度」

「好き」

 今度ははっきりと。

 アウレリウスが微笑んで、額を合わせてきた。

「僕も、世界で一番」

 周りで踊る人々も、幸せそうだった。

 恋人たち、夫婦、家族。皆が大切な人と、この特別な夜を過ごしている。

 私も、その一人になれた。

 曲が終わり、祭りも終わりに近づいた。

 帰り道、アウレリウスが言った。

「来年も、一緒に来よう」

「はい」

「再来年も」

「はい」

「その次も、ずっと」

 約束した。

 この先に何が待っていようと、この人となら乗り越えられる。

 そう信じて。

 宮殿の門で、仮面を外した。

 現実に戻る時間。

 でも、手は繋いだままだった。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 部屋に戻って、窓から広場を見下ろした。

 祭りの片付けが始まっている。でも、人々の顔は満足そうだ。

 私も、満ち足りた気持ちだった。

 仮面祝祭。

 素顔を隠すことで、本当の気持ちを伝えられた夜。

 鈴の音が、優しく響いていた。
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