1 / 2
「プロローグ」わたしのせい
しおりを挟む
五歳。誕生日を過ぎた、三ヶ月とちょっと後ぐらいだろうか。
私の髪が黒から赤色に変わったのをキッカケに、お母さんの浮気がバレた。
私はお母さんの子ではあったけど、お父さんの子ではなかった。この悪女は五年もの間、浮気相手との間にできた子供である私を、なに食わぬ顔でお父さんに抱っこさせていたのだ。
「なんで、黙ってたんだよ」
「黙ってたもなにも、言う必要を感じなかったからよ」
悪びれる様子もないお母さん、それを静かに問い詰めるお父さんを、私は隠れながら震えながら見ていることしかできなかった。幼かった私はアレを喧嘩だとか、仲直りしてほしいだとか、そんな呑気なことを考えていたに違いない。
なんて、無垢で愚かな考えだったんだろうか。
目の前で壊れつつある家庭に亀裂を入れたのは、他の誰でもない私自身だったというのに。
「もういいわ、こんなことも許してくれない貴方とはやっていけない。私、この家から出ていくわ」
「おい、まだ話は終わってないだろうが。待てよ、おい。アカネはどうするんだよ」
「親権なら別に要らないわよ。私、子供なんて育てられないし……今まで通り貴方が育てればいいじゃない」
お父さんは怒鳴っていた。優しいお父さんがあんな鬼のように感情を爆発させているのを、私は初めて見た。……怖い、怖い。このままじゃ、お母さんがいなくなっちゃう。
「まって!」
玄関で靴を履き終えたお母さんの服を掴んで、私は子供ながらに自分の主張を訴えた。
「だめ、だめだよ。なかなおりしなきゃだめだよ、ね? ね? アカネもいっしょにあやまるから、ねぇ?」
「……はぁ」
ため息。
今でも覚えている。鬱陶しいとか、面倒くさいとか、そういう顔。五歳の子供、ましてや自分が腹を痛めて産んだ子供に対して向ける態度ではなかった。
「全部、あんたのせいってわかんない?」
「え……?」
困惑する私に対して、お母さんは私の髪をつまんで、ぴんっ、ぴんっと引っ張った。
「あーあ」
──アンタの髪が、ちゃあんと黒いままだったらねぇ。
「……ぁ」
分からない。わからないけど、私はもうなにかするしかないと思った。
「ごっ、ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい、黒くなくてごめんなさい! クレヨンでぬるから、黒くするから……まって、まって!」
止まらない。躊躇もなにも、目の前の背中にはない。
がちゃん。無慈悲に閉まったドアを、私は呆然と眺めている。
「…………う、ううっ」
なにが悪いのかわからない。でも、これだけは分かった。分かってしまった。
”私のせいなんだ”って。
私の髪が黒から赤色に変わったのをキッカケに、お母さんの浮気がバレた。
私はお母さんの子ではあったけど、お父さんの子ではなかった。この悪女は五年もの間、浮気相手との間にできた子供である私を、なに食わぬ顔でお父さんに抱っこさせていたのだ。
「なんで、黙ってたんだよ」
「黙ってたもなにも、言う必要を感じなかったからよ」
悪びれる様子もないお母さん、それを静かに問い詰めるお父さんを、私は隠れながら震えながら見ていることしかできなかった。幼かった私はアレを喧嘩だとか、仲直りしてほしいだとか、そんな呑気なことを考えていたに違いない。
なんて、無垢で愚かな考えだったんだろうか。
目の前で壊れつつある家庭に亀裂を入れたのは、他の誰でもない私自身だったというのに。
「もういいわ、こんなことも許してくれない貴方とはやっていけない。私、この家から出ていくわ」
「おい、まだ話は終わってないだろうが。待てよ、おい。アカネはどうするんだよ」
「親権なら別に要らないわよ。私、子供なんて育てられないし……今まで通り貴方が育てればいいじゃない」
お父さんは怒鳴っていた。優しいお父さんがあんな鬼のように感情を爆発させているのを、私は初めて見た。……怖い、怖い。このままじゃ、お母さんがいなくなっちゃう。
「まって!」
玄関で靴を履き終えたお母さんの服を掴んで、私は子供ながらに自分の主張を訴えた。
「だめ、だめだよ。なかなおりしなきゃだめだよ、ね? ね? アカネもいっしょにあやまるから、ねぇ?」
「……はぁ」
ため息。
今でも覚えている。鬱陶しいとか、面倒くさいとか、そういう顔。五歳の子供、ましてや自分が腹を痛めて産んだ子供に対して向ける態度ではなかった。
「全部、あんたのせいってわかんない?」
「え……?」
困惑する私に対して、お母さんは私の髪をつまんで、ぴんっ、ぴんっと引っ張った。
「あーあ」
──アンタの髪が、ちゃあんと黒いままだったらねぇ。
「……ぁ」
分からない。わからないけど、私はもうなにかするしかないと思った。
「ごっ、ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい、黒くなくてごめんなさい! クレヨンでぬるから、黒くするから……まって、まって!」
止まらない。躊躇もなにも、目の前の背中にはない。
がちゃん。無慈悲に閉まったドアを、私は呆然と眺めている。
「…………う、ううっ」
なにが悪いのかわからない。でも、これだけは分かった。分かってしまった。
”私のせいなんだ”って。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる