転生したら美少女なのに中身はRPGチュートリアルおじさんで、しかも政略結婚の花嫁だった

チャビューヘ

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第3章

第3章 第52話「帝国軍再襲来」

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 夜明けと共に、ラッパが鳴り響いた。

 緊急の合図。

 私は、飛び起きた。

 周りの兵士たちも、一斉に立ち上がっている。

「どうした!」

「敵襲か!」

 誰かが叫んだ。

 城壁の見張り台から、声が降ってきた。

「帝国軍、大規模に展開中!」

 その声に、拠点が騒然となった。

 兵士たちが、慌てて武器を手に取る。

 アウレリウスが、すでに鎧を身につけて馬に乗っていた。

「全軍、配置につけ!」

 彼の声が、拠点に響いた。

 兵士たちが、一斉に動き出す。

 私は、マルタに支えられながら立ち上がった。

「姫様、大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫」

 私は、毛布を脱いで、外を見た。

 東の空が、まだ薄暗い。

 でも、地平線の向こうから、黒い影が見えた。

 帝国軍だ。

 昨日までよりも、はるかに多い。

 旗が林立し、兵士の列が延々と続いている。

 そして、その後方に――。

 奇妙な形の荷車が、いくつも見えた。

 金属の箱のようなものが、荷台に載せられている。

 私は、息を呑んだ。

 ――あれが、新兵器。

-----

 ヴァレンドリア軍が、急いで布陣した。

 前衛、中衛、後衛――。

 いつもと同じ配置。

 でも、空気が違った。

 兵士たちの顔に、恐怖が浮かんでいた。

「新兵器が来る……」

「魔法が効かないらしいぞ」

「どうやって戦えばいいんだ」

 彼らの声が、震えていた。

 一人の兵士が、拠点の方を見た。

「戦術姫様がいる」

「そうだ、姫様なら何とかしてくれる」

「姫様の導きを信じよう」

 彼らは、そう言い合った。

 でも、その声には、いつもの力強さがなかった。

 不安が、拭えていなかった。

 私は、案内石の前に立っていた。

 石は、青白く光っている。

 でも、その光は、確かに弱くなっていた。

「お願い……」

 私は、石に手を置いた。

「みんなを、守って」

 案内石が、少しだけ強く光った。

 でも、それだけだった。

-----

 帝国軍が、動き始めた。

 地響きと共に、黒い波が押し寄せてくる。

 騎兵、歩兵、そして――後方に、あの荷車。

 金属の箱が、朝日を反射して鈍く光っている。

 ローランド将軍が、叫んだ。

「弓兵、構え!」

 射手たちが、弓を引いた。

「放て!」

 矢が、空を切った。

 帝国軍の上に降り注ぐ。

 何人かが倒れた。

 でも、帝国軍は止まらなかった。

 そして――。

 後方の荷車が、止まった。

 技術者たちが、慌ただしく動いている。

 金属の箱に、何かをしている。

 やがて――。

 箱から、奇妙な音がした。

 ゴォォォン――。

 低く、重い音。

 地面が、微かに震えた。

 そして――。

 箱から、青白い光が放たれた。

 それは、波紋のように広がっていった。

 その光が、戦場を覆った。

-----

 瞬間、何かが変わった。

 空気が、重くなった気がした。

 ヴァレンドリアの魔術師たちが、紋章術を唱え始めた。

 火の球、氷の槍、風の刃――。

 いつもの魔法。

 でも――。

 魔法が、途中で消えた。

 火の球が、小さな火花になって散った。

 氷の槍が、霧になって消えた。

 風の刃が、そよ風になって消えた。

 魔術師たちが、愕然とした。

「な、何だ!」

「魔法が……効かない!」

「紋章が、応えない!」

 彼らの声が、パニックを帯びていた。

 そして――。

 帝国軍の魔術師が、紋章術を唱えた。

 火の球が、放たれた。

 でも、それはいつもの火の球ではなかった。

 巨大で、燃え盛る炎の塊。

 それが、ヴァレンドリア軍の前衛に落ちた。

