皇国のオスティナート~無実の罪で処刑されたので、皇妃候補は降ります。~

中谷 獏天

文字の大きさ
14 / 23

14 南方の男。

しおりを挟む
《宜しくお願い致します、ウムトと申します》
「あの、ハンドキスは実際には口付けをしないのですが」

《すみません、つい美しい肌だったもので》

 コレが罰。

 だとしても、堪える。
 僕は前世の僕を一生恨むだろう。

 本当にもう、殺したい。

「あの」
《侍従にね、アシャの弟なの、なら安心でしょう?殿下》

 正妃の侍従なら、確かにそうだ。
 けれど今回の正妃となる者は、女色家だ。

 しかも2人共に、ヴィクトリアに好意を持っている。

 正直、全く安心出来無い。
 何を安心しろと。

『ほらほら、あまり虐めてやるな、どうした俺の妻よ』
《だって、彼はヴィクトリアの悪夢に出る死神なんですもの、とっても憎たらしいのよ?》
「あ、その、それと殿下は別で」
『いや、うん、僕が不甲斐無いばかりに不安を与えてしまった結果なんだ。すまないヴィクトリア、もし君が気に入らないと言わなければ、彼と彼女を受け入れるつもりだ』
《お任せを、俺はどちらの相手も出来る様に仕込まれていますから》

 なん、だと。
 確かに遠方では男を使い子を仕込ませる、とは聞いていたけれど、まさか本当に存在しているとは。

《もう、冗談が強過ぎよウムト、どっちでも良いって仰い》
《それは違いますよ正妃様、どちらにも良さが有る、選べない程にと言う意味で》
《すみませんヴィクトリア様、コレでもウチのは清い身ですのでご安心を、それに仕込んでませんので。この子が勝手に勉強した結果なだけです》

《だってそれは姉上の役に立てるかと》
《はいはい、私を言い訳にしているだけでしょう》
「あの、こう、基本的には同郷の方を好むかと思うのですが」

《俺としては、その髪が糖蜜の様に美味しそうですし、ミルクの様に柔らかな味がしそうな肌が》
《私達は寧ろ外部の者を好むのです、キャラバンで働く父の影響も有りますし、それこそ異国の高級品にとても惹かれる。私達にも少し異国の血が流れているのです、祖父が西洋の出ですから》
「あぁ、でしたらコチラにいらっしゃっても負担は、本当に大丈夫でらっしゃいますか?滅多に帰郷は叶いませんよ?」

《帰郷しない事こそ親孝行なのです、それこそ家族を招けば良いだけですので、そこをご了承頂ければ》
「それは勿論、願ったり叶っ、すみません殿下、出しゃばった真似を」
『いや、すまないヴィクトリア、つい君に任せてしまって。頻繁には難しいですが、招く事に問題は有りません、ただ万が一にも疫病が流行る事が有れば、最低でも5年は会えなくなりますが、構いませんか』

《俺は良いですよ》
《はい、家族だからこそ、離れて暮らせる喜びと言うものが有ります。今はどの様に幸せに過ごしているのだろうか、どんな幸せを味わっているのだろうか、そう思いをはせる幸せです》

 そして親とは、安心して任せられる相手を選び、離れていても心配せずに済む程の教育を子に施すべき。
 子の幸せを思う親は喜んで子を手放すべきだ、そして非常時に備える為にも、健やかに蓄えを続ける。

 それこそが親の義務であり、務めだ、と。

《そうね、そして頻繁に帰る等、そもそも嫁ぎ先が不安だ頼り無いのかと思わせるだけ、どちらの家と親にも不敬だわ》
《はい、有り得ません。夫に自分が居なくても良いだろう、なら実家に帰れと思われるなど、本末転倒ですから》
《あ、ウチは、ですからね。キャラバンともなると長い歳月会えなくて当然で、そうやってキャラバン同士で結婚する事が多いので、そうなったらしいです》

「だとしても、素晴らしいです。私も聞いた事が有るんです、自分を心配して頻繁に顔を出してくれるのは良いのだけれど、老い先短いと周りに思われたり、家に問題が有るんじゃないかと思われてしまう。なのでどう断るか、頻度を減らせないかと、貴族もキャラバンも似ている部分が有るのですね」

