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シナリオ

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受験日が迫る一月下旬。
明李音の様態は、脳の腫瘍が大きくなり、記憶力も徐々に低下。
いつ息を引き取ってもおかしくない状態まで悪化していた。
この日病室には、僕の他に明李音の両親と僕の両親が集まっていた。
今日、最後かもしれないと担当医の藍沢から言われていた日だった。
だがこの日、最近消えつつあった明李音の記憶が戻っていた。

「みんな集まって、大袈裟だなぁ。
まだ死なないよ。っていうか、勝手に人の寿命決めんなって話だよね。」

腫瘍のせいで、さほど元気はない。
でも、彼女は一生懸命、できる限りたくさん喋った。
今の気分、今の調子、今日の天気、見た夢の話。
他愛のない話ばかりだった。でもそれが、何より嬉しかった。
彼女の楽しそうな顔、嬉しそうな表情。
それが、何よりも嬉しかった。

「私、元気のうちにたくさん手紙書いたんだ。
色んな人に。この病室に隠したから、見つけて。」

「わかった。」


「暖、明日受験でしょ?勉強しなきゃ。」

「バッチリだから大丈夫。」


「そういえば、将来の夢決まった?」

「小説家、頑張ってみようと思って。」


彼女は、小さな力を必死に出して、たくさん喋った。
その意図は、ここにいる全員がわかっていた。


「明日も朝来るね。」

「待ってる。
暖。頑張ってね。」

「終わったら、すぐ来るから。」

「うん。
暖、大好きだよ。」

「僕も、大好きだよ。」

「暖、キスして。」

「ハグもしてあげる。」

「温かい。私、幸せものだね。」

「絶対、頑張ってくるから。」

「楽しみに待ってるね。」




「始め!」

翌朝の試験当日。
彼女は、僕らに別れを告げずに
息を引き取った。
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