 爆発。

 衝撃波が、兵士たちを吹き飛ばした。

 悲鳴が、戦場に響いた。

「うわああ!」

「熱い!」

「助けてくれ!」

 兵士たちが、倒れていく。

 前衛が、一瞬で崩れた。

-----

 私は、その光景を見て、息が止まった。

 ――何が、起きているの。

 魔法が、効かない。

 敵の魔法は、強くなっている。

 これが、新兵器の力――。

 帝国軍が、一斉に突進してきた。

 崩れた前衛を突破し、中衛へ迫る。

 ヴァレンドリア軍が、混乱した。

「どうすればいいんだ!」

「魔法が使えない!」

「戦えない!」

 兵士たちの声が、恐怖で満ちていた。

 ローランド将軍が、必死に指示を出す。

「落ち着け! 剣と槍で戦え!」

 でも、混乱は収まらなかった。

 帝国軍の魔法が、次々に降り注ぐ。

 火、氷、雷――。

 すべてが、通常の何倍もの威力だった。

 ヴァレンドリア軍が、じりじりと後退していく。

 このままでは――。

 拠点が、危ない。

-----

 私は、何かしなければと思った。

 でも、何をすればいいのか、わからなかった。

 新兵器に、対抗する方法なんて――。

 マルタが、私の腕を掴んだ。

「姫様、危険です!」

「でも……」

「姫様が倒れたら、みんなの心が折れます!」

 マルタの声が、必死だった。

 私は、戦場を見た。

 兵士たちが、倒れていく。

 魔法に焼かれ、凍らされ、打たれていく。

 そして、彼らは叫んでいた。

「姫様!」

「戦術姫様、助けてください!」

「姫様の導きを!」

 彼らの声が、拠点まで届いた。

 私は、胸が締め付けられた。

 ――助けて、と言われても。

 私には、何もできない。

 ただの、おじさんなのに――。

 でも。

 でも、このまま何もしないわけには、いかない。

-----

 私は、マルタの手を振りほどいて、前に出た。

「姫様!」

 マルタが、叫んだ。

 でも、私は止まらなかった。

 柵を越えて、丘を降りる。

 戦場へ向かう。

 兵士たちが、私に気づいた。

「姫様が!」

「戦術姫様が来た!」

 彼らの声が、希望を帯びた。

 私は、前線の近くまで来た。

 そこで、立ち止まった。

 目の前には、混乱する兵士たち。

 後ろには、迫る帝国軍。

 そして、遠くには、奇妙な光を放つ金属の箱――。

 私は、何も言えなかった。

 ただ、立っているだけだった。

 兵士たちが、私を見ていた。

 期待と、希望と、祈りを込めて――。

 でも、私には、何もできない。

 言葉が、出てこない。

 そのとき――。

 アウレリウスが、馬を駆って私の元へ来た。

「何をしている!」

 彼の声が、怒りを帯びていた。

「危険だ、戻れ!」

「でも……」

「君が倒れたら、すべてが終わる!」

 彼は、私の手を掴んだ。

「戻れ、今すぐに!」

 その言葉に、私は涙が出そうになった。

 ――ごめんなさい。

 私、何もできない。

 ただの、おじさんなのに――。

 アウレリウスが、私を馬に乗せた。

 そして、拠点へ駆け戻った。

 背後で、戦いが続いている。

 爆発音、悲鳴、金属の音――。

 すべてが、混ざり合っていた。

-----

 拠点に戻った私は、案内石の前に座り込んだ。

 膝が、震えていた。

 マルタとコーデリアが、私を抱きしめた。

「姫様……」

 彼女たちの声が、優しかった。

 でも、私は自分を責めていた。

 ――私は、何もできなかった。

 みんなが苦しんでいるのに。

 私を信じてくれているのに――。

 戦場からは、まだ悲鳴が聞こえていた。

 ヴァレンドリア軍は、苦戦していた。

 魔法が使えず、敵の魔法は強力で――。

 このままでは、負ける。

 私は、案内石に手を置いた。

「お願い……力を……」

 呟いた。

 でも、案内石は、弱く光るだけだった。

 答えは、来なかった。

 夜明けの光が、戦場を照らしていた。

 そこには、絶望が広がっていた。
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