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イチジク
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『シノブゥのためにめっちゃ愛情込めてTシャツ染めてたん、やっと出来たからぁ。明日、俺の部屋来てな?』
いつも一緒にいたのに、いつの間にやってたんだろう。
まぁ、ここに来てからもう1ヶ月になりそうだし。
あまりに嬉しくて、寝られなかったよ。
「慣れたやろ?」
スオウさんから珍しくコーヒータイムに誘われたのに、頭の中がオリベでいっぱいだから気が気じゃないんだ。
「おかげさまで」
僕は砂糖とミルク多めのコーヒーを恐る恐る啜る。
「それは良かったわ」
スオウさんはブラックのコーヒーを嗜むように飲む。
スオウさんの所作は無駄がなくて美しいから、吸い込まれそうだ。
ヤバい、また血を吸われてしまう。
「ふっ、緊張し過ぎや」
スオウさんは軽く噴き出すように笑った。
「血を吸ったんは挨拶みたいなもんや。またやったら、オリベが怖いからやらんわ」
ほら、遠慮せずに飲みやと優しく言ってくれたスオウさん。
僕ははいと言って、またコーヒーをいただく。
オリベの嫉妬……ああ、アサギさんのやつ。
確かにこれを伝えた時のオリベは目が笑ってなかったな。
「でも、たまにはおれやラシャくんとも付き合ってくれな?」
拗ねるように言うのが子どもっぽくてかわいい。
ギャップ萌えだ。
「ただ……1つ、言っておく」
スオウくんの目が僕をまっすぐ見据えるから、僕は固唾を飲んだ。
「コハクは気ぃ付けや? あいつの前では油断は禁物やからな」
スオウさんはまたブラックコーヒーを飲み、ため息をつく。
「あいつは悪魔やからな」
スオウさんよりコハクさんが怖いんだ。
なんてこの時は軽く考えていた。
甘過ぎたよ、僕。
数分後、スオウさんとの用事が済んですぐ、ルンルンしながらオリベの部屋へ向かう。
2階に上がって廊下を歩いていた……はずなのに。
「あら、わたくしのお部屋においでになるとは嬉しいでございます」
黄色の作務衣を着たコハクさんがシンクに立っていた。
「ごめん、間違えたね」
慌ててドアを閉め、バタンと音がした。
でも、いるのはコハクさんの部屋の中。
「えっ、どうして?」
動揺する僕を尻目に、コハクさんは穏やかに微笑んでいた。
「オリちゃんなら、さっき染め足りないってイチジクの茹で汁持ってたばかりでございますから……少しここでゆっくりして行けばよろしいかと」
おひとついかがですか? と赤い雫のような形をした果実を僕に渡してくれた。
「生のイチジクって初めて見た」
僕は宝石みたいに観察してみる。
全部赤いんだと思っていたけど、膨らんだ部分は白っぽいんだ。
「甘露煮も美味しいですが、生はまた一味違うのでございます」
季節はもう秋。
肌寒いからか、付いているストーブにあたりながら僕はイチジクを齧る。
いつも一緒にいたのに、いつの間にやってたんだろう。
まぁ、ここに来てからもう1ヶ月になりそうだし。
あまりに嬉しくて、寝られなかったよ。
「慣れたやろ?」
スオウさんから珍しくコーヒータイムに誘われたのに、頭の中がオリベでいっぱいだから気が気じゃないんだ。
「おかげさまで」
僕は砂糖とミルク多めのコーヒーを恐る恐る啜る。
「それは良かったわ」
スオウさんはブラックのコーヒーを嗜むように飲む。
スオウさんの所作は無駄がなくて美しいから、吸い込まれそうだ。
ヤバい、また血を吸われてしまう。
「ふっ、緊張し過ぎや」
スオウさんは軽く噴き出すように笑った。
「血を吸ったんは挨拶みたいなもんや。またやったら、オリベが怖いからやらんわ」
ほら、遠慮せずに飲みやと優しく言ってくれたスオウさん。
僕ははいと言って、またコーヒーをいただく。
オリベの嫉妬……ああ、アサギさんのやつ。
確かにこれを伝えた時のオリベは目が笑ってなかったな。
「でも、たまにはおれやラシャくんとも付き合ってくれな?」
拗ねるように言うのが子どもっぽくてかわいい。
ギャップ萌えだ。
「ただ……1つ、言っておく」
スオウくんの目が僕をまっすぐ見据えるから、僕は固唾を飲んだ。
「コハクは気ぃ付けや? あいつの前では油断は禁物やからな」
スオウさんはまたブラックコーヒーを飲み、ため息をつく。
「あいつは悪魔やからな」
スオウさんよりコハクさんが怖いんだ。
なんてこの時は軽く考えていた。
甘過ぎたよ、僕。
数分後、スオウさんとの用事が済んですぐ、ルンルンしながらオリベの部屋へ向かう。
2階に上がって廊下を歩いていた……はずなのに。
「あら、わたくしのお部屋においでになるとは嬉しいでございます」
黄色の作務衣を着たコハクさんがシンクに立っていた。
「ごめん、間違えたね」
慌ててドアを閉め、バタンと音がした。
でも、いるのはコハクさんの部屋の中。
「えっ、どうして?」
動揺する僕を尻目に、コハクさんは穏やかに微笑んでいた。
「オリちゃんなら、さっき染め足りないってイチジクの茹で汁持ってたばかりでございますから……少しここでゆっくりして行けばよろしいかと」
おひとついかがですか? と赤い雫のような形をした果実を僕に渡してくれた。
「生のイチジクって初めて見た」
僕は宝石みたいに観察してみる。
全部赤いんだと思っていたけど、膨らんだ部分は白っぽいんだ。
「甘露煮も美味しいですが、生はまた一味違うのでございます」
季節はもう秋。
肌寒いからか、付いているストーブにあたりながら僕はイチジクを齧る。
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