松書房、ハイセンス大衆雑誌編集者、林檎君の備忘録。

中谷 獏天

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第8章 初、袋とじ作品発行。

2 全ては君の為に。

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 君を庇い刺されもした、家への援助も、贈り物も。
 何もかも、全て君の為に。

「なのに、何故君は」
《アナタが、彼のした事を自分がした事だと偽ったからよ》

「何を、言っているんだ」
《贈り物も援助も彼が、しかもアナタは敢えて、ワザと刺されただけなのでしょう》

「違う」
《もう、2度と私に近付かないで!》

 確かに、彼には贈り物を届けて貰う役目は任せた、親に反対されていたからこそ任せるしか無かった。
 けれど本当に、援助も贈り物も、僕がしたと言うのに。



『キッパリ言ってやったかい』
《はい》

 私は、騙されていた。
 贈り物も何もかも。

『どうして、僕を信じてくれたのかな』

《それは、アナタの方がお金持ちだからこそ、ちゃんと調べてくれて、援助も》
『嘘だよ、あの調査書も証人も証拠も捏造、彼が本当の送り主だったんだよ』

《そんな、冗談は》
『だから止めろと言ったんだよ、こうして何を信じるべきか、すらも分からない女は。君は、彼に相応しく無い』

《嘘、そんな》
『可哀想に、彼は本当に君を愛していたのにね』

《わ、私、謝らないと》
『そうだね、僕も証言してあげるよ、君は僕に騙されたんだってね』

 私はもう、気が動転していて、彼を伴って彼の家に引き返す事に何も疑問を抱かず。

《ごめんなさい、私、彼に》
『処女を捧げて貰ったんだけど、僕が全然ダメでね、ただ証も有るから大丈夫だよ。ほら、コレも含めて君に返すよ』

《そんな、違っ》
「帰ってくれないか」
『そう、じゃあ、また』

《本当に、ご》
「待ってくれ」

『何かな』

「彼女も引き取ってくれ」
『いや、僕もこんな馬鹿は要らないから困るよ、それに僕は貰った覚えも無い。ただ、試しただけだよ』

《そんな、試すだなんて、どうして》

『僕も彼も良い家の金持ちだ、性根や心根は勿論、頭と股の緩さを確かめて当然じゃないか』
《酷い!》

『どっちが、酷いのかな、どうせ金と顔で僕に乗り換えようとしただけだろ』
《違う!援助も、贈り物も実はアナタだと》
「彼に贈り物を届けてくれと頼んだのは本当だよ、君との事を親に反対されていたからね、最初はそこを勘違いしているだけかとも思ったんだけれど。処女を、捧げていただなんて」

《違うの!》

「何が」

『人は信じたい様に信じる、僕の方が魅力的だったって事だよね』
《違う、違うの、ごめ》
「引き取ってくれ、頼む」

『貸しだよ』

「分かった」
《ごめんなさい!違うの!》
『このまま騒ぐなら警察に突き出すよ、振られた腹いせに騒ぐ女が出たって、それとも処女じゃないと宣伝して回りたいのかな』

 私は、騙されていなかった。
 騙された。

 私は。



「用件は何なんだ」

 騒動から4日目の夜。
 彼は完全に疲弊し、酷い顔をしている。

『借りを返して貰いに来たんだよ』

 何故、彼女を試したんだ。
 彼はそう叫びたかっただろうとは思う、けれど、僕は最初に条件を提示していた。

 君の初恋を手伝う、けれど見合うかどうかは見定めさせて貰う、と。
 彼は同意した、だからこそ僕も手を貸した。

「何をすれば良い」

『服を脱いで』

「何故」
『鞭打つ為かも知れないし、焼き印を入れる為か、噛み痕を付ける為か。そうだね、選ばせてあげても良いよ』

 そして彼は困惑しながらも、黙ったまま服を脱ぎ始め。

「コレで」
『前を向いて、全て脱いで』

 すっかり絶望した表情の彼は、恥ずかしがるでもなく、ただ斜め前の書棚に視線を向けるだけ。

 だからこそ、僕は悔しさと情欲から、彼をコチラに向かせ口付けた。

「何を」
『君を好いているんだ、だからこそ今まで我慢し手伝った、けれど君は相応しくない女に惚れた。コレは罰で償いだ、甘んじて僕の好意を受け入れるしか無いんだよ』

「何で、こんな、無益な」
『君を愛してる、だからこそ君に女と一緒になる機会を設けた。あぁ、子供の事なら心配要らないよ、百合娘を引き取って其々の子を成して貰う予定だからね』

