Ice in love

白銀狼

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氷の妖精

氷の記憶

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 真っ白な地面に私一人だけが立ち尽くしている。すると後ろから声が聞こえた。
(ねぇ、そっちに行っちゃいけないよ?ねぇってば…)
 不思議な声が聞こえ私は、辺りをキョロキョロと確認した。しかし、側には誰もいない…
「誰?誰なの?」
 声の主は応えてはくれなかった。自分の声だけがその場に響き渡る。
 私はどうすればいいのか分からない。声に従い動かなければいいのか?はたまた、動いたらいいのか?動くならどっちへ?そんなことを考えながらだた前を見つめていた。
 突然、後ろから手を掴まれた。掴まれた手は熱を帯びその存在を示して行き、私を導いて行く。在るべき場所へと連れて行くかのように…ふと気づくと、後ろには誰もいないはずなのに女の人が立っていた。私を見て寂しそうな顔をして居たが、私を導く手が彼女との距離を段々と開いて行く。
 何故か私も彼女から離れて行くにつれて、私自身が離れ難い気分になってきている。不思議な感覚だ…
「ねぇ、置いて行っちゃうの?連れてかなくていいのか?」
 私は引かれながら問う。しかし、私は無理やり連れて行かれてしまう。
「ねぇ?止まってってば?」
 いくら言っても叶わず、どんどん距離がひらいて行く。私は、何故か放っておれず連れて行かれないように抵抗を試みたが、力が強く止まることはなかった。代わりに握られた手の力だけが徐々に強くなる。
 遠くの女の人は私を追いかけるでも無く、ただずっと見つめるだけであった。

【そぅ、それでいいの。じゃあね。】

 また、私の頭の中で声がした。彼女だろうか?言葉には微かに暖かさを感じた。
 それから少し時間が経ったように感じた。
 目の前の相手が急に止まってしまった。顔を挙げて振り返り何があったのかを聞こうとした。
 目の前が一瞬回った。振り向こうとしたら、いきなり抱きしめられて居た。相手の顔が見えなかったが、嫌な感じはしなかった。
 抱き寄せられた暖かさに私の目がゆっくりと伏せられ目の前が暗くなってきた。意識が遠くなる際に、私の耳には優しい声がしたが次第にその声も消えて行った…
 優しい囁きだけが残った。
 その後の事は覚えていない。

 気が付くと私は、屋敷のベットの上に居た。
 何故自分がここに居るのか初めは、全く分からなかった。徐々に意識がはっきりして行く。どうやら私は、長い間眠っていたようだ…
  カレンダーは、あれから三日が経過して居た。アイリと待ち合わせしたあの日から…
 そして、さっきまで長い夢の中に居た。
 (…一体、誰だったんだろう?)

 コンコン…
 ドアが叩かれ、返事より先にドアが開かれる。開いた先に居たのは、グレンだった。
 片手に小さな包みを持ち、私の方へ歩いてきた。
 「おはよう、グレンっ…」
 勢い良くグレンが私を抱きしめた。徐々に抱き締める力が増す、まるで存在をしっかりと確かめるように…
 それから、ゆっくりと力が抜かれる。私は、温もりを確かめたくなり、自然と手をグレンの背に回しかけて居た為、グレンが離れて行く事に一瞬戸惑った。また、離れて欲しく無いとも思った。一瞬の出来事だった…
 その時悟った。私じゃないんだと…彼が本当に心から抱き締めたかったのは私じゃない。さっきのは、あの時の光景を見た私を落ち着かせたいだけだったんだ。そうに決まっている…
だから、これ以上私を抱きしめたりしない。これ以上私に触れない。
(なんか…寂しいな…)
「ごっごめん!」
「構わない。」
 (違う…謝らないでくれっ…)
 私は、出来るだけ笑顔で返す。
「お前、三日も目を覚まさなかったんだ。アイリが丘で倒れて居たのを見つけて運んだんだ…俺は」
「そうか。ありがとう。アイリにも礼を言わなくてわな」
 グレンは何かを言いたがったみたいだが私は、聞きたくなかった。だから、聞かなかったふりをした。
「あっあぁ、そうしてくれ。俺からも礼を言って置くけど、お前も元気な顔を見せてやれ。心配してたからな、あいつ」
「そうするよ。…じゃあ、部屋を出てくれないか?」
「えっ?」
「…アイリに会うのにこんな格好だからさ。」
 グレンの顔を見ず、淡々と告げた。出て行けと…本当は違うのに…
「あぁ…そうか、じゃあまたな。」
 一言、リビングに全員を呼んで置くと伝え、グレンは部屋を出た。
 グレンと少しだけ話したくなかった。これで良い。私は、あの日を思い出してしまったから…

