エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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201 高級レストラン。

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 今日、本当ならプロポーズをする筈だった。

「あの、もし良ければ」
『君とはもう婚約を続ける事は出来無い!』

 突然、店内に男性の声が響いた。

「何故なのです、何故、この様な場所で」
『君が彼女を虐げたからだ!!』
《お願い、少し声を抑えて》
「本当ですよ!!」

 思わず僕は席を立ち、大声を出してしまった。
 やっと貯めたお金で、やっと、彼女に良い思い出と共にプロポーズをと思っていたのに。

『君は、一体』
「プロポーズをしようとしていたんですよ!アナタ達貴族の方には分からないかも知れませんが、僕は必死で働いていて、美味しい食事と良い思い出をと苦労してきたのに。何なんですか!どちらかのご実家で、話し合いでも何でもなされば良いじゃないですか!!」

『そ、それは、すまなかったとは思うが』
「しかも、どんなご事情であれ、若い女性に多勢に無勢ですよ。それが貴族の方のなさる事ですか!!」

『いや、本当にすまなかったとは思うが』
「アナタには気軽な食事の場かも知れませんが、僕ら庶民には一世一代の食事の場なんです、なのにこんな。婚約破棄なさるなら、そもそもお互いのご家族同伴で話し合うべきでは、なのに何ですかアナタは。女性を連れ、晒し者にするだなんて、それでも貴族なんですか」

『いや、コレには事情が。彼女を、虐げたからで』
「貴族なら、公然の場で私刑が許されるのですか」

『いや、そこまで大袈裟にするつもりは』
「アレだけの大声を出しておいてですか!!」

『それは、本当に、すまなかった』
「僕が許せても、他の方はどうでしょうか」

 僕は怒りに任せ後ろを振り向いた。
 もし、ココに居る他の貴族の方が誰も賛同してくれないなら、役所でも何処へでも訴え出るつもりでいました。

 それ位、僕は許せなかった。



「悪魔貴族としては、どうですか」
『許せないね、とても許せないよ、許せるワケが無い』

 ヴェールを口元まで身に着けた女性と、とても堂々とした、けれど若い男性がコチラに向かって来ると。

『あ、悪魔貴族』
『あぁ、どうも、僕はサレオス。君は、何処の田舎の甘やかされた愚かな貴族の子息、かな』

『申し訳御座いませんでした』

『以上かな』

 貴族の令息は、完全に真っ白になった顔色に加え、大粒の滝汗を流し始めた。
 そして同時に僕は、腰が抜けそうになっていた。

 悪魔貴族だなんて、貴族でも滅多に会えないと聞いていたから。
 僕は急に、申し訳無さと恐ろしさで、気がどうにかなりそうだった。

「証拠、お見せ頂けますか」

『それは』
《申し訳御座いません、彼は》
『君に話す機会は与えていない、一体どんな教育を受けてきたか、若しくは受けてすらいなんだろうか』
「証拠をお見せ下さい」

 気が付くと、店内はとても静まり返っていた。
 僕は緊張からか、耳鳴りがする程だった。

『証拠は、ココには無いのですが。証人は、直ぐにも』
『あぁ、コレ、かな』

 悪魔貴族の方が床に腰を落とし、そのまま影に手を差し込むと、更に別の貴族の女性が掴み出され。
 乱雑に床に投げ付けられた。

「あ、あの、一体」
「彼は悪魔貴族サレオス、アナタが証人ですね」
『正直に頼むよ、僕らも楽しい食事の邪魔をされ、とても不愉快なのだから』

「も、申し訳御座いません」

『何故、謝るんだ』
「私、私は」
《ココは》
『2回目、君に発言を許した覚えは無い、全く躾けられていないにも程が有るね』

『頼む、証言を』
「嘘なのです、嘘を、言えと」
《出鱈目だわ!!》
『3回目、君は身を弁える事を学ぶべきだ、ココでね』

 悪魔貴族の方がそう言い終えるかどうかで、影から無数の手が伸びると、大声を上げた貴族令嬢が床に這い蹲らされた。
 まるで、鞣される前の皮の様に、ピッタリと床に貼り付けられ。

「あぁ、かなり、人気の方で」
『そうだね、腕は片方だけだしね』

 影から伸びた腕は、どうやら他の悪魔貴族の方々の腕らしく、確かに其々に金の指輪をなさっており。
 その手は、貴族令嬢を完全に抑え込んでいた。

「証拠は、何処に有るのでしょうか」

『僕の、書斎の机の、引き出しの中です』

 またしても、今度は令息が言い終えるかどうかで、影から分厚い封筒を持った手が現れると。
 サレオス様が受け取り、腕は影へと消えていった。

『ありがとうラウム』
「お礼は何にすべきなんでしょうか」

『僕らが会いに行くだけで、十分だよ』
「では証拠を改めて頂けますか」

 そして中身を改め始めたサレオス様は、直ぐに溜め息を吐かれた。

『はぁ、コレが証拠、ね。証言記録に、破れた本、だけかな』
『他にも、ドレスに紅茶を掛けられた事も有ったと』

『君は見たのかな』

『いえ、ですが』
『あぁ、この証言記録だね。けれど、今ココで這いつくばっている女が主催』

『ですが、だけでは』
『君は、彼女に何かしたのかな』
「いいえ」

『うん、嘘は無いね』
『ですが彼女は、彼女の友人や知人にも、と』
「いいえ、私は何もしていません、彼女や彼女の友人知人にも。指示も何も、関わる事も、何もしていません」

