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異世界編
第一話 扉を開けるとそこは異世界だった
cuicuiふろま~じゅ!-セブンピース- 第1話
〈キャスト〉
岸田ちづこ:世界でも珍しいチーズシュヴァリエの1人。チーズの専門士。
紘乃:社会人1年目のちづこの後輩。ちょっとおバカ。
サンマルスラン(マルスラン):フランスのチーズ。可愛い淑女。
ヴァランセ:フランス軍服を纏ったおかっぱ髪の軍人。厳つい喋り方をする。
ブリドモー(モー):チーズの王。ゆるふわしたみんなのお姉さん。1話では一言のみ。
ナレーター(N):1話だけたくさん喋る
インタヴュー:モブ
──────────以下台本
○プロローグ
紘乃「うそ……そんなこと、ある?」
N「紘乃はドアの先に広がる世界に、息を呑む。
レンガ作りのヨーロッパの街並み。乾燥した空気、澄み切った空。そして通りを行き交う、華やかな装いの女の子たち──」
紘乃「さっきまで、職場にいたのに!? どゆこと? うちの保管庫のドアって、異世界に繋がってる感じ!?」
N「制服姿で戸惑う紘乃。そう、彼女はどうやら、異世界に飛ばされてしまったのである。しかもそこはチーズが擬人化した女の子たちが暮らす、チーズの街だった……」
***
○タイトルコール
紘乃「cuicuiふろま~じゅ!-セブンピース- 第1話、扉を開けるとそこは異世界だった」
***
○回想シーン。
N「時は遡り──。
煌びやかなホテルのパーティ会場。こじんまりとしているが、各国の風格ある顔ぶれが揃っている。彼らの視線を集める1人の女性── 岸田ちづかに、司会がマイクを渡す」
(カメラのフラッシュ)
インタヴュー
「えー、日本はおろか、世界にも数十名しかいないと言われているチーズシュヴァリエですが、この度、就任することになりましたワールドワイド商会の岸田ちづかさん、何かコメントをお願いします」
(ちづかの顔にスポットライトが当たる。カメラのフラッシュに瞬きながら、彼女は話し始める。)
ちづか
「はい。実は──私は幼い頃、チーズが大の苦手でした。匂いはきついし、味も濃いし、とても美味しいとは思えなかったのです。それが20歳になって──フランスでワインと共に、白カビチーズのブリを食べたその時──世界が一瞬で覆りました。こんなにも美味しいものはあるのかと──それからのめり込むように勉強をし、このような栄誉ある称号をいただけることになりました。あの日、チーズを食べた時のあの感動を、多くの方に届けること──それが私の使命だと思っています」
N「賞賛の拍手が彼女を包み込む。彼女は若くして、世界で認められるチーズの伝統を守る騎士の称号を与えられたのだった」
(賞賛の拍手。それを掻き消すように、一際大きなため息)
紘乃「はーあ」
***
○チーズショップの店内
(店舗のBGM)
N「そして──ここはワールドワイド商会の店舗の一つ、チーズ専門店【チーズキングダム】。そのカウンターで、新人店員の紘乃(ひろの)は、不平を漏らしている」
紘乃「まさか就職早々、チーズのお店に配属されるなんてね……私ってば本当ついてなーい。チーズなんて、それほど好きじゃないし、おしゃれな内装だからまだ許せるけど、店名が『チーズキングダム』って……本当ダサいわ~。福利厚生が充実してなかったら、とっくに転職してたのに」
ちづか「ひよこちゃん、独り言大きすぎ」
ひろの「うへぇ、チーズ先輩、聞いてたんですか!? あと、ひよこじゃありません、ひろのです」
ちづか「まだ殻をつけている社会人一年生なんだから、ひよこちゃんでぴったりだよ」
ひろの「うー! ひよこじゃないもーーん!」
ちづか「それじゃあ、ひろのちゃん。この間の宿題、覚えてきたかな」
ひろの「宿題……って、うちで売ってる主要チーズの生産地と特徴を覚える、でしたっけ? うぅ、まだチーズの名前も覚えていないのにぃ~」
ちづか「はい、このチーズの名前は?」
ひろの「ええっとぉ~、カマンベール!」
ちづか「ぶっぶー。ブリ・ド・モーです」
ひろの「ブリと牛……?」
ちづか「ブリ・ド・モー。もう入社して二ヶ月が経つでしょう。早く名前だけでも覚えて、お客様に勧められるようにならないと。いつまでも私を頼ってばかりいられないんだよ」