 ”あの時助けたのはグレン”
 何故かその事実を受け入れられなかった。受け入れられない?何故?
  カイトじゃなくグレン?何故?私自身何故グレンなのか、カイトだと良いのか?何故何故とよく分からない状態だった。
 彼らをよく知らない筈なのに、知っているように感じている。
 私は、記憶が戻りつつあるのだろうか?そんな事を思いながら、着替えを済ませ屋敷を出た。
 皆が居る筈のリビングには行かなかった。いや、行けなかったんだ…今の状態では…
 
そのまま、歩いて行くと気付いた時にはあの時の丘に辿り着いて居た。
(アイリとの待ち合わせの場所。私の…思い出の場所)
「思い出?…何の事だ?」
 不思議に思った。何を自分は言っているのか?謎だった。今日は…不思議な事がよく起こる。前に私はここへ来た事があるのか?誰となんだろう…それとも一人で?謎が謎を生み私は、混乱して居た。
 
  
 屋敷に帰りながら考える内にどんどんと曇りが晴れて行く。
(そう、あの時…こんな感じに混乱して倒れたんだ!)
 私の側に”アイス”が居た筈だ!キョロキョロと辺りを見渡し”アイス”を探す。
「アイスー!アイスー!」
 私は大声でアイスを探した。街に響き渡るように。
 私が呼ぶとアイスが何処からか飛んで来た。しかも、花を両手に抱えて。
『ユリア様!何処においでだったんです?探したじゃないですか!!』
 見るとアイスが持ってきた花は、花弁が何枚か散って居た。私を探して散ってしまったらしい。大変申し訳ないけど、ちょっと笑えた。
「ふふっ、ありがとう。アイス」
『いえ、無事で何よりです。でも、あんまり私が居ない時に出歩かないで下さいよ!』
「そうね。」
 アイスに怒られるなんて思っても見なかった。側に居てくれると安心した。私は混乱が解かれて安心に包まれた。
「そういえば、私は何故倒れたのか?アイスは分かる?」
『えぇ、分かる範囲でならお教え出来ます。』
「一体何があったの?」
『あの時の現場を目撃されて、急に倒れられたんです。それも、急に意識をなくされて眠るように…それから、側に居られたアイリ様が声をかけても眠ったままだったんです。』
「そうだったのか…ありがとう。その他は知らないか?」
『すみません、細かい所までは分からないんです。』
 アイスは、とても申し訳なさそうに答えた。
 私は、確かにあの場所に居たくなくて走った。見てられなかった、何故かはやっぱり分からないけど…身体があの場所に留まるのを拒否したのだ。
 あの時の事を思い出そうとしてアイスを連れて屋敷まで歩いていた。

 玄関を開こうとした時、肩を叩かれた。後ろに居たのはアイリだった。
「ユリア?なんで外に居るのよ、探してたのよ?」
「アイリ?ごめん…何も言わずに外に出て…」
「ちゃんと言ってからにしなさいよ…まったく、ユリアったら」
 そう言いながらアイリは笑っていた。アイリの笑顔は、私も笑顔にさせる。笑顔の伝染だ、考えて居たこともどうでも良くなってしまう。
「ユリア、良かった。私の知らない所へユリアが行ってしまうように感じて…怖かった。体調大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。それに何処にも行かないよ?アイリ」
 アイリは真っ赤な顔をして私に抱きついた。私は、アイリの背に手を回し抱き締め返した。一緒に居ると伝える為に…
 
 お互いに落ち着き、アイリが話し出した。あの時の事を
「ユリアは、何で私の前から居なくなったの?」
「よく分からないけど、気付いたら走ってた…」
「そう…成る程ね。」
 アイリは何かを納得したように、屋敷の扉に手をかけた。
「アイリ?」
「…ユリアは、前の自分を知りたい?」
「何か関係があるの?」
「えぇ…知りたい?」

 
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