「百合娘」
『女色家の事だよ、女同士愛し合う者達、其々を正妻に据え仲良く4人家族になるんだよ』

 僕は合間合間に彼の体や頬、指先に口付ける。
 この愛しさと、恨みを伝える為、情欲を伝える為に。

「どうして」

『何が?』

「全部遊びで、誂いで、冗談なんだろう」
『いや、ただ、もし君が冗談でも男を咥えられるのなら、冗談かも知れないね』

 混乱し、僅かに息を荒げる彼に口付けながら。
 徐々に下へ、下へと向かい。

「止めてくれ、何でこんな」
『惚れてるからだよ』

 口付けを何度も落とすと、彼は。

「本当に、誂いや冗談なら止めてくれ」
『本気だよ、ずっとね』

 彼の拒絶の言葉は、まるで愛を請う言葉にしか、僕には聞こえなかった。



「どうして、僕なんだ」
『可愛いね、そう可愛いからだよ、真っ直ぐで純真で純粋。だから僕は君の幸せを本当に願っていた、なんせ僕は男だからね』

 何故、彼女を試したのか。

 それは意地が悪いからでも、僕を嫌っているからでも無い。
 僕が彼に協力を請うた時、確かに彼は見定めると断言し、僕も承諾した。

 けれど。

「こんな残酷な仕打ちを」
『ただ君の為に僕は試しただけだ、君を傷付ける気は今も無い、彼女が愚かでなければこうはならなかった筈。どうすれば信じてくれる、それとも、本当に裏切って欲しいのかい』

「本当に、裏切るって」
『あの女を娶って身持ちを崩してやる、愚かにも妾まで作って病気を移され廃嫡。それから死ねば良いんだろうか、それとももっと苦しんで欲しいのかい』

「違う、別に君を苦しめたいワケじゃ」
『信じたくないんだろう、僕よりあの女を信じ、大切にしたかったんだろう。僕がこんなに大切にしてきたのに、君は僕を信じず、あの女に心を傾ける』

「違う、僕は君を信じていたからこそ」
『いや、それは僕を友人としか見ていなかったからだ、裏切りは君の方じゃないか。こんなに大事にしてきたのに、全ては君の為にしてきた事なのに』

「もっと、他に」
『ご両親に反対されても君は諦めなかった、だからこそ僕も協力した、けれど彼女は賢くなるワケでも無く周りに甘え続けた。もし、僕がそんな相手を好いたなら、まさか君は祝福したとでも言うのかい』

「いや、けれど」
『僕は、ずっと堪えながらも手助けをしていた、なのに酷いのは君じゃないか。僕はこんなに君を理解して、応援し、手伝ってきたのに』

「そんなに苦しかったなら」
『離れたくなかった、どんなに苦しくても、君の傍に居たかったんだ』

「僕の、何が」
『口煩くない、騒がしくもない、けれど言うべき事はしっかり言う。君が女か僕が女だったら良かったけれど、君も僕も男、子をなさなければならない。君の様な女性を探したよ、けれど見付からなかった、君よりも素敵だと思える相手は居なかった』

「そんなに、僕の事を」
『じゃなければ手伝ったりしないよ、自分の時間を削る事も、身銭を切るなんて事もしない。分かってくれてるだろう、僕は好き嫌いが激しい』

「口だけなら」
『ふふ、証書も作って有る、既に母さんには了承して貰ってる。君が僕を好いて、受け入れてくれたなら、父さんも許可すると念書も貰って有る』

「そんな、君のご両親は」
『ずっと知っていたよ、若いからこその不安定さかも知れないとね、だからこそ僕も女性を探す努力をした。その中で百合娘達に出会ったんだ、何枚かの写真の中に君の写真も入れて見せたけれど、弾かれなかったから大丈夫だよ』