ひろの「はぁい……」
(紘乃は話を逸らす)
ひろの「そう言えば先輩、そこに飾ってある記事見てたんですけどぉ、先輩って、なんかすごい人なんですね。チーズシュヴァリエってやつ、世界でもあんまりいないのに、先輩、選ばれたってすごいですね!」
ちづこ「(小さなため息)すごいなんて、まだまだ。チーズの美味しさを広める役割、まだちゃんとこなせてない。まずは、あなたにチーズを好きになってもらうのが、今一番の仕事かな」
ひろの「うぅ……先輩のためにガンバリマス……」
***
◯閉店後。
N「そして、お店は閉まり、退勤時刻」
ひろの「お疲れ様でーす。お先に失礼しまーす」
N「だが、返事はない」
(紘乃は退勤の挨拶をしようとちづかを探すが、姿が見当たらない)
ひろの「あれぇ……チーズ先輩いないのかなぁ」
(引きずって歩く足音)
N「紘乃が店の奥を覗くと、チーズ保管庫の扉が、少し開いているのが見えた」
ひろの「あれれ。チーズ先輩、保管庫の扉閉め忘れたのかな。開けっぱなしになってる。珍しー」
(ドアを閉めようとして止まる)
ひろの「あれ……? 何か声が聞こえる……」
N「ドアの奥を覗くと、暗い保管庫の奥にもう一つ扉が。そこから一筋の光が差し込んでいる」
ひろの「奥の扉……こんなのあったかなぁ……」
(ドアを開くと……)
***
○明るい光のさす教会
モー「騎士様! 騎士様! 私たちをお助けください!」
ヴァランセ「騎士様! 騎士様! 彼女から私たちをお救いください!」
モー、ヴァランセ、マルスラン「騎士様! 騎士様! 騎士様!」
(鐘の音)
***
○西洋風の路地
(風の音)
ひろの「はわわっ!……眩し……!」
(賑やかな通り)
ひろの「ここは……何処!?」
(通りの賑やかな話声)
(どこからともなく聞こえるオクラホマミクサー)
ひろの「保管庫の扉を開けると、そこは異世界だった──って、嘘でしょ!?」
***
N「さて、少し時は遡り……。」
○教会の前に立ち尽くすちづか
♪風の音
ちづか「私は……チーズの様子を見ようと、保管室に入った筈なのに──ここは……何処?」
(少し歩く)
ちづか「知らない街。でもすごく素敵。何度か訪れたコルマールやヴェネチアの街並みに似てる。……保管室の扉を開けると、そこは異世界だった──なんてことがあるなんて……ね」
(背後で1人でに閉まるドア)
ちづか「あ、待って……」
(慌てて開けると、そこは古びた教会のホールだった)
ちづか「嘘でしょ……? さっき、ここから出てきたのに……保管庫じゃなくて、古い教会になってる……こんなファンタジー……」
(走る足音)
マルスラン「助けて! 助けてくださいまし! 誰か──!」
ちづこ「はっ!」
(女性の悲痛な声。もつれる足音。ちづこは声の方へと駆け出す)
マルスラン「嫌ですの、こんな──助けて──!」
(ちづこが角を曲がると、女性が転んで地面に倒れていた。そこへ襲いかかる黒い影)
(ちづこは咄嗟に女性を庇う)
ちづこ「危ないっ──!」
(打撃音)
マルスラン「ああっ! ……あなた、大丈夫ですの!?」
(ちづこは、背中に衝撃を感じ、身をこわばらせた。しかし、予想していたほどの痛みはなく、背中を押された程度の感触だった)
(パッと振り返ると、黒い影は勢いを削がれ、戸惑うようにちづこと距離を測っている)
ちづこ「襲うのをやめた……? 距離を取ってる……。あのモヤのようなものは一体、何……?」
マルスラン「クラドスポリウムですの! あなた、なんともなくって?」
ちづこ「何も──当たったという感触しか。それより、クラドスポリウムって──カビのこと?」
マルスラン「(震える声で)ええ、そうよ」
(急に女性の顔がパッと明るくなる)
マルスラン「もしかして、あなたは騎士様なの? でしたら、あなたには攻撃は通じません! どうかあたくしを守ってくださいまし!」
ちづこ「騎士って、確かに私はシュバリエだけども──」
(影が動き、ちづこ達へ再び攻撃が迫る。しかし身構えても、やはりちづこには何かが当たった、くらいの感触しかない)
ちづこ「……やっぱり私には、攻撃が効かない……。あなた、立てますか」
(ちづこは手を差し伸べる。女性はその手を取るも、立ちあがろうとして顔を顰める)
マルスラン「いた……」
ちづこ「足を挫いたのですか。……では、失礼」
マルスラン「わぁっ」
