皇国のオスティナート~無実の罪で処刑されたので、皇妃候補は降ります。~

中谷 獏天

文字の大きさ
15 / 23

15 南方の夏、緊張の夏。

しおりを挟む
《あらあら、悪い蚊に瞼を刺されてしまったのね?》
「はぃ」

《もう、ウチのウムトにしたら?と言うか愛妾にしたら良いじゃない、実際にはしなくても、相手を試すには良いんじゃないかしら?》

「正妃様はお優しくて賢いですけど、意地悪です」
《そうよ、だからアナタには側室がお似合いよ、敵国に意地悪く出来無い子には正妃なんかさせてあげないわ?》

「ですけど、もし、子が生まれてしまったら」
《ウチが圧力を掛けるし、秘密の作戦が有るから大丈夫よ》

「それは、一体」
《あら残念、側室でも無い子には教えられないわ?》

「ぅう、正妃様は本当に意地悪です」
《そうなの、ふふふ》

「ごめんなさい、意地悪じゃないです」

《もう、本当に、あの子には勿体無いわ》

「私も、そう思えたら良いんですが」
《好きなのね》

「はぃ」
《アシャに横に並ばれるのも、本当は嫌》

「はぃ、少し、モヤモヤします」
《ふふふ、どうすればアナタみたいな良い子に育つのかしら。ねぇ?クララ》

《持って生まれた資質かと》
《やっぱりそこよねぇ、本当、どうしても何処か似ている相手を選んでしまう。私達からはとても、ねぇ、もしアナタが皇帝として育てられたら、どうなってたかしらね?》

「ちょっと、脇が甘いかと」
《でも宰相にはパトリック、同じく側近にはセバス、そしてあのご両親。アナタは、本当に彼の様になると思う?》

「想像では、いいえ」
《そうよね、私もそう思うわ、それに繊細だと捻じ曲がり易いの。アナタが繊細では無いとは言わないわ、繊細さは其々に様々な部分で持っているから、けれど彼は情愛に関して繊細だった。少しの親の落胆に気付いてしまった、愛されなくても当たり前だと思ってしまった、繊細で不器用だからこそ》

「とても、腑に落ちる気がします。今なら分かるのですが、私は、家族愛しか向けていませんでしたから」
《そうね、そしてそれは下手をすると弟扱いされている、果ては見下されているのではと思わせてしまう。何事も駆け引きなのよ、媚びたりおもねるのでは無く、合わせる。時に妻となり、子の母親となり、夫の女となる。男として愛して欲しい時に、いきなり冷たい皇帝ぶられても嫌でしょう?》

「はぃ、多分」
《そうね、お付き合いもまだまだなのだものね、本当に真面目な人達》

「あの、コチラの方々は」
《ねぇ、クララ、貴族同士のお付き合いについて知っているかしら?》

《はぃ》
《じゃ、教えてくれるわよね?》

《はぃ》

 体は清いままに、色々とご確認なさるそうで。
 意外と貴族も、奔放でらっしゃるんですね。

「私、初めて知りました」
《合わないと怪我ばかりで妊娠どころでは無いもの、ね?》

《はぃ》

《もう、過保護過ぎよクララ、そろそろ私とアシャが教えても構わないわよね?》

《はぃ、宜しく、お願い致します》

「あ、あの、一応はそれなりに」
《はいはい、復習もしましょうね》

 私、こんなにも真っ赤になる事が有るのかと。
 それに私の知らない事が、沢山。

《ヴィクトリア様、因みにですが同性だともっ》
《さ、次は復讐に行きましょうね》
「?はい?」



 ヴィクトリアが、最悪はウムトを愛妾にしても良いか、と。

『先ずは、どうしてそうなったんだろうか』
《そこはもう、ねぇ?もしかすれば最悪は遂げられないかも知れないんだもの、それに、やっぱり嫌だとなっても直ぐに離縁は難しい。それに私、気に入ったの、だから最悪はヴィクトリアをウチに引き取るわ、問題無いわよね?》
『おう、そのままウムトでも構わんし、コレよりもっと良いのも紹介してやるぞ』