「君は、そんなに策を練って。それでももしダメだったら」
『百合娘達を娶って、幾人か子を成して、死のうと思っているよ』

「どうして」
『君も死にたい程、悲しかったろう。それとも僕は、君が不幸になると分かりながらも黙って身を引くべきだったなら、そう言ってくれ』

「僕を、慰めているワケでは無いんだよね」

『君は慰める為だけにこんな風になって、更には抱けるのかい?』
「いや、けど。時に、こうした事を慰める、と表現するじゃないか」

『確かに少しの慰めは有る、けれど』
「君は、優しいから」

『あぁ、優しいとは思ってくれているんだね』
「今思うと、彼女が君に心変わりしたとしたら、僕は素直に手伝う事は出来なかったと思う。それこそ何も表に出さずに、は、難しいと思う」

『それは少し立場が違うからね、男同士よりは、男女の方が遥かに叶い易い。逆に言えば、叶わないからこそ、半ば引いた立場に甘んじる』

「色々と我慢して、遠慮してくれていたんだね」
『だからこそ、彼女が猥雑な場所に居た事が許せなかった。知らなくても許される、考えなくても許される時期は過ぎてた、君に見合おうと行動を選ぶべきだった。全て、何もかも』

「そう考えると、あまり好かれていなかったのかも知れないね」
『いや、好いてはいたとは思う、けれど僕よりは浅く薄かった。それでも良いと思うなら、もう、僕は手を引くよ』

「君には、婚約者が居るじゃないか」
『君を安心させる為、君の気を引きたかっただけ、婚約は既に破棄しているよ』

「あぁ、君は何処までも用意周到だね」
『いや、背水の陣で挑んだだけだよ』



 今回、コレも林檎君が企画した渾身の合作作品。
 男女の艶絵を描く作家先生の袋とじの次に、この作品、で小説の最後には薔薇絵師の描いた作品が掲載された。

 救いの無い物語は載せない、と林檎君が言っていた筈なんだが。

《林檎君、コレは》

「あぁ、それは悪しき見本ですから、女性が救われないのも仕方が無い事ですし。更に先を描いても良かったんですけど、どうせ蛇足にしかなりませんから」

《あぁ、作品の毛色も毛色だしね》
「それに、どうしようもない愚か者は時には悪です、彼女は努力せず受け身なだけ。彼女を救うのは、救いたい者が救えば良いんですよ、ココまで落としてやっと目が覚めるかな。って程度で、僕はどう足掻いても利用されるだけで悪になりそうだ、と思ってコレだけで終わらせたんですけど。もっと、何か書いて頂いた方が良かったですかね?」

《いや、読み込みが浅くてすみません。確かにそうですね、口で説明するより落とした方が早いでしょうし、そこまでする義理も無いでしょうからね》

「もう少し、同情なさるかと」
《同情すべき相手は幾らでも居ますし、コレに同情していては身が持たない。偶に嘆き悲しむだけの霊が居るんですけど、ある意味、1番厄介なんですよ》

「あぁ、悲しんでいる事に対応されるだけで、満足する方が居ますもんね」
《ですね》

「今度、こうした場所に行ってみませんか?」

《何故》
「いや、こうした場所に居るって、逆に面白いじゃないですか?」

《こうした場所、とは》
「逢引茶屋とか、陰間茶屋」

《陰間茶屋》
「あ、行った事無いですか?どっちも」

 逢引茶屋は有るけれど、遊び人だとは思われたくはないし。

《どっちも、無いですけど》
「じゃあ行きましょう、先ずは逢引茶屋からで」

《あぁ、うん》

 林檎君には弱い者として、庇護されていたい。
 だからこそ、顔見知りが居ない所だと良いんだが。

 あぁ、俺は男色家でも何でも無いのに、分かってしまった気がする。
 彼はこの先、この延長線上で、彼に惚れてしまったのだろう。
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