(ちづこは女性の手を肩へ回すと、横抱きに抱え上げ、パッと走り出した)
ちづこ「走りますよっ」
マルスラン「──はいっ」
(しかし影もまた、動き出す。その速いこと、すぐにもちづかへと伸びてきて──)
ヴァランセ「はッ!」
(斬! と風を切る音と共に、黒い影は消滅する。ちづかは驚き立ち止まる)
ヴァランセ「お怪我はありませんか、お二方」
ちづこ「斬られて、モヤが消えた……」
(影の向こうから現れたのは、19世紀フランス軍服のような制服を纏った、おかっぱの女性だった)
ヴァランセ「悲鳴が聞こえた故、駆けつけました。お怪我ありませんか、サン・マルスラン殿、それから貴殿は──」
ちづこ「サン・マルスランだって──?」
(ちづこは目を見張る)
マルスラン「ええ、あたくし、サン・マルスランといいますの」
(助けた女性が、上目遣いにちづこに言った)
マルスラン「ヴァランセ様、おそらくこの方は騎士様ですの。あたくしを庇ってくださって──御礼をいわなくては」
ちづこ「ヴァランセ? どういうこと? あなたたちはチーズの名前を……」
(マルスランはにっこりと笑う)
マルスラン「ええ、あたくしたち、チーズの妖精さんですの」
ちづこ「妖精……!?」
ヴァランセ「(咳払い)妖精というには少々語弊があるようですが……当たらずとも遠からずといったところでしょうか」
(ヴァランセがため息混じりに言う)
ちづこ「どういうこと……」
ヴァランセ「我らの存在はなんとも形容し難いのですが、あの方ならわかりやすい説明をしてくださるはず。見かけたらお連れするようにも申しつけられていましたので、どうぞ騎士様。私と共に来ていただけますか」
(ヴァランセからそう言われ、ちづこは困ったようにほおをかく)
ちづこ「その……騎士様というのはちょっと恥ずかしいのだけれど」
ヴァランセ「これは失礼を。貴殿のお名前は」
ちづこ「岸田ちづこといいます」
ヴァランセ「では騎士チズコ──私と共に王の城まで来ていただけますか?」
ちづこ「ええ──はい。着いていきましょう。そうする他なさそうだから……」
(見知らぬ場所でどうすることもできず、ちづこは彼女の言葉に従うしかすべがなかった)
***
1話エンド
〈キャスト〉
岸田ちづこ:世界でも珍しいチーズシュヴァリエの1人。チーズの専門士。
紘乃:社会人1年目のちづこの後輩。ちょっとおバカ。
サンマルスラン(マルスラン):フランスのチーズ。可愛い淑女。
ヴァランセ:フランス軍服を纏ったおかっぱ髪の軍人。厳つい喋り方をする。
ブリドモー(モー):チーズの王。ゆるふわしたみんなのお姉さん。1話では一言のみ。
ナレーター(N):1話だけたくさん喋る
インタヴュー:モブ
──────────以下台本
○プロローグ
紘乃「うそ……そんなこと、ある?」
N「紘乃はドアの先に広がる世界に、息を呑む。
レンガ作りのヨーロッパの街並み。乾燥した空気、澄み切った空。そして通りを行き交う、華やかな装いの女の子たち──」
紘乃「さっきまで、職場にいたのに!? どゆこと? うちの保管庫のドアって、異世界に繋がってる感じ!?」
N「制服姿で戸惑う紘乃。そう、彼女はどうやら、異世界に飛ばされてしまったのである。しかもそこはチーズが擬人化した女の子たちが暮らす、チーズの街だった……」
***
○タイトルコール
紘乃「cuicuiふろま~じゅ!-セブンピース- 第1話、扉を開けるとそこは異世界だった」
***
○回想シーン。
N「時は遡り──。
煌びやかなホテルのパーティ会場。こじんまりとしているが、各国の風格ある顔ぶれが揃っている。彼らの視線を集める1人の女性── 岸田ちづかに、司会がマイクを渡す」
(カメラのフラッシュ)
インタヴュー
「えー、日本はおろか、世界にも数十名しかいないと言われているチーズシュヴァリエですが、この度、就任することになりましたワールドワイド商会の岸田ちづかさん、何かコメントをお願いします」
(ちづかの顔にスポットライトが当たる。カメラのフラッシュに瞬きながら、彼女は話し始める。)
ちづか
