【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ

文字の大きさ
37 / 55

第37章 婚約披露パーティー

しおりを挟む
 一週間後、王都で婚約披露パーティーが開かれる。

 王国中の貴族が招待される。

 私とカイルの婚約を、正式に発表する夜。

 マリアが、私の部屋で忙しく動き回っていた。

 ドレスが、ベッドの上に広げられている。

 深紅のビロード生地に、金の刺繍が施されていた。

 繊細なレースが、袖と裾を飾っている。

「お嬢様、今夜は最高に美しく」

 マリアの目が、輝いていた。

 鏡の前に立つと、マリアが髪を結い始める。

 指先が、丁寧に髪を梳いていく。

 一房ずつ、編み込まれていく。

 小さな真珠が、髪飾りとして添えられた。

「緊張されてますか?」

 マリアが、優しく問いかける。

 私は、正直に頷いた。

「少しだけ」

「でも、カイルがいるから大丈夫」

 マリアが、微笑んだ。

「お嬢様は、本当に変わられました」

「一年前とは、まるで別人のよう」

 鏡の中の自分を見つめる。

 確かに、変わった。

 表情に、自信が宿っている。

 目に、強い光が灯っている。

 カイルと出会って、私は生まれ変わった。

 カイルの部屋では、執事が正装の準備をしていた。

 漆黒の燕尾服が、完璧に仕立てられている。

 白いシャツに、黒い蝶ネクタイ。

 銀の刺繍が、胸元を飾っていた。

 カイルが、鏡の前に立つ。

 執事が、丁寧に服を整えていく。

「今夜、君を王国中に誇る」

 カイルが、小さく呟いた。

 執事が、微笑む。

「お似合いですよ、閣下」

 カイルの顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。

 エリナのことを思うと、胸が温かくなる。

 今夜、王国中が彼女の美しさを知る。

 そして、彼女が自分の婚約者だと知る。

 誇らしかった。

 王立大広間は、豪華な装飾で彩られていた。

 天井から、巨大なシャンデリアが下がっている。

 無数のろうそくが、柔らかな光を放っていた。

 壁には、赤と金の布が飾られている。

 長いテーブルには、豪華な料理が並んでいた。

 貴族たちが、次々と入場してくる。

 華やかなドレスと、正装の燕尾服。

 宝石が、光を反射して煌めいていた。

 ざわめきが、大広間を満たしている。

「財務大臣の婚約者、どんな女性かしら」

 貴族夫人が、隣の夫人に囁く。

「エリナ・アルトハイム……あの追放された令嬢?」

「本当に、フェルゼンを再建したの?」

 好奇心に満ちた視線が、入口に注がれていた。

 音楽が、優雅に流れている。

 楽団が、弦楽器を奏でていた。

 給仕たちが、シャンパンのグラスを運んでいく。

 貴族たちが、グラスを手に取る。

 会場は、期待と興奮に包まれていた。

 大扉が、ゆっくりと開いた。

 侍従の声が、響く。

「カイル・ヴェルナー閣下」

「エリナ・フォン・アルトハイム様」

 大広間が、静まり返った。

 全ての視線が、扉に集中する。

 カイルが、先に入場した。

 漆黒の燕尾服が、彼の体に完璧に沿っている。

 堂々とした歩みで、レッドカーペットを進む。

 そして、私が現れた。

 深紅のドレスが、ろうそくの光を受けて輝いている。

 髪に飾られた真珠が、きらりと光った。

 大広間から、息を呑む音が聞こえた。

 貴族たちが、言葉を失っている。

 その美しさに、圧倒されていた。

 カイルが、私に手を差し伸べる。

 私は、その手を取った。

 二人で、大広間の中央へと歩く。

 全ての視線が、私たちに注がれていた。

 もう、恐れはない。

 カイルがいる。

 それだけで、私は強くなれる。

 会場の隅で、リオンが立っていた。

 グラスを手に、じっと私たちを見つめている。

