ヴィティスターズ!

独身貴族

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☆アイレンの奮闘記 第二話 華麗なるシャルドネの一日

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アイレン「僕はアイレン。小さな出版社の雑誌記者だ。今日も、特集記事のネタを集めに、街を駆け回っている……」

***

アイレン「ふふ、ふふ、ふふふふふ。我ながら、いい記事になったぞ。カベルネのカッコよさと、メルローの名コンビっぷりが全面に書かれている! ふふふ、ふふふふふ」

♪着信音

アイレン「はい、アイレン。……え? あの記事はなんだって? あんなものを頼んだ覚えはない? そんなあ、編集長。カベルネとメルローの良さが最大限に書かれた、素晴らしい記事じゃないですか! え? 次はシャルドネを取材しろって? もっと品種の個性に着目した記事にしろって? はいはい、わかりましたよ、善処します……」

♪電話を切る

アイレン「くそお。今度こそ、最っ高な記事にしてやるう……!」

♪着信音

シャルドネ『アロー、こちらシャルドネ』

アイレン「アイレンだ。……シャルドネ、時間あるかい?」

シャルドネ『おおー!珍しいなアイレン! 食卓を彩るチョー人気者な俺に会いたいって? 嬉しいなあチュッチュ』

アイレン「はは……」

シャルドネ『ちょうどこの後、少し予定が空くんだ。話すのはカフェでいいか?』

アイレン「ああ」

シャルドネ『よし、じゃあセミヨンのカフェで待ち合わせな。時間は3時で。オーケー? じゃあな! ボン・?(また後で)』

♪電話が切れる

アイレン「はあ」

○カフェ

シャルドネ「おーおー、お待たせお待たせ~っと。ごめんねえ、ちょいと遅れちまって」

アイレン「いや、いいんだ。そんなに待ってないから」

シャルドネ「それで、俺に話って何? そっちから会おうなんて、滅多にないことだから、俺ずっとソワソワしちゃってよー」

アイレン「そ、そんな緊張することじゃないよ。君のよく慣れているアレさ」

シャルドネ「お仕事の話? 雑誌の取材か? なーんだ、改まってお話ししようっていうから、変に緊張しちまったよ」

アイレン「な、なんの話を切り出されると思ったんだよ!?」

シャルドネ「ま、ま、お仕事の話でも嬉しいけれどね。で? 今回はなんの特集? 俺の出演した映画の話? それとも煌びやかなシャンパンの世界について?」

アイレン「まあ、当たらずも遠からずってとこかな。ずばり、君についての特集だよ」

シャルドネ「え? なにどーゆうこと? おたくの編集長、俺に惚れでもしちゃったわけ?」

アイレン「なんでそうなるんだよ! (咳払い)今回、僕に課せられたテーマが『ヴィティスについて』なんだ。それで、改めて各ワイン用品種についてまとめた記事を、書くことになったわけ」

シャルドネ「なるほどねえ。今更感はあるが、まあ、面白いんじゃね? それでどうするんだ、俺にシャブリとシャンパンの講義でもしろって?」

アイレン「いや、明日一日、君の密着取材をしたいんだ」

シャルドネ「は。(間抜けな声)……ははははははは! そりゃあいい! いいぜ、アイレン。存分に俺に密着して、存分に俺の魅力を書けばいいぞ!」

アイレン「……なんか、やりたくなくなってきたなー。この企画」

シャルドネ「なんならうちに泊まってくか? ん? 朝から密着取材なんだろ? ベッドは一つしかないが……」

アイレン「明日早朝に伺いますので! それじゃあ!!」

○明朝、朝、シャルドネ宅

♪ピンポーン
♪ドアが開く音

シャルドネ「おー、おはよーさん。朝早えーな、アイレン。俺ちんまだ起きたばっかだぜ?」

アイレン「もう取材は始まってるんですよ、シャルドネさん。そんなだらしないのでいいんですか? 記事に書きますよ?」

シャルドネ「なにカリカリしてんだよ……。昨日のあれは冗談だっての。ま、入ってコーヒーでも飲めよ」

アイレン「ああ……お邪魔します」

♪ドアが閉まる音

○シャルドネ宅、リビング

アイレン「今日の予定は?」

シャルドネ「午前中は映画の撮影。昼は別の映画の監督と会食して、午後はバラエティ番組の収録。そのあと5時からピノと合流して、大手企業の周年記念パーティーにてシャンパンサーベラージュをし、その後すぐに大物俳優の婚礼の披露宴に顔出しして終了。ってなとこかな」

アイレン「うわ、予定びっしり」

シャルドネ「正直この時間に起こしてくれて助かったよ。すぐ準備すっから、記事の構想でも練って待ってな」

アイレン「ああ」

シャルドネ「あ、密着取材だからって、シャワー覗くなよ?」

アイレン「頼まれてもするか! 早く行けよ!」

シャルドネ「ははは」

○撮影現場

俳優『君の瞳に……乾杯』

女優『乾杯』

監督「はい、カットー!お疲れさんー!」

シャルドネ「お疲れ様です」

アイレン「すごいな……。撮影で本物のシャンパーニュ使うなんて……。流石、監督。小道具にまでこだわるんだな……」

○バラエティ番組の収録

MC『続いては、大人気のこのコーナー! どちらのワインが本物でショー! ゲストの皆さんには、こちらの二つのシャンパンを飲んでいただき、どちらが高級ワインなのか、当ててもらいます!正解した方には、こちらの………』