 彼女は、子の事を考えている。
 いや、ずっと、だからこそ僕は。

《ふふふ、ヴィクトリアは良いみたいよ、殿下》

『宜しくお願い致します、アシャ、ウムト』



 アレクサンドリア殿下に、正妃、将来の皇妃が決まりました。

 全く殿下には気が無く、寧ろ私やクララを好いて下さる方を選んだので、心配は。
 いえ、私は側室になると決めたワケでも無いですし、それこそ側室選びが逆に難しく。

 いえ、寧ろ逆に安心では有りますね。
 教育に関してもアシャはしっかりしていますし、ウムトは選別や露払いもして下さる、と。

「もう、嫌!」
《お嬢様?!》

「もう私は皇妃でも何でも無いのに、どうしても考えてしまうの、出しゃばり過ぎだわ、烏滸がましいって分かってるのに」
《お嬢様は国の事を考えてらっしゃる、それこそが民のすべき事、貴族がすべき事です。しかもお嬢様は内情を知ってらっしゃる、コレで良いんです、素晴らしい貴族の見本なのです》

「でも、政務は本来、男の」
《今回の遊学でお分かりになられたかと、結局は妻も関わるのですよ。それは庶民でも貴族でも同じです、家に招く準備は妻の仕事、そして抜け漏れを補うのも妻なのですから》

「でも、だからこそよ、私はもう殿下とは」
《もしお嬢様が幸せになれるかも知れない、そう思われたのなら私は反対は致しません、少なくとも今の殿下は間違い無く愛してらっしゃる。そう私達も、分かってはおりますから》

「それが、とても憎いの。もし私が何も思い出さなければ、きっと喜んで愛されたわ、それこそ思い出していても素っ気無かったら、私は苦しまなかったのに」
《苦しんでらっしゃるのですね、受け入れたい、と》

「それも、凄く、悔しいの。私は、絶対に許せないと思っていたわ、なのに、知ってしまうと」
《理解してしまうと、とても苦しい》

「それに、民の事も」
《知ってらっしゃるのに、それでも愛してしまったご自分を、許せないのですね》

 そうなの、だから逃げたのに。

「認めたく無いの、好いてしまった事も、嬉しいと思ってしまう事も。全て、許せないの」



 お嬢様、やっと言って下さいましたね。

《それは前世であれ何であれ、元は殿下が悪いのです、ですからもっと苦しめましょう。もう決して以前の様にはならない様に、あんな事を選べない様になって貰う為にも、分かって頂きましょう》

「でも、今の殿下は」
《私は、偶々、神の恩恵と幸運にも恵まれたからこそ、殿下は良い方向へ変わられたに過ぎないのだと思っております。パトリック様がいらっしゃったのにも関わらず、あの様な事になってしまった、そう簡単に良い方向へは向かない方。だからこそ、もし万が一にも次が有っても理解出来る様に、苦しみを魂に刻まれるべきなのです》

「殿下も、その仕打ちを、望んで下さるかしら」
《勿論、その前提で同行して頂いている筈です、ですが無理なら諦めて頂く他に無い。お嬢様はただ、思うままに行動するだけ、何もせずとも民の仇討ちとなる。何も無理をなさらなくても良いんです、ありのままに、もう皇妃だった頃の事を気にせずお考えになり、振る舞って頂いても、もう構わないのですよ》

「けれど、それでは、もし私が側室を辞退し、次の」
《それは殿下が悪いのだと、レウス様も分かって下さる方なんです、誰もお嬢様を責めません。そんなものが居たら私が受け止めます、お嬢様はただ八つ当たりなさるだけでも、十分に民に償えるのですよ》

「でも、私、意地悪だと思われるのは嫌だわ」
《そう思う者は何も知らない愚か者です、パトリック様が勝手に殺処分して下さいます》

「八つ当たりは、良くない事よ」
《私は八つ当たりだと思いませんが、仮にです、八つ当たりだと言う立場の者が居ると思いますか?》

「それこそ、殿下の」
《教育を間違った親が対価を支払っているだけです、それはお2人の領分、お嬢様はお嬢様の領分だけで構いません》

「クララ、いつ結婚するの?」

《お嬢様の子が生まれると分かりましたら、私も、直ぐに結婚させて頂こうかと》

「クララまで狡いわ」
《殿下で無くても構わないのです、お嬢様が幸せになれると思える方と一緒になって頂けれ、私はそれだけで幸せなのですから》

「怖いの、もし受け入れてしまったら、前世の私がどう思うか」
《前世のアナタ様はお喜びになる方です、祝福して下さいます、絶対に》

 夫に愛されると言う事を知らなかったからこそ、お嬢様は苦も無くお過ごしになっていた。

 ですが、もし今ならお許しにはならないかも知れません。
 それでも、もし更に先のお嬢様なら、やはり祝福して下さる筈です。

 お嬢様は賢くてお優しい、その点は全く変わらないのですから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...