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オリジナル
㉒剣士×村人(美形×平凡)
しおりを挟む「勇者様御一行が近くまで来たぞ!」
村中の人間が喜びの声をあげている。それもそのはず。今日は魔王討伐に向かう勇者一行がこの村に立ち寄るからだ。
美男美女揃いと噂の勇者一行。村の人々は彼らを歓待するため、朝から忙しそうだった。
「みんなはりきってるなー」
そんな村人たちを感心したように見つめる平凡(トビー)。彼はこの村の入口付近に住む名も無き村人A。今日は自家栽培した野菜を村に売りに来ていたのだが、なんだか面倒くさそうだからさっさと帰ることにする。
丁度家にたどり着いた時、ばったり勇者一行と思われる人達に遭遇。
「うわ……」
「君、この村の人かい?」
キラキラしたイケメンが話しかけてくる。
「ええ、まぁ。そうですけど」
「そうか。俺は勇者パーティの剣士をしている。しばらく滞在しようと思うから、よかったらこの村を案内してくれないだろうか」
イケメン(ケイン)は眩しい笑顔でそう言う。
が、トビーとしてはお断り一択だ。
「え、なんでですか?村に入ったら、あなた達を歓迎しようとたくさんの人が待ってます。その中から選んだらどうでしょう。僕は忙しいので」
「あ、君……っ」
キラキライケメンなケインが引き留めようとしてきたが、気にせずトビーは家に入った。
それから勇者一行の事など忘れて、いつも通りの一日を送るのだが。
「ーーなんでいるんですか?」
「昨日も言っただろう?村を案内して欲しい」
翌朝、何故かケインが家を訪れていた。
「昨日も言いましたけど、お断りします。村には綺麗な女の人とか居たでしょう」
「いたけど、それが何か?」
「何かって、そっちに案内してもらえば良いでしょう?」
「俺は君に案内して欲しいんだ。それに、綺麗な女の人はみんな勇者様に持っていかれたよ」
「はあ……」
ニコニコと笑うケイン。何を考えているのか分からないが、引く様子がない為トビーは仕方なく折れることにした。
「分かりました。案内したらいいんですね」
めんどくさい事はさっさと済ませてしまおうと、トビーはさっそく村の案内をする事に。
ケインと一緒に村を回る。美味しい食事処や有名な服屋。武器屋に鍛冶屋、色んなところを案内する。
拙い説明しかできないトビーだったが、ケインは嫌な顔をせず、むしろ楽しんで聞いてくれていた。なんだかトビーも楽しくなって、最初は素っ気ない態度だったのが、いつの間にか彼の腕を引っ張っていたほど。
「……と。もう日が暮れてきちゃった」
夢中で案内していれば、すっかり日が暮れていた。
「今日はこれくらいにしようか。案内してくれてありがとう」
「あ、いや。なんだかんだ僕も楽しかったし」
「今日は疲れただろう?食事をご馳走するから、一緒にどうだい?」
彼が指さしたのは村の中でいちばん高級なお店。質素な暮らしをしていたトビーは一度も行ったことがない所だった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
今日の礼だというのなら拒む理由もないだろうと、誘いに乗った。初めて食べる豪華な食事に舌鼓をうち、そうして幸せな気分で帰路に着く。
「また明日も案内を頼めるかな?」
「ん?ふふ、もちろんいいですよ!」
ふにゃっとした笑顔でケインに笑いかける。すると唇に温もりを感じた。
「ふぇ?」
「……じゃあ、また明日」
頬を撫でて宿に戻っていくケイン。残されたトビーはポカンとしたまま。
それから暫くして我に返る。
「は?え……?今っ!?」
キスをされたことにビックリして、それから心臓がバクバク。
どうしていいか分からなくなったトビーは、とりあえず寝ることに。
そんでもって翌朝。
「おはよう」
「お、おはよう……ございます」
眩しい笑顔のケイン。こっちはグルグルして眠れなかったっていうのに!と思いつつ、再び村の案内に出かける二人。
「ーーこれで、案内する場所は終わりです」
「そうか……」
またも日が暮れた頃。ようやく一通り案内が終わる。そのことを告げるとすこしテンションが下がったようなケイン。はて?と思っていれば。
「もう少し、君の時間をくれないだろうか」
と手を握って、目を見て言ってくる。
途端に昨日のキスを思い出してポンっと赤くなるトビー。
あわあわしてる間に、ケインの泊まっている宿に連れていかれて口説かれる。
聞けば一目惚れしたらしく、村の案内を口実に距離を縮めるつもりだったと。
「けど思いのほかすぐに案内が終わってしまって、俺は今焦っているんだ。このまま君との繋がりを失いたくない」
抱きしめて告げてくるケインに、トビーは為す術もない。真っ赤になりながら
「別に、繋がりは、なくならないんじゃない……?」
って言うのが精一杯だった。
出会ってまだ数日。自分の気持ちが分からないけど、ケインといる時間が嫌じゃないのだけはハッキリしてるから、そう伝える。そしたらテンションの上がったケイン。抱きしめたまま顔中にキスを降らされる。
そんでその日は解放されるものの、翌日からも毎日家に来るケイン。お出かけしたりトビーの家で過ごしたりと、密な時間を過ごす。過度な接触はしないものの、甘い言葉と熱いキスをふんだんに送られ、トビーはすっかり絆されていた。
そして。
(明日、この気持ちを伝えよう……!)
そう決意したその日。
「話があるんだ」
と神妙な面持ちで告げてくるケイン。
なんだと思えば、
「明日、この村を出ることになった」
「……え」
「魔王討伐の途中に立ち寄っただけだからな。いつまでもここにはいられないんだ」
「そんな……」
折角気持ちを固めたのに、こんなことって……。と愕然とするトビー。
「ーー必ず魔王を倒して君の元に帰ってくる。だから無事戻ってきたら、君の気持ちを聞かせて欲しい」
「っ……」
「待っていてくれるか?」
トビーは頷くことしか出来なかった。
今この瞬間に告白すれば良かったのだろうが、伝えてしまってすぐに彼と離れ離れになるのは辛かった。
それにもし、万が一。彼が帰ってこない事があったとき、両思いの喜びを知ってしまった後だったら、きっと立ち直れないと思ったのだ。
そうして辛さを抱えたまま別れた翌日、ケインは朝早くに旅立って行った。
それからいつも、何をしていてもケインのことを考えてしまうトビー。
怪我をしていないか心配になったり、いつ帰ってくるのかと不安になったり。そんなヤキモキした想いを抱えながら彼の帰りを待つが、なかなか戻ってこなかった。魔王討伐が簡単では無いのは分かるが、彼が旅立ってからすでに数年が経っていた。
「もう、無理なのかな……」
彼の帰還を諦めかけた頃。
「魔王が討伐された!」
そう国中に吉報が伝わった。トビーはこれに涙が出るほど喜んだ。
そして。
「っ、ただいま!」
待ち焦がれたケインの帰還。あの頃より傷だらけだったけど、より逞しくかっこよくなった彼にトビーはようやく想いを伝えた。
そうして数年越しに結ばれた二人は、末永く村で幸せに暮らしましたとさ。
勇者一行美形剣士×平凡村人A
CP名:ケイン×トビー
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