『嘘は無い、さ、彼の除籍を支持する者は挙手を』

 直ぐ僕も、彼女も挙手をした。

『そんな』
『じゃあ、後は任せるよ、シトリー騎士爵』

《はい、お任せを》

 影から現れ、そう言葉を発したと同時だったかも知れない。
 憲兵が店の出入り口から現れ、貴族令嬢と令息が速やかに連れ出されると、シトリー騎士爵が会釈をし出て行った。

 また、耳鳴りがする様な静寂が訪れると。
 僕は席に戻り、彼女に謝罪した。

「本当に、ごめん」
《いいえ、凄い思い出になったんだもの、ふふふ》

「あ、けど」
《凄く頼もしかったし、カッコ良かった、やっぱりアナタはとっても素敵だって思った》

「ごめん、ありがとう」
《デザートは、外で食べましょ》

「うん」

 そして僕は店員を呼ぼうとフロアを見ると、笑顔の男性店員が直ぐにも来てくれた。
 アレだけの騒動を起こしたのに、やっぱり高い店は凄いな、そんな思いだった。

『お待たせしました、直ぐにもデザートを』
「すみません、騒動を起こしてしまいましたし、そろそろお会計をと」

『あぁ、もう既に代金は頂いておりますよ、皆様から』

 僕が何の事か分からないでいると、拍手が1つ、2つと増え始め。

「あの」
『あぁ、良ければ次のお食事にもご来店頂けると助かります。先程のサレオス様が、来週にも、皆さんと共にコチラでお食事会をとご提案されておりますので。是非、お越し頂けませんでしょうか』

「でも、僕ら、コレしか服を」
『構いませんよ、大丈夫。どうか当店からの謝罪と感謝も含め、お受け頂けませんでしょうか』

 いつの間にか静まり返った店内で、暫く僕が固まったままで居ると。

《実は、今日は緊張して味が良く分からなかったの。だから、お言葉に甘えたいのだけど、良い?》

「君が、良いなら」
『ありがとうございます、では、また来週の同じ時間にお待ちしております』
《はい》



 そして次の週。
 以前と同じ服装で店に入ると、以前とは違い、僕らが家族と集まりする様な食事会だった。

『本日は集まってくれて感謝するよ、では、先週の食事のやり直しを始めよう』

 テーブルを横に並べ、料理を回したり、飲み物を注ぎ合ったり。
 料理を取り分けたり、談笑したり。

《いやぁ、君の若さには本当に完敗だったよ》
『本当、惜しかったわね。この人、間に合わなかったって、本当に悔しがっていたのよ』

「すみません、あの時はお騒がせしてしまい」
《良いのよ、何ならアレは早いもの勝ちだもの、コレはアナタが1番だったお祝い》
『そうそう、我々は競争に負けた、君は英雄の称号を勝ち取った』

「そんな、英雄だなんて」
『横暴で無礼な貴族から、弱い子女を、貴族令嬢を守ったんだ。君は誇るべきだ』
《そうよ、どんな悪を成そうとも、公然の場で子女を追い詰めるべきでは無いわ》

『貴族なら尚更、だからこそ、正しい段取りや手続きが必要だと言うのに』
《本当、せめて自身のお茶会でなら、まだ許されるかどうかの範囲だと言うのに》

『あぁ、君達も本当に不運だった、だが同時に幸運でも有った。君の様に貴族を理解してくれている者が居る、その事は、我々にとっても喜ばしい事だ』
《ありがとう、そしてアナタの勇気にも感謝しているわ》

「いえ、そんな、彼女も当然理解している事ですから」
『そうか、君の婚約者も理解してくれているとは』
《嬉しいわ、けれど当然を当然とは思ってはいけない、コレは私達からのお礼とお詫びなの》

『あぁ、何せ、貴族が迷惑を掛けたのだから』
《けれどもう大丈夫、アレはもう貴族では無いから》

『その祝杯も、だな』
《そうね、愚かな貴族の排除にも、乾杯しましょう》

「はい、乾杯」

 そして、食事会の後に、僕は改めて彼女にプロポーズし。
 3人の子供に恵まれ、今でも毎年、あの店に招待され続けている。



「お店の方にも、他の方にも失礼だとは、思えない程に入れ込んでいたんですかね」
『泣いて縋る子犬が、余程珍しかったんだろうね』

「あぁ、陥れようとした時点で、獣以下ですしね」
『大丈夫、コレで富は再分配される、ココは善人が報われる場所なのだから』

 悪魔は誘導はしない。
 けれど、利用はする。

 それが大きく良い流れなら、特に。

「もしかして、知ってたんですか」
『もし流れを変えたなら、その流れを正すべきだろう』

 時には誰かの為に、誰かが何かに介入する。
 そして流れは思わぬ方向へ向かい、時には不必要な不幸を生み出す。

 けれど、幾ばくか手を添えるだけで良い。
 流れには、元に戻る力も有るのだから。

「はぁ、やっぱり外食なんて」
『来週にもやり直そう、彼らの為にも、僕らの為にも』

「なら、もう少し気軽な感じにしてくれませんか、彼らも庶民ですよ」
『そうだね、そうさせて貰うよ』

 誘導せず、けれども希望の道に進める方法は何か。

 それは、敢えて見逃し、時に泳がす事。
 ただ、それだけで悪は栄え、直ぐに潰えるのだから。
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