【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第23章「四圃制への挑戦」

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 カイルが帰ってから三日後。エリナは領主館の執務室で、グレンと向き合っていた。

 机の上には、フェルゼン領の農地図が広げられている。

 グレンは図面を指差しながら、興奮した様子で話し始めた。

「お嬢様。三圃制は、大成功です」

「ええ。収穫量が三割増えたわ」

「ですが」

 グレンは身を乗り出した。

「次の段階に進むべきです」

「次?」

「四圃制です」

 エリナの手が止まった。

 四圃制。

 その言葉を聞いた瞬間、前世の記憶が蘇る。

 農業革命。イギリスで発展した、画期的な輪作システム。

 農地を四つに分割し、小麦、大麦、クローバー、カブを順番に植える。

 三圃制よりさらに効率的で、土壌の栄養を保ちながら収穫量を増やせる。

「四圃制……!」

 エリナの声に、熱が籠もった。

 グレンは図面に線を引き始めた。

「農地を四つに分けます。第一区画には小麦。第二区画には大麦。第三区画には家畜の飼料となるクローバー。第四区画にはカブ」

「輪作ね」

「はい。毎年、作物を移動させます。こうすることで、土壌が休む暇なく、でも疲弊しない」

 グレンの説明は正確だった。

 エリナは図面を見つめる。

「クローバーは、緑肥作物ね」

「土壌に栄養を与える作物よ。根が窒素を蓄える」

 グレンの目が輝いた。

「素晴らしい」

 グレンは図面を指で叩いた。

「これなら、収穫量はさらに増えます」

「ええ。でも」

 エリナは窓の外を見た。

 畑で働く住民たちの姿が見える。

「住民を、説得できるかしら」

 翌日の夕方。村の集会所に、住民たちが集まった。

 三圃制の説明会以来、二度目の大規模集会だ。

 エリナは壇上に立ち、深呼吸をする。

「皆さん。三圃制は、成功しました」

 住民たちから、拍手が起こった。

「収穫量は三割増え、皆さんの生活も改善されました」

「お嬢様のおかげです!」

 誰かが声を上げる。

 エリナは手を上げて、静寂を求めた。

「ですが、まだ先があります」

 集会所がざわめく。

「また、新しいことを……?」

「お嬢様、三圃制だけでも大変だったのに」

 不安そうな声。

 エリナは頷いた。

「分かっています。ですが、聞いてください」

 エリナは図面を広げた。

「四圃制。農地を四つに分割し、小麦、大麦、クローバー、カブを順番に植えます」

 グレンが横から補足する。

「土壌が疲れません。収穫量は、さらに増えます」

「でも……」

 年配の農夫が手を上げた。

「三圃制でも、最初は不安でした。四圃制なんて、もっと複雑では」

「その通りです」

 エリナは否定しなかった。

「ですが、三圃制を成功させた皆さんなら、できます」

 集会所が静かになる。

 エリナは住民たちの目を、一人一人見つめた。

「私は、皆さんを信じています」

 その言葉に、住民たちの表情が変わった。

「お嬢様が、そこまで言うなら」

「三圃制も成功したし」

「やってみましょう」

 一人、また一人と、頷く住民たち。

 エリナの胸が、温かくなった。

 一週間後。フェルゼンの農地の一画で、四圃制の試験導入が始まった。

 約十ヘクタールの土地を、四つに分割する。

 グレンが指揮を執り、住民たちが協力して作業を進めた。

 エリナも、自ら畑に出た。

 貴族令嬢が畑に出るなど、普通は考えられない。

 だが、エリナは気にしなかった。

 前世では、クライアント企業の現場に何度も足を運んだ。

 現場を知らずに、経営改革はできない。

 農業も、同じだ。

 第一区画に、小麦の種を蒔く。

 住民たちと並んで、エリナも土を掘り、種を植えた。

「お嬢様、手が汚れます」

「構わないわ」

 エリナは微笑んだ。

 土の感触が、心地よかった。

 第二区画には、大麦。

 第三区画には、クローバーの種。

「お嬢様、このクローバーは本当に土壌を豊かにするのですか」

「ええ」

 エリナは頷いた。

「根が窒素を蓄えるの。窒素は、植物の成長に必要な栄養素よ」

「窒素……」

 住民たちは首を傾げたが、エリナの言葉を信じて作業を続けた。

 第四区画には、カブ。

 家畜の飼料にもなる、万能な作物だ。

「これで、家畜も太る」

 グレンが満足そうに言った。

「牛乳も、肉も、質が上がります」

「商品価値も上がるわね」

「はい」

 播種作業は、三日間で完了した。

 住民たちは疲れた顔をしていたが、どこか誇らしげだった。

「お嬢様、次は何をすればいいですか」

「今は、待つことよ」

 エリナは畑を見渡した。

「作物が育つのを、見守りましょう」

 一ヶ月後。エリナとグレンは、試験区画の畑に立っていた。

 朝日が、緑の葉を照らしている。

 小麦も大麦も、順調に育っていた。

 だが、グレンが注目しているのは、第三区画だった。

「お嬢様……これは……」

 クローバーの区画。

 緑の葉が、土壌を覆っている。

 グレンは膝をつき、土を手に取った。

「土が、柔らかい」

「ええ」

 エリナも膝をついた。

 土の色が、以前より濃くなっている。

「栄養が、増えているわ」

「本当に……緑肥作物が、土壌を豊かにした……」

 グレンは感嘆の声を上げた。

「お嬢様、これは革命です」

 エリナは立ち上がり、畑全体を見渡した。

 四つの区画。それぞれが異なる作物を育てている。

 来年、再来年、この作物を順番に移動させていく。

 土壌は疲弊せず、収穫量は増え続ける。

 持続可能な農業。

 前世で学んだ理論が、この異世界で実を結んでいた。

「グレン」

「はい」

「全農地に、四圃制を導入しましょう」

「承知しました」

 グレンの顔が、輝いている。

 その夜。領主館の執務室で、エリナはオスカーと話していた。

「四圃制の本格導入、決定ですか」

「ええ」

 エリナは書類にサインをした。

「次の収穫で、さらなる成長を」

 オスカーは微笑んだ。

「お嬢様の改革は、止まりませんね」

「ええ」

 エリナは窓の外を見た。

 夜空に、星が瞬いている。

 王都で、カイルも同じ星を見ているだろうか。

 そう思った瞬間、胸が少し温かくなった。

 来週、また彼が来る。

 その時、この成果を報告しよう。

 エリナは小さく微笑んだ。
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