「はい。実は──私は幼い頃、チーズが大の苦手でした。匂いはきついし、味も濃いし、とても美味しいとは思えなかったのです。それが20歳になって──フランスでワインと共に、白カビチーズのブリを食べたその時──世界が一瞬で覆りました。こんなにも美味しいものはあるのかと──それからのめり込むように勉強をし、このような栄誉ある称号をいただけることになりました。あの日、チーズを食べた時のあの感動を、多くの方に届けること──それが私の使命だと思っています」
N「賞賛の拍手が彼女を包み込む。彼女は若くして、世界で認められるチーズの伝統を守る騎士の称号を与えられたのだった」
(賞賛の拍手。それを掻き消すように、一際大きなため息)
紘乃「はーあ」
***
○チーズショップの店内
(店舗のBGM)
N「そして──ここはワールドワイド商会の店舗の一つ、チーズ専門店【チーズキングダム】。そのカウンターで、新人店員の紘乃(ひろの)は、不平を漏らしている」
紘乃「まさか就職早々、チーズのお店に配属されるなんてね……私ってば本当ついてなーい。チーズなんて、それほど好きじゃないし、おしゃれな内装だからまだ許せるけど、店名が『チーズキングダム』って……本当ダサいわ~。福利厚生が充実してなかったら、とっくに転職してたのに」
ちづか「ひよこちゃん、独り言大きすぎ」
ひろの「うへぇ、チーズ先輩、聞いてたんですか!? あと、ひよこじゃありません、ひろのです」
ちづか「まだ殻をつけている社会人一年生なんだから、ひよこちゃんでぴったりだよ」
ひろの「うー! ひよこじゃないもーーん!」
ちづか「それじゃあ、ひろのちゃん。この間の宿題、覚えてきたかな」
ひろの「宿題……って、うちで売ってる主要チーズの生産地と特徴を覚える、でしたっけ? うぅ、まだチーズの名前も覚えていないのにぃ~」
ちづか「はい、このチーズの名前は?」
ひろの「ええっとぉ~、カマンベール!」
ちづか「ぶっぶー。ブリ・ド・モーです」
ひろの「ブリと牛……?」
ちづか「ブリ・ド・モー。もう入社して二ヶ月が経つでしょう。早く名前だけでも覚えて、お客様に勧められるようにならないと。いつまでも私を頼ってばかりいられないんだよ」
ひろの「はぁい……」
(紘乃は話を逸らす)
ひろの「そう言えば先輩、そこに飾ってある記事見てたんですけどぉ、先輩って、なんかすごい人なんですね。チーズシュヴァリエってやつ、世界でもあんまりいないのに、先輩、選ばれたってすごいですね!」
ちづこ「(小さなため息)すごいなんて、まだまだ。チーズの美味しさを広める役割、まだちゃんとこなせてない。まずは、あなたにチーズを好きになってもらうのが、今一番の仕事かな」
ひろの「うぅ……先輩のためにガンバリマス……」
***
◯閉店後。
N「そして、お店は閉まり、退勤時刻」
ひろの「お疲れ様でーす。お先に失礼しまーす」
N「だが、返事はない」
(紘乃は退勤の挨拶をしようとちづかを探すが、姿が見当たらない)
ひろの「あれぇ……チーズ先輩いないのかなぁ」
(引きずって歩く足音)
N「紘乃が店の奥を覗くと、チーズ保管庫の扉が、少し開いているのが見えた」
ひろの「あれれ。チーズ先輩、保管庫の扉閉め忘れたのかな。開けっぱなしになってる。珍しー」
(ドアを閉めようとして止まる)
ひろの「あれ……? 何か声が聞こえる……」
N「ドアの奥を覗くと、暗い保管庫の奥にもう一つ扉が。そこから一筋の光が差し込んでいる」
ひろの「奥の扉……こんなのあったかなぁ……」
(ドアを開くと……)
***
○明るい光のさす教会
モー「騎士様! 騎士様! 私たちをお助けください!」
ヴァランセ「騎士様! 騎士様! 彼女から私たちをお救いください!」
モー、ヴァランセ、マルスラン「騎士様! 騎士様! 騎士様!」
(鐘の音)
***
○西洋風の路地
(風の音)
ひろの「はわわっ!……眩し……!」
(賑やかな通り)
ひろの「ここは……何処!?」
(通りの賑やかな話声)
(どこからともなく聞こえるオクラホマミクサー)
ひろの「保管庫の扉を開けると、そこは異世界だった──って、嘘でしょ!?」
***
N「さて、少し時は遡り……。」
○教会の前に立ち尽くすちづか
♪風の音
ちづか「私は……チーズの様子を見ようと、保管室に入った筈なのに──ここは……何処?」
(少し歩く)
ちづか「知らない街。でもすごく素敵。何度か訪れたコルマールやヴェネチアの街並みに似てる。……保管室の扉を開けると、そこは異世界だった──なんてことがあるなんて……ね」
(背後で1人でに閉まるドア)