アイレン「シャンパーニュの飲み比べクイズだって……!? いや、片方はスペインのカバじゃないか。カバも充分美味しいんだけれど、その金額を当てろだなんて……」

ゲスト『え~、どっちだろ~? どっちも美味しいんだけど~』

マカベオ(おちょくるように)
「あらまあ、シャルさ~ん。飲んでる人みんな、どっちがシャンパンだかわからんって言ってはりますよ~。もうこの際、ウチのワイン、シャンパンって名乗ってもいいことにしません?」

シャルドネ
「だー! またかよ! それはもう禁止だって言っただろうが! あれは俺んとこのブランドなの!! 勝手にシャンパン名乗るんじゃねえ!」

マカベオ(おちょくるように)
「んまぁ~つれないわ~。ケチな男はモテへんよぉ? あ、シャルさんはモテモテやし、関係あらへんな。えろう、すんまへーん」

シャルドネ(苦々しく)
「こんの……おちょくりやがって……」

アイレンN「アイレンのワインミニ知識! カバとはスペインで作られる、シャンパーニュと同じ製法のスパークリングワインのことである! 使用される品種は色々あるけれど、主にマカベオ。このカバなんだけれど、近年までシャンパーニュって名のちゃってて、シャルドネから随分睨まれてたんだよね……。今はフランスの法律で、勝手にシャンパンを名乗ることは禁止されているよ。マカベオは、シャルドネに憧れて作ったんだって、弁解してたんだけれど……仲直り、してないのかな……?」

○周年パーティー会場

司会『それでは、会社の今後の繁栄も願って、シャンパンサーベラージュを行いたいと思います! それでは、お願いします!』

♪金属音
♪コンっというボトルの頭が飛んでいく音

♪拍手

司会『それでは、乾杯!』

アイレン「はわわ……、シャンパンサーベラージュ決めたシャルドネ、かっこいいなぁ………!いいなあ、僕も一回やってみたいよ。多分失敗するだろうけれど……」

○披露宴会場

司会『では、皆様、グラスを持ってご起立ください。……新郎、新婦、両家の繁栄と祝福を込めて、サンテ!』

♪拍手

○二次会

アイレン「うっうっ、花嫁、めちゃくちゃ綺麗だった……! お幸せに……ぐすん」

シャルドネ「なんだよアイレン。もらい泣きか?」

アイレン「だって、新婦の家族へのスピーチ、感動的だったじゃないか……! あんな娘さんを奥さんにもらえるなんて、新郎は幸せ者だよぉ……!」

シャルドネ「ははは。……結婚に、憧れを持ったりするか?」

アイレン「……ない、と言ったら嘘になるけれど……。僕たちは、そういうイベントとは無縁だからさ」

シャルドネ「あげようと思えばあげれるんじゃないか? 形だけになるだろうが」

アイレン「それはそれで虚しいよ。……僕たちの幸福は花嫁を見つけることじゃない。人々に恵みと談笑をもたらし、食事の席を盛り上げ、最高の瞬間を演出すること。それ以上の喜びなんて、あるのかい?」

シャルドネ「その通りだ。……だが、やっぱり羨ましくなるな。人と同じ体を持ちながら、人生の伴侶を見つけることができないなんて。一回くらいは、本気の恋ってものをしてみたいもんだな」

アイレン「シャルドネは時に愛に飢えたロマンチスト……と」

シャルドネ「おい、記事に書くのか?それ」

アイレン「さあ、どうしような?」

シャルドネ「まあ、ロマンチストってのも悪くはないが……もっとタメになる記事、かけよな」

アイレン「タメになるって、例えば?」

シャルドネ「振る舞われたシャンパン、お前も少しもらったろ? アレについて書くとか」

アイレン「グラスにちょっとだけで、飲んだ気がしなかったよ」

シャルドネ「じゃあ、もう一回、味見しとくか?」

アイレン「え?」

♪キス

アイレン「ーーーーっ!」

シャルドネ「あーらら? 耳まで真っ赤になっちゃって。かーわいいの」

アイレン「お前は、また、そうやってーーーーーー!! 人前だぞ!? モラルとかないのか!?」

シャルドネ「俺たちにとって挨拶みたいなもんだろ? ん?」

アイレン「………! ……はあ。なんかお前相手に怒るのも無駄な気がしてきたよ……」

シャルドネ「いい記事になりそうか?」

アイレン「おかげさまでな!!!」

○売店

シャルドネ「『ヴィティス・マガジン』一部くれ」

売店の親父「はいよ」

シャルドネ「(ページをめくる)えーっと、なになに? 『シャルドネは活動的で社交術に長け、パーティーを盛り上げたりお祝いの席を華やかにするが、実はロマンチストでナルシスト、おまけに誰彼構わずキスを振りまく癖がある……』おい、あいつまじで書きやがったな。こんにゃろめ」

アイレン「(背後から)ご自分の特集を読まれた感想は? どうぞ」

シャルドネ「っ……! 実によくかけてると思いますよアイレン様!……よく編集長、これでOK出したよな」

アイレン「外面ばかりの文章並べるより面白いってさ。嘘は書いてないからいいだろ? 売上部数も増えてるらしいよ。よかったな、全部あんたのおかげだ」

シャルドネ「~~~。アイレンのくせに、俺をやり込めようってのか? いいぜ、見てろよ! そのうち、記事に書けないくらいのベロチューかましてやるからな!(立ち去る)」

アイレン「張り合うのそこ!?」

end

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