「あ、の、そこまで買って頂けるとは」
『もう良いぞ元皇妃、辛かったな』

 レウス王子の言葉に、ヴィクトリアは顔を歪め。

「信じて、下さるのですね」
『当たり前だろう、幼いのにこんなにも賢過ぎるんだ、それに俺の知り合いもそうだったんでな。信じるも信じないも、やっと腑に落ちた、納得だ』
《ごめんなさい、ヴィクトリア、彼らがやっと吐いてくれたの》
『すまん、アナタの事までは言うつもりは無かったんだが』
「言う事こそがアナタの為になると、ですが、大変申し訳御座いませんでした」

『パトリックはまぁまぁだが、セバスがな、善良でクソ真面目の弊害だ』
「すみません」

『どうして僕には何も』
『お前が居たからだ、お前だけは年相応だからな。パトリックは落ち着き過ぎだ、豪胆にしても程が有る』
『別に隠す気は無かったしな、いつ言うか、ただアナタの苦しみに目を向けなかった、すまない』
「いえ、いつも良くして下さっていましたし、疑う事は有りませんから」
《そうそう、もう無理しなくて良いのよ、アナタは立派な皇妃だったと私も信じてるもの。皇妃として振る舞わないように、考えない様に我慢していたのよね》

「烏滸がましいのでは、と」
《有り得ないわ、寧ろ貴族の鏡よ、だからこそ皇妃だったとしても疑わないわ。皇妃こそ、令嬢が目指すべき存在、あなたは立派な皇妃だわ》
『どうだ、分かり合える俺らが羨ましいだろう、アレク』

『はい、皆さんが、とても、羨ましいです』

 まさか、ヴィクトリアが皇妃の事で悩んでいるとは思わなかった。

『パトリック、お前が煽り過ぎてこうなったんじゃないのか?』
『以前の俺は忠臣でしたよ、彼を庇う程に』
《それで、どう思ってたのかしら、殿下は》

『皇妃にはなりたくはない、と頑なだったからこそ、全く別の人生を考えていたのかと』

『あのな、殿下、俺らは王族として育てられた。いきなり王族の考えを捨て、単なる貴族や庶民の様に考えろと言われても、出来るか?』

『いえ』
『だろ、それと同じだ、ヴィクトリア嬢は皇妃になるべく育てられ、そして皇妃となった。だが生きる為に皇妃にはならないと宣言したが、根はもう皇妃だ』
《お料理の事も、皇妃として考えていたのよね?》

「はい、ですがもう私は関わらないと決めたのに、なんて厚かましくも烏滸がましいのだと」
『すまない、僕は、前世でも僕は君に甘えていたのだと思う。僕が注意する事は無く、きっと君にばかり負担を掛けていた筈だ、本当にすまない』

「それが、そこは、微妙ですね。今なら少し分かるのですが、私に関わって欲しかったのかと、はぃ」

《もう、正直に言っちゃいなさい、以前の殿下に何を言われたのか》

「私が、初めてクッキーをお渡しした時の事を、覚えてらっしゃいますでしょうか」
『あぁ、覚えているよ』

「私、以前の殿下に言われたのです。既に料理人に食事管理をされている、だからこうした物は困る、苦手だと」
『あの時は、てっきり誰かに偽情報を掴まされたのかと。そうか、すまない』

「いえ、そして思い返すと私がお渡ししたの、ニンジンケーキだったんです。栄養が良いと伺っていましたので、苦手でしたよね、ニンジン」

『あぁ、すまない、それは間違い無く僕が言いそうな事だ』
「苦手だと知らずに渡そうとしてしまったので、仕方が無いかと」

《ふふふ、幾つの時?》

「多分、最初の頃かと」
「はい、殿下が15才、ヴィクトリア嬢が11才の頃ですね」
『あぁ、分かるぞ、半ば強がりだな』

『はい、多分』

《それと?》

「刺繍を差し上げた時に、最低限で構わない、皇妃として相応しいと思える様な事を率先して覚えて欲しい。お料理でも、他が代わりに出来る事を習得する必要は無い、と」
『アレク、ヴィクトリア嬢が他の子女に刺繍を揶揄られた時、何て言ってたと思う。ごめんなさい不器用で、って笑って言ってたんだぞ、前世のお前のせいでな』