ちづか「あ、待って……」
(慌てて開けると、そこは古びた教会のホールだった)
ちづか「嘘でしょ……? さっき、ここから出てきたのに……保管庫じゃなくて、古い教会になってる……こんなファンタジー……」
(走る足音)
マルスラン「助けて! 助けてくださいまし! 誰か──!」
ちづこ「はっ!」
(女性の悲痛な声。もつれる足音。ちづこは声の方へと駆け出す)
マルスラン「嫌ですの、こんな──助けて──!」
(ちづこが角を曲がると、女性が転んで地面に倒れていた。そこへ襲いかかる黒い影)
(ちづこは咄嗟に女性を庇う)
ちづこ「危ないっ──!」
(打撃音)
マルスラン「ああっ! ……あなた、大丈夫ですの!?」
(ちづこは、背中に衝撃を感じ、身をこわばらせた。しかし、予想していたほどの痛みはなく、背中を押された程度の感触だった)
(パッと振り返ると、黒い影は勢いを削がれ、戸惑うようにちづこと距離を測っている)
ちづこ「襲うのをやめた……? 距離を取ってる……。あのモヤのようなものは一体、何……?」
マルスラン「クラドスポリウムですの! あなた、なんともなくって?」
ちづこ「何も──当たったという感触しか。それより、クラドスポリウムって──カビのこと?」
マルスラン「(震える声で)ええ、そうよ」
(急に女性の顔がパッと明るくなる)
マルスラン「もしかして、あなたは騎士様なの? でしたら、あなたには攻撃は通じません! どうかあたくしを守ってくださいまし!」
ちづこ「騎士って、確かに私はシュバリエだけども──」
(影が動き、ちづこ達へ再び攻撃が迫る。しかし身構えても、やはりちづこには何かが当たった、くらいの感触しかない)
ちづこ「……やっぱり私には、攻撃が効かない……。あなた、立てますか」
(ちづこは手を差し伸べる。女性はその手を取るも、立ちあがろうとして顔を顰める)
マルスラン「いた……」
ちづこ「足を挫いたのですか。……では、失礼」
マルスラン「わぁっ」
(ちづこは女性の手を肩へ回すと、横抱きに抱え上げ、パッと走り出した)
ちづこ「走りますよっ」
マルスラン「──はいっ」
(しかし影もまた、動き出す。その速いこと、すぐにもちづかへと伸びてきて──)
ヴァランセ「はッ!」
(斬! と風を切る音と共に、黒い影は消滅する。ちづかは驚き立ち止まる)
ヴァランセ「お怪我はありませんか、お二方」
ちづこ「斬られて、モヤが消えた……」
(影の向こうから現れたのは、19世紀フランス軍服のような制服を纏った、おかっぱの女性だった)
ヴァランセ「悲鳴が聞こえた故、駆けつけました。お怪我ありませんか、サン・マルスラン殿、それから貴殿は──」
ちづこ「サン・マルスランだって──?」
(ちづこは目を見張る)
マルスラン「ええ、あたくし、サン・マルスランといいますの」
(助けた女性が、上目遣いにちづこに言った)
マルスラン「ヴァランセ様、おそらくこの方は騎士様ですの。あたくしを庇ってくださって──御礼をいわなくては」
ちづこ「ヴァランセ? どういうこと? あなたたちはチーズの名前を……」
(マルスランはにっこりと笑う)
マルスラン「ええ、あたくしたち、チーズの妖精さんですの」
ちづこ「妖精……!?」
ヴァランセ「(咳払い)妖精というには少々語弊があるようですが……当たらずとも遠からずといったところでしょうか」
(ヴァランセがため息混じりに言う)
ちづこ「どういうこと……」
ヴァランセ「我らの存在はなんとも形容し難いのですが、あの方ならわかりやすい説明をしてくださるはず。見かけたらお連れするようにも申しつけられていましたので、どうぞ騎士様。私と共に来ていただけますか」
(ヴァランセからそう言われ、ちづこは困ったようにほおをかく)
ちづこ「その……騎士様というのはちょっと恥ずかしいのだけれど」
ヴァランセ「これは失礼を。貴殿のお名前は」
ちづこ「岸田ちづこといいます」
ヴァランセ「では騎士チズコ──私と共に王の城まで来ていただけますか?」
ちづこ「ええ──はい。着いていきましょう。そうする他なさそうだから……」
(見知らぬ場所でどうすることもできず、ちづこは彼女の言葉に従うしかすべがなかった)
***
1話エンド
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