 顔色が、少し青ざめていた。

 唇を、固く結んでいる。

 その表情は、複雑だった。

 後悔と、羨望と、諦めが混じっていた。

 隣には、セリアの姿はない。

 招待されなかったのだろう。

 リオンは、一人で立っていた。

 グラスを、強く握りしめている。

 指先が、白くなっていた。

 遠く、別の場所で。

 継母が、こっそりと会場を覗いていた。

 招待客としてではなく、影から。

 エリナの美しい姿を見て、顔が歪む。

 唇を、噛みしめていた。

「なぜ、あの娘が……」

 心の中で、何度も呟く。

 拳を、握りしめた。

 爪が、手のひらに食い込んでいた。

 悔しさが、胸を焼く。

 だが、何もできない。

 ただ、遠くから見ているだけだった。

 カイルが、大広間の中央に立った。

 私は、少し後ろで控える。

 カイルの声が、大広間に響いた。

「本日は、私カイル・ヴェルナーの」

「婚約披露にお集まりいただき」

「心より感謝申し上げます」

 貴族たちが、静かに耳を傾ける。

 カイルが、私の方を向いた。

 手を差し伸べる。

 私は、その手を取る。

 カイルが、私を引き寄せた。

 二人で、貴族たちと向き合う。

「婚約者は、エリナ・フォン・アルトハイム」

 カイルの声が、誇らしげだった。

 大広間が、再びざわめく。

 カイルが、続ける。

「彼女は、フェルゼン辺境領を一年で再建した」

「天才経営者です」

 貴族たちが、目を見開いた。

「あの荒れ地を……?」

「たった一年で?」

「信じられない」

 驚きの声が、あちこちから上がる。

 カイルが、さらに言葉を重ねた。

「彼女は、年間税収を金貨三百枚まで引き上げました」

「人口も、七千人を超えています」

「王国の模範となる領地を、築き上げたのです」

 貴族たちの表情が、変わっていく。

 驚きから、敬意へと。

 拍手が、一人、また一人と起こり始めた。

 やがて、大広間全体が拍手に包まれる。

 私は、胸が熱くなった。

 認められた。

 王国の貴族たちに、認められた。

 涙が、溢れそうになる。

 だが、私は堪える。

 顔を上げ、貴族たちに微笑んだ。

 カイルが、私の手を強く握る。

「彼女は、私の誇りです」

 その言葉が、胸に響いた。

 私も、カイルを見つめる。

 カイルの目が、優しく微笑んでいた。

 大広間が、祝福の拍手に包まれている。

 国王陛下も、貴賓席から拍手を送っていた。

 満足そうな笑みを浮かべている。

 これが、私たちの新しい始まりだった。

 パーティーが、本格的に始まった。

 音楽が、華やかに流れる。

 貴族たちが、次々と私たちに挨拶に来た。

「エリナ様、お噂はかねがね」

「フェルゼンの改革、素晴らしいと聞いております」

「ぜひ、我が領地でもご指導を」

 口々に、称賛の言葉を述べていく。

 私は、一人一人に丁寧に応えた。

 カイルが、隣で微笑んでいる。

 その姿が、心強かった。

 ダンスが始まる。

 カイルが、私に手を差し伸べた。

「踊ってくれるか?」

 私は、頷く。

 二人で、ダンスフロアの中央へ。

 ワルツが、流れ始めた。

 カイルが、私の腰に手を回す。

 私は、カイルの肩に手を置く。

 音楽に合わせて、ゆっくりと踊り始めた。

 周りの貴族たちが、私たちを見守っている。

 だが、私の目には、カイルしか映っていなかった。

 カイルが、小さく囁く。

「美しいよ、エリナ」

 私の頬が、熱くなる。

「ありがとう、カイル」

 二人で、静かに微笑み合った。

 フロアを、優雅に回る。

 ドレスの裾が、美しく広がっていく。

 完璧な夜だった。

 リオンは、ダンスフロアを見つめていた。

 グラスの中の酒が、もう空になっている。

 だが、それに気づいていなかった。

 エリナとカイルが、幸せそうに踊っている。