『すまない』
『で、それはいつの頃なんだ?』

「多分、ですけれど、かなり選定が絞られた時で、殿下の背が今と同じ頃かと」

「もしかすれば、16才頃かと、他国では成人とみなされる場合が有りますので。改めて性病や怪我について講義を受けた結果では、と」

『今の僕が言っても仕方が無いのかも知れないけれど、多分、君の事を思って言ったのだと思う。針でも伝染る病が有る、野菜に付いた泥から病気になる者も居る、と』

《ふふふ、不器用過ぎよ、ふふふふ》
『すみません』
『少しだが、俺は分かるぞ殿下。必ず、一部の者から女に舐められるなと教えられるからな』
『あぁ、居たな』

「皇妃として醜聞を晒さない様に。あまり愛想を売らず、知識を高め、国に尽くして欲しい」
《あら、それはちょっと可愛いわね》
「今世での事ですが。僕は、どうして上手く言えないんだろうか。と」
『セバス』
『俺が知る限りでは、常に侍女とセバスから情報を入れさせ、動向を常に気にはしていた。だがそれだけだ、彼女に触れる事すらせず、寝室では眠って起きるだけ。男色家なのか疑った程にな』

『ヴィクトリア』
「はい、お忙しい、お疲れなのかと。ありがとうでは無く、ご苦労様だった、としか仰いませんでしたから」

『すまない、だから気にしてくれたんだね、なのに、本当にすまない』

「そして処刑直前に仰いました、やはりお前とは離縁すべきだったな、と」

『本当にすまなかった、料理も、刺繡も、本当にすまない』

 僕は、彼女から様々な事を奪って、奪い続けて。
 奪っておきながら疎かにし、命まで奪った。

 殺したい。
 死んで償いたい。

 死んでしまいたい。



《ねぇ、どうして側室に格下げをし、離縁出来る様にしなかったのかしらね?》

『こんな事をしでかした前世の僕が、本当に愛していたのだと認めたくは無いのですが、愛していたんだと思います。だからこそ、処刑の時に、そう、言ったのかと』

 俺はまだ許せんが。
 死を選ぶ前の顔付きとそっくりだ、少しは助けてやるかな。

『ヴィクトリア嬢、アレクは処刑後、しっかり発狂していたぞ』

 愛していた、嫉妬して欲しかっただけだ。
 違う、何かの間違いだ、僕が皇妃を殺す筈が無い。

 一通り騒ぐと、今度は何も無い場所を見て絶叫する。
 その繰り返し。

『どうしてもっと素直に、正直にならなかったんだと。レウス王子が僕に問い、少しだけ正気に戻ると、こう答えたらしい』

 愛を請えば、欲張りだと呆れられてしまうかも知れない、見捨てられてしまうかも知れない。
 こんなにも不出来な自分を責めず、何も言わないのは彼女だけ、だからこそ愛を示して欲しかった。

 家族として心配するのでは無く、恋する乙女の様に声を荒げて欲しかった、自分と同じだけ愛して欲しかったと。

「パトリック様、どうしてこの事を」
『言えばコレを好いて許してしまうかも知れないだろ、しかも今のアレクがそう思うとも限らない』
《けれど、今、ヴィクトリアを殺されたら言いそうね》
『だな、いずれ皇帝となる者の人心を乱す不届き者として、処刑するか』
「レウス王子!どうして」

 ヴィクトリア嬢の首を、正面からレウス王子が完全に掴んでいる。
 そして傍らには正妃が王子を守り。

『どうしてもこうしても、言っただろう、コレが居ない方が国が安定する。現にこうだからな』
《そうね、今ココで彼女を殺して一緒に国に戻れば、簡単に国を取れそうだもの》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...