シナリオ版『【くるあい】狂おしいほど愛おしい』

ゆるふわ詩音

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ショウ

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スズM:ピチョン、ピチョンと雨雫のような音が、聞こえてきた。しかし、身体に付く感触は、しない。雨漏りか……?こんな些細なことまで、推理してしまうのは、もはや、職業病だな。まあ、伊達に、刑事をやってないことだけは、わかった。
スズM:目を覚ませば、屋内だった。周りには、雑多に、置かれた木材や機械が、ごろごろ。内装も、剥がれていたり、錆びていたりして、ボロボロ……使われなくなった廃工場って、とこか。まぁ、人を殺すのには、最適なとこでは、あるか。ほう。ここが、トウパイの“作業場”な。
  : 
スズM:吊られているらしく、見晴らしは、すごくいい。しかも、めっちゃ静か……そりゃあ、そうか。雨漏りの音が、響くんだもんな。今のうちに、逃げるか。ちょうど、誰もいないようだし、さっさと……な?
スズM:両手を擦らせてみたら、ギーギーと音がして、身体が、ゆっくり揺れた。同時に、チリチリと刺さる感触が、したから、なめされていない麻縄で、縛られてるって、ことか。腕が千切れるくらい、固い感じはしないから、痛みを我慢すれば、外せるか………ん?痛い?
  : 
スズM:俺は、ぼんやりとしていた違和感に、やっと気づいた。腹から下の感覚が、まったくないことに……くっそ、局所麻酔か。だから、腕を解いた衝撃で、そのまま落ちる。痛みはないものの、動けないし、落差で気絶。下手すると、死ぬわな。まぁ、そうか。
 : 
スズ:人生、そう上手くは、いかんわな
ショウ:ハハッ……物分かりが、良すぎて、ダメだね。あ~あ
スズM:急に、姿を現したのは、黒髪の男性だった。現れたっていったけど、下を向いたら、普通にいた。
そいつは、少年のままで、止まったかのように、キラキラした瞳で、大きな前歯を見せて、笑っていた。
スズ:畑庄助(はたしょうすけ)……お前が、ショウだな
ショウ:うへへへ、あったり~すご~い……さすが刑事さんだね
スズ:やっぱり、お前だったのか
ショウ:ねぇ、いおとさんとか、刑事さんとか、呼ぶのめんどいからぁ。これからは、スズちって、呼ぶからね?
スズ:いや、スズちはない。お前、センスないな。たぶん、トウパイって名付けたの、お前じゃないな
ショウ:ひどくない!?めっちゃかわいいと、思ってたんだよ?ぶうっ
 : 
スズM:遺体からの見立てだと、冷静沈着で、計画的な大人の女性の犯行が、推測されてたんだけど、全然違う。ショウは、血液内科の看護師が、本業だから、軽い聞き取りは、病院でしてたんだけど、その時は、見立て通りだった。まあ、少し口調はほんわかしてたけど……これがこいつの本性か。
ショウ:でも、その状況じゃあ……何言われても、怖くないよ(目の前でメスを見せつける)
スズ:間違ったら、お前が死ぬから、やめろ
ショウ:ちょっと、ちょっと!そこは喚(わめ)くとこだよ、下手くそ!
スズ:あ、俺もしかして、脅されてた?
ショウ:今、追い詰められてて、スズちの生命は、ボクに、掛かってるんだよ?生きるも、死ぬも、ボク次第なんだよ?
スズM:全く、耳に入ってこない……その前に、こいつが、人を刃物で傷つけるのは、不可能。だって、ショウは血友病だから。遺伝性の病気で完治する方法ない。なぜなら、血を固める遺伝子を、生まれつき、持っていないから。だから、血が出たら、止まらない。一応、遺伝子の注射を定期的にするとか、輸血をするとか、の対症療法(たいしょうりょうほう)をすれば、日常生活は送れるらしい……詳しくは知らないけど。
ショウ:あ、もうそろそろ、いいから、降ろすね
スズ:ん?ああ
ショウM:滑車(かっしゃ)を、動かすところへ来たぼくは、重りを外していく。まぁ、スズちは、男性にしては、軽い方だから、すぐに出来た。バンドルを回して、ジャラジャラと鎖が巻き取っていくと、スズちの身体がゆっくりと降りていく。スズちの浮いていた足が、地面を滑り、お尻が、トンと地面につく……医療用語で、あえて言うなら、長座位(ちょうざい)になっているね