 その姿が、胸に突き刺さった。

 俺は、何を失ったのだろう。

 エリナは、こんなにも輝いていたのか。

 一年前、俺は気づかなかった。

 彼女の本当の価値に。

 今、俺の隣にいるのは……。

 視線を落とす。

 セリアは、今夜ここにいない。

 招待もされなかった。

 俺が選んだのは、彼女だったのに。

 唇を、強く噛む。

 後悔が、胸を満たしていた。

 だが、その後悔は次第に、別の感情へと変わっていく。

 これは間違っている。エリナは、平民出身の男に騙されているだけだ。

 俺が、彼女を救い出さなければ――。

 継母は、影からパーティーを見ていた。

 エリナの輝く姿を見て、顔が引きつる。

 全てが、憎かった。

 エリナの成功が。

 カイルとの婚約が。

 貴族たちの称賛が。

 なぜ、あの娘が……。

 拳を、握りしめる。歯を食いしばり、唇が震えた。

 だが、何もできない。

 自分の無力さが、情けなかった。

 静かに、その場を離れる。

 背中が、小さく震えていた。

 パーティーが終わり、貴族たちが帰り始めた。

 私とカイルは、大広間の奥の部屋にいた。

 二人きりだった。

 カイルが、私の手を取る。

「疲れたか?」

 優しい声だった。

 私は、首を横に振る。

「いいえ。これで、やっと……」

 言葉を探す。

 カイルが、静かに待っていた。

「カイルと正式に、婚約者になれました」

 涙が、溢れてきた。

 嬉し涙だった。

 カイルが、私を抱きしめる。

 温もりが、私を包んだ。

「これからは、二人で歩む」

 カイルの声が、耳元で響く。

 私も、カイルを抱きしめ返した。

「ずっと、一緒に」

 静かな部屋で、二人は抱き合っていた。

 窓の外には、月が輝いている。

 完璧な夜だった。

 これ以上の幸せは、ないと思えた。

 だが、王都の暗い路地で。

 影が、密かに動いていた。

 貴族たちが、集まっている。

 その中心には、リオンの姿があった。

 誰かが、囁く。

「カイルを、このまま放置できない」

「平民出身の財務大臣など」

 暗い笑みが、浮かんでいた。

 陰謀が、静かに動き始めている。

 その影は、まだ小さかった。

 だが、やがて大きくなる。

 嵐の前の静けさだった。

 私は、まだ気づいていなかった。

 幸せの裏で、何かが動いていることに。

 カイルの腕の中で、私は微笑んでいた。

 これからの人生が、楽しみだった。

 二人で、どんな困難も乗り越えられる。

 そう、信じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

無能と婚約破棄された公爵令嬢ですが、冷徹皇帝は有能より“無害”を選ぶそうです

鷹 綾
恋愛
「君は普通だ。……いや、普通以下だ」 王太子にそう言われ、婚約を破棄された公爵令嬢フォウ。 王国でも屈指の有能一族に生まれながら、彼女だけは“平凡”。 兄は天才、妹は可憐で才色兼備、両親も社交界の頂点―― そんな家の中で「普通」は“無能”と同義だった。 王太子が選んだのは、有能で華やかな妹。 だがその裏で、兄は教会を敵に回し、父は未亡人の名誉を踏みにじり、母は国家機密を売り、妹は不貞を重ね、そして王太子は――王を越えようとした。 越えた者から崩れていく。 やがて王太子は廃嫡、公爵家は解体。 ただ一人、何も奪わず、何も越えなかったフォウだけが切り離される。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き冷徹皇帝。 「有能は制御が難しい。無害のほうが使える」 駒として選ばれたはずの“無能な令嬢”。 けれど―― 越えなかった彼女こそ、最後まで壊れなかった。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

処理中です...