嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

嬉しい報告

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 それは星祭りの頃だった。

「っ、ご懐妊ですか……!?」
「ええ、そうなんです」

 照れたように笑うミレイアに、枢は目を見開いて驚き、その後喜びに破顔した。

「おめでとうございます……!! すごい、赤ちゃん!」
「うふふ、そんなに喜んでくださるなんて嬉しいわ!! お医者様によれば今、三ヶ月ほどなんですって」
「っじゃあ、僕達の結婚式の頃には……」
「お腹の中にいた事になりますわね。実をいうと、その頃少し体調が悪かったんですの。風邪かと思ってたんですけれど、念の為にお医者様に診てもらったら……ということですわ」
「そっかぁ!」

 まだ膨らんでもいないミレイアの腹部を見る。

(こんな薄っぺらいお腹の中に、赤ちゃんが……)

 労わるようにミレイアの背後に立つウィリアムと、愛おしそうにお腹を撫でるミレイア。その幸せそうな様子に、枢の心も暖かくなる。

「兄上、ミレイア。本当におめでとう。実に喜ばしいな! 生まれてくるのが楽しみだ」

 枢の背後から声をかけるアシュレイも嬉しそうだ。
 その日は四人で集まって色々な話をした。男と女、どっちがいいか。名前はどうするか。お披露目もしないといけないな……など。
 生まれるのはまだ先なのに、その日が待ち遠しくて仕方がない。話題は尽きることなく、公務に戻る時間いっぱいまで話し込んだのだった。

          ♢♦︎♢

「赤ちゃん、か……」

 アシュレイと結婚してから引っ越してきた、彼の隣の部屋で一人、ぽつりと呟く。
 夕食までのわずかな時間、ぼんやりとした枢の頭の中には色んな感情が浮かんでいた。

(……ミレイア様の赤ちゃんかぁ。絶対可愛いだろうな。男の子でも女の子でも、すっごい嬉しい。っていうか、僕の甥っ子か姪っ子ってことになるんだ! うわぁ!!)

 まだ見ぬ赤子を想像してニヤニヤしたり、この若さで「叔父さん」になってしまうのかと驚いたりしていたが、ふいにピタリと動きをとめた。

「アシュレイの、赤ちゃん」

 ーー彼の血を引いた子供なら、どんな姿だろうか。
 ふと、そんなことを思ってしまう。

 彼が自分ではない、知らない女性と結婚するのを想像するのは辛い。だが、自分が相手でなかったなら、アシュレイがその腕に我が子を抱くこともあったのではないか。そう、考えてしまった。

「僕じゃ、ダメなんだよね……」

 女にはなれない。だから、彼の子供を産んでやることはできない。彼を父親にしてやれない。

 ミレイアの妊娠は喜ばしいことなのに、なんだかとてつもなく悲しくなってしまった。

 じんわりと涙が浮かぶ。盛りあがってこぼれ落ちる、その前にスっと拭う指が。

「っ、アシュレイ……!!」
「どうして泣いている? なにが、ダメなんだ?」

 いつの間に部屋に入ってきていたのか。ソファに座る枢の前に膝をつき、顔を覗き込んでくる。その瞳は優しかった。

「…………どこから聞いてた?」
「僕じゃダメってとこからだな」
「そう……」
「教えてくれないか? なにがダメなのか」

 膝の上に置いた枢の手のひらをそっと包んでくれる。労わるように撫でられて、ホッと力を抜くことができた。

「……ミレイア様の妊娠、嬉しいなって思って。赤ちゃん可愛いだろうなって考えてたら、アシュレイの赤ちゃんはどんなだろう、って思っちゃった」
「…………」
「きっとアシュレイに似てキレイなんだろうなって思ったけど、僕は男だから……。アシュレイの赤ちゃん、産んであげられないなって」

 また涙があふれてくる。キュッと唇を噛み締めると、そこへそっとキスをされる。

「っん」
「……カナメは馬鹿だなぁ」
「……ひどい」
「私は、カナメがいてくれればそれでいいのに。変な心配して落ち込んで。本当に馬鹿だ」
「アシュレイ……」
「確かに子供は可愛いと思う。だが、どうしても欲しいというわけじゃない。いればいたで、後継争いなど、いらぬ苦労に巻き込んでしまうだろう。それに……」
「……それに?」
「私の子なら、絶対にカナメの事が好きなはず。そうなったらカナメの取り合いになるからな。子供を優先されたら、私は嫉妬してしまう」

 真面目な顔でアシュレイはそう言い放った。
 枢はポカンとして彼を見る。それから思わず吹き出してしまった。

「っ、あははははっ!! アシュレイ、子供にヤキモチ妬くの?」
「妬く。カナメが構ってくれないと拗ねるぞ?」
「んっふふ、拗ねちゃうんだ」
「そうだ。拗ねたら子供は乳母に預けて、カナメは精霊塔を休ませて、一日中くっついて離さない」
「なに、それ……っ!!」

 なんと可愛らしいことか。子供に嫉妬して枢を独占しようとするアシュレイ。想像するだけで愛おしい。

「……アシュレイが拗ねて、僕もお仕事が出来なくなったら大変だ」
「そうだろう? だから私だけを目一杯構って愛してくれ」
「うん。そうする。……ありがとう、アシュレイ」

 しゃがんでいるアシュレイの首に縋り付く。背中に回った大きな手が暖かくて、心が凪いでいくのがわかる。

「ミレイア様の赤ちゃん、楽しみだね」
「あぁそうだな。私たちで守ってやろう?」
「うん……」

 ふわりと気分が浮上した枢は、生まれてくる王子か王女か。彼らの姿を夢見て目を閉じたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ということでミレイア懐妊のお話。

若干枢がナーバスになってますが、そこは
アシュレイが宥めてくれます。実際アシュレイは
枢がいてくれればいいと思ってますし、国王の
世継ぎがいればそれで充分とも思ってます。
跡目争いも起きなくてむしろ良いのでは?
くらいの感じ。
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