スズ:なんか、微妙な体勢だな
ショウ:溢れるとこだった、ああ危ない危ない!
スズM:全然、危機感なさそうに、話すショウは、俺の足元に、駆け寄ってきて、慌ただしく作業を始めた。
ショウM:スズちの左足の甲(こう)から出ているルートが輸血パックに繋がっている。そこには、赤い液体……血液が溜まっているの。スズちの血が、ね
スズM:なるほど、血抜きはこうやってんのか……え、もう終わり?
ショウ:いやぁさ、最近の女性たちは、防犯しっかりしてるから、なかなか、獲物がいなくて、困ってたの。でも、ボク専用の輸血ストックが、なりそうだったから……ごめんねぇ
スズM:ショウは、足の甲から針を、静かに抜き、すぐ力強く止血をしてくれた。その後、優しくテープを貼ってくれたから、ちょっと同情しそうになった。
ショウM:ルート内に残っている血液を全てパックの中に流し、鉗子(かんし)でルートを挟む。そして、固まる前に、素早く抗凝固剤(こうぎょうこざい)と血液を混ぜ合わせる……これで、スズちの血が、ぼくのものに。くふふ
スズM:なんか可哀想に思えてきた。所詮、犯罪者も1人の人間だからな。でも、罪は償ってもらわないといけないんだよ。
ショウ:協力してくれて、ありがとう。スズち
スズ:ああ。でも、すまん……お前らを捕まえる。証拠、揃ってしまったからな
ショウ:そっか、やっぱり刑事さんだもんね
スズM:きっと、近くに、リュウがいるはず。そいつは移植専門の外科医で、元レシビエント。遺体を解剖し、移植可能な臓器だけを摘出(けきしゅつ)して、臓器売買をしているやつだ……そいつも一緒にお縄に掛けてやる。すまんな、それが俺の仕事だから。
0:間
スズ:覚悟はいいか?
ショウ:くふふ。それで、久しぶりに、自宅に帰ろうとしてたんだ、な~んだ。アハハハハハハ!
スズM:時間と手間をかけてやっと掴んだ真相を本人に馬鹿にされるなんて腸(はらわた)が煮えくりかえるようだ。
ショウ:たぶん、まだまだだと思うよ……2人だと思ってる時点でね。まぁ、もうどうでもいいや。バレたからここに連れてきたわけじゃないし、帰すつもりは元々ないし
スズM:スッと細めたショウの眼光に背筋がゾクッとなった。
ショウ:そんなことでこんなことせえへんよ……もっと簡単なことやで?
スズM:あ、れ?のどが、渇(かわ)いて(咳払い)
ショウ:あっ、朝鮮(ちょうせん)ちゃん。やっと効いてきたか。お~、そ~い!
スズM:ショウは近くにあった経口補水液(けいこうほすいえき)と書かれた、ベットボトルのキャップを開け、目の前で、ゴクゴクと飲み始めた。
ショウ:あっ、欲しい?
スズM:あ、あ……くれ、くれよ
ショウ:はい、あ~ん
スズM:恥ずかしさも捨てて大きく口を開けた……しかし、ほぼ飲めなかった。
ショウ:本当に、素直すぎる。そんなんで、よく人を疑う仕事をずっと、してきたね……ウケるんですけど
スズ:ふざけんな、ボケ!ゴホッゴホッ
ショウ:ほう、威勢(いせい)だけは、まだあるんだ。プライド高いね……まぁ、ズタズタにするけど
スズ:慣れんことは、するな……一緒に死にたくないだろ?お前の役割は血抜き、解剖はリュウの担当なんだから
ショウ:へぇ、スズちの推理はそうなんだね
スズ:や、やめ……
ショウ:大丈夫。生食(せいしょく)、生理食塩水(せいりしょくえんすい)みたいなもんだから。傷口の洗浄(せんじょう)と殺菌(さっきん)は、してくれるから、安心して?
スズ:ダメだ……会話にさえ、ならなくなった
ショウ:この時をずうっと待ってた……スズちのものが俺のコレクションになるのを
スズM:俺の顔を、両手で強く掴んで、無理やり、天井へ向けられる。まぁ、すぐ視界に入ってきたのは、ギラギラとしたショウの瞳。
ショウ:俺、スズちの大きい目が大好きなの、特に左目(スズの鼻を力強く押える)
スズM:う、うあっ……あ
ショウ:麻酔、いらないよね?いっぱい、喘(あえ)いでいいから
スズM:俺の瞳に、気持ち悪いほど、穏やかな微笑みが映り、金属の冷たさを感じた。
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